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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
18章 雨に陰る勇者の素顔と、受難の魔法少女たち
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第252話 魔法少女のその想いは、純粋であるゆえに



 ……やっぱり、傘、持って出れば良かったかぁ……。



 まだそんな時間じゃないのに、もう日が落ちちゃったみたいな、どんよりと重苦しい曇り空を見上げて……わたしは思わず、タメ息をついた。



 〈常春(お店)〉を出るとき、お父さんには傘を持っていくよう注意されたんだけど……。

 それを「大丈夫」と、あっさりあしらっちゃったことが悔やまれる。



 ムシムシした、身体中にまとわりつくみたいな不快な空気は、この上さらに湿度を増してる感じで……もう、いつ雨が降り出してもおかしくない。


 それにこの分だと、一度降り出せば、結構激しくなりそうだ。



「……お店の買い物だけ済ませて、さっさと帰るつもりだったからなあ」



 そう、本当なら、すぐに帰るハズだったんだ。

 だから、傘もいらないと思ってたんだけど……。



 備品を買い足すのに高稲(たかいな)まで出てきたら、〈呪疫(ジュエキ)〉の反応を感じた気がして……さすがに、見逃すわけにはいかなくて。



 それを追って移動したら――建ち並ぶ商業ビルの隙間、裏路地みたいになってるところに入り込んだあたりで、肝心の〈呪疫〉の反応が感じられなくなっちゃって……。



 今わたしは、ちょっと宙ぶらりんというか……どうしようか、って感じになっていた。



 もしかしたら〈呪疫〉は、クローリヒトやシルキーベルがやって来て、さっさと処理しちゃっただけなのかも知れない。


 でも、もし――そうじゃなくて。


 実は反応を感じ取りづらくなっただけで、隠れるようにどこかに移動してるんだとしたら……。


 まだ早い時間で、街には人出も多いんだから……普通の人に被害が出る可能性もある。



 ……なにせ、現に最近、黒井(くろい)くんの元・舎弟のおにーさんが、〈呪〉の影響で良くない方向に暴走してるらしいからね……。


 正確にはその人は〈呪疫〉じゃなく、どうも、以前小学校で暴れた謎の魔剣のカケラを拾っちゃって……それの影響を受けてるらしいんだけど。

 でも、チカラの本質は同じようなものだし。



 だから――



「……そう……適当なことは出来ない、よね」



 わたしは、もう少しあたりを歩き回ってみることにした。



 このテの気配を感じるのが得意なキャリコはお店だし、わたしも変身しないと感知能力はそこまで高くならないから、とりあえずはそれが一番だ。



「……昼間だからってヘンに遠慮しないで、ひと思いに変身して探せば良かったかなあ……」



 ――なんて、そんな独り言をつぶやき……。


 改めて、わたしは足を踏み出した。




 もうしばらく、降らなきゃいいなあ――なんて、祈りながら。











     *     *     *




 ――ガギィィィィィ…………ン……ッ!!!



「……っ……!」



 エクサリオの一撃は、ウチでも何とか受け止めれた……けど。


 すごい衝撃に、全身が痺れて……ヒザが、踏ん張りきれへんで……ガクンて落ちる。



 でも――そこでエクサリオ自身が、剣を退いてくれた。




 ……危なかった……。


 エクサリオがもし、気にせずウチまでいっしょに斬るつもりやったら――。




 そう思うと、冷や汗が出て――全身から力が抜けて。


 ウチは、その場にへたり込んでしまう。




「……シルキー、ベル――っ……!」


「シルキーベル……」



 そんなウチは……後ろと前から同時に、でもゼンゼン違う声色で名前を呼ばれた。


 ただ、その中にはどっちも、どうして――ていう疑問が混じってると思う。




 どうしてこんな、命がけでクローリヒトをかばったんか……。




 それは……ウチにも……分からへんかった。


 はっきりと理由を考えるより先に――身体が動いてもうてた。



 クローリヒトが危ないって、そう思った……その瞬間に。




「つまり……これがキミの答え、というわけだ」



 落胆――それがありありと分かる、そんな一言を口にしながら。


 エクサリオは、へたり込んでるウチを回り込んで……ゆっくりとクローリヒトの方へ。



「だ、だめ……っ!」



 あわてて引き止めようとしても、さっきの衝撃でまだ身体が痺れてて、動けなくて……!



「ひひひっ姫のご意向と、ああ、あらららばァ〜っ!」


「――カネヒラっ!?」



 カネヒラがそんなウチの意を汲んで、必死にエクサリオを止めようと、追いすがってくれるけど……。


 虫みたいに、ペチンとあっさりはたき落とされてしまう。



「む、むねん〜…………きゅう」



 呆気なく、気絶(?)してまうカネヒラ。



 でも……逆に相手にすらされてへんからか、それだけで見逃してくれたみたい。


 壊されへんで、よかった……て、ホッとする。



 だけど――その間に。


 エクサリオは、クローリヒトのすぐ目の前まで移動してて。



 一方のクローリヒトも、フラフラしながら立ち上がってて――。



 2人は、超至近距離で向かい合ってた。



「エクサリオ……俺には、お前が……。

 勇者……って称号に、呪われてるようにすら……見えるぜ。

 だから――」



 ……ゴツン、て。


 クローリヒトは、額を突き合わせるみたいに……エクサリオの兜に、力無く仮面をぶつけた。




「……だから俺が、救ってみせる。――必ず」



「――いいだろう。その戯言(たわごと)……覚えておいてやる」




 静かに、そう言い放ったと思ったら――。


 エクサリオは、クローリヒトの身体を……蹴り飛ばした!



「――ぅがっ……!」


「クローリヒト!!!」



 宙に浮いたクローリヒトに手を伸ばそうにも、今のウチやと届かへんくて……!


 屋上の縁を越えたその身体は、呆気なく、落下して――。




「クローリヒト――っ!」




 痺れの残る身体をなんとか這うように動かして、縁から下を覗き込んでみるけど……。



 天気が悪くて暗いし、他のビルの陰にもなってて……様子はまるで分からへんかった。




「安心しろ、あの程度で死ぬような奴じゃない。

 ……生憎あいにくと、な」




 つまらなさそうに言いながら、きびすを返したエクサリオは――。


 さっきクローリヒトに空中に跳ね飛ばされた盾が、いつの間にか落ちてきてたみたいで……今は尖った部分で床に突き立ってたのを、拾い上げる。



「しかし、シルキーベル……キミが守りたいものとは、何なのだ?」



「なに、って――」



「役目か? 己の正義か? 無辜(むこ)の人々か?

 ――それとも……」



「そんなの――!」



 決まってる、と言いかけて――ウチはハッとなった。




 ウチが守りたい人たち――。


 その中で一番に思い浮かぶのは……赤宮(あかみや)くん。



 そう、それだけ大切な人やのに――ウチは。




 ……さっきの一瞬。


 まるで、そんな赤宮くんを喪うのを、恐れるみたいに――。



 クローリヒトを、助けなあかんって……。


 それだけで、頭が真っ白になって――た……?




 ――ウソや……ウチ。


 まさか、そんなに……クローリヒトのことを……?




 ……ふっ――と。


 脳裏に、赤宮くんの、あの優しい笑顔が浮かぶ。




 赤宮くんはいつも、ウチを励まして、元気付けて、助けてくれるのに。


 あれだけ、ウチを好きでいてくれるのに――。




 やのに――――ウチは。


 そんな赤宮くんの気持ちを――――裏切って、る…………?




「……わたし、は……っ……!」



「……まあ、いい。

 なんであれ、キミは――必要な覚悟を決められないようだしな」



 エクサリオの声も、どこか遠く聞こえて……。


 今のウチには、何も答えられへんかった。



 そんなウチの態度を、どんな風に受け取ったんかは分からへんけど――。



「――次に会ったとき……。

 せめて、キミがわたしの敵に回っていないことを――願っていよう」



 淡々とした調子で、そう告げて……エクサリオはこの場から去っていった。




「……わたしは……」




 一人残されたウチは……。


 気絶――っていうか、多分、システムを再起動中のカネヒラを両手で拾い上げて。



 聞こえへんことを承知で……ううん、聞こえへんからこそ。


 自分自身にぶつけるみたいに――浮かぶ思いをそのまま、言葉にしてた。




「……わたしの、本当の想いは――何なの?

 わたしは本当に、本気で、〈世壊呪(セカイジュ)〉も助けてあげたいって思ってるの?


 それとも、まさか――。


 クローリヒトに惹かれてしまって……そして、彼が願っていることだから、って……ただ、流されてしまっているだけなの?


 赤宮くんを裏切って――自分で考えもせずに……?


 わたしは――わたしは、そんな人間だったの……っ?」




 ――そんなことない、そんなハズない、って。

 ウチの一番好きな、大切な人は赤宮くんやって、自分自身に言い聞かせても。



 ウチが――命がけで、クローリヒトをかばったんは……事実で。



 やから――。

 ヘルメットの自動変換機能が働いて、自然な標準語に置き換えられた……ウチの言葉は。



 それこそ、本当の心を、まるで整ったものみたいに、ごまかして見せてるみたいで……どうしようもなく。




 今のこのウチに、ふさわしいんちゃうか――て。


 ……そんな風に、思えた。






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― 新着の感想 ―
[一言] 控え目に言って素晴らしい回でした! さすがボンクラさま! ここで興醒めするってことは、エクサリオはもしやシルキーベルに…… (邪推) ドロドロの三角四角やっぱり三角関係が待ち受けるー!?(も…
[一言] ああ、やっぱり興醒めしてしまった(笑)。 対決は次回に持ち越しですね。 カネヒラの出番ありがとうございました。
[一言] 昔ジャンプで連載してた『密・リターンズ!』っていう漫画があったんですけど。 とある事故で死んでしまった主人公の魂が、違う少年の身体に乗り移って、生前の恋人ともう一度恋人になるために頑張るみた…
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