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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
16章 夏のバカンスに、垣間見る黄金の裡と小さな聖霊の勇者 (前編)
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第207話 やっぱり沈む聖霊と、海に浮かぶは勇者たち



 ――暦は、ついに今日から8月。


 天気は良くて、お日さまもギラギラ、まさに夏真っ盛りって感じで……つまり、暑い。



 で、そんな中――



「がぼがぼがぼがぼ……」



 今日も、小学校のプールでアガシーは…………沈んでいた。




「ビビって暴れてるんでも、溺れてるんでもねーのに……沈むなあ」


「軍曹、轟沈」



 朝岡(あさおか)真殿(まどの)くんが、困ったような顔を見合わせる。



 今日もいっしょになった2人も、いつものようにアガシーの特訓に付き合ってくれるものの……成果らしい成果はまだ出ていない。


 朝岡が言うように、溺れてるわけじゃないんだけど……なぜか、アガシーは沈む。



 身体が〈人造生命(ホムンクルス)〉だからかな……とも思ったんだけど、ハイリアさんはちゃんと泳げてるらしいから、それは関係ないハズなんだけどね。



「アガシーちゃんはホント、沈むの上手いよねぇ〜」



 ほんわかと笑顔でそんなことを言ってるのは、ビート板で浮いてる見晴(みはる)ちゃん。



 本人に悪気はまったくない――どころか、言葉通りに褒めてるんだけど、わりと辛辣だなあ……。



「…………ぅおいゴラ! だぁーーれが潜水艦(Uボート)だっ!

 ちょびーっと、『あ、それカッコイイかも』とか思っちまっただろーが! がるる!」


「ちょ、違うって! オレ何も言ってねーっての!」



 いきなり、ざばん、と立ち上がったアガシーが、いつかみたいにまたキャップを取って長い髪をブンブン振り回し、一番近くにいた朝岡に襲いかかっていた。



 ……とんだとばっちりだなあ。


 まあコイツの場合、普段の言動のせいってのもあると思うけどね。



 でも……。



 なんだかんだ言って、アガシーが遠慮なくこんな絡み方するの、一番多いのって朝岡なんだよね……。



 ………………。



 あ、うん、まあ……アレか。


 今や朝岡も〈烈風鳥人(れっぷうちょうじん)ティエンオー〉ってヘンな名前の、変身ヒーローもどきなわけだし……。


 普通の子に比べて少々ムチャしても大丈夫だからとか、そのチカラの源が同郷のアルタメア由来だからとか……そーゆー理由だろうね、きっと。うん。



「……え〜へ〜へ〜……」



「え? な、なに、見晴ちゃん……いきなりどーしたの?」


「う〜ふ〜ふ〜……」



 ふと気が付くと、アガシーと朝岡の攻防を見守るあたしを、見晴ちゃんもまたニヤニヤと笑顔で見守っていた。



「あ、なんでもないよぉ〜、気にしないでね〜」



 ……いや、その顔でなんでもない――ってことはないと思うんだけど。



 いつの間にか、見晴ちゃんの頭の上に移動したテンテンも、なんか同じように笑ってる――みたいな気がするし。



 でも、見晴ちゃんのこのテの思わせぶりな――だいたいは脳内妄想の暴走による言動は、結構いつものことだからなあ……。


 悪いことを考えたりしてるわけでもないんだし、まあいいか。



「……って、そうだ見晴ちゃん。

 明日か明後日、あたしとアガシーといっしょに、〈なみパー〉のプールに行かない?」



 ふと、ちょうどいい機会だと思ったあたしは……。


 この間、ママからもらった、プールのチケットの話題を切り出した。



 ――ちなみに〈なみパー〉っていうのは、広隅(ひろすみ)の南、〈水南(みなみなみ)〉って場所にある、その名もズバリ〈みなみなみパーク〉の愛称。


 そこは、超有名な某ネズミさんの魔法の国に比べれば、規模とかはずっと小さいけど……その分いろいろユニークな企画で有名で、入場料も比較的お手頃だから、意外と人気がある遊園地だ。



 で、夏になると、その遊園地に付随する大きなプールが開園するんだけど……。


 これがまた広いし、色んなアトラクションがあるし、キレイだしで、特に人気なんだ。

 この季節になると、しょっちゅうテレビでCMが流れるぐらい。



「〈なみパー〉のプール〜?

 うん、いいけど〜……あそこ、けっこー高いよぉ〜?」



 おサイフの紐はしっかりしてる見晴ちゃんが、ちょっと心配そうにするけど……。


 そこで今度はあたしが、思わせぶりに笑ってみせる。



「ふっふふー……それがだね見晴ちゃん!

 なんと! うちの常連さんから、無料チケットもらっちゃったんだ!」



 プールの水を盛大にすくい上げ、バッと頭上にまきながら宣言するあたし。


 それに見晴ちゃんは、ビート板にヒジを突いたままの拍手で応えてくれる。



「ふわあ、すご〜い!

 それじゃあ、入場料気にしないで行けるんだねぇ〜」


「そーなんだよ!

 よーっし、じゃ、いっしょに行こうね!」


「うん、ありがとぉ〜!

 ……あ、それでぇ、亜里奈(ありな)ちゃん〜。

 そのチケット、何人分あるのかなぁ〜?」



 見晴ちゃんの問いに、あたしはあらためてチケットのことを思い出す。



「えー……っと……。

 チケットは1枚だけど、5人まで使える、とかだったはずだよ。

 だから、あと――」



 アキちゃんとか誘おうと思って……って、友達の名を上げようとしたその瞬間。



 あたしの機先を制して、見晴ちゃんは。


 手を振りながら元気よく――朝岡と真殿くんを呼んでいた。



 そして――。




「じゃあ、朝岡くん、真殿くん!

 2人もいっしょに、プールに行こぉ〜っ!」


「…………えっ?」




 普段ののんびりマイペースはどこへやら……。


 あっという間に、朝岡たちを誘ってしまうのだった。











     *     *     *




 ――1人でデッキに出てみると、汗ばむ身体に、吹き抜ける潮風が心地好かった。


 手摺りまで近寄った俺は、すっかり小さくなった港の方を見ながら、大きく伸びをする。




 ……今朝、ハイリアと家を出たのが、午前5時。


 それから、いつものみんなと待ち合わせて、電車を乗り継ぎ、県をまたいで移動すること数時間――。



 今俺は、目的地へ向かう最後の乗り物、フェリーの上で、波に揺られてるところ――ってわけだ。




 そう……。


 今日から俺たちは、イタダキの家の別荘を借りての、2泊3日の旅行なのである!



 さしもの俺も、テンションが上がるってもんだ――!




 ……あ、いやまあ、『旅』なら、ほんの3ヶ月ほど前に、アルタメアをさんざんに歩き回ったばっかりなんだけど……。



 これはそんな過酷な冒険の旅じゃなく、レジャーとしての『旅行』――。


 しかも、鈴守(すずもり)も一緒なんだからな……!



 ……で、旅行っていうともちろん、鈴守と2人っきりで――ってのにも憧れるけど……。




 ま、そりゃさすがに俺たちにはまだ早いってもんだ。


 こうやって、みんなとワイワイやりながら――ってのが、ちょうどいいさ。





「……なんだ、こんなところで1人でいたのか」




 なんとなく、フェリーが蹴立てる波を見下ろしていると……背後から聞き慣れた声がかけられる。


 ――ハイリアか。



「――って!

 なんだお前、それ……!」



 振り返った瞬間、そこにいたハイリアの姿に、思わず吹き出しそうになる。



 ……ヤツは、何とサングラスをかけていたのだ。



 さすがに旅行で和装は動きづらいだろうと、アガシーチョイスのアーミールックっぽい洋装で出てきたコイツに、それはなんか妙にマッチしていて……。


 そう、似合いすぎていて、逆に笑えてくる。



「お前、そんな小道具まで用意してたのかよ?」


「いや……今しがた、イタダキのヤツが貸してくれてな」



 ハイリアは答えながら、俺の隣、手摺りに背中を預ける。



「あ〜……イタダキのか。

 アイツがかけると、いかにも夏っぽいハデめの格好と相まって、まさにチンピラだろーなー……」



 ……まあ、それはそれで、ある意味似合ってるとも言えるんだろうが。



「ちなみに、先ほど皆で回してかけてみたのだが……」



「へえ?……っても、グラサンがマトモに似合うのなんて……。

 うーん……あのメンツだと、お前と沢口(さわぐち)さんぐらい……か?」




「……さて、ちなみにそれぞれがかけてみたときの、皆が口にしたそれっぽい二つ名は……。


 余が『ロボットのエースパイロット』

 イタダキが『下っ端チンピラ』

 ウタが『放浪の天才外科医』

 (まもる)が『自意識過剰なお忍び芸能人』

 おスズが『ダークサイド鈴守』

 おキヌが『ちびっこギャング』


 ――で、あったぞ」




「……基本的にいろいろとヒデーな……!

 朝が早すぎて、みんな脳に酸素回ってないんじゃないのか?」



 思わず、込み上げた笑いがそのままこぼれ出る。



 ……鈴守なんか、二つ名も何もまんまじゃねーか。


 いやまあ、確かに、何かに喩えるの難しそうだけどなー、鈴守。

 これで男っぽい服装とかなら、それこそ、男装の麗人とかでもいけるんだろうけど。



「……で、キサマは……」



 言って、ハイリアが手渡してくるグラサンを……しょうがなくかけてみる。



「………………」


「………………」



「……『不良の腰巾着』、か」



「これまたヒデーなオイ!

 ――いや、似合わないって自覚はあるけどさ!」



 俺はさっさとグラサンを外すと、よく似合ってらっしゃる魔王サマに突っ返す。



 愉快そうに微笑を浮かべつつ、受け取ったハイリアだが……。


 それをかけ直すときには、やや真面目な面持ちに戻っていた。



「さて――ところで勇者。

 こんなところにいたのは、キサマ、亜里奈の〈世壊呪(セカイジュ)の証〉のことを気にして、たそがれていた――などではあるまいな?」



 ハイリアの問いかけに、俺は手摺りにもたれつつ、「いや」と首を振る。





 ――数日前に発覚した、亜里奈の背に浮かぶ〈世壊呪の証〉たる紋様の事実……。


 アルタメアの魔王のチカラの紋様と同一だ――というその事実が、何を意味するのか。



 あれやこれやと色々想像することは出来るものの、しかし結論付けるほどの手掛かりもなく――。


 また、実際それ自体は、亜里奈に直接影響を及ぼすようなものではない、ただの情報に過ぎないということで……。


 ひとまず俺たちは、アガシーも交えての話し合いの結果、この件は保留にしておくことにしたのだった。



 ハイリアによれば、古書に書かれていた〈祓いの儀〉とやらの詳細を、この紋様の事実をもとに読み解けば、また新たに分かることもあるかも知れない……らしいので、その新情報待ちといったところだろう。



 ……なので、差し当たって俺たちは普段通りの日常を過ごすことにし――。


 だからこそ、こうしてみんなとの旅行にも出てきたというわけだ。



 ここでヘタに、紋様のことを気にしすぎて旅行の誘いを断ったりすれば、何も知らない亜里奈は妙に思うだろうし……それが要らぬ不安に繋がったりする可能性もある。



 そもそも何より、亜里奈に、アイツが〈世壊呪〉であることを知られないよう、余計な心労をかけないよう、秘密裡に事態を終息させる――。


 それが、俺たちの絶対的な目標なんだからな。



「……亜里奈のことなら大丈夫だ。

 グライファンの件以来、闇のチカラの流入は大して感じられぬし、ここのところは体調が悪いようでもないしな。

 それに、一応は聖霊のヤツめも側にいる」



「ああ、分かってるよ――」



 答えて俺は、視線をフェリーの進行方向へと向ける。



「今はとにかく……せっかくの旅行を楽しまないとな!」


「まあ、そういうことだ」




 向かう先に浮かぶのは、その名も、〈贈李島(おくりじま)〉――。



 俺たちがこれから今日を含めての3日間を過ごす、山の緑と白い砂浜がきれいに調和したその島の姿は、刻一刻と大きくなっていた。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 見晴ちゃんグッジョブー!!! そうこなくては! (ニヤニヤ) サングラス、それぞれのネーミングに吹きました。確かにそんなイメージになりそうw そして鈴守さんがまんま、っていうのが、これま…
[良い点] よっしゃよっしゃ☆彡 ええ展開や (*´▽`*) [一言] 別荘いいなぁ~♪ (嫉妬w >みんな脳に酸素回ってないんじゃないのか? 大爆笑ww
[一言] 見晴ちゃんイイ性格してるなあ! でもわかる!! わかるよ見晴ちゃん!! こういうの見てるとニマニマしちゃうよねッ! いつかボンクラさんの書いたドロドロの三角関係現実世界恋愛小説も読んでみたい…
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