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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
19章 ただ一人のキミのため――抗え戦え、諦めるな、ひた走れ!
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第259話 手負いの勇者を背に、黒い狼は疾く駆ける



白城(しらき)が――」



 俺たちを助けるためにって、頼み込んでくれた――?




 ……そう告げるこのバイクの男が、何者かは分からない。


 どこかで会ったことがあるような気もする――けど、知り合いじゃないのは間違いない。



 けど、俺は――ほとんど迷うことなく。



「――お願いします!」



 渡されたヘルメットを被りつつ……バイクの後ろにまたがった。




 白城とこの人がどういう関係なのかとか、白城がどうやってこの事態を知ったのかとか、当然いろいろな疑問はあるけど――。



 ……俺は、白城って人間を信じているから。


 だから、その白城が、信じて俺たちのことを頼んだ人間なら――同じく、信じるだけだ!



 しかもそれが、1秒でも早く鈴守(すずもり)を助けることに繋がるなら、なおさらだろ……!




「えっと――」


「オレは黒井(くろい)だ。

 ――そンで赤宮(あかみや)、向かう先にアテはあンのか?」


「さっき、鈴守をさらったヤツと電話で話しました!

 高稲南(たかいなみなみ)、ライブハウス〈シャンバラ〉裏の地下駐車場へお願いします!」



「……あそこか……分かった。

 いいか――振り落とされてもいちいち拾いに戻らねーからな、落ちンなよ!!」




 言うや否や、黒井さんはいきなり……。


 バイクがそんな動きをするのかと驚くほどの、とんでもない勢いで後輪を滑らせて方向転換――。


 続けて、一瞬前輪が浮き上がるほどの勢いでバイクを発進させた!




「――――ッ!」




 俺自身、〈迅剣(じんけん)〉なんかの速度を重視した剣技で、高速移動をすることはあるけど……。


 黒井さんのバイクのスピード感は、そういうのとはまた別物だった。



 ケガをしてることもあって、素直に黒井さんの身体に掴まっていたから良かったようなものの……。


 ナメてかかっていたら、スタートダッシュで本当に振り落とされていたかも知れない。




「――う、お――っ!」




 ――景色が後方へ吹っ飛ぶ。


 大したことないはずの小雨が、(つぶて)となって身体に激しく打ち付ける。




 さらに、カーブの曲がり方も――アクション映画とかでしか見ないような、地面につくんじゃないかってぐらい車体を傾け、ときに白煙を上げる後輪を滑らせて……。



 それはもう、『曲がる』って概念を、根底からひっくり返されそうな動きだった。



 エンジンのついている乗り物が、レールとかがあるわけでもないのに、こんなにも速く曲がれるものなのか――って。



 その後も、狭い道も、曲がりくねった道も、ぬかるんだ悪路も、ときには赤信号さえも――知ったことかとばかりに、黒井さんの操るバイクは、途方もないスピードでカッ飛ばしていく。


 ……この雨の中を、だ。


 それこそ、少しでもミスをすれば事故に――取り返しのつかないことになるのが、いちいち考えなくても分かる。



 でも、それは……黒井さんが、鈴守のためにと急いでくれている証拠だ。



 鈴守をさらったヤツと、因縁があるって言ってたけど……。


 目的がそいつと会うだけなら、こんな無謀とも思えるほどのスピードで突っ走る必要もないんだから。



 ……だけど、だからって黒井さんの運転には、無茶とかそんな雰囲気は一切無くて――。



 この悪天候を、俺でも驚くほどのスピードと挙動で駆け抜けてるのに……まるで危うさなんて感じない。


 いや、それどころか――絶対に大丈夫だって安心感すら漂っていた。




 ――だから。


 この調子なら、きっと目的地まであっという間だ……と、思っていたんだけど。




「……え?」



 車が列を成す大きな通りに出たところで、バイクはスピードを落とし……。



 これまでの爆走もどこへやら――。


 居並ぶ車の合間を縫うようなこともせず、ある意味真っ当に行儀良く、列の後ろに付いて停まってしまった。




「ちょ、黒井さん――っ!」




 ――1秒でも早く、鈴守を助けないといけないのに……!



 その思いに突き動かされて俺は、反射的に黒井さんに食ってかかりそうになる――けど。



 それを、分かっている、といわんばかりに……黒井さんは指で、交差点の方を指し示す。




 そこにあるのは……警察署だ。




「……ここでムチャをやると、確実に目ェ付けられちまうからな。

 オレ自身はまあ、ケーサツの厄介になるのは慣れてるし、それは構わねえンだが……。


 ヤツらに引き止められると、それだけで相当に時間を食っちまうし……。

 だからって逃げると、お前が指定された場所まで、ヤツらを引き連れていっちまう可能性があるってのが、何よりもマズい。


 ……たとえカン違いでも、オグ――ああ、お前のカノジョをさらったヤツのことだが――アイツらが、ケーサツが近くに来てると知ったら……事態が一気に悪化しかねねえからな」




「……それは……」



 ――まさしく、黒井さんの言う通りだ。


 確かに、警察に追われるような形で指定場所まで行ったりしたら……それこそ、向こうをいたずらに刺激することになって、鈴守をより危険な目に遭わせかねないだろう。



 つまり、ここはまさしく『急がば回れ』――ってわけか……。




「……すいません……頭に血が上ってました」



 良い機会だと、俺は一つ大きく深呼吸して――頭を冷やすことにする。




 ……一刻も早く鈴守を――って気持ちに変わりはない。


 ないけど――この先、焦ってヘタな失敗をするわけにもいかないんだからな……。




「まあ……お前がうちのお嬢をフってまで選んだオンナなんだ、むしろそれぐらいじゃなきゃ、この場で蹴落とすところだがよ」




「え………………えええぇっ!?

 し、知ってるんですかそれ……ついさっきのことなのに!?


 ――ってか、そんなことまで聞いてるって、黒井さんって……」




 大きな交差点で、車の数も多いから、信号に合わせて列がゆったり動く間に……俺たちは自然と、そんなことを話していた。




「オレぁ……〈常春(トコハル)〉のマスターには、ガキの頃から世話になっててな。

 だから、まあお嬢も昔っからの知り合いで……口うるせえ妹みてーなモンだ。


 ――で、告白の話は、さっき聞いた。


 オレの知り合いから、お前のカノジョがさらわれるのを見たって聞いたお嬢が、お前らを助けてやってくれって――オレに連絡してきたとき、ついでにな」




「そう……ですか……」



 白城のことだ……鈴守の身の安全を案じると同時に、こんなことになったのも自分のせいじゃないかと、自責の念を覚えもしたんだろうな……。



 もちろん、少なくとも俺は――俺を助けてくれただけの白城を責めるつもりなんて、これっぽっちもない。


 いや、それどころか、こうして黒井さんの協力を取り付けてくれたんだから……むしろ礼を言いたいぐらいだ。



 きっと、俺だけだったら……。


 魔法まで使った上で、なんとか気合いで思いっ切り突っ走ったとしても――こんなに速く移動することなんて、出来なかったはずだから。




「ああ、それから……。

 お前らにメーワクかけちまってるオグってのは、オレの昔の舎弟でな……。

 最近、言動がヤバくなってるってウワサを聞いて……何とかしようとしてるトコだった。

 ――もともとが、ケンカなんかも大して強くねえくせに、すぐ調子に乗るバカで……しかしだからこそ、ここまでシャレにならねえことをやるようなヤツでもなかったんだが……」



「…………それは…………」



「いや――悪ィ。余計なコト言っちまったな。

 そうだよな……何を言おうと実際、アイツがお前のカノジョを連れ去ったってのは事実だし……。

 今、何より重要なのは、その子の無事、なんだからな――」



 思わず一瞬、どう答えるべきかと口ごもった俺に……。


 ヘルメット越しに、背中越しに、小さく首を振りつつそう言い――黒井さんは、自身の気持ちも引き締め直すと言わんばかりに、エンジンを一度空吹かしさせた。




 ――信号は……もうすぐ青だ。




「っし……この交差点抜けたら、一気に行くぞ!」



「お願いします!」



 その宣言通り、警察署のある交差点を抜けるまでは、ごく一般的な速度で走って……。



 そして、充分に離れた――と思った途端。




 俺たちの乗るバイクは、周囲の車が停まったかと錯覚するほどの加速で――アスファルトを蹴り出していた。




「……鈴守……!」




 もうすぐ行くから、絶対に助けるから――!


 もう少しだけ、待っててくれ……!






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― 新着の感想 ―
[一言] 黒井くんの運転技術は世界一ぃぃぃぃ!
[一言] ふむ。常春豆腐店。 イニシャルBですね。
[一言] 最近はコンプライアンス的なあれこれの影響で、フィクションの中で銀行強盗が律儀にシートベルトを締めてるなんて世の中になりましたが、それをこんな形で自然に見せる手腕、お見事です!
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