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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
3章 勇者にテスト、妹に魔王
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第25話 狼が牙を剥くは赤ずきん――のはずだった



 ――時間は、ほんの少しだけ遡る……。







「ありがとうございましたー!」



 店員の威勢の良いアイサツに背中を押されて、オレはラーメン屋を出る。



 ふん……初めての店だったが、案外悪くなかったな。

 これなら、次にまた別のメニューを試してみるのもいいかも知れねえ。



 オレは腹をぽんと叩く。

 ……ツナギが張ってやがる。



 晩メシにはまだ早い時間だったからな、明日まで腹をもたせようと麺も具もマシマシでいったが……ちょっとやりすぎたか……?


 ハッキリ言っちまうと、苦しい。



 オレは手近な自販機でブラックのコーヒーを買うと……食休みがてらブラブラと、大通りから見て裏手の方、少し離れた駐車場に向かって歩き出す。



 『中間テストが終わるまでは活動自粛』



 そうしていると、数時間前、お嬢に念押しされた言葉が、ふと頭を過ぎった。



 ……まあ、〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉としての活動の前に、オレも、大学の勉強しっかりしとかねえと、単位落としたりしたらおやっさんに顔向け出来ねえしなあ……。


 質草(しちぐさ)のヤツも情報集めとかしてやがるみたいだし、しばらく大人しくしてるか……。



 ……本音を言えば、早く、クローリヒトって野郎とケンカしてみてえんだがな。


 強えヤツとのケンカは単純にアツくなれるってところもあるが……。



 何よりだ、アイツのあの黒ずくめの格好……それに、〈黒い人〉って聞こえる名前だ。


 オレとキャラがダダ被りしてる気がして、ムショーに腹立つンだよなァ……!



 ……オレは思わず、拳の骨を鳴らしていた。


 そして、そうしながらちびちびと口にもっていくブラックのコーヒーは……やっぱにげえ。

 くっそ、カフェオレにしときゃ良かったか……。



「しっかし――」



 おやっさんは、あのクローリヒトとは協力出来るかも知れねえって言ってたが……多分、ムリだろう。



 確かに、アイツの正体が『オレたちと一緒』って可能性はある。


 だがだからって、オレたちの目的に賛同するかどうかは――また別問題だ。



 そして多分、アイツが賛同するこたァないだろう。


 根拠なんてなんにもねえが……賭けたっていいぐらいだ。

 オレはカンにはわりと自信がある。



 それに、そもそもアイツは――直接会ったことはねえが、オレたちってよりも、むしろおやっさんに近いような感じがするンだよなあ……。




 ――バイクを停めておいた小せえ駐車場の周りは、裏道の方にあたるからか、人通りはほとんどなかった。



 オレとしてはその方が居心地良かったってのもあるし、手近な車止めに腰を下ろして……。


 苦えコーヒーを飲みつつ、アレコレ考えつつで、しばらくのんびりしていたら……。



 すぐ前の道を、小学校高学年ぐらいの女のガキんちょが通りがかった。



 夜に裏道なんて通ってるくせに、迷う様子も怖がる様子もねえから、ここらに住んでいて、道も使い慣れてるんだろう。




 そう言えば……オレが初めて会ったとき……お嬢は、あのガキよりも小さかったよな。


 そのくせ、さすがおやっさんの娘というか、素のオレを恐がりもしなくて――。




 似合わねえ思い出に耽るオレの前を、ガキが目もくれずに通り過ぎていく――その瞬間。



「――――っ!?」



 オレは思わず立ち上がっていた。



 今、ほんの微かながら、間違いなく――。


 オレの『鼻』が、とんでもない『チカラ』の匂いを嗅ぎ取ったからだ……!



 スタスタと離れていくガキの後ろ姿に、オレは釘付けになる。




 ……まさか、あのガキ――。


 〈世壊呪(セカイジュ)〉を持ってやがるんじゃ……!?




 ――ポケットの中を確かめる。


 おやっさんから預かった〈結界石(けっかいせき)〉はちゃんとある。

 これに魔力を込めれば、オレでもカンタンに結界を張れる。


 あとは、実行前に連絡を入れるかだが……。



  『中間テストが終わるまでは活動自粛』――



 お嬢のその言葉が、また脳裏を過ぎる。



 ……そうだ、お嬢にとっちゃ、テストだって大事だろう。


 それに、騒ぎにならないように、さっさと済ませちまえば良いだけの話だ。



 あのガキに確認して、〈世壊呪〉を持っているなら頂く。


 持っていないなら、ちょいと脅して追い払う――。



 そうだ……ただ、それだけのことじゃねえか。わざわざ連絡するまでもねえ。



「――よっしゃ、行くか」



 オレはポケットの〈結界石〉を握り締め……大股でガキに近付いていった。










     *     *     *




 ――ママの友達に、もらい物のお裾分けを届けたあたしは……いつもの裏道を通って帰る。



 ここ、道幅は結構広いんだけど、お店とかの裏手になるし、ご近所に住んでる人はおじいちゃんおばあちゃんが多いから、日が落ちるとすぐに人気がなくなって、ひっそりとする。


 逆に言えば、車の通りなんかもほとんどないし、色んなところに通じてるから、安全で便利に使える道なんだけど……。


 ホントに静かだからか、この辺に住んでない友達といっしょに通ったときは、「なんか出そうで怖い」って言ってたっけ。



 ……まあ、分からなくもないけどね。


 表通りとかに比べると、びっくりするくらい静かに――って。



 あたしはふと足を止める。周りを見渡す。


 ――妙な違和感があった。




 ……なんか、静かすぎる……?


 それに……なんだろ。

 見えるのはいつも通りの景色なのに、別の場所に迷い込んだみたいな……。




「――おい」



 いきなり後ろから声をかけられて、あたしはびくっと跳ねてしまう。



 あわてて振り返ると――ひょろっと背の高い、ツナギを着たお兄さんが立っていた。


 確か……そう、さっき、すぐそこの駐車場で缶コーヒー飲んでた人だ。



「えっと……」



 なんだか周りの様子がヘンなことといい、このお兄さんのおっかない雰囲気といい……なにか、とんでもないことに巻き込まれちゃった気がする……。


 でも、こういうときに大事なのは、とにかく落ち着くことだ。



「なにか、ご用……ですか?」



 動揺を悟られないように、冷静になれって自分に言い聞かせながら、あたしは訊く。



「……大した度胸だな。ビビって大声上げるか、とっとと逃げ出すかと思ったンだが。

 それとも、さすが――って言うべきか?

 〈世壊呪〉なんてとんでもねえモン……持ってるぐらいなんだからな?」


「――――っ!?」



 今、この人……間違いなく、〈世壊呪〉って言った!


 正義の魔法少女の関係者――って感じじゃないし、まさか――〈救国魔導団〉!?




 え、でも……。

 あたしが〈世壊呪〉を持ってるって……どういうこと……?




「今……〈世壊呪〉って聞いて反応したな?

 チッ――何も知らなきゃ、このまま見逃すだけだったンだが……」



 お兄さんはタメ息混じりに頭を掻いた――かと思ったら、その全身が、足下から吹き出る黒い煙みたいなものに覆われて……。


 それが晴れる次の瞬間には、二足歩行の黒くて大きいオオカミみたいな姿に変身していた……!



 ううん、あれは……ヘルメットに、鎧というかスーツ……?


 お兄が見せてくれた、クローリヒトの格好にちょっとだけ似てるかも……オオカミ型のヘルメット以外は。



「………………」



 うん、だいじょうぶ……観察が出来てるってことは、あたしはまだ――冷静だ。


 そして、不幸中の幸いっていうのかな……ここから家まではそんなに遠くない。



 近くまで行けば、お兄が気付いて助けに来てくれる可能性もずっと上がるだろうし、ここは何とかして――。



「ちなみに、逃げようとしたってムダだぜ?

 先に結界を張っておいたからな」


「…………っ!」



 さっき感じた違和感みたいなの……やっぱりそういうものだったんだ……!



 え、じゃあ……どうするの、あたし……?


 お兄も、アガシーもいないのに……?



 思わず後ずさるあたしに、オオカミみたいな元お兄さんは、手を差し出した。



「お前みたいなガキが、どういう経緯で、なんの目的で手に入れたのかは知らねえが……。

 お前の持ってる〈世壊呪〉、こっちに渡してもらおうか。

 ――オレの目的はそれだけだ、大人しく渡してくれれば何もしねえよ」



「そ、そんなの、あたし持ってません……!」



「ウソついて誤魔化そうとするのもムダだ、オレの『鼻』はチカラに敏感だからな。

 ……そら、諦めてさっさと出しな」



 オオカミさんは、手を伸ばしたまま近付いてくる。



 そんなの持ってないって、首を振りながら退がることしか出来なくて……でも距離はどんどん近付いていて……。



 ――お兄ぃ……っ!



 もう捕まるってところで、あたしは目をつぶって、心の中でお兄を――












「――下郎が。控えろ」



 肩に触れる寸前だった手を、軽く払い除ける。



 そうして、あらためて真っ向から見上げてやれば――視線が交わった途端、その場から後ろに跳んで大きく距離を開けたのは、オオカミ小僧の方だった。



 ふむ……良いカンをしている。



 あのまま馬鹿面をさらして突っ立っていたなら、少々、ヤケドでもしてもらうつもりだったのだが。



「て、テメェ……何モンだ!」



「何者か、とは、また哲学的な問いをする。

 ふむ、そしてそれに満足のいく答えを手短に返すのは……余でも骨が折れるな。許せ」



「ざけんな……!

 身体は同じでも、テメー……さっきまでのガキとは『別人』だろうが!? 誰だ!」



 ほう……此奴こやつ、『鼻』が利く――ようなことを言っていたが、間違いではないらしいな。


 まあ、よかろう。



「そうだな……。

 真名(まな)を教えてやる義理は無し、キサマにも分かる俗な呼び名を使うなら――〈魔王〉というものだ、余は」



「ま、魔王――だァ……!?」



「キサマの言う、〈世壊呪〉など知ったことではないのだが――」



 手の平を上に向けて、少し意識を集中する。


 ――瞬間、掌上に小さく、数千度の獄炎が渦を巻いた。



 ……さすがは亜里奈(ありな)、これほどの魔力なら、余も存分にチカラが振るえるというものだ。


 このちょっとした手慰みに、さらに度肝を抜かれた様子のオオカミ小僧を、余は軽く睨み付けてやる。



「律儀に約束を守る、我が友への義理があってな。

 この娘を傷付けることは、それが何人(なんぴと)であろうとも余が許しはせぬ――」



 そっと腕を薙ぐ。


 亜里奈の小さな身体の周囲で、一瞬、緋色の獄炎が舞い踊った。



「ンな……っ!?」



「覚悟せよ、小僧。

 ――キサマは、牙を剥く相手を誤ったのだ」






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― 新着の感想 ―
[一言] 傍から見ると『時空のおっさん』の怪談だぜぇ(゜Д゜;) だけど狼っぽいライダー、もしくはデカマスターなオッサンだったとは(ォィ そして……え、まさかの魔力持ち!? 魔王うんぬんよりそっち…
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