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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
17章 夏のバカンスに、垣間見る黄金の裡と小さな聖霊の勇者 (後編)
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第236話 小さな見習いは、しかし黄金以上の輝きを知る



「ふむ……わたしは、キミたちとは初対面のはずだが……?」



 大尉(キャプテン)に名前を呼ばれた黄金の騎士――。


 あの師匠よりももっと多い……確か5度も異世界を救ったとかいう〈勇者〉エクサリオが、ゆったり余裕をもってオレたちに話しかけてくる。



 その様子も、見た目も、まるで『悪いヤツ』って感じじゃない。


 ホント、いかにも勇者って感じで……それこそパッと見じゃ、なにも知らなきゃゼッテー師匠の方が悪役だ。



 でも……コイツは師匠たちの敵、なんだよな……。



「わたしの名は、クローアスター……。

 それを聞けば、察しがつくんじゃないですか?」



 大尉が名乗ると……なるほど、ってエクサリオはうなずいた。



「……その黒い装いといい……クローリヒトの仲間、というわけか。

 では、そっちのキミは――」


「人に名前聞くときは、先に自分が名乗らなきゃいけねーんじゃねーのかよ?」



 悪いヤツっぽくはないけど……大尉もケンカ腰だし、オレもなんか、警戒をゆるめる気にならなくて、お約束のセリフを言ってやったら――。



 エクサリオは意外にも、「そうだな」ってあっさり認めた。



「……確かに失礼だったか。

 わたしはエクサリオ。

 ――万難排し、世界を救うのが使命の……〈勇者〉だ」



「オレは――烈風鳥人(れっぷうちょうじん)、ティエンオー。

 クローリヒトの一番弟子だ!」



 ……もしかしたら、ヘタに言わねー方が良かったのかも知れねーけど。


 でもオレは、師匠の弟子ってことに、誇り……ってのが、多分、あるから。

 だから、胸を張ってそう言い切ってやった。



「ほう……クローリヒトの。

 彼に弟子がいるなんて初耳だが……」


「……弟子入りしたの、最近だからな!」


「……なるほど。

 では聞くが、ティエンオー……キミは、クローリヒトが何をしようとしているか、そしてどうしてわたしと敵対しているか……分かっているのかな?」



 エクサリオは……迫力はスゲーけど、敵意――みたいなもんは見せずに、オレに聞いてきた。



 ……やっぱり悪いヤツっぽくない。


 けど……なんだろ、なんか妙に引っかかるっていうか……。



 オレはエクサリオにヘンな感じがしたけど、とりあえずそれは置いといて、質問に答える。



「……分かってるよ。

 師匠は――師匠たちは、〈世壊呪(セカイジュ)〉を助けるために、守ろうとしてる。

 それに対して、アンタは……〈世壊呪〉は悪いチカラを持ってて危ねーから、問答無用で滅ぼそうとしてる……そうだろ?」



「――その通りだ。

 そして逆に言えば、わたしの目的は〈世壊呪〉を滅ぼすことで……キミたちと戦うことじゃない」



 エクサリオはそう言って……オレと大尉を交互に見た。




「見れば、キミたちはまだ子供のようだ。

 わたしは〈勇者〉、そもそも無意味な争いは望まないし――その相手がキミたちのような子供となればなおさらだ。


 だから、1つ提案しよう……クローリヒトのもとを離れるんだ。


 そして、〈世壊呪〉についてキミたちが知っていることを話し、こんな戦いからは手を引くんだ――キミたち自身のためにも。

 それで、わたしがキミたちと戦う理由もなくなるのだから」




「随分と勝手なことを言ってくれますね……!」



 大尉は、いかにもムカついたって感じで……エクサリオの言うことを即座に拒否した。



 ……その気持ち、ちょっと分かる気がする。



 子供だから見逃す……みたいに言うけど、そもそも〈世壊呪〉のアリーナーだって、同じ子供なんだからな。


 もちろん、エクサリオはそのことを知らないから、しょうがねーのかも知れねーけど。



 でもきっとエクサリオは、アリーナーって『子供』が〈世壊呪〉だって分かっても……見逃したりしねーと思う。



 多分、だから……大尉は余計にハラ立つんだ。


 なんせ大尉は、アリーナーのこと、ホントに大事にしてるもんな。



「あいにくと、わたしはわたしの意志で、〈世壊呪〉を守り抜く気でいるんですよ……何があっても、絶対に、必ず!

 だから、テメーの提案なんざクソっくらえですし――。

 わたしが教えるのは、テメーのやろうとしてるのが間違いだってことだけです!」



 親指を下に向けて、映画とかで見かける挑発をする大尉。


 でも、エクサリオはそれに乗ったりしねーで……落ち着いた感じで、首を横に振った。




「……勇ましいな。だが、よく考えてみるといい。

 クローリヒトは、〈世壊呪〉には意志があり、危険なチカラを持っていても、それを振るったりはしないと言ったが……。


 万が一にも、その意志を外れ――チカラだけが暴走したならどうなるか。


 周囲に、世界に、甚大な被害を出すのはもちろんだが……その〈世壊呪〉自身も、平和を望む『意志』があるのなら……。

 そんな事態を引き起こしてしまったら、途方もない罪悪感を背負うと思わないか?

 ならば、そうなる前に……。

 その命ごととなってしまっても、チカラを完全に消滅してやるのが――最も慈悲深いと、そう思わないか?」




「………………」



 オレは、大尉みたいにすぐには答えずに……少し、エクサリオの言うことを考えてみた。



 実際に、オレがその立場になったら……。

 そう、アリーナーじゃなく、オレが〈世壊呪〉だったら――って。



 そうしたら……エクサリオの言うことも、少しは分かる気がしたんだ。



 オレだって、自分のせいで周りのみんなが死んじゃったりしたら……そんなの、すげーイヤだから。


 だから、それなら……オレが死ねばそれで済む、みんなゼッタイ大丈夫――ってなるんなら……しょうがねーのかも、って、そんな風にも思えるんだ。



 で、オレでそうなんだから、あのマジメなアリーナーだったら……なおさら、「それがいい」とか言いそうな気もする。



 でも――――




「……でも、それは……。

 本当の、ホンモノの〈勇者〉が言うことじゃねーよ」




 オレは思わず、ぽつりと……そうつぶやいてた。



「……なんだって?」



「エクサリオ、アンタの言うことも分かるよーな気もするぜ。

 でもさ、それは……勇者じゃねー、フツーの人が考えるフツーのことだ。

 だって、勇者ってのはさ――」



 言い始めたら……なんか、自分の言葉で、オレ自身、分かったような気がした。



 あ〜……そうだ。


 エクサリオのこと、悪いヤツじゃなさそうだって思ったのに……なんか妙な感じがしてた、その理由。




 そう――師匠は。

 ホンモノの〈勇者〉は……!


 いちいち自分を、自慢するみたいに勇者だなんて言ったりしねーんだ!




 だって、そんなことを言わなくても、周りが勇者だって認めるから!


 だって――!




「〈勇者〉ってのは……フツーのヤツが出来ないって、ムリだってあきらめること……!

 それを、ゼッタイに出来るって信じて、ゼッタイにあきらめたりしないで……!


 ――それで、ホントに、ゼッタイに!


 そんなとんでもねーことを、やり遂げちまうヤツのことなんだからな――!」




 そんで、オレは、あらためて……。


 エクサリオに、指を突きつけてやった。




「だから――エクサリオ!

 みんなを助けるのが〈勇者〉なのに、そのために誰かを犠牲にしようとか、そんなことを考えるアンタは……!


 いくら、何度も世界を救ったって……ホントの〈勇者〉じゃねーよ!」




 そうだ――師匠なら。


 もし〈世壊呪〉が妹のアリーナーじゃなくっても……ううん、それどころか、もし敵のハズのコイツだったとしても、ゼッタイ、見捨てないで助けようとするハズなんだ!



 そんで、それが……それこそが、ホントの一番かっけー〈勇者〉だよな!




「……ふふ……あはははっ!」



 ケッコー、ビシッと言ってやった――つもりなんだけど。


 エクサリオは、それで怒ったって感じでもなく……フツーに、面白そうに笑った。




「……なるほど。いかにも子供らしい、純粋で夢のある良い考えだ。

 確かにそれなら、キミがクローリヒトを信じ、共感するのも仕方ないといったところか。


 ただ――残念ながら。


 世界は、そんな簡単なものじゃないんだよ――」




 右手の剣をゆっくり持ち上げて……オレの方に向けるエクサリオ。




「世界を、人々を守るために、やむなく何かを切り捨てる――。

 その覚悟を持てない甘えを、弱さを、そうした聞こえの良い理想で覆い隠し、騙すのは……いずれ最悪の事態をもたらすだろう。

 それを回避するためにも……わたしは〈勇者〉として戦う必要がある。

 覚悟という、本当の『強さ』を示す必要がある。


 ゆえに……本意ではなくとも。

 あくまでクローリヒトに付き、わたしの邪魔をするというのなら――。


 キミたちに、本当に正しいのはどちらなのかを、思い知らせよう。

 正しき者こそが真に強いと――教えよう!」




「……っ……!?」



 エクサリオの――迫力が、気合いみたいなものが、一気に高まるのがわかる……!


 初め、出会った瞬間感じた通りの……すげーヤベーレベルで……!




 ……つ、ついつい、勢いでケンカ売っちまったけど……。


 マジで、相当ヤベー気がする……!



 くっそ……! 勝てんのか、これ……!?


 なんなら、なんとか逃げる方法考えた方が――。




「――臆するな、ティエンオー!!」




 オレが、心ン中で、そんなちょっとビビったようなこと考えてたら――。


 大尉が、スゲーおっきな声で……オレを励ましてくれた。



 いや、それだけじゃねー……!


 大尉は、背中もピシッと伸ばして、真っ直ぐにエクサリオと向き合ってて……!



 ただのハッタリとかじゃなく、マジでやる気なんだって――かっけー姿を見せてくれてたんだ!




「……遭遇したときから、妙な違和感があったんだが……間違いない!


 アイツは、エクサリオ本人じゃない!

 何らかの魔法の道具を利用して作られた……いわば一種の分身だ!


 だから、本人よりもずっと弱い! ビビることなんてない!

 わたしたちなら勝てる――必ずだ!」




「…………ほう?」



 大尉のその言葉にエクサリオは、感心したみたいな声を出した。



「クローアスター、キミの言う通りだ――あいにくとこれ(・・)は、わたし自身ではない。

 だが……それでも。

 クローリヒトならともかく……キミたち程度の相手には、充分だ」



「くっそ……ナメんじゃねー……っ!

 ホンモノの〈勇者〉じゃねーテメーの! しかもニセモノなんかに!

 ――負けてたまっかよッ!!」



 心ン中の、「ヤベーかも」ってビビリを、消し飛ばしてやろうって……!


 オレは、自分へのありったけの気合いを込めて、そう叫んでやった!



《勇気と無謀は別もの――じゃが……。

 ふん、そうこなくてはな……! それでこそ我が主よ!》


「良く言ったぞ、ティエンオー!」



 そんなオレのやる気を、テンと大尉も後押ししてくれる……!



 よーし……やってやるぜ!


 オレは――ホンモノの〈勇者〉の弟子なんだからなっ!



「……いいだろう。

 殺しはしないが……少しばかり、痛い目には遭ってもらおうか?」



「イタい目見るのはそっちだってンですよ!

 ――ティエンオー!」


「おーよ! 行っくぜぇーーっ!!」




 エクサリオが剣を、大尉が二挺拳銃を構えるのに合わせて――。



 オレも、思いっ切り地面を蹴った!






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― 新着の感想 ―
[良い点] 勇者の本当の武器は諦めない勇気だってやつですねw
[良い点] よかった…… とりあえず本人じゃなくて良かった…… そしてアーサー良いこといいますね! エクサリオの言い分は 『一般の大人が言いそうな正義』 という感じで、現実はまぁ、ほぼその通りなんです…
[一言] 確かにトレードオフは難しい問題ですよね ><。 でも、そんなこと言ったら、たしか勇者じゃない!!☆彡
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