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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
18章 雨に陰る勇者の素顔と、受難の魔法少女たち
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第247話 見習い勇者は、番台聖霊の決意に安堵したりとか



 ――8月5日。



 昼過ぎからのオレの修行は、リアニキに相手をしてもらった。


 修行自体は前にも見てもらったことあったけど……何と今日は、初めての模擬戦だったんだ!



 で、リアニキは魔法の方が得意で、特に武器も使わねーから、師匠と戦うよりもマシっつーか……もしかしたら、今のオレなら何とかなるんじゃね?


 ……なーんて、ちょっと思ってたんだけど……。




 ――メチャクチャ甘かった!


 やっぱ〈魔王〉はすっげー強かった……!




 詠唱……でいいんだっけ、魔法の準備みたいなヤツ。

 そんなのナシで、火の玉とか氷の刃とか電撃とかバシバシ連発してくるし……。


 なんとかそれを潜り抜けて近付いても、ワナみたいに仕掛けられた魔法があったり、すげー速さの蹴りを入れられて吹っ飛ばされたり……。


 じゃあどうしよう――って考えてたりしたら、その間に今度は、ちゃんと詠唱して準備した強烈な魔法食らったりして……。



 ……結局、3回やった模擬戦の全部、ただ負けるだけじゃなくて、リアニキを一歩も動かせない――なんて結果になっちまった。



 リアニキは、オレの戦い方を何回も見てるからだし、相性もある――って言ってくれたけど……。



 でもリアニキ、確か今は、もともとのチカラより弱くなってるって話だし……。

 しかも、本気って感じじゃなかったし……。



 もう、これが最大パワーの本気全開だったらどんだけ強いんだよ……って感じだった。



 ……まあ、でも……だからこそワクワクする、ってのもあるけどさ!


 やっぱ、師匠もリアニキも、オレの目標だもんな!




 ――とりあえず、そうやって模擬戦してもらったり、いろいろ教えてもらったり、素振りとかしたり……って、2時間ぐらいみっちり修行して汗ダクになっちまったオレは。


 風呂に入ってサッパリしてから帰ろうと思って、〈(あま)()〉の方にやって来たんだけど――。






「あ、いらっしゃいま――って、な~んだ、アーサーじゃないですか」




 番台に座ってたのは、今日は軍曹1人で……。


 入ってきたのがオレだって分かると、なんか、『愛想良くアイサツして損した』――みたいな顔をされた。



「……いや、オレだっていちおー、客なんだけど……」



「ふーむ、では……。

 ――生え揃ってないガキんちょは170円になりまーす。

 あ、もちろん『永久歯が』ですからねー……っと」



「――あ! そうだ、それ!

 軍曹、最近オレ、最後の乳歯がグラグラし始めたんだぜ!

 つまり、もーちょっとで生え揃うんだけど!」



 ポケットから出したカネを番台に置いて、口をいーってしながら歯を指差すと……。


 軍曹はその200円を拾い上げつつ、「ほ〜」って声を出した。



「それはそれは……。

 んじゃ、大人は入浴料が450円になりまーす。もう250円払え」



「――え、なにそれ、おーぼーじゃね!?

 い、いやいや、もーちょっと――だから!

 まだ抜けてねーし、生えてねーから!」



「チッ……じゃあやっぱガキんちょじゃねーか。ほらよ」



 すっげー悪人ヅラで舌打ちしながら……軍曹は手に握り込んでたらしいおつりの10円玉を3枚、番台に置いた。



「そー言えば……今日は軍曹1人なのな。アリーナーは?」



「アリナなら今はお買い物に行ってますよ。

 ――で、兄サマはチサねーさまとおデートだそうで」


「あ、師匠のことなら、さっきリアニキに修行前に聞いた。

 『そんなわけだから、今日は余が相手をしてやろう』――ってさー」


「……似てませんね」


「しょ、しょーがねーだろ!

 あんなイケメンボイス出せねーっての!」


「まあ、似てたら似てたでムカつきそーだからいいんですけど。

 ……で、その当人、わたしの魔王なクソ兄上はどーしました?」


「ああ、リアニキなら、今日も〈うろおぼえ〉……古本屋行くってさ」


「ふむ……そうですか」



 言いながら軍曹は、番台の奥の折りたたまれたタオルを取って……オレに投げ渡してくる。



「それ、使っていいですよ」


「あ、さんきゅ。

 ……でもオレ、タオルなら着替えといっしょにリュックに入れてきてるけど」


「そのタオル、修行やらで掻いた汗をフキフキしたヤツでしょーが。

 お風呂上がりに同じヤツ使う気か? 女子に嫌われるぞ?」


「お、おう……悪ィ」


「あと、風呂上がり、脱衣所を出る前には、ちゃんと水気を拭ってくるよーに。

 ……キサマ、前に頭をテキトーに拭いただけで出てきやがったって前科があるからな」


「わ、わーってるっての……!」



 普段からけっこームチャクチャなコトしたりするくせに、こーゆーときはマジメな軍曹のお小言を受けつつ、オレは脱衣所の方に行こうとして……。


 でも足を止めて、周りに他のお客がいないことを確認してから――背伸びして番台の軍曹にグッと近付く。



「なな、なんですか、いきなり……っ!」


「あのさ……軍曹。その……」



 言おう、聞こう――と思っていた言葉が、なかなかうまく口から出てこない。



「えっと……その、大丈夫――なのかよ?」



「大丈夫、って……なにがです?」



 一瞬、ホントに聞くべきか迷ったけど……。


 やっぱ、心配だし……。


 それに、今ンとこ軍曹、そんなに様子がおかしい感じでもねーから、聞いてみるぐらいはいいかな、って考えて――。



 オレは……思い切って、その質問を口にする。




「あの……アイツ。

 エクサリオが、〈初代勇者(マスター)〉だった、ってことの……」




「……ああ……」



 オレのおかしな態度に納得がいったらしい軍曹は、少しうつむき加減にうなずく。



 でも、少しして、顔を上げたときには――。


 何日か前、その事実を知ったときの……あの、見てられないようなのとは比べものにならないぐらいの、強い――って感じの表情になってた。




「それなら……大丈夫です。


 もちろん、彼に対していろいろと複雑な想いがあるのは事実ですし、そのあたりが完全に片付けられたわけじゃありませんが……。


 何よりも、一番大事なこと――最優先に考えなければならないこと。

 それは、アリナを守らなきゃならないってことだと……再確認しましたから」




「……そっか」



 それを、カンタンに『良かった』って言っちまっていいのか、分からねーけど……。


 少なくとも、オレは……ちょっと、ホッとしてた。



「とりあえずこのことは、今夜にでも……。

 勇者様と、うちのクソイケメン兄上が揃ってから、改めて話してみるつもりですよ」



「そーだな、それがいいよな。

 ……オレ、こーゆーの黙ってるとかニガテってゆーか、いいのかなーって感じだったから……なんか、安心した」



 オレが、はあ〜って大きく息を吐くと……軍曹は、申し訳なさそうに笑う。



「……ごめんなさい、アーサーには余計な負担をかけちゃいましたね」



「……別に、よけーでも負担でもねーけどさ……。

 なんつーか、その……すげー心配だったし……!」



「心配……してくれたんですか」



 そうつぶやく軍曹は、なんつーか……しおらしい? みたいな感じで……。

 なんか女子っぽいっつーか、いや、女子なんだけど……。



 あの、前に魔剣と戦ったあとの、泣かれたときみたいっつーか……なんか、こっちの調子が狂うっつーか――!



「そ、そりゃあ……な! するよ、するに決まってんだろ!

 と、友達――だしな!」



 だからオレは、なんかヘンに恥ずかしくなって、答えにヘンにチカラが入っちまって。


 それがまたさらに恥ずかしくて――チラって、軍曹の様子をうかがうと。




 ……あれ?


 もっとヘンな感じになってたらどうしよう、とか思ったら……。



 なんか軍曹、ミケンにシワ寄ってて……「はあ?」とか言ってるんだけど……。




「と・も・だ・ちぃ?……なーにをド厚かましいことぬかしてやがるんです?

 あなたはヘボ新兵(ルーキー)で部下、わたしは鬼の上官でしょう?」


「――って、ええっ!? なんかいきなりいつも通りっ!?」


「返事はどうした、ヘボ新兵! キサマはなんだ!」



「い、イエシュ、マムっ!

 まだまだ修行中のへっぽこ二等兵であります!」



 ……条件反射って、こえーんだなあ……。


 オレ、思わずカカト揃えてけーれーしちまってるよ……。



「うむ、よかろう!

 では、アーサー二等兵……キサマの最優先ミッションは、ただちにお風呂へ入り、キレイさっぱりすることだ! いけ!」


「イエシュ、マム!」



 これまた反射的に、くるっと回れ右して、脱衣所ののれん目指してダッシュ!


 ――でも、のれんをくぐったところで、急ターン。



「……いっけね、忘れてた!」



 番台の上の、おつりの30円……!


 置きっぱなしなのを思い出して、あわてて引き返すと――。




「……まったく……なんとかいつも通りにいけましたかね……。

 あんな、『心配』とかぬかしやがるから……もう……!

 ……アーサーのクセに…………ブツブツ……」



「え、なに、呼んだ?」



 軍曹が、なんか小声でブツブツ言ってて……オレのこと呼んだみたいだから、声をかけたら。



「――――ッ!!??」



 ――ガンッ!……って。


 番台の内側で身体をぶっつけるぐらいに、軍曹は驚いてた。めずらしく。



「なな、なんでキサマ!? 脱衣所行ったハズじゃ……!」


「あ、おつり忘れてたからさ」



 オレが、番台の上の3枚の10円玉を指差すと……。



 それを見下ろし、オレを見て、またおつりに目をやった軍曹は――。



「…………ぬが〜っ! もう、さっさと行けっ!

 敵前逃亡は銃殺だ~っ!」



 10円玉を引っつかむや否や、「銃殺!」って言いつつ、オレに向かって1枚ずつ投げつけてくる!



「おわわっ!?

 いい、いえ――イエっシュ、マムっ――と!」



 オレは、けっこーマジな感じのスピードで飛んでくる10円玉をキャッチしながら後ずさり……そのまま、けーれーして、あわててまた脱衣所ののれんをくぐった。




 ……なんにしても、軍曹が元気になってて良かったな――って。


 ちょっと、嬉しくなりながら。






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― 新着の感想 ―
[一言] アーサーったら、最近、半端なく…… これは中学生になる頃には要監視対象だな、なんて思ってたら、やっぱりでした(笑) さすが微居くん、ぬかりないww
[一言] きっと次はサービス回でしょう(笑)。 小学生男子の入浴シーンでショタコンのおねーさんが大喜び。 ……うん。そんなシーン入らないな(笑)。
[一言] 微居君「うん、やっぱアーサーもダメだな。すいませんボンクラさん、俺ちょっといってきます(ゴトトトトッ)」
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