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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
18章 雨に陰る勇者の素顔と、受難の魔法少女たち
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第250話 黒曜と黄金の〈勇者〉対決、再び!



 ――戦いの口火を切ったのは、同時だった。



 切っ先を突き合わせていた状態から俺とエクサリオは――そのまま一気に、互いの胸を狙った突進突きに移り。



「「 ――ッ! 」」



 共に半身になり、防具をかすめてギリギリでかわしつつ――交差。


 そのすれ違いざま、またも互いに、同時に、振り返りつつ剣を振るい――刃を打ち合わせる。



 ――キィィィィン――ッ!



 互いの剣が宿す、尋常でないチカラのせいだろう。


 ただの金属音より、さらに甲高く澄んだ音色――それとともに弾ける激しい光に押し返されるように、俺たちは共に、退がって距離を取りつつ――。



「「 〈閃剣(せんけん)竜熄(りゅうそく)〉! 」」



 鏡映しのように、闘気を乗せた刃で衝撃波を放つも……相殺される。




「おいおい……。

 俺とは『相容れない』とか言っときながら、そっくり同じ動きをしてくれるなよ」



「ではそのセリフも、まったく同じものを返そうか。

 ……もっとも――。

 わたしがただの小手調べなのに対し、キミはそうでもなかっただろうが」



「フン……戦場じゃ、そういう慢心が一番危ないんだぜ?

 5度も世界を救っておいて、そんなことも知らないのかよ?」




 悪態を交わしながら……俺たちはようやく、互いに、本来の構えを取る。




 いや……俺はともかく、向こうは違うのか。


 アガシーの話によれば――コイツ実は、『盾を使わない』のが本来のスタイルみたいだからな。



「そう言えば……先日、俺の妹分と弟分が世話になったらしいな?」



「ああ……彼らか。なかなかに楽しい戦いをさせてもらったよ。

 しかし、そう――。

 まさか、〈剣の聖霊〉をああしてそのまま引き連れていたとは――思わなかったな」



「…………。

 やはりお前……分かるのか、〈剣の聖霊〉が」



 コイツ……俺と同じアルタメアの剣技、それも高位のものまで使いこなすから、そうだろうとは思ってたが……。


 やっぱり――アルタメアの〈元・勇者〉でもあるんだな。



「当然だろう。

 クローアスター……その正体は隠していても、彼女の姿は、わたしの知る聖霊に非常に近しいものだったからな。

 ――もっとも、代替わりをしたのか……わたしの知る者とは別のようだが」



「…………?」



 代替わり……?


 俺の知る限り、〈剣の聖霊〉はアガシーだけのハズだが……。



「なにせ、キミのそのガヴァナードも……わたしの知る姿と違っているぐらいだ」



 エクサリオは自らの長剣の切っ先で、ガヴァナードを指し示す。



 ……そういえばアガシーも、ガヴァナードはかつて一度打ち直されたことがある――って言ってたな。


 そして、そのせいでガヴァナードにすぐに気付かなかったのなら、エクサリオはそれ以前の勇者だろう、とも。



 じゃあ、アガシーのことをそうだと気付かず代替わりと思っているのも、記憶との印象の違いのせい――か。


 ……まあ、それについては分からんでもないけど。




「……おかげで、しばらくはそうだと気が付かなかったよ。

 まあ……わたしの知るガヴァナードは、そんな貧弱なチカラしか持たないナマクラではなかったから――というのもあるだろうが。


 ――しかし……それも当然か。


 本来ガヴァナードとともにあるべき〈剣の聖霊〉を、ああして遊ばせているのでは……聖剣も、あるべきチカラを発揮出来ないだろう」




「……つまり、テメーは……。

 当然、聖霊にその役目を押し付けた――ってわけだよな?」



 エクサリオの言葉を受け、迷いの森の奥――〈聖なる泉〉にいた頃の、あのさびしげなアガシーの姿が脳裏を過ぎり。


 俺の声には、自然と……怒りが乗っていた。



 しかし――エクサリオはそんなものはまるで意に介さず、小さく首を振る。




「押し付けた、とは人聞きの悪い。

 それが、〈剣の聖霊〉の――魔王を討ち、アルタメアに平和をもたらすために必要な『役目』なのだから。


 ……しかしクローリヒト、どうやらそれを放棄しているらしいキミが、魔王に敗れて命を落とすでもなく、こうしてここにいる、ということは……だ。


 キミのときにアルタメアを襲った災厄は、そんなナマクラで相手が出来るような、魔王に比べてよほど矮小な存在だったか――。

 それとも、今のキミがそうであるように、いかにもそれらしいことを(のたま)いながら……しかし決戦に臨む覚悟を持てず、聖霊を連れてこちらの世界に逃げ帰ってきたのか。


 ――どちらにせよ、やはりキミに〈勇者〉の二つ名は相応しくないようだ」




「もとより、『勇者の称号(そんなもの)』に未練なんざありゃしねえよ。

 俺が、俺自身の信念によって得たものが、それと引き換えだって言うなら……これほど良い買い物もないってぐらいにな。

 ――逆にエクサリオ、お前は……。

 その『名』なんかのために、どれほどのものを手の中からこぼしたんだろうな?」




「……『名』なんかのために……だと?


 〈勇者〉であるがゆえの、犠牲、痛み――。

 それを負う覚悟から目を背け続ける者に、何が分かる――!」




 ――瞬間。


 エクサリオの放つ気が、一気に膨れあがった。



 それは、先の俺の怒りなど比べるべくもないもので――!



「……っ……!」



 直接関係ないはずのシルキーベルですら、その身を戦慄(わなな)かせる。



 当然、対峙する俺はそれどころじゃなく……。

 まさしく、全身に重みすら感じるほどの圧力を受けていた。



 ……どうやら、いわゆる『地雷』を踏んじまったらしいな……!




「喪われたもの……その犠牲のためにも、わたしは――。

 〈勇者〉でいなければならないのだ!」




 来る――と。


 そう感じた瞬間には――すでに。



 俺のガヴァナードは、神速の踏み込みを見せたエクサリオの盾によって、外に弾かれていて――。



「――――ッ!?」



 地を駆ける稲妻そのもののようなエクサリオの突きが、無防備な俺の胸へと吸い込まれ……。



「ごあ――ッ!!??」



 最大級の雷撃魔法を一点集中で撃ち抜かれた――そんなとんでもない衝撃とともに、俺の身体は思い切り後方に弾き飛ばされる。


 全身に走る痺れが、受け身も満足に取らせず……俺はブザマに地面を転がった。



 が――これですむはずがない……!



「――クローリヒト!!!」



 シルキーベルの悲鳴じみた声に反応するように、痺れる身体に必死にムチ打って地面を転がり、エクサリオの追撃の飛び込み斬りをかわすと――。


 ブレイクダンスよろしく、コマのように横回転しながらの跳ね起きざま、エクサリオの盾を蹴り飛ばし……!



「チッ……!」


「――っらあ!」



 懐に飛び込みながらの一閃は長剣を弾くのに使い……その間に、超至近距離から右手で〈寸勁(ワンインチ)〉を打ち込む!


 ――はずが。



 今度は、いきなりアゴを下からカチ上げられて――ワケも分からぬまま身体が宙に浮く。



 あの体勢から、こんな重装備をしながらの宙返り蹴り(サマーソルト)を食らった――と、事態を理解したときには、もう追撃のためにエクサリオも飛び上がっていて……。


 俺を真っ二つに両断するかのように振り下ろされる長剣――それを。


 何とか、捧げ持ったガヴァナードで受け止めるも……そのままだと地面への落下と同時に押し込まれるのは明白で……!



 だから、イチかバチか、柄の側をワザと大きく引いて向こうの刃をズラし――。

 いわゆる護拳の部分と、刀身との角に引っ掛けるようにして……!


 そこを軸に、身体ごと入れ換える勢いで――エクサリオの横っ腹に蹴りを叩き込み。

 その反動を使って距離を取り……何とか、無事に着地する。



 つぅ……と、今になって、冷や汗が背中を伝うのを感じた。



「……さすが、のらりくらりと逃げるのは得意なようだ」


「そいつはどう――ぼっ、ごふっ……!」



 悪態を返そうとするも、瞬間、胸から激痛が走り――代わりに、みっともなく咳が漏れ出る。


 同時に、口の中に広がるのは血の味。



 ……くそったれ……初っ端の一撃が、かなり効いてる――か。


 さすがに致命傷ってほどじゃないが、意識すると結構イテェし……気を抜くとあっさりヒザが崩れそうだ。



「……ったく……。

 これだけの実力があって、毎度、そのチカラを失うことなく引き継ぎ続けたんなら……。

 世界を救うってのも、さぞかしカンタンだったんだろうな?」



「カンタン――などと言われてしまうと語弊があるが。

 5日とかからなかったときもあるな」



 ……おいおい……5日って。

 俺なんて、毎回一から鍛え直しで、どこの世界でも1年は滞在してたんだぜ?


 これがあれか、ゲーム的に言うところの『強くて初めから』ってやつか。



 だけど……俺は、確かに毎度毎度苦労してきたけど、それとともに色んなコトも学べたと思ってる。


 そう――戦うためのことばかりじゃない、人として生きる上で大切な、本当に色んなコトを。



 エクサリオのヤツは……初めから圧倒的なチカラをもって、ただ請われるがままに、『悪』とされるものを最短で討伐してきたのなら……。


 俺が得たような、人間としての学びには――ロクに触れてこなかったってことなのかもな。



「災厄に見舞われている人々の被害を少しでも減らすためには、世界を救うにも早いに越したことはない――そうだろう?」



「……まあ、それも一理あるがな。

 そして実際、お前のその果断な行動で、多くの命が救われもしたんだろうさ。

 ――だけど」



 俺は、息をするだけで胸が痛むのを必死に堪え、手足にも油断なく力を込めながら――エクサリオと、真っ正面から向かい合う。



「だからこそ、もったいなくて悔しいんだよ……。

 それだけのチカラがあるなら、〈勇者〉ってのを履き違えてなかったら――。

 ……それこそお前は、もっと多くを救えただろうに――ってな」



「フン――そうして言い訳をしながらキミは、〈勇者〉として求められる責任から逃れ続けてきたんじゃないのか?」



「言っただろう?

 そうやって安易に、〈勇者〉の『名』に縋ることこそ――『逃げ』なんだよ」



 俺は、ゆっくりとガヴァナードを構え直す。



「フン……まだまだ折れない、か。

 わたしとキミの絶対的な実力差もある上に、我が神剣エクシアと、本来のチカラが出せないそのナマクラな聖剣では――やはり勝負にならないと思うが」



「ナマクラ……ね」



 ……おい、また言われてるぞ、ガヴァナード。


 お前の真の力が、聖霊に頼っての『聖剣』じゃなく――〈創世の剣〉としてのものだっていうなら。


 そして、お前が俺を使い手に選んだというなら――。



 そろそろ、その力の片鱗ぐらい見せてほしいもんだけどな……!




 俺は、訴えかけるようにガヴァナードの柄を強く握り込みつつ――。



 同じく構え直すエクサリオの動きを、見据えていた。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] そろそろガヴァナードが真の力を発揮しそうですね!
[一言] おおっー、熱い展開ですねー。 主人公もしっかり良いの貰っているし、なかなか。 もっと主人公追い込んでも良いんですよ(笑)。 次も楽しみにしてます。
[一言] 250話おめでとうございます! おおお…… 衛はやっぱり強いですねぇ……! こんだけ強いのに、と思うと、裕真くんおっしゃる通り、ほんと残念。 思い込みの激しさ、といいますか、自分が正しい…
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