第234話 奔放に本邦初公開! それは黒き花アスター!
「あ〜、食った食ったぁ〜!」
オレは、自分の部屋のベッドに背中からダイブして……腹をなでながら、思いっ切り息を吐き出す。
へへへ、今日は晩メシ、ハンバーグだったからな!
腹もめっちゃ減ってたし、ゴハン3杯もおかわりしちまったぜ!
《……まあ、何はともあれ……今日は存分に楽しんだようで良かったのう》
テンが、ベッド側のラックの上で、母ちゃんからもらったカボチャの種をポリポリしながら言う。
「おう! ホンっト、すっげー楽しかったなあ……!」
――ちなみに、あの軍曹へのお願いの後、駅から帰る途中……。
オレたちは別れる前にみんなで〈天の湯〉に寄って、風呂にも入った。
日焼けしたのか、身体中ちょっとヒリヒリしたけど……泡がブクブクする風呂とか、いつも以上にすっげー気持ちよかったんだよなー。
で、そーやってもう今日は風呂で身体も洗ったから――ってことで、家に帰ってからは晩メシまでちょっとの間爆睡して……。
サッパリと元気ンなったところで、晩メシも腹いっぱい食って、今――ってわけ。
「さーてと、あとはゲームやろっかな〜……!」
――って、待てよ?
そういや今日は朝から遊んでたから、素振りとかの『自主修行』やってなかったっけ……。
……一瞬、めんどくせー、とか、今日はもういいじゃん……とか思ったけど……。
「あー……ダメだダメだ!
そんなんじゃ、師匠やリアニキに認めてもらえねーよ!」
オレは頭を振って、ベッドから起き上がった。
……修行とか、大変でしんどいことをテキトーにしかやらねーヤツは、ヒーローなんかやれっこねーもんな!
「……よーし、じゃ、素振りからだな!」
《フム、今日のような日も修行か。
その心がけは良いが……『夏休みの宿題』はどうした?》
「ンなの、あとでどーにでもなるっての!
修行の方が大事に決まってるだろ!」
《……どーにもならなくなって頭抱えるハメになっても、儂、知らんぞ?
宿題なんぞ手伝わんからな?》
「へへ、だーいじょぶだって!」
夏休みの宿題なんて、どーせ始業式の日には集めねーんだしさ!
ついでに、1回目の授業の日は持ってくんの忘れた――ってことにすれば、またもうちょい余裕が出来るし!
つーわけで、時間はまっだまだあるんだから……後回しでゼンゼンオッケーだよな!
――ってことで、素振りに行こうとしたら……ベッドの上に放ってたスマホが鳴った。
誰だろうと思ったら――師匠からだ!
「……もしもし、師匠? どしたのっ?」
『おう、武尊。
いや、どうしたってほどでもねーんだけど……今日はお疲れさん、って』
……そう言や見晴が、〈アクアアサルト〉の生中継を旅行中の師匠たちにも教えて、見てもらった――って言ってたっけ。
師匠の話をちょっと聞いてみたら……やっぱりそのことみたいだ。
『……ラストのアガシーとの一騎打ち、スゴかったな。
正直、あれだけはっちゃけて暴れてるアガシーを止めるのは、誰だってムリだろうって思ってたんだけどな……』
「へへへ……!
だって、ムリとか言ってたら、それこそぜってームリだもんな!」
『……そうだな。お前の言う通りだ。
ああ、ハイリアのヤツも褒めてたぞ?
余も鍛えてやっているのだ、これぐらいは出来てもらわねば困る――ってよ』
「えー? なんだよそれ、ホメてんの?」
――そのセリフ、唇んトコだけでちょっと笑いながら、かっけー感じに言ってるリアニキが想像出来た。
でも、これ……師匠とリアニキの2人から、ちょっとでも認めてもらえたみたいで……オレは嬉しくなって、つい笑っちまう。
……で、オレに答える師匠も、電話の向こうで笑ってるみたいだ。
『――とりあえず、今日はありがとな。
アガシーも、あれだけの勝負が出来て楽しかっただろうしさ』
「お礼とかいいよ師匠、オレだってすっげー楽しかったんだし!」
『それもそうか。
――ん、疲れてるとこ悪かったな、それじゃあ――』
「あ――あの、師匠っ!」
『……ん? どうした?』
電話を切ろうとしてた師匠を、オレはつい呼び止めちまう。
「あの――あのさ……。
軍曹って、元の世界に帰らなくても……大丈夫、なんだよな?」
軍曹の話が出たから……オレは。
今日、直接軍曹に『お願い』はしたけど……あらためて、師匠にも念を押してもらいたくって、そんな質問を口にしてた。
まさか、悪い答えが返ってくるなんて思わねーけど……何となく、ちょっと緊張して待ってたら。
『……心配するな。
何より、アイツ自身が居たいって思うところが、アイツの居場所なんだから』
師匠は、優しい声で、そう言ってくれた。
それに――
『もし仮に、アイツのそんな意志は許されない、って――アルタメアに戻らなきゃいけないって、何らかの理由があったとしても。
――逆に俺が、それを許さん。そのときには何とかしてみせる……必ずだ』
ハッキリと、力強く、そんな約束もしてくれたんだ。
「……師匠……」
くっそ〜、かぁっけぇー……!
もう、ホントに、メッチャクチャかっけー……っ!
……やっぱ、師匠は師匠――ホンモノの勇者だよなあ!
こうやって電話で聞いてるだけなのに、口ばっかりって感じじゃなくて……。
師匠ならゼッタイそうしてくれるって、信じられるんだから!
しかも、師匠は――最後に。
『まあ、そうは言っても俺なんかが何をするよりも……。
お前たちって存在――大切な仲間そのものが、アイツがこっちの世界に居続けたいって願う、一番の力だろうさ。
だから……大丈夫だ。絶対に』
……そう。
オレたちのことを、軍曹にとっての『大切』だって……認めてもくれたんだ。
へへっ……!
そういうのって、なんかスゲー嬉しいよな……!
「……っし! やる気も出てきたし、素振りしまくるぜ!」
《単純じゃのう……まあ、分かっとったけど。
とりあえず、やる気なのは結構じゃが、行き過ぎて空回りせんよーにな》
師匠との電話が終わったオレは、壁に立てかけてある木刀を持って、外へ素振りに――行こうとしたら、またスマホが鳴った。
あれ、師匠、まだ用事残ってたのかな……とか思ったら。
画面に出てる今度の着信相手は――軍曹だった!
「えっ、軍曹っ!?
――えっと……も、もしもし?」
さっきまで師匠と話題にしてた、張本人からの電話だから……なんかビックリしてヘンな声になっちまったかも……。
でも、スマホから聞こえる軍曹の声は、それを気にしてる感じじゃなかった。
――ってか、ちょっとマジメな感じだ。
『……アーサー。いきなりですが、今、体調とかは悪くありませんか?
すっごくしんどいとか、どうしようもなく疲れて眠い、とか』
「え? いや、だいじょーぶだけど……。
家帰ってからちょっと寝てスッキリしたし、晩メシもちゃんと食ったし……」
『では、用事とかはありますか?
この後しばらく、外に出ていても大丈夫ですか?』
「お、おう、それもだいじょーぶだけど。
今から、近くの公園で素振りとか修行しようって思ってたトコだし……」
『……そうですか。では、改めて――。
アーサー、〈ティエンオー〉としてのあなたに、〈呪疫〉殲滅のお手伝いを要請します。
――ええ、そう……出動、ですよ!』
――軍曹に指示された集合場所は、オレたちが通う小学校の裏手の方……。
なんかデカい建物が出来る予定だったらしいけど、まだなーんにも建ってない――オレたちもときどき中に入って遊ぶ、ケッコー広い空き地の前だ。
そこに、オレはテンを連れて自転車で来たわけだけど……。
《……なるほど、確かにいるのう》
――ちょっと離れたところで、もうテンはそんなことを言ってた。
あんまり近寄りすぎても良くねーかもだから、近くの、小さな工場みたいなところの駐車場のすみっこに自転車を停めさせてもらって……あとは、歩きで近付く。
で、工場の塀に上って、空き地の方を見れば……。
もともと灯りもなくて暗い空き地の中に、さらに『暗い』ような感じがする影っぽいのが、いくつも動いてるのが分かった。
――〈呪疫〉だな……!
「……軍曹はまだみてーだけど……。
いいや、まずは変身だ――! いくぜ、テン!」
《うむ……心得た。
――生命運ぶ風のチカラを、我が主に!》
さっと塀から飛び降りると、縦笛用の袋に入れてベルトにさしてきた――ナイフっぽい〈宝剣ゼネア〉を抜いて、掲げる。
それにテンが応えて――テンといっしょにオレの身体が、光に包まれて。
その光が、鳥の仮面とか、全身のプロテクター……そして翼になって。
最後に、前屈みになりながら、カギ爪付きの小手が装着された両腕を、翼に合わせて大きく広げて――決めポーズ!
「烈風鳥人……ティエンオーっ!!」
よっし……!
師匠たちとの修行以外で変身すんのはひさびさだけど……キマったぜ!
でも、やっぱりこうやって変身すると、すげーチカラが湧いてくるよな……!
これなら、〈呪疫〉ぐらいカンタンにやっつけられそうだけど……。
「いや、約束だもんな……勝手なことしちゃダメだ。
ここはとりあえず、軍曹を待たねーと……」
「――んむ、良い心がけですね……。
調子ブッこいて1人で突撃しようものなら、マジでブッ飛ばして、改めて変身禁止にするところでしたよ?」
ちょうど変身が終わったところで、頭の上から聞こえてきたのは……軍曹の声だった。
……頭の上?……って、不思議に思って見上げたら――。
「……うおおっ!?
え、軍曹……だよ、な?」
空から、黒い色の騎士っぽい鎧を着て……見方で色が変わるような感じの、光る蝶みたいな――そう、妖精みたいな羽を生やした女の子が。
ゆっくり、ふわりと……オレの目の前に下りてきた。
その子は、鎧と同じ黒い色の、目元を隠すような仮面を着けてるけど……。
身体の大きさも、金髪のポニーテールも、そして――。
騎士みたいな鎧着てるのに、手に持ってるのが……いつものエアガンよりゴツいやつだけど、二挺拳銃ってところも。
うん、間違いなく――軍曹、だよな。
「ふっふっふ、驚きましたか?
赤宮シオン、ほんぽー初公開のガチ戦闘モード変身ですよ!
……まあ、どちらかと言えば、これがわたしの、聖霊としてのもとの姿に近いんですけどね。
そっちだと鎧はこんな真っ黒けじゃないし、仮面も無いですけども」
オレの前で、くるっと一回転する軍曹。
「お、おお〜……」
これが、軍曹の変身状態か〜……!
おう、こーゆーのもケッコーかっけーよな!
……まあ、もちろん、このティエンオーほどじゃねーんだけどさ!
それに、そのカッコに二挺拳銃ってのは、オレでもちょっとアレな気がすっけど……まあ、軍曹だもんなー。
あと、もとの姿とちょっと違うっていう……仮面付けてたり、鎧が黒くなってるのとかは、師匠とかリアニキに合わせてるってことかな。
「あと、どこで誰に見られるか分かりませんし、軍曹って呼び名は禁止です。
変身したわたしの名は……そう……〈クローアスター〉ですから!
……あ、呼びにくいなら〈大尉〉でもいいですけどね」
おお、すげー……!
変身すると階級も上がるんだな……!
「お、おう……じゃ、ぐ――じゃなかった、〈大尉〉で!」
「うむ!
では、よろしく頼むぞ――ティエンオー!」
口元で笑いながら、銃を握ったままの右手を掲げてくる。
それに、オレも右手を掲げて……コツンと打ち合わせた。
そうしてから――2人して、空き地の方へ向き直って。
「さあて――と。
それじゃ、行きますか! 期待してますからね!」
「――おう! まっかせろって!」
まずオレが。
そして続けて、軍曹――じゃない、クローアスター〈大尉〉が。
〈呪疫〉たちに向かって、突撃を開始した!




