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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
17章 夏のバカンスに、垣間見る黄金の裡と小さな聖霊の勇者 (後編)
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第221話 プールへ向かう電車にて……烈風鳥人、許可申請中



 ――明けて翌日、8月2日、早朝……。



「お〜……こいつぁスゲー、思った以上の賑わいだねい!」


「ホンマやね! なんかワクワクしてくるなあ〜……!」




 言葉通りに、楽しそうにはしゃぐおキヌさんと鈴守(すずもり)……そして俺の3人は。


 昨日のうちに交わした約束通り、港で開かれる朝市へとやって来ていた。




 もっとこじんまりとしたものを想像していたんだけど、意外や意外、さすが観光地というべきか。


 ずらりと、食材ばかりじゃなく、民芸品らしいものまで売るような様々な露店が並び……その間を、朝早い時間とは思えない数の人たちが行き交っている。



 まさに活況――見ているだけで心躍るってやつだな。



「来てみて良かったね、赤宮(あかみや)くん!」


「ああ。ホント、来た甲斐あったよな、これ」


「……とりあえず回ってみようや、お二人さん!

 朝メシの食材もゲットしないといけないしな!」



 おキヌさんの号令一下、俺たちは朝市の人混みへと足を進める。



 まるで動けないような大混雑……にはほど遠いけど、油断するとはぐれたりしそうだし、気を付けないとな。



「昨日、バーベキューであんだけ肉食ったんだ……やっぱり朝メシはあっさりめが良いと思うんだけど、どーよおスズちゃん?」


「そうやね……せっかく港に来てるんやし、お魚にしよか?

 あとは、シジミのお味噌汁とかがええかなあ……?」


「確かになー。じゃあ、他にはド定番におひたしってとこかなー」



 露店を見て回りながら、楽しそうに相談する女子2人……。



 俺は基本、その後ろからついていく感じだけど……うん、いいよな、こういうのも。



 ……にしても、だ。

 さっきから、ずっと気になることがあって――。



「……いや~、イイ匂いするよなあ……。

 朝メシの準備そっちのけで、買い食いしそうになっちまうよ」



 思わず、ボソリとつぶやいてしまう俺。



 ……そう。

 これだけ賑わってて、いろいろなお店が出てるってことは、当然お食事処もあるわけで……。



 そこから漂う、すげーイイ匂いがまた鼻をくすぐり……朝の空きっ腹によ〜く響くのである。



「も~、あかんて、赤宮くーん……。

 そんなん言うたら、ウチも誘惑に負けてまいそうになるや〜ん……」


「ホントだよ〜……今、必死に海鮮汁の誘惑に抗ってンのにさ〜……」



 俺の発言に素早く反応して振り返った鈴守とおキヌさんが、揃って、へにゃっと情けない顔で俺を見上げてきた。


 おキヌさんはまだしも、鈴守がこんな顔するのはなかなか珍しいかも。



 うむ……いいものを見た。



「ゴメンゴメン、悪かったよ。

 まあでもせっかくだしさ、なんなら明日の朝はみんなで頑張って早起きして、こっちに朝メシ食いに来るか?」



「おお……それは確かに良い案だなあ。

 普通にお店に行くのと違って、こういうトコで食べるのって、また特別な味わいがあるもんなあ」


「あ、うん、ウチもええと思う!

 ……って言うか、こんなおいしそうなん、ガマンしたまま家に帰りたないもん!」




 俺の提案に、おキヌさんも鈴守も二つ返事でオーケーを出してくれて……。



 今日の朝メシの前に、まずは明日の朝メシが決定したのだった。











     *     *     *




「遅い! 朝岡(あさおか)、遅刻!」



 ……朝、駅前の待ち合わせ場所に到着した瞬間――オレはアリーナーに怒られた。



 他のみんな……軍曹はもちろん、見晴(みはる)凛太郎(りんたろう)も揃ってて……オレが最後だったみたいだ。



「え~、細かいこと言うなよなー……10分も過ぎてねーじゃん」


「そーゆー問題じゃない。

 ……なにか、みんなに言うことは?」



 アリーナーにジロッとニラまれて、オレは……。


 頭を掻きながら、小さく頭を下げた。



「う……みんな、悪ィ」



 それに合わせて、頭の上でテンが跳ねた――っていうか、コイツ多分、『バカ者め』ってキックしてる気がする。


 なんだよ~、お前だって寝てたじゃねーかー……。



「ふうん……? 朝岡にしては殊勝だね。

 ま、それでカンベンしてあげるよ」



「まったく……新兵の分際で集合に遅れるなんざ、本来ならタダではすまさんところだぞ、アーサー!

 我らが大佐の温情に深ぁ〜く感謝するんだな、シット!」



 頭を上げた瞬間――。


 そこを狙ってたらしい軍曹のポニーテールビンタが、顔面にクリーンヒットした。



「うわぶっ!?

 ……いい、いえしゅ、まむっ!」



「……さて、それじゃ電車まであんまり時間も無いし、早速行こっか」


「あれ〜?

 でも亜里奈(ありな)ちゃん〜、朝岡くんが遅れちゃったから、次の電車待たなきゃいけないんじゃないの〜?」



 アリーナーと軍曹がすばやく歩き始めたのを追いかけながら、見晴が聞くと……。


 アリーナーは、ふふん、とオレを見やりながら、勝ったように笑った。



「大丈夫だよ。

 ……そもそも集合時間、朝岡が遅れて来るのを計算して早めにしてあったからね!」







 ――目的地の〈なみパー〉がある水南(みなみなみ)までは、けっこー遠い。


 確か、電車で1時間くらいはかかるハズだ。



 ……だから、アリーナーの計算通り、ちょうどホームにやって来た電車にすんなりと乗り込めたオレたちは……そのまましばらくのんびりすることになった。



 座席が向かい合わせになってるタイプの電車だから、オレたちは男子と女子に別れて座る。


 そしたら――。



「さーて……やっぱり乗り物で長旅となれば、コレですよね!」


「うんうん、だよね〜」



 早速、軍曹と見晴がバッグをゴソゴソして、おやつをアレコレ取り出し始めた。



「気持ちは分かるけど……食べ過ぎちゃダメだよ?」



「わーかってますって!」


「ますって〜」


「ますって」



 軍曹と見晴に続いて凛太郎も、いつの間にかおやつを取り出してた。


 ……こういうとき、凛太郎はスゲー速いんだよなー。



 で、凛太郎が出したのは……まあ、オレはコイツの好きな物知ってっから別に気にならねーんだけど……。



「……って、真殿(まどの)くんシブいよ! 『カリカリ梅』って!」



 さすがのアリーナーも、凛太郎のチョイスには驚いてた。



 でもそんなのまるで気にしない凛太郎は、フツーにみんなの真ん中に開けた袋を差し出して、「はい」って言う。



 アリーナーも、驚いてはいたけど、キライってわけじゃないみたいで……ありがとうって言いながら、早速1つ口に放り込んでた。



 続けて、軍曹に見晴、オレも……みんなでカリカリ梅を食べる。



「うむうむ、シブいが良いチョイスだぞマリーン!

 うめは……うめー!」


「うめはうめ〜」



「……2人して恥ずかしいダジャレを連呼しないの! も〜……」



「うめはうめー!」


「うめ、うめー」



「……って、アンタらもか! 男子!」



 オレと凛太郎が、からかうみたいにダジャレを繰り返してやると……。


 アリーナーはぷりぷりしながら、軍曹が袋を開けてた〈カンとチー貴婦人(マダム)〉を1つ取って、ボリボリと噛み砕く。



 ……怒ってそう――に見えるけど、まあ、アリーナーが本気で怒るとこんなんじゃねーからな。

 フリだけ、ってやつだよなー。



 多分、なんだかんだで、あんまし顔には出さないけど……。


 アリーナーも今日の〈なみパー〉、けっこー楽しみにしてて、意外とテンション高ぇんじゃねーかなー。




「……あ、そう言えば、師匠たちどーしてんだろ。

 アリーナー、連絡とかあった?」



 窓の外の流れる景色見てて、ふと師匠たちが旅行行ってること思い出して、聞いてみたら……。


 アリーナーはなんか眉間にシワを寄せながら、タメ息をつく。



「……野生のイノシシと戦った、ってさ」



「え……なにそれ、マジで!?

 うっわ、すっげ、さっすが師匠、かっけぇーーっ!」



「あ〜、そのお話、わたしもお兄ちゃんから聞いたよぉ〜。

 お兄ちゃんがイノシシさん引き付けてるところに~、山の高いトコから~、ワイヤーをびゅーん! って滑り降りてきた裕真(ゆうま)お兄ちゃんが~、どかーん! ってキックしたんだって〜!」



「……そうそう。で、そこにさらに援軍として駆け付けてきた、うちのクソヤロー兄上とマモルくんと3人で、イノシシを打ち上げて、ボッコボコのボコボコに、降りてこれないぐらいの空中コンボでハメ殺したらしいですよ!」



「アガシー、盛り過ぎ……」



 見晴と軍曹が、ハデに身振り手振りで、師匠たちがスゴかったことを教えてくれる。


 アリーナーはちょっと頬引きつってるけど……多分、そんなには離れてないハズだよな!



「すっげ、マジでっ!?

 うおおっ、超かっけぇぇーーーっ!」



 ……だって、そりゃーなー!


 師匠にリアニキだけでも勇者と魔王の最強コンビなのに、そこにまもる兄ちゃんも加わったら、そんなのもう、超最強だもんな!


 イノシシどころか、クマだって敵じゃねーっての!



 ああ〜、くっそー、直に見てみたかったぜ〜……っ!


 誰か動画とか撮って…………ねーよなあ、やっぱ。



「野生イノシシ……強い。かなり。

 それやっつける師匠たち……さすが。すげー」



 凛太郎も、表情はやっぱりいつも通りだけど、鼻息がちょっと荒い。


 ……だよなー、男子ならアツくなるよなー!



「……そう言えば、千紗(ちさ)さんもカバンのヒモを使って、山の上からワイヤー滑り降りてきたって話だったっけ……」


「え、マジで!? 千紗ねーちゃんも!?

 体育祭んときからスゲかったけど、やっぱあのねーちゃんもスっゲーよなあ!

 かぁっけぇーー!」



 見た感じ大人しそうだし、わりとちっこいし、話してもスゲー優しいねーちゃんだけど……。


 あの運動神経とか、マジにスゲーもんなあ……!



「まあ、そうだね……それはあたしも同意する。

 お兄も、『キモ潰した』って言ってたし……意外と、とんでもなく大胆って言うか」


「でもアリナ、チサねーさまのそんなところもお気に入り、でしょう?」


「……まあね。今回のことだって、お兄を助けようって必死だったからだろうしさ。

 そういう一生懸命なところとか好きだし……何て言うか、年上のお姉さんだけど、かわいいなあ……って思っちゃうよね、やっぱり」



「うんうん、やっぱり恋する乙女は最強なんだよ〜。

 ――ね〜?」



 ポテチをポリポリとかじりながら、急に見晴がずいっと身を乗り出してきたと思うと……。


 なんか意味ありげに笑いながら、軍曹とアリーナーを交互にチラチラと見る。



「……な、なに、見晴ちゃん? なんか言いたそうだけど……」


「う〜ふ〜ふ〜……それはぁ〜」



 見晴が何か言おうとしたそのとき――スマホの着信音が鳴った。


 その見晴のポケットからだ。



「あ。ママから〜。

 ……ごめーん、ちょっと向こうで電話してくるね〜」


「え? あ、うん……」



 スマホを見た見晴は、相変わらずのふわーっとした足取りで、席を立って人がいない方へ歩いて行った。



「……また見晴ちゃんは……何を言うつもりだったんだか……」



 苦笑しながら、見晴の背中を目で追うアリーナー。




 ……と、その間に……。


 見晴がいないならちょうどいいと思って、オレは軍曹と向かい合う。




「な、なあ軍曹……お願いがあるんだけど!」



「な、なんですか急に、あらたまって……。

 ――はっ、まさか!

 今になって、おサイフを忘れたからお金を貸してくれ……とか、たわけたことをぬかすつもりじゃないでしょーね?」



「ち、ちげーよ! そうじゃなくて……!

 その……許可が欲しくてさ!」



「許可…………発砲許可?」



 軍曹は首を傾げながら、バッグからいつものエアガンを出してみせる。



「それもちげーよ! だからさ、その……。

 ――ほら、今、師匠もリアニキも旅行で広隅(ひろすみ)にいないだろ?

 だから……昨日は大丈夫だったみたいだけど、今日も何も出ないとは限らねーし!

 だから――」



「……もし、お兄たちが帰ってくるまでに〈呪疫(ジュエキ)〉が出るようなことがあったら……。

 自分も、〈ティエンオー〉に変身して戦わせろ、って……そういうこと?」



 アリーナーがマジメな顔で、オレの言おうとしてたことをフォローしてくれた。


 オレはすぐにうなずく。



「そ、そう! そういうこと!

 軍曹が1人でなんとかする気なのかも知れねーけど、オレだって、手伝いぐらいは出来ると思うしさ……!」



 軍曹も、マジメな顔で腕組んで、「うーん……」ってうなる。



「勇者様から変身を止められていること、ちゃんと覚えてますよね?」



「わーってるよ! でも師匠は、『勝手に変身するな』って言っただけで、『二度と変身するな』とは言ってねーし!

 だからこーやって、軍曹に許可くれって言ってるんだろ?」



「基本おバカなくせして、こーゆーことは良く覚えてて、頭も使いやがりますねえ、まったく……」


「軍曹がつえーのは知ってっけど、1人よりは2人の方がいいと思うしさ!」


「……1人の方が、身軽で良いときもありますけどね。

 ふーむ……アリナはどう思います?」



 腕組みしたまま、軍曹がアリーナーをチラリと見る。


 答えるアリーナーは……なんか小難しい顔で、ちょっとうつむいてた。



「あたしは……戦いのこととかは、分からないから」


「そうですか……ふーむぅ……」



 軍曹は今度は、オレの方に顔を向ける。


 ……そんで、身を乗り出しながら……青くて大きな目で、じっとオレを見つめてきた。



「……なな、なんだよ軍曹っ?」



 ちょ、ちょっと顔、近くねーか……?



「いえ、調子に乗って暴れたがってるだけじゃねーだろーなコイツ……と、確認を」



 オレから離れて、シートに座り直すと……。


 軍曹は目を閉じて何かを考えるみたいにしながら、〈コアラたちの行軍(マーチ)〉を立て続けに3つ、口に放り込む。



 そんで、それを飲み込んでから……小さくタメ息をついて。



 薄目でオレを見て、言った。




「……とりあえず、それについては考えておきます。

 ひとまずは――保留、ってことで」






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― 新着の感想 ―
[良い点] 昔旅行で海辺の街に行った時のことを思い出しました。 あちこちで魚とか貝とか焼いてるんですよね…… そりゃもうおスズちゃんもへにょりとなりますわー。思い出しても美味しそうでしたよ、あれは。 …
[一言] 朝市の買い出し風景が素敵です (*´▽`*) 美味しい香りが漂ってきそう♪
[一言] なんか盛大にフラグを立ててる子がいるけど、何も起こらなければ問題は無いはずだ。 そう……何も起こらなければ……(※フラグ)
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