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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
18章 雨に陰る勇者の素顔と、受難の魔法少女たち
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第256話 彼女の受難――影が二人を分かつとき



「……はぁ、はぁ、はぁ……っ……!」



 ――路地を、思い切り、ひたすらに走り抜けて。


 人気の無い、小さな駐車場の前に出たところで……ウチは、やっと足を止められた。



 傘をその場に投げ出して……側のフェンスにしがみついて、必死に息をつく。


 ……心臓が、うるさいぐらいに脈打ってる。




 でも、それは……。


 それは、全力疾走したからってだけやなくて……!




「……赤宮(あかみや)、くん……っ……!」




 ――白城(しらき)さんと寄り添うようにしてた、赤宮くん……。




 それを見た瞬間、ウチは――。


 何かを考えるよりも、先に……逃げ出してもうてた。




「……ウチ、ウチ……っ……!」




 今日のウチとの約束を断ったんは、白城さんと会うから……?


 ウチよりも――白城さんを好きになったから……?




 …………ううん、違う――――!




 もし――もし、そうやったとしても。


 それやったらそれで、ちゃんと話してくれるのが――赤宮くんやと思うから。



 やから――そんなハズ、ないのに。



 あの赤宮くんが、隠れて浮気とか……するはずないのに。

 白城さんとおったんも、きっと理由があってのことやのに。


 そんなん、分かってるハズやのに……!




 ……やのに、ウチは逃げてもうた――反射的に。




 その一番の理由は……分かってる。



 そう、赤宮くんを疑ったからとか……。


 白城さんに嫉妬したとか……。


 ましてや、頭に来たからとかやなくて――。




 ウチが……ウチ自身の心が、怖かったから――!




 ウチこそ、赤宮くんやなくて、他の人に――クローリヒトに惹かれてるんちゃうの、って……。


 ウチこそ、赤宮くんを裏切ってるんちゃうの、って……。



 やましいところがあるんは、むしろウチの方ちゃうの――って。



 そう思たら……!


 もう、どうしてええか分からへんくて……!



 赤宮くんと、顔を合わせるんが――怖くなって……!




「……ゴメンな、赤宮くん――ゴメン……!

 ウチ――っ……!」




 ……赤宮くんに愛想つかされたらどうしよう――って、また、怖くなって。


 それぐらいに、ウチは赤宮くんが好きやのに……。



 やのに、クローリヒトにまで気を惹かれた――そんな自分の不誠実さが、怖くなって。





「……どうしよ、ウチ……どうしたら……っ……!」





「おーおー……どうしたよ、そこのカノジョ?

 傘まで放り出してよォ?」



「…………っ!?」



 いきなり、背後から投げかけられた――その声色だけで『悪意』を感じる言葉に、あわてて振り返る。




 気付けば、いつの間にか……。


 体格の良い、不良っぽい格好をした――20代ぐらいの男の人が、5人。



 フェンスを背にしたウチを取り囲むように……立ってた。



「お〜……おーおー、その顔! やっぱりだ!

 さっきチラッと見かけてさ、そうなんじゃねェかと思ったら――ビンゴ!

 さっすがだなあ、オレサマぁよ! 記憶力いいわ〜」



 この中のリーダー格らしい、髪の短い男の人が、前屈みにウチに笑いかけてくる。



 でもその笑いは、ウチをバカにしてるみたいとか、そもそも軽薄そうとか、そういうの以前に――。


 なんか、妙な――そう、〈呪〉に似た気配がして……ゾクッとした。



「……なんなんですか……?

 ウチに、なんか用なんですか――っ?」



「んんー? あァ〜、やっぱそっちは覚えてねェかあ。

 ……オレ、ちょっと前、柿ノ宮(かきのみや)でさ?

 アンタと彼氏に、ヒデー目に遭わされたンだけどよォ?」



「……柿ノ宮、で――?」



 ……ふっ、と……。

 赤宮くんと、美術の課題のためにって、柿ノ宮の美術館に行ったことを思い出す。


 あのとき、不良さんに絡まれて、赤宮くんと一緒にケンカすることになったけど……。



 まさか――この人……!




「おっとォ……その顔、思い出してくれたかァ?

 そうそうそう、あのとき彼氏と2人して、大暴れしてくれたよなあ?

 いやーホント、ヒデー目に遭ったわ〜。


 ……だから、さ?

 こうして会えたのもなんかの縁ってヤツだし……。


 まとめて、仕返しさせてもらおうと思って――よぉ?」




 リーダー格の人の、その言葉が終わるか終わらないかのタイミングで――。


 正面から立て続けに、2人がウチに掴みかかってくる。




「――――ッ!」



 とっさに、まず1人目の腕をかいくぐったウチは――。


 脇を抜けざま、その後頭部にヒジ打ちを食らわせて――顔面から後ろのフェンスに激突させる。



 そんで、続く2人目は……。


 伸ばしてきた腕を取っての、背負い投げで――こっちもフェンスへと叩き付けた。



「おーおー、やっぱやるねェ、カノジョ!」



 さらに後に続く3人目も、両手で素早く掴みかかってくるんを、側面に回り込んでの延髄斬りでフェンス送りにして――。



 その間に間近まで迫ってきてた、特に大柄な4人目は……。


 挟み込むみたいに伸ばしてきた腕をジャンプでかわしざま、首を両足で挟んで――そのままフランケンシュタイナーで、同じくフェンスに投げ飛ばした。



「おいおい、マジかよ……!

 ケンカでフランケンシュタイナー使うヤツなんて初めて見たぜ!

 しかもそんな、ヒラヒラのなげースカートでさ!」



 残るリーダーは、すごい楽しそうに手を叩いてる。


 戦意が失せるかと思て、大技使(つこ)たけど……まるで気にしてる感じやない。



 でも、それやったらそれで、って――。



「これで分かりましたよね……?

 またしょうもないケガしたいんやなかったら、これ以上、ウチに構わんといて下さい」



 一応、言葉でも警告しといてから、リーダーの人の脇を抜けてこっから立ち去ろうとするけど……。



「おー……っとォ!」



 やっぱり――その瞬間。


 逃がさへん、て言わんばかりに、ウチの邪魔する形でラリアットをぶつけてきた……!



 しかもそれは、予想よりもずっと速くて――!



 手を出されても、カウンターでつかまえて、そのまま関節()めたら終わりやと思ってたのに――そんな余裕はゼンゼンなくて……。



「んく――ッ……!」



 とっさにガードするんが精一杯やったウチは、さらに、そのまま後ろ――もともとおった方へ自分から跳び退いて威力を殺す。



 ……なんなん、コレ……。


 軽々と振った感じのラリアットやのに、パワーもスピードも、前のケンカのときの比やない……!



 反射的にバックステップで力を受け流したから、腕が痺れるぐらいで済んだけど……それせえへんかったら、どうなってたか……。



 ――本能が、頭の中で警鐘を鳴らす。



 さっき、〈呪〉に似た気配を感じたけど、もしかしてこの人――。


 なんか、良くないモノに取り憑かれてる……っ!?




「まァ待ちなって。さっき言ったろ?


 まとめて仕返しさせてもらおうと思って――ってよォ?


 ……つまりさ、カノジョ。

 カレシの方にも、アイサツしなきゃいけねーからさ……。


 アンタをこのまま逃がすわけにはいかねーんだよなァ〜」




「! それって……」



 この人……ウチを捕まえて、赤宮くんを誘い出すつもり――?



 ――あかん、そんなん……!


 いくら赤宮くんがケンカが強い言うても、この人の相手は……!



 ただでさえ、ウチが人質に取られたりしたら、ちゃんとした勝負になるとも思われへんのに……。


 その上もしかしたらこの人、〈呪疫(ジュエキ)〉みたいな良くないモノに憑かれてるかも知れへんねんから……!



「……そんなの、思い通りに……させると思いますかっ?」



 ……やけど――この人。


 以前の、実際に〈呪疫〉に取り憑かれた小学校の先生に比べたら、人としての意識が完全に残ってるあたり、まだ全然マシな状態やろうし……。


 良くないモノに取り憑かれてるとしても、〈呪疫〉よりは弱い可能性が高い。



 やったら……一旦、完全に意識を刈り取るぐらいしたら、自然に霧散するかも知れへん……!




 要は――赤宮くんを守ることも含めて。


 とにかく、ここでウチが何とかしたらいい、いうこと……!




 そう心に決めて、ウチが腰を落として構えを取ると――。


 リーダー格の人は、声を上げて高らかに笑う。



「ハハハッ! ここでビビったり逃げたりしねーで、そうやって()る気になるとか……マジにスゲーよなァ、カノジョ!

 カレシは自分が守る、ってか? 泣かせるねェ――っとォ!」



 そして――唐突に、ウチの胴を目がけて中段蹴りを繰り出してきた。



 これも速い――けど。


 今度は、ちゃんとそれを計算に入れて備えてるから……!



 ウチは、その蹴りを寸前でかわしつつ――脇に抱える形で足をつかまえる。



「――おお……っ?」



 そんで――!



「やあぁっ――!!」



 気合いと一緒に、つかまえた足ごと、ウチ自身の身体を内向きに思い切り捻って――投げ飛ばす!


 いわゆるドラゴンスクリュー……のハズが――!



「……え……」



 この人は、そうやって最大の力をかけたウチの身体を、伸ばした蹴り足一つでぶら下げたまま――ビクともせえへんで……!



「ザンネンだった――なァっ!!」



 さらにそこから、足をとんでもない勢いで蹴り直して――ウチの身体を振り飛ばした!



 ――ガシャン!!!



「あぐっ――!」



 背中からフェンスに叩き付けられたウチは、反動でそのまま地面に四つん這いになる。



 でも……ダメージとしては、大したことない……!



「……っ……!」



 追撃に備えて、ウチはすぐに顔を上げるけど――。


 リーダー格の人は、同じ場所で余裕たっぷりに立ってるだけやった。



「ほれ、どーするよカノジョ?

 素直に降参すンなら、今はこの程度で許してやるぜ?」



「……冗談はやめて下さい。まだ勝負はついてません……!」



 ウチは、奥歯を噛み締め、相手をキッと見据えながら……すぐにでも動けるように、ひとまずヒザ立ちになる。



「そーかァ……ま、そーだと思ったけどよ。しょーがねェな。

 ――おい、やれ」



「……え――っ?」



 最後の一言が、ウチへ向けられたものやない――と悟った瞬間。


 反射的に振り返るけど……そのときにはすでに。



「――――!?」



 ウチの脇腹に……さっきまでフェンス前で倒れてた男の人が、スタンガンを押し当ててきてて――。




 ――バチィィッッ!!!




「――――ッ――――!!??」




 全身を奔り抜ける強烈な衝撃に……声にもならへん声が、喉の奥から漏れ出て。


 大きく仰け反ったウチの身体は、そのまま、為す術なく……地面に倒れる。





 そうして、急速に薄れていく意識の中……。





「……よーし、クルマまで運べ。丁重に、だぞ?


 そうだ、彼氏クンを招待するための大切なお客サマだからな……」





 ――――赤宮、くん…………





 最後に、強く心に浮かんだんは――。



 一番大切な、一番好きな…………彼の姿やった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] クローリヒトとエクサリオの結構ガチな闘い、まじ熱いっすわー。 その上、ガヴァナードの真の力やクローリヒト変身セットの正体にもじわじわと迫ってくれるとは……! たまりませんなぁ。
[一言] 18章完結お疲れさまでしたー!!☆彡 皆さんの感想に先を越され、もう書くことがないぞ!www あ、お誕生日おめでとうっす (`・ω・´)ゞ
[一言] おっー、まさに捕らわれの姫を救いに行く勇者の話になった(笑)。 相手は魔王?
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