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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
19章 ただ一人のキミのため――抗え戦え、諦めるな、ひた走れ!
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第257話 その悪意への、自分への、怒りに吼える勇者



「……鈴守(すずもり)……っ!」



 俺と白城(しらき)が一緒にいるところを見て逃げ出した、鈴守を追って――。


 少しずつ強くなる雨足の中……俺は、路地を走り回っていた。



 だけど、エクサリオとの戦いで負ったダメージは、予想以上に大きいようで……まだ、身体がまともに動いてくれず――。


 自分でもイラつくほどにヨタヨタとした足取りは、走る――なんて、とても言えないようなものだった。



 だから、むしろ……。

 何度も転んだし、這いずり回るって言った方が正しいかも知れない。




 そんな情けない俺に反して、鈴守はそもそも運動神経が良いし――足だってわりと速い。


 今の俺じゃ、どう考えたって引き離される一方だろう――だろうけど!




 けど――ここで必死にならなくてどうするんだって話だろ……っ!




 あのとき、遠間に一瞬垣間見えた鈴守は――。


 驚きだけじゃなく……哀しいような、怖がるような――今にも泣きそうな顔をしてたんだ……!




 あの子に――いつまでも、あんな顔をさせるわけにはいかないだろ……!


 しかもその原因が、俺の迂闊な行動にあるとすればなおさらだ……!




 ――思いっ切り怒られてもいい、ひっぱたかれても構いやしない……!




 とにかく、少しでも早く、誤解だって伝えたい。謝りたい。


 少しでも早く、そしてちょっとでも――あの子の表情を曇らせる不安を、取り除いてあげたい。




 俺が好きなのは、ただ一人、鈴守千紗(ちさ)だけだって――!


 それこそ、何度だって伝えたい……!




「鈴守……俺は――っ……!」




 俺はキミに、笑っていてほしいから……っ!


 あんなツラそうな、哀しそうな顔でいてほしくないから――っ!




「俺は――っ……!」




 ……いくら足が速いって言っても、いずれ息も切れる、足は止まる。


 なら、その間にも俺が、根性で足を動かし続ければ――いずれは差も埋まるハズだ……!



 だから――とにかく走る! 全力で足を動かす!


 息が上がろうが、身体が悲鳴を上げようが、知ったことか!



 人間、そうカンタンに死んだりしねーんだからな――!


 勇者として培ったチカラ――こういうときに発揮しなくてどうするってんだよ……!




 ……そうして、とにかくひたすら足を前に進め続けた俺は。


 やがて、路地を抜け――裏通りらしき場所に出た。



 決して広い場所じゃないが、道路が左右に分かれている。


 どちらに進むべきかと、判断材料を探して視線を動かした俺は――。



「! あれ、って……」



 前方、フェンスに囲まれただけの小さな駐車場の入り口付近に……見覚えのあるものを見つけて近寄る。



 それは――鈴守の差していた傘だった。


 あの子らしい、涼やかな水色を基調にした、落ち着いたデザインの……折りたたみ傘。



 それが……開いたままになって、フェンス近くに転がっている。



 しかも――まるで重い物が上から乗っかったみたいに、へし折れていて……。





 …………なんだ、これ…………。





 ――ぞわりと、冷たいものが背筋を伝い上げる感覚がする。


 なにが、ってはっきりしなくても――イヤな予感が胸をかすめ……!




「……鈴守……!」




 俺は反射的に、ポケットからスマホを取り出していた。



 鈴守とは、ちゃんと面と向かって話をしなきゃいけないと――電話なんかで済ませちゃダメだと思ってたから、使う気はなかったけど……。


 この傘を見たら、そんなことは言っていられなくなった。



 とにかく、何かあったのか、無事なのか――それだけでも確認したくて、焦る気持ちを必死に抑えつつ、鈴守のスマホに電話をかける。



 もしかしたら、電話で話を済ませようとしてるって思われて、また不興を買うかも知れないけど……何もないなら、その方がまだマシだ。




 が…………電話は、なかなか繋がらない。




 本当になにか大変なことになっているのか、それとも、こんな状況での俺からの電話だから、頭に来て出ようとしないだけなのか……。



 ――どちらにしても、俺にとって気持ちの良い話じゃない。


 呼び出し音が1回鳴るたびに、胸が、ケガとは別の痛みで、ギリギリと締め上げられるような気分になる。



 そうして、繋がらない――と、あきらめかけたそのとき。



 電話が、通話状態に切り替わった。




「! も、もしもし、鈴守っ!?」




 繋がって良かった――と、一瞬安堵するも。


 改めて、どう話せばいいのかと言葉に詰まっていると――




『……よォ。もしかして、カレシくんかい?』




 電話の向こうから聞こえてきたのは……。


 鈴守とは似ても似つかない、人を食ったような口調の――若い男の声で……!




「……おい……! 誰だアンタ……!


 鈴守は――そのスマホの持ち主は、どうした……っ!」




 俺は反射的に、低い声で鋭く誰何(すいか)していた。


 鈴守が落としたスマホを拾っただけの、親切な人――そんな好意的な解釈はハナから頭に無い。



 ……当然だ。


 男の声には、俺への、隠しようのない『悪意』があったから……!




『……その前に、だ。

 お前が、これの持ち主のカレシくん――ってことで、いいんだよな?』




「だったらなんだ……?


 答えろ――――鈴守をどうしたッ!!!!」




 自分でも信じられないほどの、激しい怒号が飛び出る。


 相手が目の前にいたなら、それだけで威圧出来ただろうが……悔しいことに、電話の向こうじゃ効果は無い……!




『おーおー、怖え怖え……!

 まァ安心しろって、今ンとこ、カノジョには眠ってもらってるだけだからよ。

 ……なんせオレが用があんのは、お前も含めて、2人まとめて……なんだからなァ?』



「……どういうことだ……!」




『んー……お前らは覚えてねえだろうけどよォ……。

 オレたち、前に柿ノ宮(かきのみや)で、お前らにイタい目に遭わされたんだよなー。


 ――で、な?

 いずれ、2人まとめて世話になった礼がしてなァ――って思ってたんだよ。


 そうしたら、ついさっき、なんともラッキーなことに、このカノジョちゃんを見つけちまったからさァ……!


 とりあえず一足早く、カノジョだけでもオレたちのアジトにご招待させてもらった――ってわけだ。

 ……ああまあ、まだドライブ中、だけどな?』




 ――柿ノ宮……? イタい目……?


 まさか……デートのとき、鈴守と2人で蹴散らしてやった、あのチンピラどもか!?



 アイツらが……俺たちへの仕返しのために、俺を呼び出すために、鈴守をさらったってのか……!?



 くそったれが……フザけやがって――!




『……ま、そんなわけで――だ。

 カレシくん、お前も早いトコこっちに遊びに来てくれよ、な?

 ――っと、そうだ、今どこにいる?』



「……テメエらが、その子をさらっただろう場所。

 大通りから路地抜けた先の、小さい駐車場の前だ」



『おお、なんだそこかよ! ちょうどいいじゃねえの!

 ――ンじゃ、こっちの場所は……。

 ああ、そう……高稲南(たかいなみなみ)、ライブハウス〈シャンバラ〉裏の地下駐車場な』



「……分かった、すぐに行ってやる。

 だが、もし、俺が行くまでに、少しでも鈴守を傷付けるようなマネをすれば――!」




『おーおー、怖えなあ。

 ――いいぜ、約束してやるよ。カノジョちゃんには何にもしねえ、ってな。


 オレもさ、せっかくの機会なのに、つまらねーことになンのはイヤだからさァ?


 ……なんつーかよ? ここでカノジョちゃんを痛めつけてもさ、お前が来たとき、ただ単にキレるだけだろ?


 けどよォ……何もしなきゃ、さ?

 このまま無事に助けられるかも――って、希望を持ってくれるもんなあ?


 ――そう、どーせ仕返しするなら……。

 その希望ごとお前をボッコボコにする方が、よっぽど楽しいじゃねェか?』




 ――コイツ……なんともねじ曲がった願望を、いけしゃあしゃあと語りやがって。



 だが……俺としては、助かった、ってのが実際のところか。


 もちろん、こんなヤツを全面的に信用するわけじゃないけど……コイツがその考えに浸ってるうちは、鈴守は安全な可能性が高い――ってわけだからな。



 そして――いざ、相対したなら。



 たとえコイツが鈴守を人質にしようが、何百人と手勢を揃えようが、刃物どころか銃器すら持ち出そうが、俺の身体が本調子じゃなかろうが――。




 俺に、負ける道理はない……!


 必ず、鈴守を守って――このフザけた野郎の顔面に鉄拳を叩き込む……!




『ああ、そうそう! さすがにいつまでも待たされンのは退屈だからよ?

 あんましダラダラしねーで、さっさと来てくれよ? なあ?』




 ……要するに、ヘタに小細工なんかを仕掛ける猶予は与えない――ってわけか。


 まあ当然、警察に通報するのもアウトだろうな……する気なんてさらさらないけどよ。




「……言われなくてもそのつもりだ。

 すぐに行ってやるから、首を洗って待ってろ……!


 ケンカの相手も、その売り方も――。

 どっちも最悪に間違えたってことを、骨の髄まで思い知らせてやる……!」




『ハハハッ、怖え怖え!

 ――じゃ、楽しみに待ってっからよ!』




 耳障りな笑い声を残して、通話は切れた。



 沈黙したスマホを手に、俺は――




「――――あああああッ!!!!」




 腹の底から噴き上がる、さっきのヤツへの――そして何より、鈴守をこんな目に遭わせちまった不甲斐ない自分への、とめどない怒りを。


 空へ向かって思い切り()え、解き放ち――ひとまず抑え込んだ。




「鈴守……! 待っててくれ、すぐに助けるから……!」




 指定された場所は――同じ高稲だが、ここからはそれなりに遠い。


 威勢良くタンカを切ったはいいが、今の俺じゃ、とにかく必死に走らないと……タイムアップになりかねない。



 だから、思った通りに動かない足を、それでも、歯を食いしばって少しでも速く、遠くに運ぼうと、動かし始めた――そのとき。




「…………っ!?」




 視線の先の方から、こっちに向かってきていた1台のバイクが――いきなり。


 後輪を鳴かせながら、滑り込み……俺の前で停まった。




「……なめやがって……!

 いきなり足止めを送り込んでくるかよ……!」



 反射的に身構える俺に対し――。


 バイクに乗る背の高いツナギの男は、フルフェイスのバイザーを上げて……めんどくさそうな声で話しかけてくる。




「おい。テメーが、赤宮(あかみや)裕真(ゆうま)……で、いいんだよな?」




「……だったらどうした?」



 警戒しつつ、言葉少なく応えながら……。



 免許は持ってないけど、一応運転の仕方ぐらいは知ってるし、コイツをぶっ飛ばしてバイク奪えば時間が短縮出来るな――。


 ……とか、考えていた俺に。



 バイクの男は、何を思ったか――いきなり、もう一つのヘルメットを取り出し、俺に向かって放ってきた。


 そして……親指で後部を指して、一言。



「――乗れ」



「……は……?」



 投げ渡されたヘルメットを手にいぶかる俺に向かって、さらに男は……。




「……めんどくせえが、手ェ貸してやるって言ってンだよ。


 テメーの彼女さらったヤツには、オレも用があるし――。


 それに、何より……。

 お嬢――テメーの後輩の白城(しらき)(めい)に、必死に頼み込まれちまったンでな」




 メット越しに、頭を掻くようにしながら――。


 言葉通り、いかにもめんどくさそうに……そう言い放ったのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 人質を殺しては意味がない。指の一本くらいをへし折っておくのが丁度良い。 敵さん分かってらっしゃる(笑)。
[一言] 黒井くんキターーーー!!! 裕真君(満身創痍)とだなんて、なんて美味しい展開!! お祭りじゃぁぁぁああ!(違)
[良い点] 正に薄い本展開とか、ふざけたことが頭を過りましたが、そんなことが吹っ飛ぶくらい、黒井くんの登場タイミングのかっこよさに痺れました! ここでこう繋がるとは! ……って、意外と他の方は予想し…
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