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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
16章 夏のバカンスに、垣間見る黄金の裡と小さな聖霊の勇者 (前編)
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第219話 人狼&吸血鬼、真夜中の騒音撲滅大乱闘!



 ――そんなこんなで……オレは。


 勝手に首を突っ込んできやがった質草(しちぐさ)のヤローとともに、30人からを相手に大乱闘をやらかすハメになっちまっていた。



 ……ったく、このテのバカは卒業したつもりだったのによ……!




「――おぉらあぁッ!!!」



 気合いを込めて思いっ切り――やると、とんでもねえことになっちまうんで……。


 声だけは威勢良く、しかし適度に力は加減をして――バットで殴りかかろうとしていたヤツをパンチ1発で吹っ飛ばす。


 続けて、そのスキを突こうと横合いから殴りかかってきたヤツも……ムチャな姿勢からでも関係無く、脚を繰り出して強引に蹴り飛ばしてやった。



 それでも、さらに今度は蹴りのスキを狙うヤツもいるわけだが……。



 ソイツは割って入った質草のヤツが、土手っ腹から顔面へと繋がる二段蹴りで黙らせやがった。



黒井(くろい)ク~ン……何も考えずに突っ込まないで欲しいんですけど」


「ああ? っせーな、誰が手助けしろっつったよ。

 そンならほっときゃいいだろーが!」



 文句を言うために振り返ると……たまたま質草の死角を狙ってるヤツが目に付いたんで、そいつの顔面に靴の跡を付けてやる。



「手助けなんかしませんよ、面倒くさい。

 ボクが言いたいのはですね、キミに無作為に動き回られると、こっちの割り当てがムダに増えて困る、ってことです。

 ……ボクがしたいのは、あくまで『ちょうどいい運動』ですから」


「それこそ、オレの知ったことじゃねえってンだよ!」



 質草の態度にムカつく傍ら、背後に気配を感じたオレは……。

 振り返りざま、頭を狙ってきたバットのフルスイングをかがんでかわす。


 と――そこを狙って飛びかかろうとしていたヤツを、質草が、オレの頭上をかすめる後ろ回し蹴りで打ち落としやがった。



 ――ってか……!



「っぶねーな! オレに当たったらどーすんだテメー!」



 ハッキリ言って、食らって一番イテえのは間違いなく、〈吸血鬼(ヴァンパイア)〉のコイツの攻撃だからな……!



「あ、まあ……ええ。

 そのときはそのとき、ですかね」


「――そこは否定しろよ!

 ったく、テメーは……! ケンカ売ってンのか!」


「あ〜、売りたいですねえ、売れるものなら。

 今まさに、何十人にも押し売られて在庫余剰気味ですし?」


「いや、勝手に首突っ込んで来たのはテメーの方だろうが……」


「あれ、そうですか?

 黒井クンからボクに泣きついてきたんじゃありませんでしたっけ?」


「――でっち上げにも限度があンだろが!

 テメェ~……マジでケンカ売ってンじゃねーだろーな!?」


「あ〜、売りたいですねえ、売れるものなら。

 今まさに、何十人にも押し売られて在庫余剰気味ですし?」


「会話をループさせてンじゃねえよ!」



 質草の人を食った態度にイラッときて、つい、向かい合っての言い合いになる。



 そこへ、質草の背後から木刀で殴りかかってくるヤツが見えたので、とりあえず――。


 質草の頭を狙うようなハイキックでその木刀ヤローを蹴り飛ばしつつ――質草本人への威嚇も込めて、こめかみで蹴り足を寸止めしてやる。



 ……が、まったく同じ動きを質草のヤツもしていて……。


 しかもこっちは、キッチリとオレのこめかみに、軽く蹴りを当ててきやがった!



「あ、失礼、目測を誤りました」


「ウソつけ! ぜってーワザとだろーが!」



 オレたちは、伸ばした蹴り足はそのままに――。


 軸足だけを回転させて後ろ回し蹴りに変え、互いの背後からさらに詰めてきていたヤツも蹴り倒す。



「……ったく……!

 テメーとケンカすることになると、テメーの相手の方がよっぽど疲れンぜ……」


「まあまあ。その分、ボクはストレス発散出来てるわけですし」


「オレで遊んでンじゃねえ!!」






 ……そうして……まあ、質草に振り回されて気疲れしつつも。


 結局は、1発ももらうことなく――時間にすれば数分で。



 オレと質草は、30人全員をブチのめしきっていた。



 ――つってもまあ、適度に加減はしてある。


 どいつも、病院に担ぎ込まれるような大ケガはしてねえハズだ。




 で、それはいいんだが、問題は――




「……逃げられましたね」


「あンのヤロー……逃げ足だけは相変わらずかよ……!」



 肝心のオグのヤツは、いつの間にか姿を消していた……ってことだ。



 多分、オレたちが乱闘に夢中になってるうちに、こっそりと逃げやがったんだろう。



 ……ったく、いちいちイラつかせてくれやがって……!



「チッ……結局、アイツに感じた妙なニオイの正体も分からずか……」


「ニオイ……?

 ああ、確かにあの彼、何か妙な気配してましたね」



 オレのぼやきを拾って、質草は……さっきまでオグがいた、廃材の山を見上げる。



「妙と言えば……彼らもですね」


「ああ?」



 続けて質草は、その場にのびている連中を見回す。



「彼らのほとんどは、反応からして……黒井クン、キミのことを知っていたわけでしょう?

 ケンカになる瞬間はともかく、何人かブッ飛ばされれば……〈餓狼がろう〉は健在だと、ビビって逃げてもおかしくないはずです。

 なのに……誰一人、そんな素振りはなかった」



 言われてみりゃ……確かに。


 オグのヤツが、強烈なカリスマを発揮して、コイツらの忠誠心を――って、どう考えてもアイツはそんなキャラじゃねえしな。



「……なら、アイツに従えば、なんか相当にウマい話にありつけるから、とか……。

 それとも逆に、弱みでも握られて脅されてる――とかか?」



 オレは、手近なヤツを起こして聞けば手っ取り早いとも考えたが……そもそも全員気絶させちまったんだった。


 ……これを起こして聞くのは……さすがに面倒くせえな。



 一方、質草は、ハナからコイツらに聞く気なんざなかったように、一瞥もくれずにさらっと答えやがる。



「利に聡いような人間なら、それこそ真っ向から黒井クンの相手なんてしませんよ。

 弱み――っていうのも、この人数となると、それこそガチの犯罪集団でもなければ難しいでしょうね」



「じゃあ……なんだってんだよ?」



「それこそ……逃げた彼の『妙な気配』じゃないですか?

 あれ……マトモなものだと思います?」



「ああ? いや……。

 あれは……そうだな、近いところで言えば、それこそ――」



 思いつくまま答えを口にしようとして――ハッとなる。



「まさか、オグのヤツ……〈呪疫(ジュエキ)〉に憑依とかされてやがるのか!?」



 質草は、小さくうなずいて肯定した。



「……確証はないですけどね。

 でももしそうなら、魔法というほどではなくても、その〈闇のチカラ〉を暗示的に使って、一種のカリスマめいた効果を得ることは出来るかも知れませんし」



「チッ――! ったく、あのバカが……!

 クソ面倒くせえことになりやがって……!」



 そういうことなら……アイツのあの変わりようも納得がいく。


 だが――




「……けどよぉ、質草。

 この間の、あの謎の魔剣の騒動のとき……確か、〈世壊呪(セカイジュ)〉はチカラを吸われてた――って話だったよな。

 で、それを証明するように、あれ以来〈呪疫〉の出現は大幅に減ったはずだ。


 そんな中で、オレたちの監視をかいくぐって、アレが誰かに憑依するとか……難しいんじゃねえのか?


 それに……アイツの妙なニオイが〈呪疫〉のそれだったら、さすがに気付きそうなモンだがな。

 ……いや、確かに似ちゃいたが……微妙に違うっつーか……」




「そうですね……。

 まあ、ただ単に、あの騒動より前――わりと頻繁に〈呪疫〉が出ていたときに、すでに憑依されていたのかも知れませんが……。

 あるいは、もしかしたら――」



「……なんだよ?」



 オレがすぐに問い直すと……質草は改めて周囲を見回し、提案してきた。



「……それより、とりあえず、この場を離れませんか?

 警察のお世話にでもなろうものなら、それこそおやっさんたちに迷惑をかけてしまいますからね?」




 それはもっともだと納得したオレは、さっさとバイクのもとへ戻ると……。


 質草をケツに載せてある程度走り、適当な公園の側で停まった。




 バイクを降りた質草は、すぐ近くの自販機でコーヒーを買って……1つを、オレに投げ渡してくる。



「……いくらだ?」


「いやですねえ、それぐらいはおごりですよ」


「確認しとかねーと、テメーは後でとんでもねぇこと言い出しかねねーからな」



 鼻を鳴らしながら、コーヒーを開けて――ぐいと一気に傾ける。


 結構暴れたからな……思ったより喉が渇いてたか。



「……で? さっきは何を言いかけたんだ?」


「そうですね……」



 質草もコーヒーを開けるが……こっちは、軽く一口含んだだけだ。




「ハッキリ言って、あくまで推測の域を出ないんですが……。

 〈世壊呪〉が、魔剣にチカラを吸われたことで、〈呪疫〉の出現も減り……ボクらは、まあ、〈世壊呪〉が弱ったんじゃないかと考えたわけですけど……。


 ――それが、逆だとしたら?」




「逆――って、どういうこったよ?

 チカラを吸われて強くなる――ってか? おかしくねえか?」



「……フム……。

 黒井クン……筋肉って、どうやって鍛えられるか、知ってます?」



「ああ? ンなモン……使えば強くなるし、使わなきゃ弱くなる……そういうモンじゃねーのかよ?」



 オレが答えてやると、質草はあからさまに眉をひそめてタメ息をつきやがる。



 ……ンのヤロー……。


 やっぱさっきの乱闘のとき、間違えたフリして1発ぐらいブン殴っとくべきだったか?




「まあ、それも間違いではないんですけどね……。

 いいですか、黒井クン……筋肉は、負荷をかけるから鍛えられるんですよ。


 つまりいわば、筋肉に、『今のままじゃ弱い』と思わせるんです。


 それによって身体は、次はかけられた負荷を乗り越えられるように……と、以前より強い筋肉をつけようとします。これが鍛えるってことです。


 ……まあ、別に筋肉に限った話ではないんですけどね。

 筋肉を例に出したのは、これならキミにも分かりやすいかと思ったからですが……」




「ケンカ売ってンのか――と言いたいトコだが、このコーヒーに免じて見逃してやる。

 ……で?」




「で?……も何も、分かるでしょう?

 ――同じことが、〈世壊呪〉に起きてるんじゃないか……って言ってるんです。


 それなら、あの彼に憑依した〈呪疫〉が、キミの自慢の『鼻』をしても、似てはいるけど違う――って感じになったのも、〈世壊呪〉の影響を受けたとすれば分からないでもないですからね。


 そう、要するに――」




 質草は、コーヒーの缶を指で弾いた。


 静まり返った真夜中に、甲高い音が響いて消える。




「一度、大きくチカラを吸われた〈世壊呪〉は――。


 今後はそんなことがないよう、存在として、より強固になるために。



 さらに強く――変化をしているのかも知れません」






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― 新着の感想 ―
[良い点] 八刀皿さんの作風に慣れると、いつ場面転換の* * *が来るんだ!? 身構える部分が少なからずあるので、1話丸々黒井くん達でニッコリ(笑) 序盤で質草くんのツンデレ感!! と思ったら、本当…
[一言] 筋肉のように鍛えられるものなのですね (*´▽`*) なるほどなぁって思いました☆彡
[一言] ぶるうちいず先生「エクストリームヘヴンフラーーーーーーッッッシュ!!!!!!!!」
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