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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
18章 雨に陰る勇者の素顔と、受難の魔法少女たち
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第255話 勇者の素顔と、魔法少女の恋と雨 -2-



「……え――――。

 ええっ、えええええっ!?


 好き、って――俺を……か?

 白城(しらき)……お前、が……?」




 わたしの告白に、赤宮(あかみや)センパイは……。


 初めて見るぐらいの勢いで、それはもうビックリしていた。



 ――そんなことがありえるのか、なんて言わんばかりに。




「そんなに驚かれるのも、ちょっとショックですけどね。

 ……そこまで意識されてなかったのか、って」



「あ、えっと……その……!

 ――なんか、すまん……」



「……いいですけど。

 センパイがそーゆートコでニブいのは、分かってましたから」



「うぐ……っ。重ねて……すまん。

 そうだな、そういうところでニブいってのは……亜里奈(ありな)にもよく怒られる」



「まあ、そのへんも引っくるめての、赤宮裕真(ゆうま)って人が……好きなんですけどね」




 ――もう一度、『好き』を繰り返して。


 肩を貸した状態から、わたしは間近のセンパイの顔を――瞳を。


 雨粒に濡れて、ちょっと見にくくなったメガネ越しに――でもキチンと、じっと……まっすぐに見据える。



 ……いくらニブいセンパイでも、そこで、わたしが答えを求めていることに気付かなかったりはしなかった。


 そして、センパイだからこそ――はぐらかしたりすることもなかった。




 ――まるで年下みたいだった、困ったような雰囲気から一転。



 センパイは、わたしが惹かれたあの強い眼差しで、わたしの瞳を見返して――。




 そうして、静かに一度、目を伏せた後。


 瞼を開くと同時に、キッパリと強い口調で――分かりきっていた答えを口にした。





「……すまない、白城。


 俺は――お前の気持ちに応えてやることは出来ない」





「それは……センパイが、変身ヒーローみたいな……普通の人じゃないから、ですか?

 わたしは――仮にセンパイが、〈鉄仮面バイター〉に出てくる怪人みたいなものだったとしても……まったく気にしない自信はありますよ?」



「……だろうな、お前なら。そんな気がするよ。

 だけど――もちろん、そうじゃない」




「なら……わたしを受け入れてくれなきゃ、付き合ってくれなきゃ……。


 センパイのヒミツ、みんなにバラしちゃいますよ――って言ったら、どうです?」




「お前は、そんなヤツじゃないと信じてるけど……そうだな。

 仮に、ヒミツをバラされるとしても――だ。


 ――俺が心の底から想うのは、後にも先にも、世界で鈴守(すずもり)千紗(ちさ)ただ一人だけ。


 何があろうとも……そんな俺自身の気持ちを、裏切るわけにはいかない。

 その裏切りは、鈴守はもちろん、白城――お前の想いに対しても、きっと誠意を欠くことだと思うから。


 だから……ゴメン、白城。


 俺は、お前の告白を受け入れてあげることは――出来ないよ」




「……………………」




 ……たとえば……何かの懸賞みたいなのに、応募したとして。


 それが当選か落選か、送られてきた封筒の厚みとかで、開けなくても分かっちゃう――みたいなこと、あると思うんだ。



 なのに、人間って……その封筒を開けて、『落選』って文字を見て。


 そんなの前もって分かってたのに――さらにもう1回、落ち込むんだよね。



 ――今のわたしも、きっとそんなのだ。


 だって、そんなの……分かりきってたことなんだから。



 でも…………どうしてかなあ――。




「……ですよね〜……。

 ええ、はい、分かってました。


 分かってましたよ……だって――」




 わたしは――同時に。

 奇妙に嬉しくも……あったんだ。


 だって――




「だって、それが……。

 ――それが、わたしが好きになった、赤宮センパイなんですから」




 ……こういうとき、雨なのはちょうど良かったな。


 今、わたしがセンパイに見せてるのが……普通の笑顔なのか、泣き笑いになっちゃってるのか……きっと、分からないもん。




「白城……」



 センパイは、きっと……もう一度「ゴメン」って言おうとして。


 でも、その口をつぐんでくれた。




 うん、ありがとう……センパイ。


 その一言は……やっぱり、何度も聞くのは――痛いから。






 ――そうして……。


 このままただ一緒にいたら、わたしもセンパイも、何を話せばいいのか分からなくなりそうだったけど。



 ちょうど、目標にしていた大通りは……もう、すぐそこだった。



 見たところ大通りも、徐々に強くなる雨のせいか、人出が少ない感じで……。


 わたしたちみたいに雨に濡れながら走っている人も、何人もいる。




「……さて、大通りまで来ましたけど……センパイ、大丈夫ですか?」



「ああ……おかげでかなりラクになったよ。

 ……ありがとう、白城。ホントに助かった。

 それと……悪いな、雨に濡れることになっちまって」



「それなら気にしないで下さい。

 ……どのみち、わたしも傘、持ってませんでしたから」



「なら、これからどうするんだ?」



「そうですね……そこらで雨宿りしながら、うちの常連のおにーさんにでも連絡して、迎えに来てもらいますよ。

 大っきなバイクだから、来るのも帰るのもすぐですし。

 ――センパイは?」



「俺は……そうだな、そこらのコンビニで傘でも――」



 そこまで言ったセンパイの言葉が……いきなり、つんのめるみたいに止まる。


 なんだろうと思って、その視線を追うと――。





 車道を挟んでの、向こう側の通りに。


 傘を差した、小柄な人影が――こっちを向いて、佇んでいた。





 ――って、あれは……!




「――鈴……守……?」


「――――ッ……!」



 センパイが名前をつぶやくのと、通りの向こうの鈴守センパイが動き出すのは……同時だった。


 少し後退(あとずさ)ったと思うと――そのまますぐ振り返り、逃げるように走り出して――!




「――鈴守っ!!」




 肩を貸したままだったセンパイも、わたしから離れて、すぐさま追いかけようとするけど――。



「……!? センパイっ!」



 まだ身体の自由が利かないみたいで、足をもつれさせてアスファルトに転がってしまう――ところを、すかさず手を伸ばして受け止める。



「っ……! すまん、白城――!」



 ……きっと、お礼と謝罪とを一緒くたにした――そんな「すまん」を言い置いて。


 すぐにわたしの手を離れて、改めて立ち上がったセンパイは――。



 全力疾走と呼ぶには、あまりに頼りない足取りで――でも、必死に。


 もう、わたしを振り返ることなく……鈴守センパイを、追いかけていく。




 ……あれなら――間違いなく、わたしが走った方が速い。




 でも……鈴守センパイが、わたしたちのことを誤解してしまったのなら。


 きっと、わたしがいると……余計に話がこじれると思うから。



 あの赤宮センパイに、これだけ必死に追いかけてもらえるのが――うらやましい、って。

 そんなちっぽけな嫉妬だって……ある、けど――。



 でも、わたしは――あの2人の仲を、壊したいわけじゃなかったから。



 こんな風に、鈴守センパイの目を盗むみたいな形で告白しておいて。

 こんな風に、センパイたちの間を誤解させて。


 それで、何言ってるんだって感じだけど――。



 でも……でも、それだってやっぱり、わたしの本心だから……。



 だから――!




「……っ……!


 ――センパイ! がんばってっ!!」




 わたしは、後を追いかけず――その場に残ったまま。




「鈴守センパイのこと、お願い――!

 センパイなら、きっと大丈夫だから……っ!」




 センパイの背中を、思いっ切り押すつもりで……。


 精一杯の応援だけを――投げかけた。



 徐々に離れていくセンパイは、わたしを振り返ることはなかったけど――。




 それでも、小さくうなずいてくれた……そんな気がした。





「………………」




 ――そうして、センパイたちは通りの向こう側の、路地の奥に消えて。


 一人、この場に残されたわたしは……ただ、空を見上げる。



 降ってくるのは、強くなってきたって言っても、まだまだ小粒の雨ばかりで……。





「…………あ〜あ…………。


 …………ホント、わたしって…………」





 ……もういっそ、さっさとドシャ降りにでもなってくれたら。




 それにまぎれて、大泣きとか……出来るのになあ――。






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― 新着の感想 ―
[一言] おお、これはきっと孔明の罠。 自棄になった鈴守さんを黄金勇者が慰める展開来るか(笑) この作品にNTR要素は無いですね。
[一言] キターーーーー!! …… とお祭り騒ぎもできない、この切なさよ。 今さらだけど、白城さんそりゃタイミングを計り損ねてますよ。 そりゃもう、肩貸す⇒誤解させる⇒それから告白、がNTRの黄金パタ…
[一言] 白城さああああああん!!!!!!!(ブワワワッ)
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