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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
3章 勇者にテスト、妹に魔王
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第22話 勇者と後輩の探り合いと、見守る彼女



 ……赤宮(あかみや)センパイはやっぱり、わたしのことを覚えてなかった。


 まあ、当たり前だと思う。


 この間の銀行強盗を除けば、面と向かって会ったのは一年は前のことだし……多分、センパイにとっては大したことでもなかったんだろうし。


 けど……なんかちょっと、悔しいような気もする。





 ――それは、お父さんとケンカして、家にいたくなくって……友達と駅前で夜遅くまで遊んでたときのこと。


 怖い人たちに絡まれて、困ってたところを助けてくれたのが――赤宮センパイだった。


 ……でも、センパイは特別なことをしたわけじゃない。


 怖い人たちにやめるように言って、追い払っただけ。

 脅したわけでも、まして殴ったりしたわけでもない。



 けれど、逆にそれがすごかった。



 ケンカ慣れもしてるだろう、腕っぷしも強そうな(いか)つい人たちが、眼力(めぢから)一つですごすごと引き下がったんだ――見た目はわたしとあまり歳も変わらない男の子の、眼力一つで。



 お父さんの影響だと思うけど、わたしは『本当に強い人』というのが、何となく分かる。


 そして赤宮センパイは、まさにそういう人だった。



 興味は引かれたけど、でも、それで終わりだと思ってた。


 ……通い始めたばかりの高校で、あの真っ直ぐな目をもう一度見るまでは。






 ――もうすぐ始業のチャイムだから、話なら放課後に……。



 朝に交わした約束通り、授業が終わってすぐ、学食の裏手にあたる中庭に行くと――その隅っこの方に、赤宮センパイはいた。



 んー……ううん、センパイだけじゃない、か。


 少し離れた木の陰で、こっちを窺ってる女の先輩(わたしより小さいけど)が二人いる。



 興味津々って感じの人は確か、絹漉(きぬごし)先輩。

 わたしたち1年の間でも何かと有名な人だ。


 で、もう一人は……なんか、すっごい複雑そうな顔してる。

 緊張でこわばってるっていうか……。




 ――あ、そうだ、あの人!


 あの事件の日、センパイと一緒にいた人だ!

 ……ってことは、もしかしてセンパイの彼女さん?



 あー、だからかぁ……だからあの表情。


 そっか、そりゃ気になるよね……。



 まあ、少なくとも今日は『そういう用事』じゃないんだし……ちょっとガマンしてもらうしかないかな。申し訳ないけど。




「……それで、俺に話ってのは?

 その~……白城(しらき)――で、いいよな?」



 やっぱりセンパイ、あの二人――というか、彼女さんが見てること、気付いてるなあ。

 ちょっとそわそわしてる。


 銀行強盗に巻き込まれたときの方が、よっぽど落ち着いてた気がするよ……ヘンな話だけど、でもなんか、センパイらしいって言えばらしい。



「はい、だいじょうぶですよ。

 えーと……あの銀行強盗のときのことで、ちょっと聞きたいんですけど」


「ああ……お互い大変だったよな。白城は大丈夫だったか?」



「警察の事情聴取の方が疲れました」



 わたしがメガネを整えつつ、大ゲサにため息をつくと……センパイも笑って「俺もだ」と合わせる。



「それで、ですね――。

 ズバリ聞きますけどセンパイ。

 人質として捕まってるとき、なにかヘンなモノを見たり聞いたりしませんでした?」



「え? ん、んー……いや、なんせ、俺も他の人たちと一緒で、眠ってたからなあ……特になにも――」


「ホントに?」


 わたしはズイッと距離を詰めて、センパイの目を真っ直ぐに見上げる。



 ……センパイ……ちょっと動揺してるかな。


 でもそれが、何かを知ってるからなのか、彼女さんの反応を気にしてるからなのかは……さすがにわからない。



「他の人質の人たち、あのときぐっすり眠ってたみたいだけど、わたしはちょっと眠りが浅くて……隣にいたセンパイが、ゴソゴソ何か身じろぎしてたように思うんです。

 ……で、わたしといっしょでセンパイも眠りが浅かったのなら、何か見たり聞いたりしなかったかなあ、って」



 ――あのときの眠気が、催眠ガスとかによるものなら……そんなことにはならなかったのかも知れない。


 でもわたしは、お父さんによると、生まれついて『魔法への抵抗力が強い』らしい。


 わたしの場合は、お父さんの娘だからだろうけど……遺伝とは関係なく、そういう人はごくまれにいるとも聞いた。



 だから、あの不可解な眠気が、クローリヒトの『魔法』的なチカラによるものなら――そしてセンパイが、わたしと同じように抵抗力を持っているのなら。


 周囲の状況を感じ取れるぐらいには、眠りが浅かった可能性もあるんだ。



「……………………」



 センパイは、必死に何かを思い出そうとしてくれてるのか、考えてるのか、眉間にシワを寄せてしばらく黙っていたけど……。



「……すまん。やっぱりよく覚えてない」



 ……って、申し訳なさそうに首を振った。


 そしてそうかと思うと――



「けど白城……どうしてお前、そんなこと聞きたがるんだ?」



 少し真剣な顔で、逆にそう質問してくる。



 ……うん、そう聞かれると思ってた。だから答えも用意してある。



「だって、不思議じゃないですか、あの事件。

 警察は強盗の仲間割れ……みたいに言ってるけど、そんな感じでもないのは、巻き込まれたわたし自身が良く分かってるし。

 それで、何か超常現象的なことが起こったりしたんじゃないかなーって考えたら、ホントのことを調べたくなっちゃって。

 わたし、そういうの大好きなんですよ。霊感……みたいなものも、ちょっとはあるし。

 だから――」



 笑顔で言って、センパイを指差す。



「センパイが、何かに憑かれてるのも分かりますよ?」


「――――ッ!?」



 あ……センパイ、すっごい驚いた。


 あまりの驚きっぷりに、わたしまで驚いちゃった。



 もしかして……こういう話、ニガテなのかな……?



「あ、でも憑いてるって言っても、悪いのじゃないです。

 何て言うか、えっと……清浄な気配――って言うのかな。感じるのはそんなのですから、多分、守護霊とかそういうイイものだと思います。

 だから、怖がったりする必要、ないですよ」



 わたしが付け加えると、センパイは「そっか」と大きく胸をなで下ろしていた。



 『何かに憑かれてる』……ちょっとしたごまかしのために用意してたセリフだけど、実際センパイには『何か』が憑いてるのをわたしは感じていた。


 それが呪いのチカラみたいなものなら、センパイがクローリヒトじゃないかって真っ先に疑うところだけど……。



 センパイに話したように、感じられる性質はまるで逆のものだった。


 残念……って言うべきなのかは分からないけど。



 ……さて――。


 うん……とりあえず、今出来るのはこれぐらいかな。

 あんまりしつこくして、逆にわたしが探られるのも良くないと思うし……。



「じゃあセンパイ、今日はヘンなこと聞いてごめんなさい。

 何か思い出したりしたら――」


「あ、ちょっと待った!」



 早いとこお別れしようとしたわたしを、急にセンパイが呼び止めた。


 そうしておいて、言葉を選んでるのか、少し考え込んだかと思うと――



「白城って、妹いたりする?

 中学生ぐらいの、あ〜……魔法少女、とか……好きな?」



 ちょっと恥ずかしそうに、そんなことを聞いてきた。



 今度は、面食らったのはわたしの方だった。


 その表情が、「なんで?」の代わりになったみたいで、センパイは慌てて、さらに恥ずかしそうに付け加える。



「ああ、いやいや! あの……俺の小学生の妹、魔法少女とか大好きでさ!

 今度の誕生日プレゼント、その辺から選ぼうと思ってて……で、身近で詳しい人がいるなら、いずれ相談に乗ってもらえたらなーって……そういうワケなんだけど……」



 そう言えば……妹がいるって話、聞いたことあったっけ。


 このタイミングで『魔法少女』なんて言うから、ついシルキーベル連想しちゃった。



「……ゴメンねセンパイ、わたし一人っ子なんですよ。

 魔法少女とかにも、そんなに詳しくないし……」


「ああ、いや、それならいいんだ!……こっちこそ、ヘンなこと聞いてゴメンな」


「ううん、だいじょうぶです。

 ――それじゃあ、センパイ!」



 苦笑いを浮かべるセンパイに、明るく手を振って……。


 そして、彼女さんの方をチラリと見てから――わたしは、その場を駆け足で立ち去った。






 ……そのまま校門を抜けて、ペースを落としながら坂道を下った先――。


 大きい交差点の端っこに、黒い大きなバイクと、そばに佇むひょろっと長い人影があった。



 わたしがその前を通りかかると……それに合わせて、バイクを押しながら歩き出す。



「……で、センパイとやらはどうだった、お嬢?」



 そのバイクの人――黒井(くろい)くんの質問に、わたしは小さく首を傾げてみせた。



「分かんないってことが分かった、って感じかなー。

 何かを見たり聞いたりした可能性も、クローリヒトに繋がってる可能性も、そして――クローリヒト本人の可能性も。どれも完全に否定は出来ない、ってところ。

 まあ、最初だし。こんなもんじゃないかなあ」



「そっか。

 ――で、ソイツまさか、お嬢に色目使ったりはしてねえよなぁ……?」


「黒井くん。

 お父さんを尊敬するのはいいけど、そーゆーのはマネしなくていいから」



 拳を振るわせる黒井くんに、わたしはため息混じりに言い聞かせる。



「お、おう。しっかしよ……分からねえならいっそのこと、ちょいとこの辺で『暴れて』やるか?

 そうすりゃ、無関係かどうかすぐに――」


「黒井くん」



 わたしは立ち止まって、真っ正面から黒井くんを睨み付ける。



「〈霊脈(れいみゃく)〉と関係ないところで暴れたりしちゃダメだって、お父さんにキツく言われてるでしょ? それに――」



 わたしはクイッとメガネを押し上げる。


 多分、うまいこと夕陽を反射してキラリと光ったと思う。



「とりあえず、中間テストが終わるまでは活動自粛って言ったよね……? ねっ!?」


「お、おう……悪ィ」



 コワモテの顔を引きつらせて謝る黒井くん。


 その姿にもう一度ため息をついてから、わたしは歩き始める。



 ……黒井くんは、今度は少し遅れて、わたしに付いてきていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] フフフ、霊脈とか好きですよぉそういう設定( ´∀` ) そしてカマかけとかも、やりますねぇ( ̄ー ̄)ニヤリ でもってこれは下手をすると恋のバトルにも発展してややこしくなっちゃったりするのか…
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