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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
19章 ただ一人のキミのため――抗え戦え、諦めるな、ひた走れ!
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第268話 好きでいてくれて、ありがとう



 ――鈴守(すずもり)をおぶったまま、工事現場を離れた俺は……。


 たまたま目に付いた、周辺整備の一環で作られたものだろう、こじんまりとしながらも長く続く遊歩道を歩いていた。



 いくら今の俺がボロボロだって言っても、戦ったりするにはキツいってだけで……身体の端々の痛みをガマンすれば、女の子を背負って歩くぐらい、わけはない。



 それに――鈴守は小さくて華奢だ。


 亜里奈(ありな)と比べるのはさすがに間違いだとしても、見た目以上に軽く感じる。



 でも、そこには……物理的な軽さとは真逆の、とんでもない重みがあった。




 そして、その重みが今、背中にあることに――俺は心底、安堵していた。


 この子が、俺にとって本当にどれだけ大切か――改めて、噛み締めていた。




 本当に――無事に助け出せて、良かった……。




「……ん……う……?」



 やがて、可愛らしい吐息とともに、背中の上で身じろぎがした。



「……目、覚めた?」



 なるべく驚かさないようにと気を付けて、穏やかに声をかける。



 雲間から射し込む陽の光に照らされる中……。


 長い睫毛に伏せられていた鈴守の大きな瞳が、ゆっくりと開かれた。



「あ……え、これ……ウチ……?

 ――ごご、ゴメン、すぐ降りるから……!」


「大丈夫だよ。疲れただろ?

 それに、今はまだ身体に力も入らないと思うし」


「で、でも――」



「あ、それとも……!

 もしかして俺って、汚い? 暑苦しいっ? 汗臭いっ!?」



 この8月の、蒸し暑い中をさんざん動き回ったんだから、当然汗もかくってものだ。


 ……よかれと思っておんぶしてたわけだけど、もしかして、これまたデリカシー無い系の行動だったのかと慌てれば……。



 そんな俺に対し、鈴守は必死に頭を横に振ってくれた。




「そ、そんなことないよ!


 むしろ、その……あったかいし――すごい安心……する。


 ――それに、汚い言うたら、ウチの方が……」




 恥ずかしそうに、小さい声で、自分の身なりを口にする鈴守。



 ……確かに、雨に濡れた上で、工事中のビルなんかで乱闘していたんだから……。


 鈴守らしい清楚な服は、汗ばかりか、ホコリやら泥やらで端々が汚れ、コンクリの角にでも引っかかったのか、破れかけているような箇所も見受けられた。



「そんなの、それこそ俺は気にしないよ。

 だから……その。

 ち――、あ、いや、鈴守が、イヤじゃないなら……。

 もうしばらく、このままで……いさせてくれないかな」



「う、うん……。

 ゆ――赤宮(あかみや)くんが、そう言うてくれるんやったら……」



 控えめにそう言って、きゅっと俺のシャツを握った鈴守は。


 そのまま、俺の肩口に隠れるように……額を押し付けてくる。




「…………」


「…………」




 そうして、しばらく互いに無言でいた俺たち――だけど。


 少なくとも俺は、ムリに言葉を交わさなくても、こうやって鈴守の重みとぬくもりを感じてるだけで幸せ――なんだけど……。



 ……このまま、今日の事件のきっかけを、うやむやにするわけにもいかない。


 俺も、ちゃんとケジメをつけなきゃ……な。



(……よし……)



 意を決して、非難されるのは覚悟の上で――俺は、口を開いた。



「鈴守……ゴメン。

 俺、キミを誤解させるような……軽率なマネをした」



「……え……?」



 俺がいきなり謝罪から口にしたからか――鈴守は、驚いたように顔を上げる。




「ほら、あの……俺さ、白城(しらき)と一緒にいただろ?

 もちろん、今日の鈴守との約束を反故(ほご)にしてまで、白城と会ってたとかじゃなくて……。


 あれは、その前に、俺が……わりと強いヤツとケンカしちゃってさ。

 ちょっとダメージ受けて、フラついてたところに……たまたま通りがかった白城が、肩を貸してくれてただけなんだ……」




「……う、うん……」



 いかにも言い訳っぽい俺の言葉をどう捉えたのか……。


 鈴守は、是とも非とも取りづらい、曖昧な相づちを打つ。



 だけど、そもそも……俺が話すべきことはまだ終わりじゃない。



「それで――さ。

 実は俺、そのとき……白城に、告白されて――さ」



「――え!? 白城さん……が――?」



 素直な驚きの声を上げる鈴守。


 ただ、その驚きが、もともと白城の想いに気付いていてのことなのか、そうでないのか……そこまでは、俺にも分からない。



 そして、そのどちらだとしても――。

 俺が軽率だったって事実には、変わりないんだから。


 俺は……言うべきことは、ちゃんと言わなきゃいけない。




「……ああ。もちろん、断ったけど。

 だから、俺は鈴守に対してやましいことは何もしてない……それは誓って言える。


 だけど……あのとき、鈴守に誤解させてしまったのは事実だ。

 そしてそれはやっぱり、白城との接し方が迂闊で軽率だった、俺の責任なんだよ。


 だから――ゴメン。


 言葉だけじゃ信じられないかも知れないし、怒るのも仕方ないことだけど――」




「…………っ!


 (ちゃ)う――違う、違うねん……っ!」




 鈴守が、大きく息を呑んだ――と思うと。


 その後に続く言葉の語気が、予想よりも強かったから……やっぱり怒るよな、と一瞬思ったんだけど。



 ……そうじゃなかった。


 鈴守は――小さく、嗚咽をもらしていた。



 違う――と、そう繰り返して。



「ウチは――ウチは、白城さんと一緒の赤宮くん見て、誤解したん違うねん……!

 赤宮くんのこと疑ったん違うねん……!

 ――あのとき逃げてしもたんは、全部、ウチが悪いねん……!」



「……どういう……こと?」



 俺は、歩く足を止め……鈴守の言葉に集中する。




「ウチは……こんなにも、赤宮くんに大事にしてもらってるのに……!

 こんなにも、ウチなんかを好きでいてくれるのに……!


 やのに、ウチ――!

 ウチこそが、そんな赤宮くんを裏切ってるかも知れへんねん……!


 赤宮くんやない人に、惹かれてるかも知れへんねん――っ!」




 俺の背にしがみつくようにして、そう告白した鈴守の声は……今まで聞いたことがないようなものだった。


 きっと、自分への怒りとか、俺への申し訳なさとか……真面目で誠実な鈴守だからこそのそんな感情の諸々が、これでもかと剥き出しになった――悲痛なものだった。



 でも、そうか――そんなことが……。




「やから――やからウチ、あのとき、赤宮くんと顔、合わせられへんくて……!


 ウチの心が見透かされたら――他の人に惹かれてるかも知れへんて、それがホンマやったらどうしよう、て……!


 何よりウチ自身の心が、怖くて……! やから――!」




「……そっか」



 その後に続くだろう鈴守の言葉を、やや力強い、でも努めて穏やかに発した一言で――邪魔をする。


 なぜなら……鈴守はきっと、謝る気でいたから。



 そして俺はそれを、口にさせたくなかったから。




「……ありがとう、鈴守」




 だから、俺は――素直に、感謝を告げた。


 謝らなくていいんだと、そんな想いも込めて。



「……え……?

 な、なんで……? ウチは――!」




「なぜって……そうやって、精一杯に悩んでくれたから。


 だって、それってさ――俺のこと、ちゃんと好きでいてくれてるからだろ?」




 顔を背中側に傾けて――ニッと、よくガキっぽいと言われる笑顔を見せる。




「本当に、その誰かに心を奪われたなら……『かも知れない』って形で悩んだりしないもんな?

 だからそれは結局、俺のことも、大事に想ってくれてるってことだろ?


 なら、答えはカンタンだ。


 その『誰か』が誰であれ、鈴守が迷い無く、俺を一番だと言えるように――。

 俺が俺自身を……もっと磨けばいいだけだよ」




「……赤宮、くん……」




「だいたいさ、俺なんて、まだまだガキで未熟で……足りないところだらけなんだ。

 今回のことだって、色んな人に力を貸してもらって……それがなかったら、こうして鈴守を無事に助け出せたかも分からないんだ。


 そんな俺だからさ……鈴守が他の人を『いいな』って感じたぐらいで、文句なんて言えやしないよ。


 むしろ、そんな俺を見限るどころか、そこまで思い悩むぐらいに想ってくれているんだから……本当に嬉しい。


 だから――ありがとう、鈴守」




 俺が告げた素直な気持ちに、鈴守は……。


 しばらく、驚いた顔をしていたけど――やがて。



 鼻をすすり上げながら――泣き笑いのような形に、くしゃりと表情を崩した。




「ウチ……ウチて、ホンっマに、アホやなあ……」


「……鈴守?」




「あんまり大きくて、あんまり近いから……。

 やから逆に、今の今まで見えにくかったんかなあ……。


 アホなことウジウジ考えへんでも――ウチの一番なんか、決まりきってたのに。


 ウチが、恋してるんは……後にも先にも、たった一人だけやのに――」




「……鈴守……」



 じっと、俺を見つめての……その言葉に。


 思わず、ぽつりと名を呼ぶと……。



 対して鈴守は――泣き笑いから、優しく微笑むような感じに、小さく首を傾げた。




「……さっきみたいに……名前では、呼んでくれへんの……?」




「――あ……」




 その言葉に――俺はつい一度、ワザとらしく咳払いなんてしてしまってから。



 改めて……肩越しに、鈴守の顔を見て――。




「…………千紗(ちさ)


「うん――裕真(ゆうま)くん」




 その名を呼べば……。


 射し込む陽の光より、よっぽどまぶしい笑顔を――咲かせてくれた。




「俺を好きでいてくれてありがとう、千紗。大好きだ」


「ウチを好きでいてくれてありがとう、裕真くん。大好きです」




 改めてお互いに、素直な気持ちを絡ませ、繋ぎ合う俺たち。


 そうして気付けば、互いの顔も、俺の肩越し、息のかかるほど間近にあって。



 この子が愛しいと、その想いが胸の奥から溢れ返って――。



「……千紗」


「裕真くん……」



 そのまま、ゆっくりと……もっと近くに――。


 お互いが、近付いて――。




「「 ……………… 」」




 ……近付いていく、その途中で。


 俺たちは揃って、ギギーッと……軋んだ音がしそうな動きで、遊歩道脇の花垣の方へ首を向ける。




「「「 ………… 」」」




 そして――その脇からこちらをノゾく、縦に並んだ3対の目と、しっかり視線を合わせた。




「げ……こっち向いたぞ、ヤバい――!」

「こらおキヌ、いきなり動いちゃ……っ!」

「あ? ちょ、お前ら――!」



 ――ドタドタン!



 お約束のように、花垣の陰から人影が3つ、ドミノ倒しに出てくる――と思いきや。


 真ん中の沢口(さわぐち)さんはスルッと、何事もなかったように崩落から抜け出して……。



 結果、一番下のおキヌさんだけが、イタダキに潰された。



「ぶみゃんっ!」


「あだぁっ!

 ……っくしょー……やっぱ、小っさいわ(うっす)いわのおキヌじゃ、衝撃吸収力ゼロだな……」


「うがー! アタシゃせんべい布団と違わい!

 つーか、重いんじゃこのムダ頂点が、とっととどけー!」


「ちょ、おい、暴れんな!――って、ぐえっ!」



 ――ゴン、といい音を立てたおキヌさんの頭突きを鼻に食らい、涙目になりながら逃げるように立ち上がるイタダキ。



 その後、おもむろに身を起こしたおキヌさんは、もったいぶった動きで服のホコリを払い……咳払いを一つ。


 そうして改めて、俺とすず――千紗に向けて、にこやかに手を挙げる。



「……やあ!」


「「 やあ、じゃない! 」」



 見事に、冷たい声で唱和し(ハモっ)た俺たちに……おキヌさんは大きなタメ息をついた。



「ほら〜、怒らせちゃったじゃないかよう〜……。

 ったく、マテンローの頭がムダにトガってっから気付かれたんだぞ?」


「どんな言いがかりだテメー!?

 ……いや、お前がめちゃめちゃガッついて前に出るからだろ!?

 つーか、そもそもノゾき見ようって言い出したのお前だろが!」


「ノゾき見と違わい! こりゃ応援だ、人聞きの悪い!」



 いつもの調子でぎゃあぎゃあやり始めた2人をよそに、「ごめんねー」と、しれっと無関係のような態度で、こうなった経緯を説明してくれる沢口さん。


 ……いや、あなたもガッツリとノゾいてたんですけどね……。



 まあともかく、その説明によれば……。


 ここ高稲(たかいな)の〈ガス灯(ファミレス)〉で集まっていたおキヌさんたちは、雨も上がったし、ちょうど帰ろうと駅へ向かっている途中、俺たちを見かけた――ということらしい。




「……って、それで……。

 何だってこう、上手いことカチ合っちゃうもんかね……」


「……ホンマやね」




 思わず脱力しそうになりながらも――いつもの日常的な光景を見られて、どことなくホッとする俺に。


 千紗もまた、優しい笑顔を返してくれた。




 ……ちょっと残念な気もするけど……まあ、いいか。



 きっと、俺たちはこれぐらいがちょうどいい――って。


 そんな気も、するから。






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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり、お約束ううううう!!! このシメが四勇ならではで、なんだかほっとしました(笑) どんなに頑張っても清らかな交際なのですね。あああ、悔しい〜。でもそこがいい〜。お家デートしても絶対…
[一言] とてもお約束な流れで良かったです(笑)。
[一言] 微居君「危なかったな裕真。三人が止めてなかったら、俺がコレで止めてるとこだったぞ(ゴトトトトトト)」 絵井君「今更だけど、一応裕真さんは学年的には俺達よりも先輩だからな!?」 >そして、そ…
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