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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
18章 雨に陰る勇者の素顔と、受難の魔法少女たち
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第251話 限界を超える黒曜か、圧倒的強者の黄金か



 ――はっきり言って、エクサリオは強い。



 けど、それも当然だ。

 俺の引き継いでるチカラが、アルタメアを救ったときのもの――それだけなのに比べて……。



 向こうは、そのアルタメアを含む、5つの異世界を救う過程すべてのチカラを備えているんだからな。



 だけど、それこそゲームでも、チカラを引き継いで強いままだと、レベルなんてそうそう上がらなくなるわけで……。

 2周すれば強さが2倍に、3周で3倍に――なんて単純なことになるハズがない。


 つまり、5度勇者をやったからって、単純に俺より5倍強いってものでもないだろう。



 だが――積んだ経験がムダになるわけでもない。

 それにそもそも……世界を救うためには避けて通れない、魔王みたいな『世界に災いを為す存在』が弱いわけもない。


 そうして、強い相手と戦えば……当然、それは確かな強さに繋がる。



 だから、やはりエクサリオは強い――分かりやすく、ゲーム的にたとえてレベルで言うなら……恐らく、俺の倍ぐらいにはなるだろう。



 ――自分よりも、単純に2倍強い。


 それは、人によっては絶望的な開きに見えるかも知れない。

 そして実際、その差は小さくはない。



 だが……俺に言わせれば。



 そんなものは、『倍も強い』――じゃない。


 『倍しか差が無い』――だ。



 50倍とか100倍強いって言われるのに比べれば、2倍なら、充分目標として見える範囲だ。


 そもそも、俺自身がまだまだ人間としても未熟なんだ――そんな俺の『倍』なら、それこそ手が届かないこともないってわけだ。




 ――バカな理論だと、一笑に付されそうな考えなのは自分でも分かってる。


 だけど――それがこの俺、赤宮(あかみや)裕真(ゆうま)だ。




 だから……戦い続ける。


 決して諦めずに、投げ出さずに……!




「どうした――この程度か?」


「まだまだ、これからだろ……!」




 全身鎧に盾という重装備とは思えない速さで、斬って薙いで突いてと、休む間もなく〈神剣エクシア〉とやらで襲いかかってくるエクサリオ。


 対する俺は、それをガヴァナードで必死に、受け、いなし、払い……時折、剣で体術で、反撃を繰り出しつつ――何とか凌ぎ続ける。




 ――互いの、世界を救うほどのチカラを持った剣同士が、激しく斬り結ばれる――。




 それによって生じる、折り重なる澄んだ金属音が、駆け回る閃光が火花が……。


 これもまた一つの結界のように、周囲を吹き荒れていた。




「……どうした、この程度か? クローリヒト。

 わたしを斬るんじゃないのか――っ?」


「ああ? いきなり何を言いやがる……っ!」



 俺たちは真っ向の渾身の斬り合いから、鍔迫り合いに移る。



 剣だけでなく、チカラだけでなく――。


 互いの兜が、仮面が、ぶつかり合って激しく火花を散らす。



「誰も犠牲にはしないと、いかにも聞こえの良いことを言いつつ……。

 敵対するわたしを、結局は力を以て排除するんだろう?」


「まあ、テメーの言うことやることに、ムカついてはいるけどな……!

 だが、見損なうなよ……?

 ――俺がやってるのは……殺し合いじゃねえ――!」



 一瞬、こちらから力を抜いて、エクサリオをわずかに引き込み――。


 合わせて、今度は逆に身体を押し込みながら……



「ケンカなんだよ!!!」



 密着状態からのヒザ蹴りで土手っ腹を撃ち抜く!



「――っ……!」



 さらに続けて、体術を食らわせてやろうとするも――。


 エクサリオは盾を差し挟んで俺を遮るとともに――そのままの体当たりで、俺を身体ごと弾き返す。



「ケンカ……ケンカだと?

 この期に及んでなお、命のやり取りまでする気はない――と?

 ……どこまでも覚悟の無い……!」



「そっちこそ、この期に及んでまだ言いやがるかよ。

 ――それが、俺の『覚悟』なんだよ!」



 ここまでの戦いで受けたダメージ、それで身体が悲鳴を上げるのを無視し……。


 俺は全身に闘気とともに力を(みなぎ)らせ――床を蹴って前へ。



 そして――



「〈剛剣(ごうけん)獅子皇(ししおう)〉――ッ!」



 練り上げていたチカラすべてを乗せ、逆袈裟にガヴァナードを斬り上げる!



 一撃の威力を重視したその秘剣は、触れずとも軌道上のコンクリートに亀裂を入れながらエクサリオに襲いかかり――



「くっ――!」



 受け止めた盾ごと、エクサリオを大きく弾き飛ばした。


 さらにそこから――間髪を容れず一気に次へ!



「〈迅剣(じんけん)……月豹憐牙(げっひょうれんが)〉――!」



 体勢を崩したところを狙い澄ましての――突進からの高速連続突きを放つ!



 先に食らったようなカウンターの宙返り蹴り(サマーソルト)や、魔法によるトラップにも気を配りつつ……しかしそれら反撃も無く。



 俺にとっての、大きな逆撃の一手は――。


 無防備なエクサリオの鎧を、その装甲の薄い場所を、怒濤の勢いで食い破り……一気に破壊する!




 ――と、思いきや……。




「――――ッ!?」



 連続突きの初撃が貫いた瞬間――エクサリオの姿が、幻のように掻き消えた。



 そして――。



「〈迅剣――」



 横合いから聞こえたその声に、ぞっとする間もなく……。


 まさに本能の命ずるままに、俺は振り向きざま、必死に防御態勢を取る。



 瞬間――。



「……朧煌顎(おぼろこうがく)〉――!」



 まったく同時としか思えない神速の剣撃が、上下左右4方向から襲いかかる!



「ぐ――ッ!?」



 当然、そのすべてを止めるなんて出来るはずもなく……。


 最も危険な上下からの攻撃は何とかさばいたものの、左右から同時に鎧を打ち据えられ――逃げ場を失った強烈な衝撃が、身体の中を暴れ回った。




「……分かったか?

 何を(のたま)おうと、所詮、キミはこの程度だ」



「が……は……っ!」



 呪われているとはいえ、〈クローリヒト変身セット〉――この鎧の防御力がなかったら……今のもヤバかった……!



 悠然と立つエクサリオを前に、ヒザが崩れそうになるのを……必死に堪え。


 無意識のうちに、支えに、ガヴァナードを床に突き立て――。






 …………その、瞬間。






(…………あ…………?)



 俺は――これまでとは違う『何か』に、触れた気がした。




 半ば意識が飛びかけていて、だからこそ逆に自然体になっていたからだろうか――。


 俺は、ガヴァナードの、いわばこれまでは見ることすら出来なかった部分に……触れた気がしたのだ。



 まだ、食らったダメージの大きさに朦朧としてる、この頭じゃ……何がどうなったのか、とか……ちゃんと理解してるとは言えないと思う。




 だけど――これが『そう』なんだ、と。


 これが、〈創世の剣〉のチカラの一端だと、本能――いや、俺の魂は……確かに認識していた。




 なら――ッ……!!!





「ぬ……あああ――っ!」



 雄叫びを、喉の奥から迸らせ――俺は。


 蒼い輝きを増し始めたガヴァナードを……腰だめに振りかぶり……!



「……まさか、その状態から同じ技を繰り出し……もう一度通用するとでも?

 ついに自棄(ヤケ)になったか?」



 鼻で笑うエクサリオ目がけて――。


 全身から振り絞り、溜めたチカラを解放し――今一度、逆袈裟の一閃を放つ!




「おおおッ!

 〈剛剣――獅子皇〉ぉぉーーーッ!!!」




 ――それは……放った俺すら信じられないものだった。


 ガヴァナードのチカラと、わずかの間でも一体化したと感じた、その瞬間……。




 放たれた一撃は、軌道上のコンクリートに亀裂を入れるどころか、ことごとく破砕し――。


 いや、それどころか……間の空間そのものすら、圧し、潰し、断ち切る勢いでエクサリオに襲いかかり――!




 ――ギィィィィィン――……!




「な――にぃ……ッ!?」



 さっきと同じように受け止めたエクサリオの盾を――。


 剛剣の名にふさわしい威力で、ヤツの手の中からムリヤリにもぎ取り――上空まで打ち上げていたのだ……!




 ――ここだ……ここしかない!




 大きく体勢を崩され、あまつさえ完全に虚を衝かれた形になったエクサリオ――。



 逆転の一撃を叩き込むには、今をおいて他に無い――と。


 俺は、残ったチカラを振り絞り……もう一度、全身に行き渡らせ……!



「〈絶剣(ぜっけん)――!」



 ほんのわずかな……しかし絶対の好機に。


 渾身の一撃を放とうとした――――――そのとき。






《――認メヌ――認メヌ――認メヌ――!》


《……勇者ハ――ゆうしゃハ……!》


《我、ワレ、われ、ワレ、我……!》






「――――ッ!!??」



 頭の中に、突然……。


 聞くだけで意識が真っ黒に塗り潰されそうな重々しい声が、いくつもいくつも、折り重なって響いたと思うと――。



 全身が、縛り上げられるように、締め付けられるように――刹那、その動きを妨げられる……!




 ――これは……この〈呪いの鎧〉――か!?


 凛太郎(りんたろう)の言っていた、『声』……!




 まさか、このタイミングで……邪魔を――っ!?




「〈絶剣――!」




 ……俺が動きを止められたのは、本当に一瞬。まさに刹那だ。


 だが――それは。




 千載一遇の機が、ひっくり返るには――充分な時間だった。




「――陸断(クガタチ)〉ッ!!!」




 ……きっとエクサリオも、ここが勝負所と踏んだんだろう。


 奇しくも、俺が繰り出そうとしたものと同じ技を――キレイに、鏡映しに放ってくる。




 文字通り、大地を『断つ』ほどに――。


 その一点を突き詰めた、シンプルかつ必殺の斬撃をかわす手段は、俺にはなく――。




「――が――ぁ――っ!」




 俺は、満足な悲鳴を上げることすら出来ずに――。


 再びハデに、無防備に、何度も床をバウンドしながら……屋上の縁近くまで弾き飛ばされていた。




 ぐったりと大の字になって……。


 重っ苦しい真っ暗な曇り空が……視界いっぱいに広がる。




「ぐ……う……!」



 半ば本能的に、かろうじてガヴァナードを間に入れて防御したから、この程度で済んだものの……。


 もしそれすら出来なかったら――今のは、さすがに詰んでいたに違いない。



 ただ、『この程度』って言っても……。


 全身シャレにならん激痛が走るわ、身体がまるで言うことを聞かないわで……いつ意識が完全に飛んでもおかしくないぐらいだけどな……。




 ……だが……まだだ……!




 まだ、痛いって分かるぐらいだから感覚は生きてるし、身体だって、グズってやがるだけで動かないわけじゃない……!




 そもそも……まだ、俺は死んでないんだからな……!




「……ま、だ……まだ、だろ……!」


《――認メヌ……勇者……認メヌ……》


「っせえ――!

 ちょっと黙って――ぐ、がふっ!」



 なんとか上体を起こした瞬間、また頭の中に響いたあの恨みがましい声に、思わず文句を言いかけて――咳き込む。


 仮面の中で血が飛び散ったのが分かった。



 ……きったねえな、とか、ぼんやりと考えながら――そこから四つん這いに。


 なんとか手放さなかったガヴァナードを杖にして、ヒザを立て……。




「……さすが、と言うべきか。

 なかなかに驚かせてくれたが……どうやら、ここまでらしいな」




 そこで、ゆっくりと近付いてくるエクサリオの姿が……ぼやける視界に映った。




「なに、言って……やがる……。

 まだ、ここからだ、って……の……!

 ――ケンカはな、諦めなきゃ……負けじゃ、ねえんだぜ……?」



「そうか。なら……諦めざるをえなくしてやろう。

 ――これで、トドメだ……!」



「――――くっ……!」



 エクサリオは、遠間から一気に距離を詰め――必殺の一撃を振り下ろす!


 かろうじてヒザ立ちになれただけの俺に、それをかわす術はなく――。



 反射的に、防御のために何とかガヴァナードを捧げ持った――その瞬間。






「ダメええぇーーーーーッ!!!!」





 ――ガギィィィィィ…………ン……ッ!!!






 俺たちの間に割り込んだ、シルキーベルが……。



 俺をかばい、エクサリオの一撃を――その杖で必死に、受け止めてくれていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] 良い所で邪魔をするシルキーベルに乾杯(笑)。 相変わらずエクサリオの言い分は現場を見てない青臭さの平常運転で安心しました(笑)。
[一言] 激戦でしたね! 呪いの鎧…… まるでエクサリオの分身のような主張。さては影響されましたか(したり顔w) そしてなんといってもシルキーベルちゃん! グッジョブー!!!
[一言] 微居君「(リア充は)――認メヌ――認メヌ――認メヌ――!」 絵井君「お前と一緒にすんなよ!?」
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