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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
18章 雨に陰る勇者の素顔と、受難の魔法少女たち
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第254話 勇者の素顔と、魔法少女の恋と雨 -1-



 ――そのとき、わたしの心を占めていたのは……。


 驚きももちろんあったけど、それ以上の――そう。



 きっと、高揚感のようなものだった。




 ……赤宮(あかみや)センパイは、やっぱり、わたしたちと同じ側の人だった――って。


 やっぱり――クローリヒト本人だった、って。




「……白城(しらき)……今の、見たのか……?」




 ゴミ袋の上のセンパイは、苦しそうな息の下……険しい声で、そう尋ねてくる。



 一瞬、ごまかした方がいいのかとも考えたけど……わたしは、素直にうなずいた。



「……特撮ヒーローみたいな、黒い鎧と剣が一瞬で消えて……。

 それで、センパイが……」


「…………そっか――」



 センパイは、片手で顔を覆いながらうなだれる。


 ――まさか、誰かに見られるとは思わなかった……って感じだ。



 そしてそれは逆に、センパイが――クローリヒトが、わたしの気配に気付かないぐらいの状態だった、ってことでもある。


 唇の端に血の跡が見えるぐらいで、大きな外傷らしいものはなさそうだけど……動きや表情からして、かなりのダメージを受けてるのはすぐ分かった。



 以前、わたしとの戦いで、あれだけの強さを見せつけたクローリヒトが、これだけこっぴどくやられてるってことは――。


 黒井(くろい)くんたちが話してた、エクサリオってヤツと戦った……?




「……見られちまったものはしょうがない、か……。


 ――頼む、白城。

 今見たことは……誰にも言わないでくれ。


 それと……俺の近くにいると、お前まで厄介事に巻き込まれるかも知れない。

 早くここを離れた方がいい……」




 一方的にそう言って、センパイはゴミ袋の山から降り、歩き出そうとして――足をもつれさせて、前のめりにつんのめった。



「――センパイっ!」


 あわてて、倒れそうになるその身体を支える。



「大丈夫ですか……っ? ケガしてるんじゃ――」



 センパイは、そんなわたしを優しく押し退けて……またふらふらと歩き出した。



「……悪い。でも――大丈夫だ。

 さっき、お前が見たように……俺は、タダの人間じゃないんだ。

 だから、これぐらいなら……気を張ってれば、すぐに……治る」



 痛みをガマンしての脂汗か、それとも雨か――。


 額の水滴を拭って、きっと、あえてわたしを突き放すような態度で……大通りの方へ向かおうとするセンパイ。



 でも……当然、わたしはそんなのは気にせず後を追って――強引に、肩を貸す形でセンパイを支えた。



「……おい、白城――!」


「……こんなフラフラになってる人、放っておけるわけないじゃないですか」


「だから、すぐにマシになるって――」


「なら、それまで肩貸します」



 強情なわたしに、センパイはしかめっ面でさらに何か、きっと「やめろ」的なことを言おうとしたけど……。


 しっかり身体を支えてるわたしを引き剥がすとなると、結構な力技になっちゃうわけで――。


 女の子相手にそんなマネが出来るハズもないセンパイは、あきらめたように小さくタメ息をつく。



「お前な……さっきの、見たんだろう?

 タダの人間じゃないアヤしいヤツが、フラフラの状態でこんなところに転がってたんだぞ? 警戒するのが当たり前だろう?」



「じゃあ……センパイは、悪いヤツなんですか?

 それで、誰か他の――正義の味方と戦ってた、とかなんですか?」



「……それは……違う、けどさ。

 俺は絶対に、お前たちを傷付けるようなことはしないし……俺が戦った相手だって、悪党ってわけじゃない。

 お互い、考え方の違いで揉めてるだけ――みたいなもんなんだけどさ……」




 ――うん、知ってるよ……クローリヒト。


 だって、わたしは……ハルモニアだから。




 そう言いたいのに……。


 わたしも同じだよ、って……教えたいのに。



 わたしは、どうしてもそれを――言い出せない。




 だって――それを教えるってことは。


 わたしだけじゃない、〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉のみんなのことを、勝手に教えてしまうのと同じだから。



 センパイのことを信用してないわけじゃない、けど――。



 黒井くんたちや、お父さん、家族同然の〈庭園〉の魔獣たちのことを考えると……。


 どうしても、わたしの想いだけでその一線を越えることが――はばかられて。




 ……そんな風に、葛藤でわたしが押し黙っているのを、違う理由と捉えたんだろう。


 センパイは、穏やかな声で「大丈夫だ」と言った。




「……白城、関係者の俺が言っても、説得力はないかも知れないけど……。

 お前たちみたいに、普通に暮らしてる人たちに害が及ぶようなことにはならないから。

 そんな悪だくみとかしてるわけじゃないから。

 だから――本当に、このことは……」



「分かってます……言いませんよ、誰にも」



「すまん……助かる」




 少しずつ、少しずつ……雨足だけは強まる中。


 少しずつ、少しずつ……弱々しい足取りで、ゆっくりと。



 傘の無いわたしたちは、お互い小雨に濡れながら……歩を進める。




「……そう言えば……。

 前にもわたし、センパイがケガしてるところに出くわしたことありましたよね」



 ふと……以前、センパイのケガの手当てを手伝ったことを思い出した。



 こうしてセンパイの正体を知って考えれば……あのケガも、エクサリオと戦ったときのものだったのかも知れない。


 あのときセンパイが、やたらとケガの手当てに慣れてる感じだったのも……異世界で〈勇者〉をやってたから――そうと分かれば納得だ。



 ……一方、わたしと違って、センパイとしてはあんまり思い出したくないことなのか……苦笑いを浮かべていた。



「……そうだな、あのときは見苦しいところを見せちまったっけ……。

 またこうやって、同じようなタイミングでお前に助けてもらうなんてな」



「あのときセンパイ、わりとイラついてましたよね」



 わたしがちょっと意地悪く言うと……センパイはちょっとうなだれた。




「……悪かったよ……お前にあたっちまったもんな。


 ――っていうか、それより……問題は今だ。


 あのときと違って、今は――俺のケガが、ただのケンカのせいじゃないって分かるよな?

 お前たちに害が及ばないように……って言ったけど、でもこれが普通の人間にとって、大変な厄介事なのは間違いない。


 なのに白城、お前……いくら何でもお人好しが過ぎ――」




「お人好しだからじゃないです、センパイを助けるのは」



「じゃあ――」




「じゃあどうしてか、って?

 そんなの、決まってるじゃないですか。


 ……センパイのことが好きだから、です」




 ――自分自身、驚くほどするりと、カンタンに、自然に。


 わたしは……その言葉を、告げていた。




 ……多分――きっと。


 わたしはずっと、きっかけを求めてたんだと思う。




 もしセンパイがクローリヒトなら、鈴守(すずもり)センパイよりも理解してあげられる――とか。


 自分を磨いて、センパイに振り向いてもらう――とか。



 そうした想いも、ウソじゃないけれど……。


 結局、告白への一歩を踏み出せない自分への、言い訳の面もあったんだ。



 だから……わたしはずっと。

 その一歩のためのギリギリのラインで、待ち続けてたんだ。



 ――その、ほんのちょっとの勇気に繋がるきっかけを。



 そして、そのきっかけが……きっと、これだったんだ。




 ……でも、こんなにあっさり、『好き』って言葉が出ちゃうなんて。




 ホント、わたしって――。


 どれだけギリギリ前のめりで待ってたんだか――ね。






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― 新着の感想 ―
[一言] 今言うのはズルい! あ~でも仕方ないな!!(揺れる読者心) くそぅ…… これは堪らん展開ですぜ旦那!!
[一言] こっ、これ鈴守ちゃんに見られちゃったら……! と言おうと思ったら、すでに翠さまが同じことを(笑) いやぁぁぁぁぁ 甘酸っぺぇぇぇぇ ですねぇ! さあどうする赤宮くんっ!? (わくわく)
[一言] ぎゃー、大事な彼女が「これって、浮気?」みたいな感じでドツボにはまってぐるぐるなっていると思ったら、なんとこっちはこっちで正体がバレたあげく、告白までされてしまった! 頼むよ赤みゃん、肩を借…
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