第235話 聖霊大尉と見習い勇者は、羽と翼でややカブる
「……其の名、境界! 防人の矜、垣の誉、祝呪の郭!
――〈界園ノ結碑〉!」
空き地の〈呪疫〉の群れに向かって突撃する間に、軍曹――じゃなかった、大尉、クローアスターが魔法を使う声が聞こえた。
それと同時に、なんか……まわりの空気が変わった感じがする――。
……そうだ、今のって多分、体育祭のときにも使ってた――結界の魔法だ!
なんか、ビミョーに聞いたことあるよーな気がしたんだよな……!
「よし――結界は張った! 暴れていいぞ、ティエンオー!
ただし、油断だけはするな!」
「へへ……りょーかい! いっくぜ〜っ!」
近付くオレに気付いたみたいで、〈呪疫〉の1体がこっちを向く。
そんで、動物が威嚇するみたいに……のっぺりした影の身体を大きく伸ばした。
ここから、さらに腕も伸ばして先制攻撃しようってのかも知れねーけど……!
「なーめんなっての……!
――食らえ……必殺、〈陣風穿〉ッ!!」
〈呪疫〉の攻撃範囲に入る前にオレは、宝剣ゼネアを走りながら振りかぶって――『チカラ』を込めて投げつける!
ただし――ゼネアは、いつもみたいに分裂しない。
真っ直ぐ一直線に――空気を渦を巻いて引き込みながら、スゲー速さでカッ飛ぶ!
そして、〈呪疫〉に突き刺さる……どころじゃなくて。
巻き込んできたちっちゃい台風ばりの風の力で、〈呪疫〉の胴体が半分以上吹っ飛んだみたいな、デッカい風穴をブチ空けた!
「っしゃー! カンペキぃっ!」
ゼネアを引き戻して掴みながら、オレはグッと拳を握る。
追いかけたり、分裂したりする代わりに、一撃の威力を強くしたゼネア投げ……!
新必殺技、〈陣風穿〉! うまくいったぜ!
へへへ、オレだって、こーゆーときのために、ちゃーんと格ゲーとかマンガとかで、色んなワザを研究してきたんだからな……!
あ、もちろんワザの名前も!
《……つーか、技の名前はゲームからのモロパクりじゃろが……》
「ンだよ〜、オレがつけたらセンス無いとか言うからだろ~?」
オレが、テンの文句に文句を返してると――。
「――っ! キサマ、油断はするなと言ったろーが!」
いきなり、オレの頭の上に飛び上がった大尉が、二挺拳銃――ゲームで見た、確かソーコムピストルとかいう軍隊用の銃――を、超連射していた。
狙いは……オレがデッカい風穴を空けて倒したはずの〈呪疫〉だ。
――って……!?
あの〈呪疫〉、こんなちょっとの間にカラダが再生してる……!?
「げ、マジかよ……っ!?」
オレが驚いてる間に……。
そいつは、大尉の――多分、魔法のチカラが込められたBB弾をめいっぱいに撃ち込まれて、今度こそ完全に、チリみたいになって消えていた。
「ウソだろ……。
あの、〈赤いヤツ〉ならともかく、このフツーの黒い〈呪疫〉なら、今ので完全にやっつけてたハズなのに……!」
「ふむ、そうですね――わたしとしても驚きです」
ふわっとオレの隣に降り立った大尉が、そんなことを言った。
「……どういうことだよ?」
「理由までは分かりませんが、強くなってたってことですね……〈呪疫〉が。
しかも気配からして、今の1体だけが特別ってわけでもなく――この場にいるヤツらがみんな」
大尉は、オレたちの方にジリジリ近付いてくる〈呪疫〉たちをぐるっと見回す。
「……ティエンオー、あなたにお手伝いを頼んだのは正解でしたね。
この調子だと、さすがにわたし1人だけでは手間取ったかも知れません。
――まあ、もっとも……」
ソーコムピストルの銃口が、オレの鳥の仮面を小突いた。
「見た目がこれだからって、中身まで『鳥頭』だと、足手まといになるだけかもですけどねー」
「…………。
な、なあテン、トリアタマ――って、なに? 鳥の頭でいいの?」
《……ニワトリが3歩歩くと物事を忘れるように、記憶力のショボいおバカっつーことじゃよ。
アーサーお主、今しがたそこの聖霊に、油断するなと言われたばかりだったじゃろが。
――うむ、っつーか、じゃなあ……。
リアル鳥系の儂に、『鳥頭』とか説明させンじゃないわい!
地味〜な嫌がらせか! それぐらい知っとけバカモン!》
「お、おう……なんか、ゴメン。
軍曹――じゃなかった、大尉も……ゴメン。油断した」
素直にアタマを下げると……大尉は、小さくタメ息をついた。
「……分かったならいいです。
ある意味、大事故になる前に身を以て気付けた――と考えれば、決して悪いことでもないですし」
「おう……思い知った」
……きっと、師匠がオレに戦いに出るなって言ってたのも、こーゆートコが分かってたからなんだよな……。
くっそ〜……やっぱまだまだミジュクだなあ、オレ……!
これからはマジで気を付けねーと……!
「……そーだよな、戦いなら、大尉の方がゼッタイ経験値稼いでンだし……。
よし大尉、なんか気付いたらビシビシ指示飛ばしてくれよな!
オレ、それに従って戦うようにするからさ!」
「ふむ……いい心がけです。
では――改めて実戦教導と行くぞ、遅れるなよへっぽこ新兵!」
「イエシュ、マムっ!」
――それから、オレは大尉といっしょに、前よりずっと強くなってる〈呪疫〉たちと戦った。
基本的には、大尉は細かくあーしろこーしろって言うわけじゃないから、オレはオレ自身の戦い方をするんだけど……。
ときどき、オレの注意が足りてないときとか、効率良く敵をやっつけられるときとかに、大尉は指示を出してくれて。
それが的確だし、オレのアタマでも、言われればすぐに「そうか」って理解出来るようなことだから……。
迷ったり困ったりするどころか、すんなりスムーズに、テンポ良く身体が動いて……。
そんで、いつの間にかだんだん、大尉が言おうとしてることとか、やろうとしてることとかが、なんとなくでも分かるような気がしてきて。
だから――。
大尉が〈呪疫〉2体の間に飛び込んで、1体ずつ両手の銃を押し付けて連射、一気に消滅させたときは――。
きっとこのまますぐ、再装填すると思ったから。
指示が来る前に、大尉から『二番目』に近い〈呪疫〉にゼネアを投げつけて、ダメージを与えつつ牽制して……。
大尉が、体育祭のときにもやってたみたいに、ポニーテールの中から振り出した弾倉を……ジャンプしつつ、くるっと回りながら空中で再装填するのを邪魔しないように。
頭を下げて姿勢を低くダッシュ、一番近い〈呪疫〉へ――!
「烈風閃光疾風けーーんっ!」
引き戻したゼネアを掴むのと同時に、光の刃を延ばして――突進突きを食らわせる!
前の〈呪疫〉なら、これで倒せたけど……今日のヤツらはムリだ。
でも……これでいいんだ!
「ナイスアシストだ、アー……じゃなかった、ティエンオー!」
弾丸の再装填を終えた大尉が、そのまま空中から、オレが串刺しにした〈呪疫〉を連射で消滅させて――。
さらに続けて、ゼネアを投げつけて牽制した方の〈呪疫〉にも銃弾を撃ち込む。
もちろん、それも倒しきるには火力不足だけど――大尉の狙ったとおり、ってやつだ。
だってその銃撃は、〈呪疫〉におっきなスキを作るためで……。
「烈風閃光ぉ……台・風・けーーーんッ!!!」
そこへ、オレが一気にトドメを刺しにいくからだ!
――無防備な〈呪疫〉の懐に飛び込んだオレは、光の刃の必殺ラッシュで……ちりっぢりに斬り裂いて消滅させてやった。
「……ホンっト、キサマと言うヤツは……。
おバカなくせして、このテのセンスだけは良いんですから……まったく」
「へへっ、サンキュ!」
「いや、全面的にホメたわけじゃないんですけど。
……しかし、それにしても……」
オレと大尉は、お互い、スキをなくすために背中合わせになろうとするけど……。
うん――。
ぶっちゃけ、どっちも背中に羽が生えてっから、その体勢はぶつかって邪魔なんだよなー。
「うーん……このままだとなんとも映えませんねえ。
……そのムダに豪華な翼、消したり出来ないですか?」
「いっ? いやいや、オレ、『鳥人』なのに翼なくなったらヘンじゃね!?
つーか、それならそっちのがさー、騎士っぽい鎧だしさー。
……羽、なくてもいいんじゃねーの?」
「いやいや、黒い鎧と仮面だけとか、地味過ぎる上にバランス悪いでしょーが!
他のクローなんちゃら2名との差別化が必要ですし!」
「「 ………ぬぬぬ………! 」」
オレたちは、振り返って顔を見合わせたあと……。
同時に、あらためて、まだ残っている〈呪疫〉の方に向き直った。
「……とりあえず、その辺の話はコイツらブッ倒してからにしましょうか」
「だよなー……」
――それで……。
コンビネーションのコツも掴んできたし、〈呪疫〉が強くなってるって言っても、手こずるぐらいでもなかったから……。
オレたちはその後も、(背中合わせは出来ないけど)お互いのスキとか死角をカバーしつつ、連係攻撃で〈呪疫〉を1体ずつ確実に倒していって――。
さあ、ラスト1体!――ってときだった。
「ッ!? 止まれ、ティエンオー!!」
「――――っ!」
いきなり大尉が上げた、今までにないマジな声に……。
〈呪疫〉を追い込もうとしていた足を、あわてて止める。
《……っ!? これは……!》
同時に……テンも、オレの頭ン中ですげー驚いてた。
そして、オレは。
2人がなにに驚いたのかは……少し遅れてから、分かった。
それは、最後に残った〈呪疫〉の向こう――。
結界の外から近付いてくる……『何か』だ。
……ソイツは、はっきりと姿も見えねーのに、なんか『ヤバい』って感じるぐらいで……!
「ふむ……まさか、この上さらに新顔を見ることになるとは」
いきなり、男だか女だか分からないような、そんな声が響いた――と思うと。
「……え……?」
最後の〈呪疫〉が――頭のてっぺんから、キレイに真っ二つになって……消滅した。
そして、その向こうには……人の形をした光が立ってて――。
……いや、違う。
光ってるのは……黄金の鎧だ。
それは……デカい剣と盾を持った――黄金の騎士なんだ。
――って、ちょっと待った……!
こんなカッコの黄金の騎士って……師匠から聞いたことあるぞっ!?
「……あ……!」
……そうだ、確かコイツ――。
あの師匠でも、勝てなかったっていう――!
「……まさか……。
こんなときに、こんな場所で遭遇するとは思いませんでしたよ……っ!」
――仮面のせいで、目元は見えない。
けど……きっとすっげー険しい顔をしてるって、そう分かる声で。
大尉は、ソイツの名前を呼んだ――!
「……エクサリオ……!」