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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
18章 雨に陰る勇者の素顔と、受難の魔法少女たち
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第245話 ひとりじゃなく、ふたりだから、あったかい



「……じゃ、アリナ、電気消しますねー」


「うん、お願い」



「ではでは……。

 ――今、ここに……っ!

 世界に永く続いた栄光に満ちる光の時代は終わりを告げ……冷酷無慈悲な邪悪が支配する、恐怖の闇の時代が訪れるのであった……ッ!」



「いや、電気消すだけでそんな大仰な前口上いらないから」


「ほーい。……ンじゃま、ポチッとな!」



 わたしは部屋の電気を(ゼンブ消すとアリナに怒られるので)豆電球にすると……カーペットの上に敷いた自分のお布団に戻ります。



「じゃ、おやすみなさい、アリナ!」


「うん……おやすみ、アガシー」




 挨拶を交わして、ゴロンと横になれば……見えるのは、豆電球でぼんやり照らされる、アリナの部屋の天井。



 そして……。



 聞こえるのはやがて、おやすみ設定にしたクーラーの微かな音と、アリナの可愛い寝息だけになり――。



「………………」



 また今日も、そうして静かになるにしたがって……あのことが、ぐるぐると頭の中を巡ります。




 ――エクサリオの正体が、〈初代勇者(マスター)〉だったこと……。




 ……長い長い間、何度も、ガヴァナードと同化しては、身体が再構成されるまで眠って――を繰り返してきたせいか、わたしの古い記憶はそれほどはっきりしていません。



 しかもそれが、〈初代勇者〉のこととなると……。



 彼に名を与えられたことで、初めて自我を得たわたしですから、いわばそのときは生まれたてのようなもので……。


 なんとなくでも覚えているのは、勇者様に比べるとまだ小さな少年だったって分かる、おぼろげな輪郭と……。


 その後、代々伝えられていく、『アモル』という名前ぐらいのものです。




 でも――そう、名付けられたことでこの自我が芽生えたのなら、勇者アモルはまさしくわたしのマスター……親も同然で。


 でも――同時に、彼によって定められることになったお役目に、わたしはずっと独り、長い間縛り付けられていたわけで……。




「………………」




 ――わたしは……彼に、どんな感情を抱いているんでしょう。


 ……敬意? 怒り? 感謝? 哀しみ? 親愛? 恐れ?



 わかるような、わからないような……わからないような、わかるような。




 本来ならこんな大事なこと、真っ先に勇者様たちに相談するべきなのでしょう。


 ……だけどまだ、わたしは……その踏ん切りがつかないでいます。




 せめて、わたしの中で、想いに芯が通るというか――決意が固まるまでは……。




「……ねえ、アガシー……?」


「――あ、はいっ!?」



 モヤモヤと思い悩む最中に、いきなり呼ばれて、あわてて視線をベッドの方に動かすと……。


 起きていたらしいアリナが、ベッドの端からこちらを見下ろしていました。



「……指、大丈夫? 痛くない?」



「え……?

 あ、ええ、これくらい……なんてこたーありませんよ!

 それこそ、アリナにぺろっとしてもらったら秒で回復する程度ですよ、秒で!」



 わたしはなんとなく、アリナから視線を外すように寝返りを打つと……。


 努めて明るく――人差し指にバンソーコーが貼られた左手をタオルケットの下から出して、フリフリします。



 ……今日の晩ゴハンの準備、アリナを手伝ってたときに、つい包丁で切っちゃったところです。




「じゃあ…………指以外は?」




「――え?」




「だって、アガシーが包丁で指切るなんて……普通じゃないもん。

 そうやって、普段通りに――って、明るくしてても……なんとなく分かるよ。


 ――なにか、悩んでたりするんじゃないの……?」




「……アリナ……」



 さすがですね……アリナは。バレちゃってましたか。


 でも、だからこそ……余計な心配をかけるわけにはいきませんから――ね。



「……大丈夫……ええ、大丈夫ですよ、アリナ。

 こうやってアリナの愛らし過ぎる声を聞いてたら、もう、それ以外のことはわりとどーでも良くなっちまいましたから! ぐっへへ〜」



「……そっか……」



「ハイ、そーですとも……!

 なんか、心配かけちゃったみたいでごめんなさ――って!?」



 わたしが謝ってる間に、なにかゴソゴソすると思ったら――!



「……よいしょ、っと」



 なな、なんと!


 アリナがベッドを降りて、わたしのお布団に潜り込んできたではないですか!



「……今日はなんか、お布団の方がいいなー、って」


「あ、暑くないんですかっ?」



「ううん…………あったかい。

 ……アガシーは?」



 わたしのすぐ隣で、やわらかく笑ってくれるアリナに……。



 わたしも――自然と、笑みがこぼれました。



「……あったかいですよ、アリナは……いつも」



「……ん……そっか。

 ねえ、アガシー?」


「なんですか?」




「わたしは……いつだって、アガシーの味方だからね」




 仰向けになって、静かに目を閉じるアリナ。


 そうして、さりげなくくれた言葉に……わたしは。



 思わず呆けるのも一瞬――。




 ふっ……と、とても自然に――1つの真実に思い至りました。




 ――ああ……そうです。


 〈初代勇者〉が、わたしにとってどういう位置付けの存在だったとしても――。




 今、エクサリオと名乗る彼は……アリナの。


 この、わたしの大切な家族の――命を狙う存在なんですよね……。




 なら――わたしは。


 アリナを守るために……相手が誰だろうと、戦うだけじゃないですか……!




「それならアリナ、わたしは――。

 いつでもきっと……あなたを守りますから」




 ようやく、決意が定まったわたしの、自然とこぼれ出た言葉に――。


 アリナは、小さく……でもしっかりとうなずいてくれます。



「うん……ありがと」




「……ええ、そりゃもう、毎日24時間年中無休でピッタリ張り付いて」


「それ、単にウザい」




 わたしのボケに、いつものようにツッコミを返しながらも――アリナの声は優しく。



 ひっそりと笑い合うわたしたちは、どちらからともなく手を繋いで……。




 そしてわたしは、そのあったかさを実感しながら――。



 今日は、心安らぐ穏やかさの中……眠りに就くことが出来たのでした。






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― 新着の感想 ―
[一言] えくすとりぃぃぃむへぶんふらぁぁぁぁぁっしゅ!!!!( ☆∀☆)
[一言] ふと、昔別れた男から「寄りを戻そう」と言われている女性のように見えました(笑)。
[一言] d(^q^).。o(尊い)
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