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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
19章 ただ一人のキミのため――抗え戦え、諦めるな、ひた走れ!
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第265話 誰でもない、ただ一人のキミだから



「……あった……!」



 工事中のビルの中を逃げながら探してた、()られた荷物――何より大事な、変身アイテムの〈神楽鈴(かぐらすず)〉が入ったバッグは……。


 他に比べて明らかに生活感のある大きめの部屋を、そっと覗き込んだとき……その奥に、無造作に置かれてるのが見えた。



 多分、この部屋の雰囲気からして、あの不良の人たちは普段、ここにたむろしてるんやろうけど……。


 今は、逃げ回るウチを探して捕まえるために、他の場所に出払ってるみたいで……見張りっぽい人が2人おるだけ――。



(……今やったら……いける!)



 改めて、入り口の脇から様子を確かめたウチは――そのまますぐ、部屋の中へと駆け込んでいく。



 冷静に、落ち着いて、よく考えて行動するんは大事やけど……それも時と場合による。



 『考えるより先に、ここだと強く感じたのなら――迷わずいけ!』


 ――とは、おばあちゃんの談で……。



 その、世界有数の頭脳の脳筋的思考に……ウチは乗っかった。



「ン?――って、オメーはっ!」



 2人の見張りの、ちょうど間に入るように走り込んで――。



「テメ、大人しく――!」



 前方の1人が、ウチを捕まえようと右腕を伸ばしてくるんを……姿勢を下げ、そのさらに内側に潜り込みながらキャッチ。


 そのまま、捕まえた腕を引っ張り込み、巻き込みつつ――ウチ自身が床に倒れ込む勢いを利用して、後方に投げ飛ばす!


 ……いわゆる一つのアームホイップ!



「――どぅおわっ!?」



 投げ飛ばされた1人は、計算通り、ウチの後ろから挟み撃ちにしようとしてたもう1人と激突して――2人して、床に転がる。


 でもダメージとしては大したことないから、そこへ――



「ていっ!」



 まず1人の首――というかアゴ先を狙って、飛び込み前転しながら伸ばした足を、ギロチンドロップの要領で叩き付けて意識を奪い……。


 続けて、その間にヒザ立ちになったもう1人の頭を脇に抱えてロック、そのまま勢いを付けて後ろに倒れ込む――DDTで、敷物が敷いてある場所を狙って頭を叩き付け、こっちも昏倒させた。




「……はぁーっ、ふぅーっ……。

 なんとか……なったぁ……」



 一気に、一息に、一連の動きを終えたウチは――そこで、両ヒザに手を置いて、大きく息をつく。




 ……正直……どんどん身体がしんどくなってきてる。




 考えてみたら、今日は……。


 お昼過ぎにクローリヒトと一緒に〈呪疫(ジュエキ)〉と戦ったりもしたのに……。



 そのあとこうして、スタンガンで気絶させられてさらわれて……さらに、不良の人を相手に戦ったり隠れたりで……。


 もう夕方近いけど、これまで、身体も気も休まるヒマがなかったから……。



「……っ……。

 あかん――あかんあかん、しっかりせな……!」



 それで、ともすれば……。


 そうして辿った記憶から……ウチは赤宮(あかみや)くんの気持ちを裏切ってるん(ちゃ)うか――っていう、今の状況とはまた別の、怖さとか申し訳なさが再燃して……それに気持ちが押しつぶされるような気がして。



「しっかり……せな……!」



 ウチは、とにかく今はそんなん考えてる場合違う――って、頭を振り、滴る汗を拭って、気持ちを奮い立たせる。



 ウチがちゃんと逃げな……赤宮くんまで危険な目に遭うかも知れへんのやから……!




 そう……出来ればウチは、赤宮くんを関わらせたくないって考えてる。


 赤宮くんの安全のためにも、その方がいいに決まってるんやから。




 ……やけど――やけど、ウチは。



 赤宮くんが、ウチを助けようとしてくれてる……それを改めて知って、実感したとき、涙が出そうなぐらい嬉しかった。


 さっき電話したときの、あの「大丈夫」っていう声にも、どれだけ勇気づけられたか分からへん……。



「……赤宮くん……っ」



 でも――だからこそ、なおさら。


 赤宮くんのためにも、ウチがここで踏ん張って頑張らな……!




「うん……よし、まだいける……っ」




 少しの間、そのまま息を整えたウチは……ひとまず、バッグを拾い上げて中身を確認。


 奪られたのはスマホぐらいで、他の物は――〈神楽鈴〉も含めて無事なんが分かって、まずはホッとする。



 スマホは、もともとウチはそんな、データを何でもかんでも入れるような使い方はしてへんし……。


 もし取り返せなくても、おばあちゃんに相談したら、ショップとか行って頼むよりもゼッタイに早く確実に、遠隔でデータ保護でも何でもしてくれるはずやから……。



「とにかく……まずは、ここから逃げ出さな……!」



 ……このビルは、建設途中に、何か理由があって工事が中断してる状態みたいで……。


 枠組みはしっかりしてるけど、外壁は――多分、資材搬入とかのために、吹きさらしになってるままのところが多かった。



 そこからやったら、ビルから出るのは難しくないはず。

 あとは――この工事現場自体を取り囲んでる塀を、乗り越えるなりすれば……!



 そんな風に逃げる方法を算段しながら、その、吹きさらしになってる方へと出てみるけど……。



「……え、これ……!」



 ウチはそこでとっさに、コンクリートの柱の陰に隠れる羽目になった。



 今おるのは、多少は高い場所やろうな……と考えてたとおりの2階で。


 やから、一気に飛び降りることも出来そうな高さやってんけど……。



 どうやら、ちょうどこっちは、工事現場の正面側みたいで――プレハブも建ってる眼下の広い場所には、出入り口の鉄扉との間に、不良の人たちが何人も集まってて……!




 ここを、見つからへんように抜けるのはさすがに無理……。


 やからって、強引に突破するんも……見つかったら増援が来るやろうし……。




 ……こういうときは――きっと、早々に一旦退いて、別の道を模索したりする方がいいんやと思う。



 でも――もうちょっとで逃げられる……て。


 そう思てたウチは、つい、その場であれこれと悩んでもうて――。




「ここからどう逃げようか――って、考え中かい、カノジョ?」


「――――っ!?」




 ……そのせいで……。


 最悪の相手が、すぐ近くまで来てるのに、気付かへんかった……!




「いやあ、それにしても……だ。

 ここまで威勢の良いお嬢ちゃんとは思わなかったぜ――なあッ!?」




 ウチを見つけた、あの不良のリーダーらしい――〈呪〉の気配をまとった人は。


 これ見よがしに、そう、大きな声を張り上げた。




「……っ……!」



 正面側の広い場所からも丸見えのここで、そんな声を上げたら……どうなるかは分かってる。



 わざわざ見んでも、そっちにどんどん人が集まってるはずで……。


 要は、強引に飛び降りて逃げる――っていう手段を封じられたことになる。




 ……こうなった以上は、ここで、このリーダーを倒すしかないけど……。


 この人の身体能力が〈呪〉のチカラで常人離れしてて……正面からまともに戦っても、勝ち目が薄いのは分かってる。




(……なら……変身、する――?)




 ウチは……そっと、肩から掛けたバッグに手を当てる。


 変身さえすれば――逆に、これぐらいの相手やったら、手こずることもなく倒せるはず……。




 でも――こんなときに、こんなところで変身なんかしたら――!




「――ッ!?」



 変身するべきかどうか、葛藤するウチは――。


 そのスキを突こうと、背後から、男の人が気配を殺して近付いてきてることに――ギリギリで気が付いた。


 その手には、スタンガンが握られてて――!



「……くっ……!」



 とっさに、前みたいにはならへん――と、寸前でスタンガンをかわしたウチは。


 そのまま相手の腕を取り、勢いを利用して――足を払いつつ投げ飛ばす!




 ――危なかった、今回はしのいだ……!




 なんとか同じてつを踏むことは避けられて、一瞬安堵するけど――。




 ……それこそが、最大の失敗やった。




「ハイ、ザンネンでした――ってなァっ!!!」


「――っ!? しま――ッ!」



 ハッと、振り返ったときには、もう……。


 リーダーの突進しながらのラリアットは、目の前まで迫ってて。



 反射的に両腕を上げてガードするけど――それでもウチの身体は、軽々と宙に浮いて。


 そのまま――



 ――ガンッ!!!



 スゴい勢いで、コンクリートの柱に背中から叩き付けられた……!



「――あぐっ……!」



 ムリヤリ絞り出されたみたいに、肺から空気が飛び出して……一瞬、息が出来へんで。


 ウチは、満足に受け身も取れんと……跳ね返るまま、床に倒れる。





 …………あかん…………。


 身体に、ちから……入ら、へん…………。





「あーあー、ったくよォ……。

 大人しくしてりゃあ、余計な痛い目を見ずに済んだのによォ……?


 しかし……こりゃアレだな。

 カノジョちゃんが大人しくしてくれねーから、ペナルティな――って、カレシくんに伝えなきゃなァ?」




 リーダーは、ウチを見下ろしながら……。


 うつ伏せになってるからはっきり見えへんけど、ウチのスマホで電話してるみたいで……。



 やめてって言いたいけど……ウチは、声も出されへんで……。



「……って、なんだぁオイ、こんなときによォ……。

 ――おい、そっちのテメーらァ!

 スマホ鳴ってンぞ! 邪魔だから消しとけ!」



 広場の方から、ちょうど同じタイミングで聞こえてきた、スマホの着信音に……リーダーはイラ立たしげに怒鳴る。


 そうしてから、でも次に出る言葉は――とても楽しそうやった。




「さァて――カノジョよォ!!

 逃げたペナルティは何にすっかなあ、えぇオイ!!

 やっぱ……二度と逃げられないよう、そのキレーなほっそい脚、片方ポキッといっとくのがいいかあ!? なァ!?」




 他の人たちにも宣言するみたいに――そしてきっと、ウチを威嚇するために。


 スマホを手にしたまま、わざとらしく、さっきよりもずっと大きな声を張り上げるリーダー。




 でも――ウチは、反論することも、逃げることも出来へんで……。




「…………っ…………」



 くやしくても……ただ、諦めてたまるかって、歯噛みすることしか――出来へんで。




 しとしとと降る雨音だけが、はっきり聞こえるような。


 妙な沈黙が、場に降りた――その瞬間。






「やってみろよ――――出来るもんならなあッ!!!」






 稲妻が奔るみたいに――猛々しく空を裂く『声』が、響いたと思うと。


 同時に、工事現場正面の鉄扉が、吹き飛びそうな勢いで倒れて――!




「ンなっ……!? なんだあっ!?」




 その向こうに……その向こうには…………!




「……あ……あ……!」




 ウチが、見間違えるはずもない人が……!



 いろんな感情が、頭の中でごちゃごちゃになってても――。


 それでも、やっぱり……一番逢いたかった人が、立ってて……!




 ウチが、身体は動かへんでも、なんとか目を向けたのを――しっかりと、確かに。


 あの強い眼差しで、受け止めてくれて……!





「――千紗(ちさ)あああああーーーーーー!!!!」



「……裕真(ゆうま)、くん……っ!」





 その声でも、ウチを守ろうとしてくれるみたいに。


 襲う災いを吹き飛ばし、ウチを包み込もうとしてくれるみたいに。




 ウチの、ウチとしての名前を……裕真くんは、呼んでくれた――。






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― 新着の感想 ―
[良い点] なんというか上手くいえませんが、八刀皿さんが気にされていたヒロイン力。 プロレス技を使う武闘派ヒロインとしっかり両立していますね! いや、語彙がアレで本当に上手く言えないんですけど(笑) …
[一言] 名前呼びキターーー!!!!(大歓喜) 微居君「……」 絵井君「(あの微居が岩を投げない……だと……!?)」
[一言] お約束の展開で久々に主人公らしいですね。 次も楽しみにしております。
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