第229話 恐るべき小学生たちと、負けてはいられないJKたち
「すばしっこいな……見失ったか?」
「いや、ここのハズだ……。
――少年! もう逃げ場はないぞ!」
レッドチームとブルーチーム、両方がすげー激しく戦ってる最前線――よりずっと後ろ、こっちの陣地との中間あたり。
木が多くてジャングルっぽい感じになってるその場所で、オレは――。
オレたちレッドチームの側面を突こうと、フィールドを横から回り込み、橋を渡って攻めてきたブルーチームの敵を、近くのチームの味方といっしょに迎え撃っていた。
でも、強そうなにーちゃんとかは大体みんな、前線の方に突っ込んでいっちまってるから……。
味方って言っても、こっちの戦力はオレより小さい子か、おねーちゃんぐらい。
だから、敵の、運動神経も良さそうなにーちゃん数人に、徐々に押されちまって。
このままじゃヤバいと思ってオレは、敵のにーちゃんたちの周りをちょこまか動き回ってかく乱する戦法に出た。
ジャングルっぽい場所だから、木や草が多くて隠れやすいしな!
で、そうやってにーちゃんたちの注意を引いて逃げ回りつつ、小さい子やねーちゃんたちが距離を取る時間を稼いでたんだけど……。
とうとう、そんな目ざわりなオレを小さな遺跡の中に追い込んだ敵のにーちゃんたちは――。
みんなで集まって、周りを取り囲んできた。
表と裏、どっちの出口からオレが飛び出ても、一気に攻撃出来るように。
確実に仕留められるように。
でも――――それは。
「――今だっ! みんな、撃てえーーーっ!!!」
――そう!
敵を1つのところに集めるための、オレのワナなんだよな〜!
肝心のオレ自身は、遺跡の中に潜り込んですぐ、子供しかくぐれない、せまーい割れ目を抜けて――近くにあった木の上に登ってたってわけ。
で、そこから、オレが大声で出した合図で――。
さっき逃げ回りながら指示してた通り、小さい子やねーちゃんたちが、離れた隠れ場所から現れて……にーちゃんたちに一斉に突撃しながら攻撃!
「うおおっ!? げ、少年、いつの間にそんなトコにっ!」
「や、やべーぞ! このままじゃやられる! 一旦退却だ!」
オレたちの猛攻で仲間が1人、2人とポイを破られる中、あわてて逃げ始めるにーちゃんたち。
けど――
「うわあっ!?」
その退却の途中……。
こっち来るときに使った橋へ近付いたところで――いきなりポイを破られたにーちゃんが、顔の水を払いながら尻もちをついた。
「な、なんだぁっ?
包囲は抜けて、背中から撃たれても大丈夫なハズなのに――って、おわあ!」
そこでさらに、もう1人のポイも撃ち抜かれる。
「――ッ!! あれだ! あそこ!
あんなところにスナイパーがいるッ!」
ようやく気付いたらしいにーちゃんの1人が、ビックリした様子で指差す先……。
そこは、にーちゃんたちが渡って戻ろうとしていた、川になってる流れるプールの上にかかる橋――じゃなくて。
その下――川の、橋の影になってるところ。
そこに、イカダ型の浮きを使って寝そべっている……凛太郎だ。
「え――マジかよおい、この距離で!?
しかも水の上からっ!?」
「ンなバカな――って、うおおっ!?」
バカな、とか言いつつも、凛太郎の狙撃が正確に飛んできてるのを察知したにーちゃんは、あわてて動いて避ける。
「なんだあの子、プロかよ……っ!」
「いや、てか、浮きを持ち込むのってルール違反じゃ――」
「ザンネン、反則じゃねーぜっ?
アレ、初めからフィールドに用意してあったヤツだからさ!」
ここまで追っかけてきてたオレは、にーちゃんたちに答えながら、一気に猛ダッシュで突っ込んでいく。
……自慢じゃねーけど、オレ、射撃はニガテだから――。
確実にポイを破るには、ギリっギリまで近寄るしかねーんだよな!
「追ってきたのか……!
くっそ、少年、せめてお前ぐらいは倒すっ!」
「――凛太郎! そこはもうヤベー、ポイント変えろ!」
オレの方に振り返ったにーちゃんが撃ってくる水を、突撃しつつ頭を振ってかわしながら、凛太郎に叫ぶ。
そんで、こっちにサムズアップ残して川岸に飛び移り、また身を隠す凛太郎を見送りつつ……別のにーちゃんの攻撃を、今度は頭を下げてかわす。
さらにもう1人のにーちゃんの、真横に近い位置からの攻撃は、瞬間ブレーキをかけてやり過ごして――。
その一瞬、タメた力を使って、一番近くのにーちゃんに飛びかかるように手を伸ばし――。
超至近距離からの射撃で、ポイを撃ち抜いた。
「まま、マジかよ……っ!?」
「なんだコイツ、この距離でこんだけ撃って当たんねーぞ……!?」
にーちゃんたちが驚く声を聞きながら、オレは一旦距離を取って、すぐ近くの木の陰に隠れる。
……まあ、実は……思ったより当たらねーことには、オレも驚いてンだよね。
なんつーか、攻撃される瞬間の『気配』みたいなのが、こう、なんとなく分かっちまうんだよなー……。
ティエンオーに変身してるときならともかく、今はフツー状態なのにな。
なんだろな〜……あの〈呪疫〉とか、グライファンって剣とかに、マジにヤベー攻撃を何回もされて……。
師匠にも、修行でスゲー技を見せてもらったりしたから……。
だから、変身とかカンケーなく、そーゆーのに慣れてきた――とかなのかな。
……つっても、まあ……。
分かるのは『なんとなく』ぐらいだし、かわすのはギリギリなんだけどさ。
「くっそ……!
こっちのチームの金髪ポニテちゃんもとんでもねえけど、この少年たちも大概だな……!
どーなってんだよ、最近の小学生は……!
――ああもう、とにかく退却だ!」
あらためて、背を向けてあわてて逃げ出していくにーちゃんたち。
さすがに今度は、凛太郎の狙撃はなかった。
……にしても……。
「へへっ……!
なんか騒ぐ声は聞こえてたけど、やっぱ軍曹、スゲえ大暴れしてンだな……!
対決すンのが楽しみだぜ……!」
「……ザンネンながら、その機会はないけどね――」
「――いっ!?」
反射的に、ヤバいって感じて横に飛び退くと――。
それとほぼ同時に、オレが隠れてた木に、バシャって水が当たった!
「……朝岡。アンタは、ここでアウトだから」
「アリーナーか……!」
隠れてるみたいで、姿は見えない。声だけ。
でも――もちろん分かる。間違いない、アリーナーだ。
――このままボーッとしてたらやられる……!
そう感じたオレは、すぐさま別の木の陰に隠れた――つもりだったけど。
また、そこを狙って水が飛んできて……あわててかわす。
でも――やっぱり、アリーナーの姿は見つけられなかった。
多分、撃ってすぐ、オレから見えにくい方に素早く移動して隠れてるんだ……!
「へへっ……! やるな、さっすがアリーナー……!
相手にとって不足なし、だぜ!」
どこから撃たれても、次はちゃんと見つけられるように――って、集中しながら。
スゲー緊張感なのに……オレは、ついつい笑っちまってた。
* * *
「いやあ……やっぱ思ってた通り、楽しいなあ……!」
フィールドの中で一番大きな、水に沈んだ遺跡の中を、適度に外の敵チームを狙撃しながら移動しつつ……アタシは思わず、満足からペロリと唇をなめていた。
もちろん、撃ち合いが純粋に楽しいってのもあるけど……。
常に周囲の人間の視界とか思考を察知して計算、その死角を突くように移動、位置取りして、影さえ悟らせないようにしながら敵を倒していく――っていうのが、実に面白い。
うーん……気配を殺し、他者の死角を利用して姿を消すってのは、忍者の修行で散々やってきたことなんだけど……。
あっちが、途中、こっそりスマホで動画でも見てやろうかってぐらいクソつまんないのに対して、こっちの楽しいことといったら……!
いや〜、修行と同じようなことを、しかも楽しくやれるってサイコーじゃない?
むしろ、これを修行にしちゃえばいいんじゃない?
おお……スゲーぞアタシ、ナイスアイディア!
まあでも……そうやって、『本業』の方に通じるものがあるからかな。
ルール上、正面方向から水撃ってポイを破らなきゃいけないのに……。
ついつい背後を取って、今なら体術で気付かれずに意識刈り取れるな――とか考えちゃうんだよねぇ……。
う〜むぅ……。
アタシ、将来カレシ出来たときに……。
デートの待ち合わせに遅れて行って、カレシの後ろから近付いて「ごめんね、待った?」とか、可愛く言えるのかなあ……。
もっと言えば、目を塞いで「だ〜れだ?」とかさ!
……正直……このままだと。
ついつい目じゃなく口を塞いで、一気に絞め落としちゃいたくなるんじゃないかなー……って――。
………………。
あああ……せっかくの楽しい時間なのに、ついついユーウツなこと考えちゃったよ。
いやもうホント、花のJKに忍者要素なんざこれ以上ないほど不要だわー……。
『このアクセ、ビーズじゃなくて非常用の丸薬なの!』……とか言ったって、誰がときめくっつーんだよ!
「……なーんて、心の中ではヒートアップしてるけど、お仕事はちゃーんとこなしますよ――っと」
アタシは、遺跡の高所にある、浅く狭い水路のように水が溜まっている場所に首まで浸かって姿を隠しつつ……。
こっちのチームを狙撃しようと場所取りをしていたスナイパーのおにーさんのポイを、逆に撃ち抜いてあげる。
「……んんん〜……」
今の……ヒットはしたけど、ちょい誤差があったな。
20メートル程度の距離だからそれで済むけど、もっと遠距離なら外れてたか……。
そう考えると……あの子、凛太郎くんはホントにスゴかった。
さっき、ちょうどいい感じの高い場所から様子を窺ったけど……。
まっさか、水の上なんて不安定なところから、あれだけ正確な狙撃をするなんてね……!
しかも――武尊くんの指示に従ってポイントを離れるとき、あの子、一瞬こっちを見たんだよね。
多分……アタシの存在に気付いてたんだ。
もしあのとき、アタシがライフルを構えて狙ってたら……逆に、撃たれてたかも知れない。
……そう言えば……あの子、基本無表情だし、無口だし……。
まさか正体は、背後に立つと問答無用で殴られる、大阪府十三出身のモデル兼業超A級スナイパー〈デルモ13〉とかじゃないよね……?
………………。
うん、無いな。
そもそも顔立ちが、十三出身スナイパーが劇画調なら、あの子は少女マンガ調――それこそ、深窓の『令嬢』(ここ重要)みたいな美少年だし。
まあ、それはともかく……だ。
気配を殺してたアタシの存在に気付くぐらいだからね……大したヤツなのは事実なわけで。
あの子、アタシにとってのボスキャラな感じがするよ――ヒシヒシとね。
「う〜ん、スゴ腕のスナイパー同士の勝負……たまらんなあ。
……ワクワクするねえ〜……!」
アタシは、水に浸かったまま、ライフルを肩に担ぎ上げる――
……という動きから……。
そのまま銃身をさらに倒し、銃口を背後に向け――引き金を引いた!
「――ぅわわっ!?」
そして、背後から聞こえてきたそんな驚きの声を完全に無視して、素早く水路から上がり……脇目も振らず、近場の壁の裏へと身を隠す。
「ふっふふー……いかんなぁ、ラッキー? 乙女の背後に忍び寄ろうなどとは。
お? つーか、今こそ、このセリフの出番じゃない?
――オレの背後に立つな!……なーんちて」
「……足音も立ててないし、完全に不意を突けたと思ってたのになあ……!」
壁の向こうへ語りかけると……ラッキーの残念そうな声が返ってきた。
まあ、このアタシにギリギリまで気付かせなかったのは大したものだけどね。
さすが、魔法の国を救った魔法少女――ってトコかな。
……いや、もしかしたら、お客さんの視界や意識を邪魔せず、さりげなーく給仕するためのウェイトレススキルの1つかもだけど。
「でも美汐、なんで気付いたの?」
「タネ明かしなんてすると思う?……って言いたいトコだけど、まあいいでしょ。
――ラッキー、アタシがいた場所は?」
「そこの狭い水路の中」
「つまり?」
アタシが、静かにゆっくりとライフルの弾倉を替えつつ、しばらく黙っていると――。
ややあって、ばちゃん、と水を叩くような音がした。
「……近付きすぎて、水に映ったかぁ〜!」
「ご名答。必殺を期したのが裏目に出たねえ。
まあ、ポイを狙わなきゃならないルール上、背後から有無を言わせずハチの巣――ってわけにはいかないしねえ」
「まったく……思ったよりやるじゃない、美汐。
……なんか、あんたは見逃すと厄介なことになりそうな気がするから……。
このまま追い込んで、ここで倒しちゃうよ!」
「ふーん……さすがラッキー、なかなか鋭いじゃない?
でもザンネンながら、アタシの運命のラスボスは凛太郎くんって決めてるんだよね〜。
だから――」
アタシは、ラッキーが壁のこちら側へ回ろうと動き出した足音に合わせて――
「……ウェイトレスJKには、中ボスとして沈んでもらうよ!」
牽制のために、壁の角ギリギリに1発撃ってから――。
改めて距離を取るべく、階段の方へと走り始めた。