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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
16章 夏のバカンスに、垣間見る黄金の裡と小さな聖霊の勇者 (前編)
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第213話 湯けむりに浮かぶは、〈星〉の輝きの思い出



 ――洞窟風呂というと、大きめの湯船がちょうど入るぐらいの、いわば岩屋に温泉を張ったもの……ってイメージがあったし、ここもそうだと思っていた。


 ところが……。



「おお〜……なんだこれ、ホントに洞窟だな〜!」



 感心したようなおキヌさんの台詞は、まさに俺が抱いた感想と同じだった。



 ここは、入り口から奥へ、少し広めの……天然のものに手を入れたらしい洞窟がずっと続いていて……。


 その全体に、ややぬるめのお湯がゆるやかに流れているのだ。



 ヒザより少し上から腹のあたりまで、場所によって多少深さが変わるお湯を、じゃぼじゃぼとかき分け、壁や天井のほの暗い照明を頼りに奥へ進んで行くのは……本当に洞窟を探検しているみたいだった。


 単なる洞窟風呂ってより、むしろ『ダンジョン風呂』とか言った方がしっくりきそうなぐらいに。



 まあもちろん、だからって、モンスターが出たりとかするわけじゃなく……。


 それどころか、途中、ところどころ広くなっている場所で、段差に腰掛けたりして、ゆったりのんびりしている人もいたりするぐらいだ。

 なんせ、お風呂なんだからな。



 ……ちなみに、水着着用が義務付けられていて、こんな珍しい造りなわけだから、当然混浴だ。



 で、洞窟は、まあ当たり前だけど、迷うような造りでもなく、ほぼ一本道で……やがては、トンネルみたいに反対側の方へと抜ける形になっていた。


 お湯の流れからして、洞窟の中心付近を頂点に、両方の出口へ向かってゆるやかに傾斜しているらしい。



「どーだよ、なかなかおもしれートコだろ?」



 イタダキの得意気なその言葉には、さすがに俺たちみんな、同意せざるを得なかった。



 ……いやー、もういい加減、洞窟とかダンジョンとか飽き飽きだったんだが……。


 こうして『温泉』となると、また印象が違っていいもんだ。

 ホント、一種のアミューズメントだよな〜……。



 とりあえず、反対側に出たってことは一通り歩いたわけなんで、改めてどこかでゆっくりしよう――と、ちょうどいい広めの空間を目指して、洞窟を戻っていく俺たち。



「これ、人の手は入ってるけど……ほとんど自然に出来てるんやんな?

 すごいなあ……」


「だよな。しかも流れてるのが天然温泉だもんな〜……。

 〈(あま)()〉の新しい風呂の参考になれば――とかちょっと思ったけど、これはさすがにどうしようもないなあ。

 いやー、自然って偉大だ〜……」



 隣を歩く鈴守(すずもり)と、じゃぼじゃぼお湯をかき分け歩きつつ、しきりに感心しあう。



 そうして、「いい場所がある」っていうイタダキの案内で、横道のようになっている場所へ入り込んだ俺たちは……。


 ゆったりするのに、本当にちょうどいい空間へたどり着いた。



 他より天井が高く大きめの広間で、壁の高い場所からは、優しい滝のようにさらさらとお湯が流れ落ち……。


 さらに高い天井付近には、地上へつながる割れ目があるらしく、か細い陽光が射し込み……湯気でぼんやりしながらも、それがまた幻想的に、揺れるお湯を照らし出す。



 なんとも見事で……見ているだけで、贅沢だとすら感じてしまうような光景だ。



 俺たちは感嘆の声をもらしつつ、壁沿いに輪になるように座り込み、改めて温泉を堪能……と、思いきや。




「………………」




 たった一人……ハイリアだけが。


 この広間の入り口で、上を見上げたまま……立ち尽くしていた。




 みんな、どうかしたのかと首を傾げているところに、俺が代表して声を掛けると……。


 すまん、と――苦笑混じりに、ぽつりとつぶやく。



「懐かしい場所に、良く……本当に良く、似ていたのでな」



「へえ……? それ、リャおーの故郷のことかい?」



 ハイリアの言葉を聞きつけたおキヌさんが、興味津々といった様子で尋ねる。



 いや……おキヌさんだけじゃないな。


 気付けば他のみんなも、好奇心に前のめりになっていた。




 ――みんなは、ハイリアが言う『故郷』ってのは、フランスの一地方のことだと思っているんだろうが……当然、そうじゃない。



 長きに渡る人族との戦いの果てに魔族が追いやられた、アルタメアの僻地(へきち)……過酷な環境にある、通称〈魔領(まりょう)〉――。



 それが即ち、ハイリアの本当の故郷だ。



 〈魔領〉は極寒の地でありながら、活火山も存在していて(実際、行くとき溶岩の洞窟とか突っ切らされた)、そのせいだろう、温泉が多かったらしいから……。

 なるほど、こうした場所もあったのかも知れない。




「ああ……そうだな。遠い遠い故郷のことだ。

 余の故郷は、一種の僻地……まあ、基本的には寒いところだったのだが……。


 幼馴染みが住んでいた地に、まさにここにそっくりな温泉があったのを思い出して……つい、な」




 みんなの視線にも何ら臆することなく、壁際に座り込みながら……朗々と答えるハイリア。




 そして、俺は……。


 今の言葉で、コイツが本当の意味で何を思い出していたのかが……分かってしまった。




 ……まあ、そりゃあな……。


 コイツにとっては、忘れられるようなものじゃない、か――。




「で、その幼馴染みっていうのは――ズバリ、女の子なのねっ?」



 そして、沢口さんが、目をギラリと輝かせながら尋ねると――。


 ハイリアは、いともあっさりと「そうだ」と認める。



 ――瞬間……特に女子3人の興味が膨れあがるのが、アリアリと分かった。



「余のこの、〈ハイリア〉という呼び名は、以前も言ったように〈王たる星〉という意味があるのだが……。

 同じく、星――〈世を照らす星〉という意味の呼び名を持っていたのが、その幼馴染みだ。

 余ですら舌を巻くほどに頭が良く……同時に、大変な変わり者でもあったよ」



「おいおい、マジかよ……!

 お前以上に頭が良いとか、とんでもねえじゃねーか……!」


「いや、余は記憶力ならまだしも、思考においてはそこまでの自信は持ち合わせてはいないぞ?

 ……なにせ、そんな本物の『天才』が側にいたのだからな」



 イタダキに答えるハイリアの言葉は、誇張でもなんでもなく……。



 その幼馴染み――〈世を照らす星(シュナーリア)〉という女性は、幼い頃から、過酷な地に生きる同胞のためにと、その才を活かして創意工夫を重ね、さまざまな画期的な技術を生み出したりしたらしい。



「ハイリアが『天才』って言うぐらいで、しかも変わり者、かあ……」


「……ああ。余を手玉に取るほどに」


「うおお……ますますとんでもねえ女だな……」



「で……まさかまさかだ、リャおー……!

 その女の子は、許嫁(いいなずけ)――なーんて、いかにもな設定があったり……っ?」



「ふむ、その通り。

 ……親同士は、いずれは結婚させようと考えていたな」



「「「 えええ〜〜ッ!!?? 」」」



 洞窟の中に、5人分の絶叫が反響する。


 まあ……現代人の感覚からすりゃ、驚くよな、やっぱり。



 ――そう、魔族を統べる王子に生まれたハイリアと、〈魔領〉の一画の領主の娘として生まれたシュナーリアは、物心がつく前から婚約が決まっていたそうだ。


 ただ――肝心の2人の関係は特殊で……。



「ま、マジか、リャお〜……っ!

 じゃ、じゃあ当然、付き合ってたり……っ?」



「……いいや。あくまで、それは親たちの話でな。

 余と彼奴あやつの間にあったのは、兄弟のような、親友のような、双子の片割れのような――そんな絆であった。

 ……それは強く、決して失われぬ類のものだが……生憎あいにくと、お前たちが期待するような恋愛話に繋がってはいないのだ」



 ハイリアが苦笑混じりに、申し訳なさそうに――しかしキッパリと言ってのけると。


 女子たちは眉間にシワを寄せながら、互いに視線を交わす。



「むむむ〜……。

 これがリャおーじゃなきゃ、『ウソぶっこいてんじゃねー、正直に白状しろ!』ってなりそうなトコだけど……」


「そうね、とてもウソには見えないわね〜……」



「……ほんで……その女の子は、今どうしてるん?」



 鈴守のその質問に、ハイリアは――。



「……さて、な。もう久しく会っていないのだ。

 だがまあ、彼奴のことだ……余と同じく、お前たちのような愉快な連中に囲まれ、面白おかしく過ごしているであろうよ」



 微かに、優しげに笑いながら……ついと、陽光の射し込む天井を見上げた。




「………………」




 そんなハイリアの姿と言葉を見るにつけ……。



 俺も改めて、アルタメアで勇者として戦うその最中――。


 当のシュナーリアから、手紙を送られたことを思い出していた。




 それは……あろうことか、人族と魔族の和解を望むものだった。



 和解は必ず成せると――それこそが、最も正しい道であるから、と。




 魔族の中でも高い地位の存在にもかかわらず、彼らにとって一番の敵のはずの勇者の俺に……シュナーリアという人物は、そんな手紙を送ってきたんだ。



 ……あとからハイリアに聞けば、彼女はそもそも、ハイリアが魔王となり、人族との戦いを始めるよりもずっと以前、幼い頃から……。


 長きに渡るわだかまりを超えての、魔と人との和解の道を主張していたらしい。



 そうした考えを持つゆえにだろう、地位も高く、技術発展のさまざまな功績などがありながらも、変わり者として、特に他の権力者からは煙たがられていたようだ。


 そして、双子の片割れのように――と表現するほど、最も近しいハイリアですら、その主張を受け入れはしなかった。



 だけど……彼女の俺への手紙には、こんな一文があったんだ。




『……魔王が彼、ハイリア=サインであるからこそ、和解は成る――必ず』




 ……もちろん、俺はハナから、ハイリアを倒してしまうつもりなんてなかった。

 俺のやり方で、くだらない争いの連鎖を終わらせてやろうと決めていた。


 だけど……この手紙に勇気づけられたのは確かだ。


 俺の思いは間違ってない、ちゃんと魔族にも和解を望む者がいるんだ――と。

 魔王は、単なる破壊の権化なんかじゃないんだ――と。



 そして実際、和解は成った。


 彼女の宣言通り、幼い頃から彼女の考えに触れ……表立っては受け入れずとも、その輝きはしっかりと胸の奥に宿していた――そんなハイリアが魔王だったからこそ。



 そんなハイリアを――最も近しい存在を。


 彼女が、信じていたからこそ――。




 けれど……俺は結局。


 その功労者である彼女――シュナーリアと、生きて会うことは叶わなかった。




 彼女はもともと――ハイリアにも知られないようにしていたらしいが、病を患い、長くは生きられなかったそうだ。


 だけど、生きることを諦めていたわけでもなく……彼女は、同じ病に苦しむ魔族の同胞を救うためにも、人族との技術交流が必要だと考え、行動していた。



 和解が成れば、その道も拓けると。


 そしてそれは同時に、魔族の技術があれば助かる人族を救う道にもなると。



 残念ながら、彼女自身を救うには間に合わなかったが……。


 あれから、魔も人も……双方の多くが、彼女の理想に救われたのは間違いないだろう。




 ハイリアの、『変わり者』の幼馴染みとは……そんな人物だったのだ。




「……どうした、勇者?」



 今度は俺が、ハイリアの声で物思いから引き上げられる。



 ……そうして、ふと見れば……。


 いつの間にかみんなは、また別の話題で盛り上がっているようだった。




「ああ、いや……。

 俺もちょっと、お前の『幼馴染み』のこと、思い出してた」



「……そうか。

 キサマであれば、さぞかし彼奴と話が合ったことだろうな。

 いや――良いオモチャになった、の間違いか?」




 穏やかな調子でそう言い、お湯をすくって軽く顔を洗うハイリアに――。


 俺も、「かもな」と相づちを打った。






 ……その後、もう少しみんなでのんびりしたあと、次は山の方へ行ってみようという話になって。


 洞窟を、入り口へと引き返すその途中――。



 ハイリアから合図を受けた俺は、ハイリアと2人、みんなから少し遅れるようにして……ちょっと距離を離して最後尾につく。


 どうやら、あまりみんなに聞かれたくはない話があるようだ。



「さっきのシュナーリアのことなのだが……。

 話している中で、1つ、気になることを言っていたのを思い出してな」



「……気になること?」




「ああ。そのときは、さして気にも留めなかったことなのだが……。

 彼奴は、〈魔王のチカラ〉というものに、長らく疑問を抱いていたのだ。


 ……魔王のチカラというのは、世襲で血によって継がれるものではない。

 資格を持つ者が、己の意志で、歴代の勇者によって時の魔王から切り離され、封じられた、チカラの宿る宝珠に触れることで……その身に宿すものだ。


 つまり……そもそも、魔王のチカラとは、それ自体が独立した存在だったと言える。

 そう――〈魔王〉以前に、それ自体が一つの、〈世界を滅ぼしうるチカラ〉なのだ。


 ゆえに、シュナーリアは言っていた――。


 初代勇者を皮切りに、何人もの勇者が他の世界からやって来たのなら。

 ――その敵対者たる魔王のチカラは、どこから来たのか?……とな」




「それは……」



 それこそ分からん、と首を振ろうとして――。


 俺は、ハイリアの言わんとしていることに気が付いた。



「…………まさか」



 脳裏を過ぎったのは……数日前のハイリアの言葉。




 亜里奈(ありな)の背に浮かんだ、〈世壊呪(セカイジュ)〉の紋様と……。

 アルタメアの魔王のチカラを表す紋様……。


 それらがまったく同じだった、という――。




「……そうだ、勇者よ。

 キサマに、エクサリオ――分かっているだけで2人もの『アルタメアを救った勇者』がこの世界にいるのなら。

 あるいは、魔王のチカラも――。


 もとは〈世壊呪〉と呼ばれたそれが……世界を渡った結果ではないだろうか?」




「だけど、〈世壊呪〉は……。

 これまで〈聖鈴(せいりん)の一族〉ってのが〈(はら)いの儀〉で――って……」



 言葉に詰まった俺に対し……ハイリアは、小さくうなずいた。




「……うむ……。

 ともすれば、〈祓いの儀〉は〈世壊呪〉を消し去るのではなく――。


 そもそもが。



 〈世壊呪〉を、異世界へと『追い払う』――。


 そのためのものであるのかも知れん」






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― 新着の感想 ―
[一言] ダンジョン風呂が凄いですね (*´▽`*) 一度入ってみたいです☆彡 >〈世壊呪〉 追い払う!? ……物語が解明されてきました??
[良い点] 温泉風呂がめちゃくちゃ良さそうですね! これはイタダキくんが自慢するはず! 行きたくなりますわー…… 素直に羨ましいです(笑) そしてハイリアさんの幼なじみの想い出……! これはシュナー…
[一言] シュナーリアさん、名前は初ですが、七夕エピソードはしっかり覚えてますよ! あんなトキメキ回、忘れるわけないじゃないですか! ハイリアの大事な人が気になっていたんだ!! まさかこういう流れにな…
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