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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
17章 夏のバカンスに、垣間見る黄金の裡と小さな聖霊の勇者 (後編)
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第233話 帰り道――小さな勇者が聖霊に願うのは



「ふわあ〜……! やーっと帰ってきたねえ〜!」



 ――見晴(みはる)が、身体をめいっぱいにぐーっと伸ばして、大きな声を出したのは……駅の改札を出てすぐだった。



「あ、こら見晴ちゃん、こんなトコで大っきな声出しちゃダメだって……!

 周りの人の迷惑になっちゃうよ」



 で、いつも通り、マジメなアリーナーがそれを注意してるけど……。



 まあオレも、そんな風にしたい見晴の気持ちはよく分かるなー。



 別に泊まりがけの旅行とかじゃないけど、水南(みなみなみ)はやっぱケッコー遠かったからさ。


 オレたちだけで、こうやって長い時間電車に乗るコトってそんなにないし……こう、『帰ってきたー!』って気分になるよな。



「えっへへ〜、ごめ〜ん」


「もう……ほら、帰ろ!」



 先頭に立って歩き出したアリーナーに続いて、オレたちも駅から離れる。


 オレたちは通う小学校が同じだから、降りる駅も同じだし、お互いの家までもそんなには遠くない。



 ――あ、そう言えば、ラッキーねーちゃんとしおしおねーちゃんも、〈なみパー〉からいっしょに帰ってきたんだけど……。


 2人は家は柿ノ宮(かきのみや)の方だから、途中で別の電車に乗り換えてった。



 ……でも、ねーちゃんたちと遊ぶのって、やっぱ女子だし、(まもる)兄ちゃんたちと遊ぶみたいなわけにはいかねーよなー、って、初めはちょっと心配だったんだけど……。


 〈アクアアサルト〉に出たのもそうだけど、2人ともノリが良かったし、結局は思ってたよりゼンゼン楽しかったなー!


 アイスとジュースおごってくれたし!




「……いやー、それにしても、この帰りの電車は最ッ高に有意義でした……!」



 みんなで帰り道を歩いてると、軍曹がくるくる回りながら、めっちゃ力を込めてそんなコトを言い出した。



 ちなみに、オレたちはみんな、帰りの電車で1回は寝ちまうぐらい疲れてたけど……。


 軍曹だけはそんなこともなくて、変わらず元気でハイテンションだ。



「有意義って……なにかあったの?」



 アリーナーが興味深そうに尋ねると、軍曹はうっとりした様子で……なんか、空に祈るみたいにして答える。



「ええ……大っ変に素晴らしい光景を、この目に焼き付けることが出来たんですよ……!」


「素晴らしい光景……?

 そんなに景色がキレイなトコ、あったっけ?」




「いいえ、景色ではありません。

 それは、なんと……そう!


 遊び疲れたアリナが、無防備に眠っちゃってる――なんともレアな姿です!


 しし、しかも、それだけでもごっつぁんですのに、同じく眠るミハルと肩を寄せ、頭をこっつんこしてもたれ合って――とか、いやもうそりゃもう……ぐへへ……!」




「………………」



 ――ゴスッ!



「ふぐぉぉっ!?」



 無表情にツカツカと近寄ったアリーナーが、すっげえ音のするデコピンを軍曹に食らわせた!



 ……うっわ、アレ、ぜってー痛ェよな〜……!


 あの軍曹が悶絶してるぜ……さっすがアリーナー、恐え〜……。



「……おい軍曹。

 キサマまさかその様子、スマホで撮ってたりしないだろうな……?」


「いい、イエシュ、マム!

 あまりに興奮しすぎて、写真も動画も、撮るのを忘れてたであります……!」


「……事実か?」


「いい、イエシュ! 間違いありません!

 ――あ、でも……」


「でも?」


「アーサーとマリーンが、同じタイミングでうつらうつらして寝落ちする動画なら、面白かったんで撮っちまいました!

 お前らどんだけ仲良しだ!……ってな感じだったんで!」



「ほっほ〜う……?」


「え〜、なにそれ見たい〜!」



「うぇっ!? おい、ちょ、なんだよそれ!」



 いきなりオレたちの名前が出て驚くけど、それを止めるヒマもなく……。


 軍曹はすっげー素早く、スカートのポケットからスマホを取り出して。



 アリーナーや見晴と、画面を覗き込んでいた。



 そして女子3人は……少しすると。


 ふっふっふー、と意味ありげに笑いながら、オレと凛太郎(りんたろう)を見やって……。



「……朝岡(あさおか)も、なかなかカワイイとこあるじゃない。

 それにまあ……ホント、真殿(まどの)くんと仲良いね〜」



「な、なんだよ!?

 オレと凛太郎が同じタイミングで寝落ちしちまった、ってだけ――なんだろ!?」



「それが、一部女子大ウケ動画――なのかも」



 いつも通り、淡々とつぶやいてちょっと首を傾げる凛太郎。



 ――え、なに、その女子にウケる動画って!

 とりあえずなんか、すっげーヤバそーな気配しかしねーんだけど!?



「ど、どっちにしてもなんかスゲー恥ずかしいぞ!

 ――頼む軍曹、消してくれ〜!」



 必死に手を合わせるオレに――。


 苦笑混じりに、すぐに応えてくれたのは……アリーナーだった。



「……ま、あたしたちが撮られてないのに、アンタたちだけ――ってのは不公平だしね。

 それに、朝岡だけならともかく、真殿くんまで巻き込むのはさすがにかわいそうな気もするし……。

 ――ってわけで、消してあげて、アガシー」



「え? あ、ハイ、アリナが言うのであれば……」



 ちょっと歯切れの悪い返事をして、軍曹はスマホを操作する。

 言った通り、動画を消してくれてるみたいだ。



 そして――。


 オレに向かって、イタズラっぽくニヤリと笑いかけてきた。



「ちぇ〜……。

 今の『消してくれ』を、あのとき約束したわたしへの『お願い』――ってことにして、無難に消化してやろうか、とも思ったんですけどねー」



 ――ん?


 あ〜……そうだった!



 あの〈アクアアサルト〉のラストバトルんとき、軍曹とそんな約束したっけ!



 ………………。



 そっか……オレ、軍曹に何でも『お願い』聞いてもらえる――んだよな。

 1000円以内なら。



「……? なに、その『お願い』って?」


「あ〜……それはですね……」



 アリーナーに聞かれた軍曹は……。


 オレに負けるなんて思ってなかった自分が、勝てば何でも願いを聞いてやる――って、そう約束したことを、苦笑しながら説明した。



「ま、あくまで1000円以内ってクギは刺しときましたから。

 『新しいゲーム機買え!』なーんてムチャは通りませんけどねー」



 ふふん、と得意気に鼻を鳴らす軍曹。



 でも……アリーナーは。



「…………」



 なんか、困ったような、怒ってるような感じで……ミケンにシワを寄せてる。



 で、見晴は……フンスって鼻息荒くしてるし……。



 凛太郎は凛太郎で、妙に興味津々っぽい――っていうか、いつの間にかテンもそっちに移動して、いっしょになってオレを見てる気がする。


 ……アイツ、凛太郎は天敵だとか言ってなかったっけ?



 ――なんだよ、そんなヘンなお願いするとか思われてンのかなあ……オレ。



「……で、アーサー、何をお願いするんです?

 軍人に二言はないのだ……何でも言ってみるがいいですよ!」



 ドン、ってエラそーに、軍曹は自分の胸を叩く。



 ん〜……そうだな……。

 じゃあ、やっぱ……アレ、かな。



 前から考えてたことだし……多分、みんないる今の方がいいだろーし。


 ちょっとハズいけどな……!




「ん、じゃあ軍曹……。


 えーと、その……これからも、ずっといっしょにいてくれよ!」




「「「 …………っ!!?? 」」」




「…………は…………?


 あの……アーサー、今――なんて?」




「え? ンだよ、こーゆーのハズいんだから何回も言わせるなよ……。

 その――いっしょにいよーぜ、って」



「な――! なな、な……。

 な、なんですかそれ……!

 なっ、なんのじょーだんですかっ!」



「じょ、冗談なんかじゃねーよ!」




「じょ――っ! じょ、冗談じゃない、って、それじゃ……っ!

 そそ、それじゃまるで、こく――っ!」




 なんだ? なんか……軍曹がやたらしどろもどろ――で良いんだっけ?

 あわあわっつーか、ヘンな感じなんだけど……。



 いや、ヘンっつったら、アリーナーもなんか固まってるし……。


 見晴と凛太郎も、やたら目ェキラキラさせて前のめりな感じなんだけど……。




「えーっと……。

 これからも、みんなといっしょにいようぜ――っての、そんなにヘンか?」




「「「「 ………………え? 」」」」



 オレが、もう1回言い直したら……。


 なんかみんなして、ハテナマーク浮かべたような顔でこっちを見てきた。



「え? いや、だからさ〜……。

 ほら、軍曹はもともと……えっと、フランス……からこっちに来てるだろ?

 だから、もしかしたら……小学校卒業したら、その……向こうに帰っちまうんじゃないか、ってさ……」



 ――そう。


 これは、オレがずっと、なんとなく気になってたことなんだ。




 ホントは、フランス人でもない軍曹は……。


 いつか、元の世界に帰っちまったりするんじゃないか――って。




 だけど……軍曹といっしょにいるのは楽しいし、軍曹も……みんなといると、ホントに楽しそうにしてるからさ。


 だから――。



 軍曹には、出来ればこれからもずっと、こっちの世界でオレたちといっしょにいてほしい……って、思ったんだ。



 ま、まあ、こんなコト言うの、そりゃ恥ずかしいけどさ……!



「その……今日もすっげー楽しかったしさ。

 また来年とかもみんなで来よーぜ、ってなったら……この約束使って『お願い』しとけば確実だろ?

 ――この先もずっと、みんなといっしょにいよーぜ、ってさ!」



「「 それならそうとちゃんと言え! まぎらわしいっ!! 」」



 自分じゃコレ、ケッコー良い『お願い』だと思うし、どうだ、って感じに笑ってやったら……。


 軍曹とアリーナーの2人から同時に、しかもハモりで、なんかスゲー怒られた。



 ついでに、見晴と凛太郎……それにテンまで、なんかわざとらしく大きなタメ息ついてるし……。



「な、なんだよ……オレはコレ、ナイスな『お願い』だと思ったのによー」



「……そうだね……。

 まあハッキリ言って、言い方が問題ありまくりだったけど――」



 みんなの反応に、ついブーたれてると……。


 アリーナーが、やれやれ、って感じで――今度は、ニカッと笑ってくれた。



「お願いそのものはナイスだよ、朝岡。

 うん……アンタにしちゃ上出来。よく言った」



 続けて……見晴や凛太郎も。なんか、ニコニコだ。



「まあ~、これはこれでいっかあ〜。

 ある意味、朝岡くんらしいもんねえ〜」


「ん。これぞ武尊(たける)



 なんだよ、オレらしいって……ホメてるのか? それ。



 あ、で――肝心の軍曹は、って言うと……。




「……まったく……しょーがないですねえ!

 まあ、約束は約束ですし?

 そこまで言いやがるなら、この先も鬼教官として、キサマらヘボ新兵(ルーキー)をビシバシ鍛えてやるとしましょーか。ね!」




 エラそーにふんぞり返りながら、今度はスゲー楽しそうに笑って――って、あれ……?



「軍曹……泣いてんのか?」



 笑う軍曹の、目の端っこから……ぽろって、涙がこぼれた気がして。


 オレが、それを言ったら……軍曹は、いきなり目元をぐしぐし擦って――。




「な、泣いてねーってんですよ! てか、泣く理由なんざないでしょーが!

 わたしゃこんなんで嬉しくなるよーな、さびしんぼの甘えんぼさんじゃないってんです!


 ……こりゃアレです、こんなおバカなお願いで良かった、きちょーなお小遣いを使わずに済んだ――って嬉し涙なんですよ! がるる!」





 そう文句っぽいこと言いながら……また。



 もう、すげー楽しそうに――笑ってた。


 ……みんなと、いっしょに。






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― 新着の感想 ―
[一言] アーーサーーっ なんてお願いをぉぉぉぉぉ……(バタリ)
[一言] 気になる上手な引きからの、素敵なお願いでした (*´▽`*) ちょっとドキドキしました☆彡
[一言] お願いがプライスレスであった件に付いて(笑) 一部女子大ウケ……腐の目覚めは早いんですね(笑)。
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