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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
19章 ただ一人のキミのため――抗え戦え、諦めるな、ひた走れ!
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第267話 勇者と人狼による、元舎弟への戦後処理的な何か



「…………」



 床の上で大の字になって、完全に気絶してやがるオグからは……イヤな『ニオイ』が薄まっていた。


 ……どうやら、赤宮(あかみや)に思いっ切りブッ飛ばされたことで、〈呪〉のチカラも一緒くたに散ったらしい。



 そのチカラが障壁(バリア)的な役目も果たしていたからか、ハデにブッ飛んだわりには、顔面整形ってほどヒデェ状態じゃねえが……。


 ま、さすがに、あとで医者の世話にはなるだろうな。




「……もしかして、俺……やり過ぎちゃいました?

 無我夢中って言うか、頭に血が上ってたって言うか……」




 その声に視線を上げると、そこには――。



 ついさっきまで纏っていた、オレですらゾクリとするほどだった鬼気はどこへやら……。


 ガキっぽい、バツの悪そうな顔をした赤宮が、気を失ったカノジョを背中に背負って立っていた。



「……いや、気にすンな。大丈夫だ。

 コイツのやらかしたことから比べりゃ、この程度で済んでむしろ御の字だろ。

 ケンカでケガして、医者の世話になるのも慣れてるしな。

 ――それよりも……」



 オレは改めて、赤宮と――そのカノジョに向かって、頭を下げる。




「……今日は悪かった。このバカが迷惑をかけた」




「……黒井(くろい)さん……。

 それは、その人が、元は自分の舎弟だから――ですか?

 その気持ち、ちょっと分かるような気もします、けど……。

 でも俺、黒井さんには助けてもらったし……」




「……ケジメってやつだ。

 そもそもこんなバカをやらかす前に、オレが、もうちょっとコイツの性根を引き締めとくべきだったんだ。


 ――自分(テメー)のことばっかで必死になってて、もう足も洗ったからってよ、そうしたところを投げっぱなしにしてたのは……やっぱり、オレにも責任があンだよ」




 オレは一度、ノビたオグに目を移してから……改めて、赤宮たちに向き直る。




「それと……こんなことは本来言えた義理じゃねーんだろうが……。


 コイツと、コイツに(くみ)したヤツらの後のことは、オレに任せてくれねえか?」




「つまり……警察沙汰にはしないでくれ、ってことですか」




「まあ……そういうことだ。


 オグ本人に直接ワビを入れさせる――のは、カノジョはもうコイツの顔も見たくねえだろうし、控えさせるが……。


 ちゃんとオレが責任持って、コイツら全員、反省もさせるし更正もさせる――。


 口約束しか出来ねえけどよ、それで納得して、カンベンしてやってもらえねえか?」




 オレの提案に、赤宮はしばらく考えてから……口を開く。



「この子もこうして無事だったし、俺もしっかり一発ブン殴ってやったし……。

 そして、それもこれも黒井さんが手を貸してくれたからだと思えば、俺は異論ありません、けど……」



 言って、赤宮は背負ったカノジョの横顔に視線を移す。



「……そうだな。カノジョの考えもあるか」



「はい。この子の性格上、俺と同じような意見とは思いますけど……勝手に決めつけるわけにもいきませんから」



「まったくだ。

 ――分かった、もしもその子が納得出来ないってンなら……また連絡してくれ」



「…………」



 オレの言葉が聞こえてないように……。


 なぜか赤宮は、カノジョを見たまま、困ったような焦るような、複雑な表情で硬直していた。



「……おい、赤宮?」


「あ、ああ、はい!」


「どうした? いきなり……」



「あ、すいません、その……。

 今、こうやって顔見てたら、俺……。

 なんか、勢い任せにこの子のこと、下の名前で呼び捨てにしちまったって思い出して――恥ずかしいやら不安やらが……」



 あはは、と引きつった笑みを浮かべる赤宮。



 ……いや、つーか……ハァ?



「いや、だってよ……お前ら、付き合ってンだろが?」


「あ、ハイ……」


「じゃ、名前で呼ぶぐらい普通じゃねえのかよ?」



 当然だろ、とばかりに言いながら……『そういやコイツら、電話でもお互いずっと名字呼びだったな』とか思い返すオレ。




「え、いや、もちろんそうなれたらいいんですけど!

 でも、もしかしたらまだ早いんじゃないかな、とか……。


 ――あ! そうだ、それに、『俺の』なんて、所有物扱いみたいな言い方もしちまったんだった……ッ!

 うう……さすがにアレは……!」




「…………ハァ〜…………」



 さっきまでの、視線だけで人を殺せそうなほどの鬼神めいた覇気とのギャップに……オレの口からは、思わず力の抜けたタメ息がもれる。


 ――まあ、こういうヤツほど、キレさせるとエラいことになるってワケだ。



 ……つーか、そもそもカノジョだって名前呼びしてたろうに……。

 コイツ、必死過ぎて気付いてなかったなこりゃ。



「く、黒井さんは……そういうの、どうなんですか? 彼女のことは……」



「ああ? そもそもいねーよ、ンなもん。

 ……オンナの相手すンの、めんどくせえし」




 だいたい、オレは純粋なこっちの世界の住民じゃなく――。


 それどころか、〈人狼〉で……『人間』ですらないワケだし、な。




「――取り敢えず、もう1回繰り返すぞ?

 もしカノジョが何か不満あるようなら、連絡してくれ……いいな?」



 なんかヘンな方向に逸れちまった話を、もう一度軌道修正して確認すれば……今度こそ、赤宮はしっかりとうなずいた。



「……で、お前らこの後はどうやって帰るンだ?

 オレのツレでクルマ持ってるヤツ、呼ぶか?」



「あ、いえ……」



 オレの提案に、赤宮は一度空を見上げてから、ゆっくり首を横に振った。



「いずれこの子も目が覚めるでしょうけど、そのときここだとやっぱり落ち着かないと思いますから……。

 雨も上がったみたいだし、ひとまずこのまま歩いて、もうちょっと安心出来そうなところまで移動することにします。

 ……それから改めて、この子の家に連絡するのがいいかな、って」



「……そうか」



 まあ……これ以上はお節介、邪魔で無粋、ってモンか。


 オレは言葉少なにうなずいて応えると――オレがこのビルに侵入するのに使った、裏口の方のルートを指差した。



「……なら、こっちから行け。

 正面の方は、もう戦意も無いとはいえ、まだオグの兵隊どもがいやがるからな。

 大丈夫だとは思うが、絡まれでもしたらメンドくせえだろ?」



 広場の方に集まってる連中は、オグの――いわば『呪縛』とか『洗脳』みたいなのが無くなって、戸惑ってるような状態だ。


 今さら何をしてくることもねえだろうが……わざわざそっちを選ぶ意味もねえだろう。



「そう――ですね。

 ええ、それじゃあこっちから行きます」


「おう。――っと、これ、カノジョのだろ?」



 オレは、オグのポケットから、コイツらしくないスマホを取り出し……脇を抜けていこうとしていた赤宮に手渡す。



「あ、すいません……ありがとうございます」



「ああ。それに、改めて――すまなかったな。

 あと……助かった。礼を言っとく」



「それは……こちらこそ、です。

 本当にありがとうございました。

 ――質草(しちぐさ)さんって人にも、感謝してたって伝えてもらえますか」



「ああ……質草のことなら気にすンな。

 ありゃダチでも何でもねーし、なまけモンに社会貢献させただけだ。

 ――それにオレも、感謝されるような理由はねえ。

 まあそれでも、お前が誰かに感謝したいって言うなら……そいつは、お嬢に頼む」



「……はい、もちろん。

 いずれ、白城(しらき)にも直にお礼を言いたいとは思ってます、けど……」



 困ったように眉根を寄せる赤宮に、オレも、何となく言わんとするところを察した。



「ああ……まあ、そうだな……。

 オレも女心なんざ分かりゃしねーが、フラれたばっかの相手と顔を合わせるっつーのも良い気はしねーかもだし……そこのカノジョとしても複雑かも知れねえしな……。

 ――分かった。

 取り敢えずオレから、お前が感謝してたってことだけは伝えとくさ」



「……お願いします。

 あ、それと――白城に聞いてるかも知れませんけど、うち、銭湯やってますんで……良かったらまた寄って下さい。

 ――お礼代わりって言ったら何ですけど、フルーツ牛乳ぐらいサービスしますよ?」



「……悪くねえな。考えとく」


「はい。それじゃ――また」




 その短い挨拶と、人懐っこい笑みを置いて――。


 カノジョを負ぶった赤宮は、裏口方向へと立ち去っていった。





「……さて……」




 赤宮たちの背中を見送ったオレは、オグの側にヒザを突くと――。


 イヤな『ニオイ』のもとを辿って、オグのジャケットを探り……内ポケットから、手の平に乗る程度の、長細く尖った形をした『石』を取り出す。



 ……間違いねえな。

 あの魔剣のカケラ……コイツが元凶だ。



「ったく――胸クソ悪ィ……」



 まだ微かに〈呪〉のチカラを放つそれを――。


 オレ自身の魔力を込め、思い切り握りしめて……今度こそ完全に、粉々に粉砕してやった。




「……これでよし……と。


 ――おら、いつまで寝てンだ、起きろオグ!」




 続けてオレは、オグの脇腹を拳で、強めに何度も小突いてやる。



 やがて気が付いたオグは、オレの顔を見上げるなり――素っ頓狂な声を上げた。



「え――? くく、クロさんっ!?」



「……あぁ……?

 テメ、オレを犬ッコロみてーに呼ぶなっつってンだろが……?」


「すす、すんません、ツキさんっ!」



 さすがに赤宮のあの一発が効いてるからだろう、起き上がれないままに、オグは……さっきまでの態度がウソのように、必死に謝り倒してくる。



 ……こりゃ、完全に元に戻ったみてーだな……。



「で? オグよぉ……お前、テメーのやったこと、覚えてるか?」



 オレが改めてそう尋ねると……。


 オグのヤツは、赤く腫れ始めていたはずの顔を、しかし真っ青にして――何ともなっさけねえ目を向けてきた。



 覚えてなかったら、それはそれで面倒だったが……ちゃんと覚えてたみてーだな。



「どど、どうしよう――どうしよう、ツキさん……!

 お、オレ、オンナさらったりなんて、とんでもねェことやっちまった……!

 そそ、そんな、そんなことまでする気なんてなかったのに……! オレ……っ!」




「ああ……分かってンよ。

 テメーは、そんな大それたことをガチで出来るようなヤツじゃねえからな。


 だが――魔が差したようなモンとはいえ、やっちまったことはナシにゃならねえ」




 ……そうだ。


 言っちゃなんだが、あの魔剣のカケラは、元凶だっつっても所詮は『残りカス』のようなモンなんだし……。


 それこそ、ある程度の意志の力があれば、影響を断つことも出来たハズだ。



 なのに、ズブズブとその〈呪〉に呑まれたってことは……。


 結局、コイツ自身の心に、そうしたヤバいチカラに付け入られるスキが――同調しちまうだけの要素があったってことだ。



 だからオレは……悪いのは全部魔剣のカケラで、コイツは悪くない――なんて言うつもりはねえ。


 そもそも、〈呪〉だの何だの知らねえコイツにゃ、説明のしようもねえしな。



 ……とにかく、確かなのは――。


 コイツにゃ、ちゃーんとケジメをつけさせなきゃならねえ、ってことだ。



 そう……もう二度とバカはやらねえよう、真っ当になれ――ってな。




「どど、ど、どうしようオレ……!

 け、ケーサツとかも……!」



 この世の終わりみてーな表情をしてるオグに、オレは小さくタメ息をつく。



 ……コイツにも問題があったのは事実だが……。


 同時に、根っこはこんなヤツだからこそ、〈呪〉の影響を受けてても、本当に越えちゃならねえ一線だけは越えずにいられたんだろうな……。




「……ケーサツ、な。

 もう一歩、ヤバいとこまで踏み込んでりゃ、マジでブチ込まれてただろーがよ……。


 ――ところでオグ、テメー、あの2人にワビ入れる気はあンだろうな?」




「ああ、あるっス、あります、当たり前っスよぉ……!

 そ、そりゃオレ、前にあの2人にボコられて、ムカついてたけど……!

 でで、でも、だからってこんなの……!


 ――って、そ、そうだ、あの2人はどこに――」




 動けねえ身体で、必死に訴えかけてくるオグの頭を、オレは軽くはたく。




「……落ち着け。あの2人ならもう行った。

 あと、アイツらには、すまねえってだけじゃなく感謝もしとけ。


 結局、テメーはカノジョを痛めつけるようなマネはしなかったからな……少なくともカレシの方は、ケーサツに突き出す気は無いし、あの鉄拳一発でチャラにしてやるってよ。


 カノジョの方はまだ分からねえが……ま、カレシのあの様子からすりゃ、同じように、ケーサツ沙汰にはしねーでくれる可能性の方が高いだろうな」




「そ、そっスか……。よ、よ、良かっ――良がっだあ……!

 お、オレ、オレ……! ほんどに、悪いっでぇぇ――!」



「……わーってンよ。

 つーか、いい歳してベソとかかくンじゃねえよ、鬱陶しい……」



「ずんまぜん――ずんまぜん、グロざぁん……!

 オレ、まだ……まだ、メーワグがげぢまっでぇ……!」



「おうゴラ、オレぁ犬ッコロじゃねえっつってンだろが!

 ……ったく、ンっとにテメーはバカなんだからよ……」



 オレは、もう一度オグの頭を……さっきより強くはたいてから、立ち上がる。



「……とにかく、これでテメーも懲りただろうが。

 あの2人にワビてえって気があンならなおさら、いい加減、バカなやんちゃからは足洗って、ちったぁマジメになりやがれ――わーったな!?」



「わ、わが、わがっだよぉ、グロざーん……!」



「…………。

 おい、テメー……ワザとやってンじゃねえだろうな? ああっ!?」



 オレはオグの脇腹を、今度は爪先で軽く蹴っ飛ばす。



 そうして、反省やら何やらをおんおんと喚くオグをほったらかし――床を縁の方まで行って空を高々と見上げてみりゃ……。



 雨が上がるどころか、もう、雲間から陽が射し込んできていやがった。




「……ま、これでやっと、ひとまずのケリがついたってワケか……。


 やれやれだ……ったく」






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― 新着の感想 ―
[一言] 良い最終回でした(笑)。 これにて一件落着。 狼の人、今回も良いキャラしてますね。
[気になる点] 歩いて帰るのかな? [一言] 初々しすぎるふたり!(笑) これは白城さんとのことで多少佑真に心象が悪かった黒井くんも、赤宮佑真という男の人間性を改めて根底から見直さざるを得ぬ案件…… …
[一言] >……もしかして、俺……やり過ぎちゃいました? なろう主人公っぽい台詞キターーー!!!!(大歓喜) >「……悪くねえな。考えとく」 こんな見た目でスイーツ男子な黒井くんきゃわわ!!!!(迫…
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