第238話 それぞれの剣が交わる、その先に
――盾がなくなって、剣を両手で上段に構えるエクサリオは……これまでよりもずっとスゲえ、ぞわって来るぐらいの迫力を放ってる。
ヘタに気ィ抜いたりすりゃ、ビビって足が動かなくなりそうだ……!
でも――!
今が攻め時なのは確かなんだ、ここで気合いで負けちゃダメだ!
「うおおお、いっくぜーーーっ!!!」
とにかく、ビビらないように、腹の底から声を出して――。
まずはいつも通りに、ゼネアをブン投げてやる!
途中で3つに分かれて、左右からも同時に襲いかかるゼネア。
それを――。
「……ふっ!」
エクサリオは、すげー速さの振り下ろしで正面、すぐの振り上げで右のゼネアを弾きつつ……同時に、剣から離した左手で、左のゼネアを掴み取ってた……!
……くっそ〜……!
盾使ってたときよりも、どう見たって速くなってやがる……!
「どうした、ここで一気に決めるのではないのか?」
エクサリオは余裕たっぷりに、掴み取った左手のゼネアをオレの方に放ってきた。
……つっても、分裂したゼネアは、本体以外は魔力だけだから、壊されたりしたって大丈夫なんだけど……。
「ふんっ、まだまだ様子見だっての……!
テメーこそ今の、けっこーギリギリだったんじゃねーのかよっ?」
それはそれで込めた魔力がもったいないし……オレは引き戻していたゼネア本体に、返された分身を重ね直した。
エクサリオを警戒しながら――そして、注意を引きながら。
そうして、その間に……大尉が素早く、エクサリオの左側面に回り込む!
「次はその暑苦しいメットを剥いでやる――ヘッドショットで昇天しやがれ!」
エクサリオの剣は右手側だ、防御するにも一瞬遅れる!
さっすが大尉、ナイス!
――って、思ったら……!
「――〈閃剣……竜熄〉!」
エクサリオは、大尉の連射する銃弾を防御するどころか……。
振り向きざま、右手の剣をすげー勢いで斬り上げる!
そんで、そこに乗っかったチカラが衝撃波になって撃ち出されて――!
「――ぎゃんっ!?」
銃弾もろとも、衝撃波に吹っ飛ばされた大尉が……聞いたことないような声といっしょに、地面にハデに転がって……!
「大尉っ!!
――てっっめええええーーッッ!!!」
オレは一気に、カッとなって……!
もう反射的に、ゼネアにチカラを込めて光の刃を伸ばし、思いっ切り振りかぶった全力の一撃を――!
「やめろッ!!! 止まれ、バカジャリがぁっ!!!」
「――ッ!?」
瞬間、耳をブッ叩くみたいな大尉の叫びに、オレはハッとなって動きを止める。
同時に――
《――ぬうぅ! 間に合え……っ!!》
オレの腕が――いや、籠手が勝手に動いて……。
斬りかかるはずだったゼネアを、目の前にかざすように防御に回して。
そこに――間を置かず、エクサリオの一撃が降ってくる!
大上段からの……一撃必殺の袈裟斬りが!
――ギィィィィンッッ!!!
「ぐううっ……!」
受け止めたゼネアの、悲鳴みたいな金属音に――このまま受け止め続けたら、力負けする、ヤバいって分かって。
なんとか離れようとして……でも抑え込まれていて動けないって焦った、その瞬間――。
「――っ!?」
目の前にいくつも小さな火花が散って――小石が立て続けに当たるみたいな音がして。
エクサリオの剣が、オレを抑え込んできてた力が……少し横にズレる!
そのスキを逃さず……エクサリオの剣を逸らして、なんとかその下から脱け出して――オレはすぐさま距離を取った。
今の――エクサリオの剣をズラしてくれたの、大尉の銃撃だ……!
すぐにそっちの方を見ると……やっぱり。
倒れながらでも大尉は、こっちに銃口を向けていた。
いや、それだけじゃねー……!
(……悪ィ、テン、助かった……!)
《まったく、多少はやるようになったかと思えば、お主はほんにまだまだ小僧よな……!
あっさり頭に血が上って、ああも短絡的な行動を取るようでは一人前にはほど遠いわ……!
こンの、ドがつくド阿呆! どどあほ!》
……テンの怒鳴り声が頭に鳴り響く。
でもホント、言う通りだ……ちくしょー……!
苦しいはずの大尉が必死に叫んで、テンがムリヤリオレを動かして防御してくれなきゃ、今ので確実にやられちまってた……!
「……ったく、世話の焼ける……!」
大尉も、オレに向かって文句を言いながら……ゆっくりと起き上がってた。
――とりあえず、大したダメージでもなかったみたいで……ホッとする。
《……アーサー、聞こえるか?》
そこへ……頭の中に直接、大尉の声が届いた。
これ――テンがやってるのと同じ、念話ってやつだ。
《有効打になりえるのがゼネアだけ――っていうのは、やっぱりマズい。
もう一回デカい魔法をブッ放すスキも、多分、与えてはくれない。
だから……奥の手を使うぞ!》
(……奥の手?)
《そうだ、アーサー……お前だからこその切り札を切る!
今度はさっきみたいなヘタを打って、ムダにしてくれるなよ……!》
切り札ってなんだ?……って一瞬考えて。
でも、オレの目の前、頭の上あたりのちょっと高い位置の空間が揺らいだ瞬間――すぐに理解した!
「――頼むぞ!」
「任せろ大尉……! これならっ!」
オレは、揺らぎの方に左手を伸ばして――。
そこから、空間を超えていきなり現れたものを掴み取る。
そう、それは――蒼く輝く聖剣……! ガヴァナードだ!!
「! その剣……!
――そうか、やはりか……!」
ガヴァナードを見たエクサリオが、驚いて……それで、なにか納得したみたいにうなずく。
……まあそーだよな、エクサリオはこれが師匠の剣だって、見て知ってるはずだもんな。
「ふっ……ティエンオー、キミにそれが使いこなせるのか?」
「へん、使いこなすんだよ……これから!」
変身してないときだと、やっぱりそれなりに重さを感じたガヴァナードも、今ならそれほどでもねーし……。
それに、剣から感じるチカラも、前よりも強い気がする……!
「いっくぜ〜……ッ!」
オレは、左手にガヴァナードを、右手に光の刃を伸ばしたゼネアを構えて――エクサリオに突撃をしかけた!
二刀流なんてやったことねーけど……ゲームとかでいっぱい見てるし、見よう見まねってのでなんとかしてやらあ!
……さっきみたいに、オレの出鼻に合わせてきたエクサリオの袈裟斬りを――今度は読んでたから、ゼネアで逸らしてかわしつつ、一気に飛び込んで……!
「烈風閃光――ダブル台風けーーーーんッッ!!!」
ガヴァナードとゼネアで、必殺のラッシュを2倍にしてお見舞いしてやる!
「ふん、そんな雑な攻撃が通用すると――っ!?」
オレのラッシュを受けたり弾いたりする、エクサリオの剣の動き――が、ときどき、微妙にアヤしくなる。
……大尉だ。
大尉が、エクサリオの剣を撃って、その動きを邪魔してくれてるんだ……!
そのおかげで、余裕があると思ってたらしいエクサリオも、カウンターとかは出来ずに防戦一方になる。
だけど――多少身体にヒットしても、ラッシュだと一撃が軽くて、あの鎧のせいで大したダメージにはならないみたいだ……!
やっぱり、デカいヤツを叩き込まねーと――!
……オレはラッシュの途中で、エクサリオの胴体を蹴って、大きく後ろに跳んで距離を開けた。
そして――!
「うぅらああーーッ! くっらええええーーーーッッ!!!」
モーションは最小限に、でも思いっ切りチカラを込めて――!
エクサリオ目がけて……『ガヴァナードを』ブン投げてやった!
「――なっ!?」
「こンのジャリ坊! だから投げんなっつったろーが!!!」
大尉のお約束のキレた声と同時に、さすがに投げてくるなんて思ってなくて驚いたらしいエクサリオが、横に跳んでガヴァナードをかわす。
そこへ――さらに続けて、突っ込んで距離を詰めながら、今度はゼネアを投げつける!
「うぅらああっ! 〈超絶・陣風穿〉ッ!」
「ふん――甘い……っ!」
陣風穿は、さっき、盾を破壊するのに食い込ませたぐらいの一撃だ――。
鎧で防げるなんて考えず、エクサリオは確実に剣で弾きに来た。
そう――きっとその後、返す刀で、突っ込んでくるオレに必殺の一撃を叩き込むために。
でも――
……それがワナなんだよ!!!
オレは、投げつけたゼネアを、すぐさま――ムリヤリに引き戻し……。
「――なに……!?」
エクサリオの空振りを誘いざま、戻ってくるゼネアを踏み台にして飛び上がる!
それで――!
「――大尉!」
「分かってる! そこ!」
大尉が喚び戻してくれたガヴァナードを、空中で掴み……!
「一刀――両断ッッ!!!」
思いっ切り――叩き下ろすッ!!!
「――――!」
……その、もう全力に全力の、ありったけの一撃は……。
カウンターを入れようとしていたエクサリオの剣が、オレの首筋ギリギリで止まる中。
エクサリオの、黄金の兜を――真っ直ぐに、叩き割った……!
2つに割れた兜は、ごとん、って地面に落ちて――
「……ふ……ふふ……はは! あはははっ!
なるほど、大したものだ……してやられたよ……!」
エクサリオは、そう、楽しそうに笑う。
その顔は――!
ああ、そっか、分身だからか……影人形って感じで、ハッキリしなかった。
……くっそ〜……これでどんなヤツだか、顔が分かると思ったのに……!
でも……なんだろ。
なんか、雰囲気に見覚えがあるみたいな……?
――あ、いや、それよりも!
「エクサリオ、お前……なんでその剣、止めたんだよ」
――そう。
エクサリオのカウンターは……相打ちぐらいは出来るタイミングだったはずなんだ。
でも……明らかに、間違いなく。
コイツは、それを止めたんだ――途中で。
「……なに。初めにわたしは、キミたちを手に掛けるつもりはない、と言っただろう?
今の最後の一撃――つい熱くなりすぎて、加減が出来そうになかったからな」
答えて……エクサリオは、剣を投げ捨てる。
それは――なんか、砂みたいになって……消えていく。
「ふむ、この分身も持続時間切れのようだし……。
今回のところは、キミたちの勝ち――というわけだ」
「へん……! 今回どころか、何回やったってオレたちは負けやしねーよ……!
次はオレだって、もっと強くなってンだからな……!」
「それはそれは……楽しみにしておこう。
――さて、ところで……クローアスター」
剣と同じように、身体の端っこからちょっとずつ砂になってるエクサリオは……いきなり、大尉の方に振り返る。
「……その姿、そして雰囲気……。
大きさこそ違うものの、わたしの知っている者によく似ていると思っていたが……。
さきほどの剣――やはり、アルタメアの聖剣ガヴァナード――だな?」
「ンな……っ!? なんでテメーが……!」
「……ええ、そうです。
やっぱり、あなたには分かりましたか……〈元・勇者〉」
オレが驚くのに対して、大尉は――落ち着いてる。
まるで、そう言われるのが分かってたみたいに。
――いや、ってか、元勇者、って……!
そういえばコイツさっき、師匠も使ってたワザを使ったような……!
「新たに打ち直されたのか、装飾などはかつてと変わっているようだが。
〈剣〉の帝宮魔法……聖剣を司る聖霊のみが扱いうるというそれを、キミが使うのを見たわけだからな、予測は出来た。
しかし、そうか……やはりか。
つまり、聖剣の打ち直しがあったということは……キミは『彼女』の妹分――当代の剣の聖霊、といったところか。
容姿は似通っているようだが、性格がまるで違うのもそれなら理解出来る。
キミの、恐らくは姉に相当する――アガシオーヌという聖霊は、キミのような豊かな感情は持ち合わせていなかったからな。
――泉の守り人、あのエルフの古老はそれも当然と言っていたが」
「「 ――――!!! 」」
驚いて……言葉が出てこねー。
オレは、コイツがアガシオーヌって名前を知ってることに、だけど……。
――なんだ?
大尉の方は、そうじゃないみたいな……。
「……懐かしさにかまけて、いささか話し過ぎたか。
では――ティエンオー、クローアスター。
近いうちに……また会おう」
最後にそう言い残して、エクサリオの身体は――。
ざあっと、完全に砂になって……消えちまった。
「ふぃぃ〜……や、ヤバかったぁぁ〜……」
思わずオレは、それと同時に緊張がぬけて……ペタンって、その場に座り込んじまうけど……。
大尉は……まるで固まったみたいに、立ち尽くしてる。
大丈夫か、って聞いたら……なんか、震えた声を……返してきた。
「……あの古老が泉の守り人をしてくれていたのは、たった1代限り……!
なのに、彼を知っていて……しかもその去就だけは知らずにいるってことは……!
――間違いない、あの人は……!」
大尉が――いや、軍曹が、オレを見る。
仮面で分からないけど……。
困ったような、悲しいような、苦しいような、つらいような……そんな表情をしてる気がした。
「ただの聖霊でしかなかったわたしの、名付け親……。
――アルタメアの、そしてわたしの……〈初代勇者〉、だ……」