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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
16章 夏のバカンスに、垣間見る黄金の裡と小さな聖霊の勇者 (前編)
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第220話 黄金はその裡もまた、輝く黄金であるのか



「「 はっ! 」」



 様子見のような形で、何合か打ち合ったその後――。



 俺と(まもる)、2人の呼気と――木刀が。

 真っ正面からぶつかり合い、重なる。


 互いにタイミングを計ったような同時の打ち下ろしから、そのまま激しい鍔迫り合いに。



 いや――違うな。


 『計ったような』じゃない……本当に俺の動きに合わせてきたんだ、衛のヤツが。



「スゲーな……一種の『せん』ってやつか?

 俺の動きを確認してから合わせてきたよな、今」



 ギリリ……と木刀を擦れ合わせながら、俺は素直な感嘆をもらす。


 衛は衛で、楽しそうに片頬を釣り上げてニヤリと笑った。



「それが分かるんだから、裕真(ゆうま)、キミだって相当にセンスがあるよ。

 言っちゃなんだけど……大人でも、そこまで見切れない人は普通にいるから――ね!」



 拮抗していた状態から、一瞬、巧みに力を逸らし――俺の身体が流れるのに合わせ、木刀を払う衛。


 続けて、返す刀で額を――面打ちを狙ってくるのを、必死に打ち払いながら距離を取る。



 その強引な動きで、当然俺の体勢は崩れ――。


 しかしチャンスのはずが、衛はここぞと攻めかけては来ず……余裕をもって自分も構え直していた。



「……さすがの貫禄だな、まったく……」



 思わず、軽口が口を突いて出る。



 もちろん俺は、勇者としてのチカラは抑えた上で、この剣道勝負をしているわけだけど……。



 ――やっぱりというか、衛は強い。


 こうして実際に手合わせするとはっきり分かる。



 ある意味、俺みたいな特技ナシの人間より、ずっと〈勇者〉に相応しい気がするんだがな……。


 ホント、異世界の連中も、何を基準に喚び出す人間選んでるんだか。



「それと衛、センスあるって褒めてもらえるのは嬉しいけどさ……お前が手加減してくれてるから、なんとか形になってるだけだろ?

 ……て言うか、そもそも衛は剣道何段なんだ?」



「……僕? 初段だよ。

 段位としては一番下っ端だね」


「げ……ウソだろ? 四段とか五段じゃねーの?」



 俺が正直な感想をもらすと、衛は一旦剣先を下げて、笑みをこぼす。



「剣道の段位はね、認定試験を受けるためにも、二段は初段を取ってから1年以上、三段は二段から2年以上……って、決められた修業年数も必要だから……高校生で四段とかそもそもムリなんだよ。

 ……あ、ちなみに最高位は八段。十段じゃないよ」



「へえ、そうなのか……」



 強ければ認定してもらえる――ってわけでもないのか。


 やっぱり、武道ってのは精神性も大事だから……とかかな。



「……でも確か1年の頃、剣道部で二段ってヤツがいた気もするけど……」


「ああ、まず初段を取るのに中学2年以上って年齢制限があるんだけど、逆に言えば早ければ中学生で二段までは取れるんだよ。

 ただ、僕は……その前に辞めちゃったからね」



 ……なるほど。


 そりゃあ、午前中港で会った衛と同門の人が、衛が剣道辞めたことを惜しんでたわけだな。



「それと……裕真。

 僕が手加減してるから何とかなってる、って言ったけど――」



 改めて――衛が木刀を中段に構える。


 同時に、空気が張り詰める気配がした。



「ケガをしないように、って気は遣ってても……手加減ってほどには手を抜いてないよ。

 つまり、本当にそれだけ――キミも大したものだってことさ……!」


「そいつぁ……光栄だ、ね――っとと!」



 とっさに木刀を掲げ、衛の鋭い踏み込みからの面打ちを受け止めた――と思いきや、そのまま身体ごとぶつかられる。



 さらにそこから、強引に鍔迫り合いにもつれ込まされるや否や……。


 木刀で俺を押す反動を利用して素早く退がりつつ、もう一度面を打ち込んできた。



 反射的に何とか防御するも――。


 そこからまた踏み込んできた衛は、今度は、面の防御でガラ空きになった俺の胴を薙ぎ払おうとしてくる。



「うおわ――っ!?」



 防御は間に合わないと踏んで、思いっ切り後ろに跳んで何とかかわすも……バランスが崩れた俺は、そのままブザマに尻もちをついた。



 だけど衛は、追い打ちはもちろん、そんな姿の俺を笑うどころか……驚いた、とばかりに目を丸くしていた。



「……いや、ホントにスゴいね裕真。

 ただ運動神経が良いってだけじゃ、今のはそうそうかわせなかっただろうに。

 それこそ、実戦経験によるカンみたいなものがないと」



「あ、ああ、まあ……俺も、ガキの頃はそこそこケンカもしたし……。

 それにほら、お前にも話したろ? イノシシと命がけで()り合った、って。

 ……多分、そういう経験が活きてるんじゃないか?」



「なるほど……それは確かに大きいだろうね。

 本当に生きるか死ぬかの状況なんて、そう出遭うものじゃないし」



 俺が体勢を立て直すのを待って、衛も新たに構えを取る。



 ただし、中段でなく――。


 木刀を振りかぶって……上段に。



「――え……!?」


「さあ、行くよ!」



 かけ声とともに、これまでよりさらに鋭い踏み込みで詰めてくる衛。


 当然ながら、上段に構えているってことは、振り上げる動きが省かれる分……中段よりも面への攻撃は早い。



 だが同時に、切っ先が上向いてるだけに、腕が――籠手がこちらに近く、反撃もしやすいってことで――!



 俺は今が勝負時と見て――。


 衛の右腕目がけ、カウンター気味に木刀の先端を当てに行く!



 それは、半ば突きに近い軌道で……。


 衛の振り下ろしよりも速い――――はずだった。



 ――しかし。



 衛は、俺の狙いを完全に読んでいたのか……。


 俺の反撃が当たる寸前で、右手だけを木刀から離して引きつつ――。




 半身になって、コツンと軽く――すれ違いざま俺の頭頂に、一撃を食らわせていった。




「面一本。……僕の勝ち、だね」



 ニコリと笑う衛に……俺は木刀を当てられたところを擦りながら、苦笑を返す。



「……ああ……参った。

 ホントに参った。俺の負けだ」




 今の一撃は、わりと本気で勝ちを取りに行ったのに……見事に返された。


 まさしく……完敗だ。




「いやー……しっかし強いな〜。

 やっぱり、シロートがどうにか出来る相手じゃなかったか〜……」



「裕真こそ。何度も言うけど、本当に大したものだと思うよ。

 ……さすが、我が2-Aが誇る『勇者』だよね」



 さっぱりとした調子で笑いながら、木刀を使ってグッと背筋を伸ばしつつ……もといた椅子のところへ戻る衛。


 俺も、それを追って……ふう〜、と大きく息を吐きつつ椅子に腰掛ける。



「さて……と。

 僕が勝ったんだから、裕真……キミの問いかけには答えないよ?」



「……ああ。ま、しょうがないよな」



 もともと、話を聞くためのきっかけだったとは言え……そういう約束でもあったし。


 やっぱり言う気にならないっていうなら、ムリに聞くわけにもいかないしな。



 ――なんて、考えてたら……。




「でも……僕が勝手に話す分には構わないだろ?」




 イタズラっぽい微笑みを見せて、そんなことを言う衛。


 俺も思わず苦笑をもらしながら……ついタメ息をつく。



「……お前も結構、めんどくさい性格してるよな?」


「そこはそれ。

 勝負は勝負として、キッチリ清算しておかないとね」



 衛は椅子に座ったまま……ひゅん、といい音をさせて木刀を振るった。


 ……剣先のブレない、キレイな面打ちだ。




「……僕の実家は……剣道の道場やっててね。

 じいちゃんが師範をしてるんだけど……これがまた強い人で、最高位の八段――全国で1000人もいない実力者なんだ。

 で、まあ、僕も幼い頃から教わってたし、憧れの存在でもあったんだけど。


 そのじいちゃんに、認められなくてね……僕は。

 僕の――強さは」




 もう一度、木刀を振るった衛は――。


 しかし今度はその切っ先を途中で止めることなく、芝生を強く打ち付けた。




「認められない……?」



「……そう。

 お前は、『本当の強さ』が分かってない――ってさ」



「……本当の、強さ……」



 思わず、オウム返しのように繰り返す。




「……そりゃあね、例えば僕の強さが、増強剤みたいな薬を使ったものだとか、対戦相手に八百長をしてもらったとか……そういうものなら、認められないのも分かるよ?


 ――でも、僕は……間違ったことをしたわけじゃない。

 これは、ちゃんと厳しく鍛錬して……正しく身に付けたチカラのはずなんだ」




 衛は、木刀から離した右手に……その手の平に目を落とす。




「子供の頃……まだ弱い僕を助けてくれた、姉のような人がいてさ。

 若くして亡くなったんだけど……その人との、約束でもあったから。



 勇者――そう、勇者みたいな人であるように……って。



 だから僕は、正しくあろうと、鍛練を積んで強くなった。

 門下生の誰よりも――強くなったんだ。


 なのに、じいちゃんは……そんな僕を、認めてはくれなかった」




 視線を真っ直ぐ前へと向けた衛は……。


 まるでそこに、そのじいちゃんがいるように――怒りをぶつけるように、目を細めた。



 しかし、そうかと思うと……。

 前進から力を抜いて、椅子にもたれかかりながら……気が抜けたように小さく笑う。




「……だからね、僕は剣道を辞めて……実家からも距離を置いてるんだ。

 あのまま続けていても、僕の思う『本当の強さ』は身につかない気がしたし……やっぱり、何となく居づらくてさ。


 だから今は……それを探してる最中、ってところ――かな。


 ……まあ……。

 そんなことを言いつつ、逃げてるだけかも知れないけど、ね」




「……そっか……」



 敢えて多くを語らず……俺は、ぽつりとその一言だけを口にする。



 ……衛のじいさんの言う『本当の強さ』が何を指しているかは、俺にも分からない。



 でもきっと、腕っぷしとかの単純な強さを言ってるんじゃないんだろう。

 それなら、衛は充分に強いんだから。



 なら……心の強さ、とかを指してるんだろうか。


 ただ、それならそれで……俺は、衛は持ってると思う。

 『強さ』を。



 あるいはそれを、衛自身が気付いてないだけなのかも知れない。


 自分自身で……認めてないのかも知れない。



 もちろん、そんな考え自体、違っているのかも知れない。



 でも、だからこそ……。


 俺は、正直な思いを述べることにした。



「俺は……間違いなくあると思うよ、衛の中には。

 ただの腕っぷしだけじゃない……確かな『強さ』が」



「……裕真……」




 口で言って、どうにかなるようなものでもないかも知れない。


 だけど――。




「俺に出来ることなら、いつでも力を貸すから。

 だから……見つかればいいな。


 ――『本当の強さ』、ってやつが」




 俺は、そう言わずにはいられなかった。


 そして、衛は……笑顔でそれに応えてくれた。




「……うん――ありがとう」










     *     *     *




「……さて……と」



 裕真には、まだ少し夜風にあたりたいから……って理由で、先に戻ってもらって……1人になって。


 僕は、改めて――アパートの部屋の方へ設置してきた、とある〈魔導具〉のことを念じながら……精神を集中する。




 それは、〈爪牙ある陽炎(シムルア・クラウ)〉という名の水晶柱で……。


 実体があり、感覚も共有することが出来る特殊な〈分身〉を生み出すものだ。




 そうして、広隅(ひろすみ)の方で実体化させた分身を通じて、感覚を探ってみるけど……。



 ――特に何の反応もない。



 一応、僕からこうして感覚を繋げなくても、何か反応があれば、逆にこちらへ還元してくるようになってるし、それもなかったってことは……。



 どうやら今日は、〈呪疫(ジュエキ)〉もクローリヒトたちも、大人しくしていたみたいだ。



「……なら、まあ……いいか」



 僕はタメ息混じりに、魔導具との接続を切る。



 ……あくまでこれは、この旅行中に広隅で何かあったときのためのものだ。


 何もないのなら、少なくとも今日はもう使う理由もない。



 そうして一息つくと……思い出されるのは、さっきの裕真とのやり取りだった。




「……ずいぶん、話しちゃったな」




 思わず、苦笑がもれる。


 ついつい口が軽くなったのは……。

 実際、見事な動きをしていた裕真との勝負に、思った以上に熱くなってしまったから――かも知れない。



「……まさか、あなたのことまで話してしまうなんてね……シローヌ」



 僕の脳裏に、懐かしい……快活に笑う女性の姿が思い浮かぶ。




 ……初めて、勇者としてアルタメアに召喚された――中学1年生のとき。



 右も左も分からない子供の僕を、世話してくれて……。


 そして――。



 弱く、未熟だった僕を助けるために――その命を落とした、姉のようだった女性。




『ずっと……みんなを守る、心正しい勇者でいてね』




 今際いまわきわに彼女が遺した言葉は、交わした約束は――今も、僕の胸のうちにある。


 だから僕は、今までも――そしてこれからも、〈勇者〉であり続ける。



 でも、そうして得たこのチカラが。

 まだ『本当の強さ』じゃないと言うなら――。



 僕は、そこへ至るまで――みんなを守る〈勇者〉としてのチカラを磨き、鍛え続けよう。


 さらに、どこまでも強く……認められるまで。



 彼女の願いが、その約束が、それによって得たこのチカラが――。


 決して、間違いなんかじゃない……そう証明するためにも。





 この道の先にあるものこそが……。



 みんなを守る――『本当の強さ』なんだ、って……!






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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当の強さ…… 一体、おじいちゃんが言いたかったこととは何なんでしょうね。 「強さにこだわるうちは、まだまだ半人前じゃよ。フォッフォッフォッフォッ」 とか……? 衛くんも頑張ってほしいで…
[一言] 確かに、本当の強さとはなんなのでしょうね (。´・ω・)? 難しい命題ですね。 やっぱり、腕前だけってわけではないでしょうね☆彡
[一言] こうなるとまもたんも応援したくなっちゃうよねぇ……
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