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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
16章 夏のバカンスに、垣間見る黄金の裡と小さな聖霊の勇者 (前編)
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第212話 それは小さな勇者の、ケチャップ以上の反省案件



「うっはー、うーまかったーっ! ごちそーさまっ!」



 〈常春(トコハル)〉評判の特製ナポリタンを食べ終えた武尊(たける)くんが、パンッと元気に手を合わせる。


 さらに続けて凛太郎(りんたろう)くんも、紙ナプキンで口元を丁寧に拭ってから、キチンと『ごちそうさま』をした。



 それを受けたラッキーのお父さんが、嬉しそうに笑う。



「お粗末さま。喜んでもらえたようで嬉しいね」



 いやー確かに、2人とも、タイプは違えど、胸の空くような良い食べっぷりだったからなあ……。


 どんな言葉より雄弁な賞賛、って感じなんだろうね。



 ま、それはさておき――。



「あ〜あ〜……口の周り、ケチャップだらけじゃない。

 ほら、こっち向きなって」



 アタシは武尊くんを呼ぶと、紙ナプキンを手に、カウンター席から前屈みに手を伸ばして……。



「い、いいって! ガキじゃねーし!」


「いーや、その汚しっぷりはガキんちょだねー……っと!」



 恥ずかしがって逃げようとしたところを、ひょいとアゴをつかまえ、ケチャップまみれの口元を、ちょっと強めに拭いてあげる。



「……ほい、キレーになった、と」


「お、おう……あんがと、しおしおねーちゃん」


「ふっふっふ、いっちょまえに恥ずかしがっちゃって。

 ……あと、しおしおはやめろっつの」



 アタシは武尊くんの鼻っ面を軽く指で弾き、姿勢を戻した。



「へー……意外。

 美汐(みしお)、案外面倒見いいじゃない」


「ふふふ……アタシってば、けっこー尽くすタイプなんだ〜」


「……え。

 じゃ、そーゆー趣味なの……?」


「んー……否定はしないね。かわいい男の子好きだよ?

 まあ、シブい大人の男も好きだけど」


「なんだ、節操ないだけか……」


「そこはせめてストライクゾーンが広いとか言え!」



 ラッキーとのやり取りで、アタシはわざとらしく大ゲサに口を尖らせる。



 ……まあ、ラッキーに言ったことはウソじゃない。


 年下だろうと年上だろうと、良いオトコってのはいると思うし。



 で、武尊くんの世話を焼いたのも、別に仕事のため……ってだけじゃない。

 もちろん、惚れた腫れたでもないけどね。


 ただ、天真爛漫で可愛らしいのは確かだし……仕事についても、情報を得るのが目的だから、敵対してるってわけでもないんだし。


 自然に愛でつつ仲良くなれるなら、それに超したことはないってわけだね。



 ……にしても……。



 アタシはチラッと、武尊くんの肩の上で澄ましてるインコを見る。



 この懐いてるインコ、すごいなあ……確か、テンって名前だったっけ。


 神楽のときも今も、周りで人が騒いでてもまるで気にせず、頭とか肩の上でどーんと構えてるんだよね。


 しかもここ、一応はネコのキャラメルだっているのに……。


 キャラメルと視線が合っても、逃げたりパニックになったりせず、見つめ合い――っていうかむしろ、互いにガンを飛ばし合ってる感じ。



 あるいは、もしかしたら……赤宮(あかみや)センパイがクローリヒトだとして。


 センパイが、たとえば武尊くんの護衛とか監視とかに使ってる――キャラメルみたいな異世界の特殊なチカラを持った動物、なのかも知れない。


 アタシには、キャラメルと同じく、まるで違いなんて分からないけど。



 さて……と。

 それはともかくとして、だ。



 いきなりズバッといくのはムリにしても、今のうちに武尊くんに、ちょっとぐらい聞けそうなことは聞いておこうかな――っと。



「……そー言えばさ、武尊くん。

 赤宮センパイたちが旅行に行っちゃって、『修行』出来なくて退屈なんじゃない?」


「え? なんでしおしおねーちゃんが『修行』のこと知ってんの?」



 きょとんとした顔で問い返してくる武尊くん。



 ……『師匠』って呼び方と、たびたびその『師匠』のところに通ってることと、この年頃の男の子の好きそうな言葉を関連づけたら……見事にヒットした。



「だって、センパイのこと『師匠』とか呼ぶぐらいだからさー。

 今は夏休みだし、『修行』に通ったりしてるのかなー、ってね」


「おう、通ってるぜ! 鍛えてもらってんだ!

 へへへ……師匠、ホンっトすっげーからさ! なんせ、ゆう――」



 すっごいご機嫌に、調子よく言いかけて――ピタリと、武尊くんはいきなりその言葉を止める。



 んん……? ゆう……?


 ああ、『勇者』ってこと?

 センパイ、確かにあの体育祭以来、うちの学校じゃそんな風に呼ばれてるからねー。



 でも――


 それなら、なんでわざわざ途中で止めたの……?




 まるで……そう、言っちゃダメなこと、みたいに――。




「……〈遊遊(ゆうゆう)はちゃめちゃルート五十三次ターボの狼Zの試練場伝説シティー〉」




 ……これは、予期せずいきなりアタリを引いたかな――とか思った瞬間。


 凛太郎くんが、アタシを見ながらキッパリと……なんかワケの分かんない言葉を口にした。



「へ?……なに?」


「〈遊遊はちゃめちゃルート五十三次ターボの狼Zの試練場伝説シティー〉。

 ……ゲームの名前」



 もう一度その暗号みたいな言葉を繰り返して……。

 凛太郎くんは、「これ」と、スマホをアタシに見せてくる。



 画面に表示されてる検索結果が……そのバカみたいな名前のゲームが本当に存在することを証明していた。


 とんでもなく難度が高いレトロゲーム――という情報も含めて。



「これをクリアしたからこそ、師匠は師匠。

 でも武尊、すぐ名前忘れる」



「あ、へへ、そーなんだよなー……。

 オレ、どーしてもこのなっげー名前が覚えらんなくてさー……へへ。

 ――って、イタタタッ!?」



 まるで『この鳥頭!』とでも怒るみたいに、(テン)が武尊くんのこめかみを突っついていた。



「へ〜……そんなムチャクチャな名前のゲーム、あったんだ……」



 うーん……うまくはぐらかされたような気もしないでもないけど……。



 凛太郎くんの表情がまったく変わらないから、余計なコトを言いそうな武尊くんをあわててフォローしたのか、ただ事実を述べただけなのかが判断しづらい。



 いやでも、とっさのフォローとしては……巧すぎるような……。



 あ〜……もう!

 この子、ポーカーフェイスすぎて難しい……っ!



 ……ま、まあ、確かなのは――。



「しっかし、そっかー。

 赤宮センパイってば、思ってたよりずっとゲーマーだったんだねー……。

 ――ね、ラッキー?」


「え、そこでわたしに振るっ?」



 これ以上、ここでヘタに食い下がるのは、それこそ下策ってことだね。


 うん……焦らず、次の機会を待つとしようか。











     *     *     *




 ――結局、今日海で遊んだのは、3時間ぐらいだった。



 いや、別に飽きたとか疲れたとかじゃない。


 まだ明日がまるまる1日あるし……山の方とか、他のところも今日のうちにいろいろ見て回りたかったからだ。



 だから、初めからそんなに時間を費やす予定じゃなかった。


 むしろ、3時間となると、つい長引いちゃった……ってぐらいだ。




 ……で、もちろん……。

 なんせこの、いちいち元気が有り余ってるようなメンツである。


 その3時間の間に、わりと色んなことをして、いっぱい遊んだ。




 たとえば、沖合に見える小島を目指しての、遠泳&競泳では……。


 運動オン――苦手なおキヌさんが、イルカ型の浮きに乗っかり、沢口(さわぐち)さんと鈴守(すずもり)に引かれて実況する中、男子全員でデッドヒートを繰り広げたりした。



 あ、いや、全員じゃないな……。


 イタダキのヤツは、レース開始早々クラゲに刺されて轟沈――その後はおキヌさんのイルカの後ろに、荷物みたいに乗っけられてしばらくダウン状態だったから。



 ――ちなみに、1位を取ったのは(まもる)だ。


 俺とハイリアが、ついついお互いを意識してムダに競り合う間に、見事に優勝をかっさらっていきやがったんだよな。




 他にも、ネット無しビーチバレーでは……。


 クラゲのダメージが残るイタダキが審判をする中、男女ペアの3組で総当たり戦をやった。

 チーム分けは、俺と鈴守、沢口さんと衛、それにおキヌさんとハイリアだ。



 ――で、結果としては、俺と鈴守のチームワークが他を圧倒したわけだけど……。



 運動神経がアレなおキヌさんをフォローする形で、1人、獅子奮迅の活躍を見せるハイリアがすさまじかった。


 まあ……それでもどうにもならないのが、おキヌさんクオリティなんだけどな。


 気合いこそ素晴らしいものの、とにかく、コケるスベるスカる――。

 ひたすらに、愛嬌はあっても戦力にはならない。


 けど、相方が一種の強キャラ的存在なハイリアだけに、バランス的にはちょうど良かったのかも知れない。

 意外と良いコンビだったしな。



 ちなみに、そのハイリアのせいで、やたらとギャラリーが多かったことも付け加えておこう。


 ギャラリーのおねーさんに気を取られたイタダキが、審判の仕事を何度も忘れ、その都度、おキヌさんの低空ドロップキック(これはミスらない)をスネに食らっていた。




 これ以外にも、普通に泳いだり、波にゆらゆら揺られたり、構築した拠点のシートでのんびりしたり……3時間なんて、あっという間だった。



 で、その後、次にどうするかって話になると……。



 すっかり調子を取り戻したイタダキが、この砂浜を選んだ『理由』に案内する――と、ちょっとイラッとする、あの得意気な調子で言い出した。



「荷物だけ持って……水着のままでいいぜ!」



 ……で、イタダキが俺たちを連れてきたのは、砂浜の端の方、山から海へと流れ込む川の河口付近……と思いきや、そこから今度は川沿いを遡っていく。


 山と海が直接繋がっているような地形だからか、数分も歩けば、周囲はもう山の中の渓流沿いって感じの景色になって……。



 そうして、やがて俺たちの前には――。


 何か、公共の場所っぽくいろいろ整備された河原と……奥、川沿いの洞窟へと繋がる道が現れた。



 ――って言うか、これは……。



「あ、ここ……もしかして、温泉?」



 沢口さんがいち早く、その答えに辿り着く。




 そう、彼女の言う通り、河原には……。


 石で組まれて、水着姿の人たちが入っている――湯気を立ち上らせた、大きな湯船らしきものがあったのだ。




 おお〜……これは、なかなか……。


 渓流沿いの自然温泉とか、いいなあ……!



 俺も含めて、みんなが感心したような声をもらしてると……イタダキが、ニヤリと笑う。



「ま、そーゆーこった。良いトコだろ?

 ここに近くて、水着のまますぐ来れるから、あの砂浜がいいっつったわけだ。

 だが……これだけじゃないぜ?」



 そして……洞窟の方を指差し、一言――。



「あっちは、なんとだな! 世にも珍しい、洞く――」


「おお〜、あれ、洞窟風呂だってさ!

 面白そーだな、さっそく行こーぜ皆の衆!」



 イタダキなりにキメるつもりだった台詞は……無情にも。


 近くの看板を目にしたおキヌさんにより、あっさりと打ち砕かれた。



 ……まあ、同情する気はこれっぽっちもないが。



 しかし、『洞窟風呂』か……!


 これは風呂屋のせがれとしても、確かに大変興味深いな!




 俺は期待に胸を膨らませながら――。


 先頭に立つおキヌさんに続いて、みんなと洞窟風呂へと足を進めるのだった。





 ……キメるべきところを奪われ、フリーズしたままのイタダキはさておいて。






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― 新着の感想 ―
[良い点] >自然に愛でつつ仲良くなれるなら、それに超したことはない しおしおの業の深さを感じる一言!ww いいぞいいぞ。あと10年程も待てばない年の差ではないですしね!w それにしても、テンテン…
[一言] 凛太郎くん有能ゥ!!!! しかもまさかのオネショタ……! ありがたやありがたや……!(拝) そして次回は温泉回……!?(ガタッ) こ、これは……!(ゴクリ)
[一言] 遠泳でクラゲとか嫌だなあ (*´▽`*) お絹さん素敵☆彡 洞窟で温泉イイナァ (((o(*゜▽゜*)o)))
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