第228話 〈アクアアサルト〉開戦! 勝つのは赤か青か!?
「さあ〜……!
レッドチーム、ブルーチーム、双方準備はい〜ですかぁ〜っ!?」
――フィールドが見渡せる高い場所に移動した司会のおねーさんの声に、アタシたちがいる戦場の空気が、一段と張り詰める。
まさに、戦闘開始秒読み状態……って感じだね〜。
「ふふふ……期待してるぞ、ミッシー上等兵!」
「イェッサー! 援護射撃はお任せ下さい、軍曹殿!」
アタシの方を見て、目元防護用のゴーグル越しにニヤリと笑うアガシーちゃんに、ビッとライフルを立てて敬礼してみせる。
「あ〜……美汐さん、あんまりこの子のウザテンションにマジメに付き合わなくてもいいですからね?」
「ダイジョブだよ、亜里奈ちゃん!
やっぱこーゆーのは、楽しくノリノリでいかないとさ!」
一方、申し訳なさそうな亜里奈ちゃんには、ゼンゼン気にしてないと笑いかけてあげた。
――さて。
この〈なみパー〉プールでいかにも偶然出会って、たまたま一緒にイベントに参加することになったような形のアタシたちだけど……当然、計算通りだ。
昨日、〈常春〉で武尊くんたちがしていた会話から、彼らが今日こうして〈なみパー〉に来るのは分かってたからね。
ラッキーを遊びに誘う体で、アタシもやって来たというわけ。
目的はもちろん……赤宮センパイが〈クローリヒト〉なのかどうか――。
その辺の話が聞きやすくなるように、まずは親交を深めるためだ。
同時に、特に武尊くんなんかは脇が甘いイメージがあるから、一緒に遊んでるとなにか重要な情報をポロリとこぼしてくれるかも知れないなー……なんて、淡い期待もあったりする。
……まあ、武尊くんとクローリヒト――そして赤宮センパイが、実はまったくの無関係だって可能性もあるにはあるんだけど……。
それならそれで、楽しく遊んで良かったな〜、ってなるだけだし。損はしないよね。
――で……このウォーターサバゲーイベント、〈アクアアサルト〉だけど。
これに参加しようって流れに話を誘導したのも……もちろん、このアタシだ。
ミリタリー好きらしいアガシーちゃんもいるし、男子たちはバトルとなると乗っからずにはいられないだろうしで、難しくはないだろうって見立ててたけど……予想以上にすんなりと話が運んでくれた。
まあ、一緒に過ごして友好を深めるのが目的だから、必ずしもこのイベントに参加しなきゃいけないってものでもなかったんだけど……。
じゃあ、なぜこだわったかと言えば――!
何よりアタシが、参加してみたかったからなのだ!
……いや〜……楽しそうだな〜、って前々から思ってたんだ、ウォーターサバゲー。
そこに来て、仕事も兼ねて〈なみパー〉行くことになって――そこでこうしてイベントとしてやってるとなれば、これはもう出るしかないでしょ!……ってわけで。
あ、ちなみに銃器についてだけど……。
実は忍者だからって、飛び道具は手裏剣オンリーってわけでもなく――。
現代じゃ当然のように、銃器の扱いも一通り叩き込まれる。
……いや、そりゃそうでしょ……手裏剣で銃に勝てますかっての。
そんなトンデモ忍者はフィクションにしかいない――リアル忍者は、素手で首をはねたりは出来ないのだ。
なので……実はアタシは、銃の扱いは結構得意だったりする。
それに、わりと好きなんだ――なんせ忍者っぽくないからね。
……ゆえにまあ、こうしたサバイバルゲームには興味津々だった、と。
さらに今回で言えば、戦友、あるいはライバルとしてターゲットと仲良くなれれば一石二鳥――だしね。
――さて、それはともかく。
この〈アクアアサルト〉のルールだけど……。
別に難しいことはない。敵チームと、ヘッドバンドで固定された額のポイを狙って撃ち合って……ポイが破れた者はアウト。
そうして、相手チームを全滅させるか、制限時間経過後により多くの人数が生き残ってれば勝ち。
単純明快な、まさにサバイバルゲーム。
他に、細かいところだと……。
フィールド外に出るのは当然失格だから、所持している弾倉への給水は各所に設けられた給水ポイントで行う、とか……。
額のポイを手でガードしちゃダメ、ってのがあるかな。
あ、あとはもちろん、当たり前のことだけど水鉄砲以外の攻撃は禁止だ。
暴力ダメ、ゼッタイ。
……で、次はフィールド。
このプールエリアの一角……水に沈んだ遺跡の周囲、わりと広い範囲がそうだ。
フィールド内には流れるプールも引き込まれてきてるんだけど、さすがにこのイベント中は、ここへ至るルートは封鎖されてる。
でも区切られた流れるプール自体は、そのまま川になって、フィールド内を大きく円を描いてるから……これをどう使うかも戦術の1つかな。
落ちたらポイが破けて1発アウトの可能性もあるし、ムリヤリ渡ろうとしたら、動きが鈍って狙い撃ちされそうだし。
でもって、この一帯が遺跡を模した場所だけに、傾いた柱とか、身を隠せるオブジェクトもそれなりにあるし……。
他にも、崩れかけた(感じにしてある)建造物が各所に点在してたり、川沿いには橋がかかってたりで、全体的にアスレチックな造りをしているし、ポイントによっては高低差もあるから――。
サバゲーのフィールドとしては、ただ正面切って撃ち合うだけにはならない――相当に面白い場所って言えると思う。
「お……あっち、崩れた遺跡の奥の方にアーサーたちの姿が見えますね。
あの位置取り、取り敢えずすぐには突撃しないで様子見って感じですか……」
――視線を走らせると、アガシーちゃんの言う通り、居並ぶレッドチームの奥の方に武尊くんとラッキーが見える。
……まあ、こっちのチームもそうなんだけど、やっぱり開始と同時に突撃する気満々で、前のめりな位置にいるのは血気盛んなおにーさんたちだ。
アタシたちみたいな女子供は、その前衛のヤローどもの勢いを避けて、ちょっと様子を見てから動こうって慎重な位置にいるのが多い。
――に、しても……。
「でも……白城さんと朝岡は見えるけど……真殿くんは?」
「はて、そう言えばマリーンのヤツはどこに……」
そう――。
敵チームの知り合い3人の中で、凛太郎くんの姿だけが見えないのだ。
……あの子って、確か……スナイパーライフル選んでたよね。
まさか――。
「さあ〜……カウントダウン、開始しますよぉ〜〜ッ!
フィールド外から応援するギャラリーの皆さんもご一緒にっ!
――いきます!
ごぉ〜っ!……よぉーんっ!……」
さっと、改めてフィールドを目で洗ってるうちに……司会のおねーさんのカウントダウンが始まった。
反射的に、近くの崩れた柱の陰に身を潜める。
「ぃよぉーっし……! ついにこの赤宮シオン、〈金色尻尾の悪魔〉と皆に呼ばれ、恐れられしそのチカラを解放するときが来たようですね……!」
「いや、誰がいつそんなダサい名前で呼んだの。
――っていうかアガシー、あんまりムチャなことはしないでよ?」
すぐ側の柱の陰では、今にも飛び出していきそうなアガシーちゃんを、亜里奈ちゃんがなだめている。
そうしているうちに……カウントはゼロになって――
「ゼロ〜っ! 戦・闘・開・始ィーーーッ!!!」
「「「 うおお〜〜ッ!!! 」」」
司会のおねーさんの勇ましい声とほぼ同時に、互いの陣営の前衛――血気盛んなおにーさん方が突撃を始めた。
……と、思ったら――。
「――ぶへっ!?」
我らブルーチームの先陣を切っていたおにーさんが、いきなり、情けない声とともに尻もちをつく。
何事かと周囲のおにーさんも立ち止まる中……。
座り込んだおにーさんの顔はびしょ濡れで――額のポイは、見事に破れてしまっていた。
「え? ちょ、ちょっ!? まだ撃ち合ってないんじゃ――」
「……狙撃だ! 全員散れーーーっ!」
アガシーちゃんが声を上げたことで、我に帰ったおにーさんたちが、あわててすぐに四方に散る。
――それとほぼ同時に……。
別のおにーさんが立っていた場所を貫く形で、びしゃりと水が着弾した。
「――ミッシー上等兵!」
「……見つけた! 2時方向、遺跡2階の陰!」
アガシーちゃんに応えながら、着弾から逆算した場所に狙いをつけるも――。
一瞬、すぐさま身を翻して隠れる狙撃手の姿が見えただけ。
でも、誰かは分かった。やっぱり――!
「……凛太郎くんだ! やってくれるね……!」
多分、有効射程ギリギリだろう、20メートル近く離れた場所からで、あの精度。
そしてあの見事な身の引き方……!
まったく、大した不思議ちゃんじゃない……! 面白くなってきた!
「やっぱりか……さすがマリーン!
ふふふ……これは負けてられませんね……っ!」
「! ちょ、アガシー、危ない!」
ガマン出来ないとばかり、物陰から飛び出すアガシーちゃん――。
それを、前方の柱の陰から狙うおねーさんスナイパーがいることに気付いた亜里奈ちゃんが、鋭く声をかけるも、アガシーちゃんは足を止めず……。
――だけど。
射線上に飛び出したアガシーちゃんは、なんと。
自分を狙って飛んできた水を、自らの射撃で弾き返し――次いでの2射目で、そのスナイパーのポイを撃ち抜いてしまった。
「えええ、ウっソ~っ!?」
「クソ、やるな嬢ちゃん!」
さらに、近くまで攻め寄せていた向こうのおにーさんが、そのスキを突こうとハンドガンを連射するも……。
アガシーちゃんは側転でそれをかわす――ばかりか、回りながらの反撃で、そのおにーさんのポイも撃ち抜く。
うわ、すっご……!
神楽舞いのときから運動神経バツグンだとは思ってたけど、これほどとはねー……。
この子、忍者にスカウトしちゃってもいいんじゃない?
……アタシの代わりに。
「お、おお……! あの金髪の子、スゲーな……!」
「めっちゃカワイイ上にあの動き……!」
「さっき狙撃されてるって教えてくれたのもあの子だよな……」
「おい、こりゃ負けてられねーぞ!」
アガシーちゃんの動きに感動したのは、アタシだけじゃないらしい。
周りの人たち――特におにーさん方が、大きく鼓舞されたみたいだ。
そして、それを感じ取ったのか、アガシーちゃんが号令をかける。
「よーし……! 行くぞ、ヤローども!
我に続けーーーいっ!!!」
「「「「 イェッサーーー!!! 」」」」
「あ〜、もお〜……!
だから、ムチャなことするなって言ったのに〜……っ!」
見事におにーさん方を率いたアガシーちゃんが突撃する後ろから、タメ息をつきながらついていく亜里奈ちゃん。
その一団を、柱の上から狙おうとしていた敵スナイパーのポイを撃ち抜きながらアタシは――。
……ホント、思った以上に面白くなってきたなあ……!
そんな、湧き上がる感情に胸を躍らせながら――。
でも、気配は殺しつつ……物陰から物陰へと、身を潜めながらの移動を開始した。




