表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
2章 ただのデートで済めば勇者はいらない
20/367

第18話 出来過ぎな妹と反省勇者、そして〈魔王〉



「ただいまー、お兄、ちゃんとデートできたーっ?」



 ――小学校から帰ったあたしは、一直線にお兄の部屋に飛び込む。



 ……いや別に、真っ先にお兄の顔を見に行った、とかじゃないよ?


 えっと――ほら、お兄が彼女さんに迷惑かけなかったか、それが今日一日ずっと心配だったから。



 もし何かやらかしてたとしたら、早いとこフォローしなくちゃって、もう気になって気になって。


 ……だから、放課後の見晴(みはる)ちゃんや他の友達とのおしゃべりも早々に切り上げて、心持ち早足で帰ってきたんだけど……。



 ――部屋には、誰もいなかった。



 あれ……おかしいな。


 お兄、今日はうちのお手伝いもあるから、映画見終わったら早いうちに帰ってくるって言ってたんだけど……。


 そういえば、玄関に靴、なかったっけ……?

 急いでてよく見てなかった。



 あ、あー……アレかな。

 もしかして、思ったよりデートがうまくいったのかな。


 それで、仲良く二人でお茶飲んでおしゃべりしてるとか……?


 うん――きっとそうだ。



「なーんだ、良かったじゃないお兄……あははー」



 言葉とは裏腹に、何だかちょっとイラッとしたから、お兄愛用のソバ殻枕に渾身の鉄拳を2回ほど叩き付けて憂さ晴らししておく。


 アガシーがいたらまたビビられたかも知れないけど、あの子は今、裏手のミリタリーショップに行ってる最中だ。

 ミリタリー雑誌の新刊入荷のポスターを見て、朝から気になってたみたい。



「……バカみたい」



 そう、ホント、バカみたいだ……あたしが。


 なにを調子に乗って、お兄の保護者みたいな気でいたんだか……。



 小さい頃からずっと、あたしのことを助けて、守って、育ててくれたのは――お兄の方なのに。



 あたしは、背負ったままだったランドセルを降ろして……。


 それで、朝、お兄がデートに着ていこうとしてたのを止めて、そのまま脱ぎ散らかされていた制服をキチンと整えてから、ラックに掛け直しておく。



「こういうところがだらしないからだよ……もう。

 ――もおっ!」



 何だか、沈みかけてモヤモヤしていた気持ちを拳に乗っけて、制服にも一撃お見舞いしておく。


 ……ふう……ちょっと、スッキリした。



 さて……それで、これからどうしよう。


 ここでお兄待ってるのもなんかムカつくし、部屋に戻って宿題でもやっちゃおうかなあ……。



 そう思って、降ろしたランドセルに手をかけた瞬間――あたしの視界の端で、何かがキラリと輝いた。



「? あれって……」



 顔を上げて、お兄の勉強机に近付く。



 ――西日を反射して、輝いていたのは……机の小さなラックに引っ掛けられていた、銀色のペンダントだった。



 決してハデじゃないけど、細やかな装飾が施されていて……かなりの値打ちがありそうなのは、子供のあたしでも何となく分かる。



 お兄がこんなアクセサリーを買うなんて(金銭的な意味でも)考えられないし、きっと、異世界から持ち帰った品なんだろうけど……。



「でもどうして、こんなところに出してあるんだろ。

 向こうの品は、異次元アイテム袋にしまってあるって言ってたのに……」



 ちょっと興味を引かれて、あたしはペンダントに手を伸ばす。



 美しく輝くそれは、触ると思ったよりもひんやりとしていて――――










「……というわけで、今日は散々な一日だった――って、聞いてるか亜里奈(ありな)? おーい?」


「…………え――?」



 あたしの前には、いつかみたいに、座卓にべたんと突っ伏したお兄がいた。


 その傍らには、やれやれといった顔で首を振るアガシーも。





 ……え? あれ? あたしは、確か――。


 確か――なに? 何してたんだっけ……?





「? おい、大丈夫か亜里奈? 熱でもあるのか?」


「え? う、ううん、大丈夫大丈夫。

 ちょっと、ぼーっとしちゃっただけだから!」



 心配そうに額に手を伸ばしてきたお兄を押し戻して、あたしは笑ってみせる。



 ……そうだ。


 今あたしは、今日のデートの顛末を、お兄から聞かされてたんだった。



 えーと、銀行強盗に巻き込まれて、シルキーベルが現れて――その後は、警察の事情聴取でデートどころじゃなくなって……。



「で、彼女さんはどうだったの?

 それで怒ったりするような人じゃないと思うけど……」


「……うん、まあ……半ベソだった。

 俺が無事でホントに良かった、って……」



 お兄の顔が、申し訳なさそうにしながらも、同時にちょっと嬉しそうにゆるみもする。


 ……なんか、ちょっとムカッときた。



「まったくもう……気持ちは分からないでもないけど、心配させちゃったんだから、明日学校でちゃんとフォローしなくちゃダメだよ? それから――」



 改めてあたしは――手元のブドウジュースに挿していたストローを、びしっとお兄に突きつけた。



「追い込まれたからって、年下の女の子相手に本気の必殺技食らわせるとか、サイテー」



 びくっとお兄の身体が飛び跳ね、あわてて姿勢を正す。



「い、いや、そりゃ確かに、あれはやり過ぎたと思うけどさ、あの状況だと――」


「言い訳しない!」


「……すいません、ごめんなさい」



 かくん、と力無くうなだれるお兄。



 ……ん~、ちょっと強く言い過ぎちゃったかな……。



「そうですねえ。実際、勇者様なら他に打つ手はあったハズですし……。

 一発いいのもらっちゃって、つい頭に血が上ったとか、そんなところじゃないですか?」



 やれやれ、とでも言いたげに、アガシーが口を差し挟む。


 うなだれたまま、お兄はこっくり頷いた。



「はい……その、そういうところもあったかなー……と、反省してます、ハイ……」




「――フフン、殊勝でよろしい。

 まあ……今回の失態で? さぞかしこのsay! ray!のありがたみが身にしみたでしょうし? これ以上ヘコませるのはナシにしてやりましょうかね。


 ――で、アリナはどうです? それでいいですか?

 それともこれ幸いと、ボロクソにこき下ろしてやります?」




 アガシーが黒い笑いを浮かべながらこっちを見上げる。


 対してあたしは、「もういいよ」と首を振った。



「――だ、そうだ。寛大なお心に感謝しろよ、新兵(ルーキー)!」


「イエス、マム……」



「うむうむ。――って、それはともかくとして。

 勇者様さっき、〈世壊呪(セカイジュ)〉について、何か思い当たるフシがある、って……」



「……ああ……」


 お兄は顔を上げると、真剣な目でアガシーを見た。



「アガシー。俺の話で、お前も思いついたんじゃないのか?」


「あ~……まあ、一応。

 やっぱり、アレ――ですかね?」



「そうだ――と、俺は考えてる。

 〈世壊呪〉はこの広隅(ひろすみ)に現れる。加えて、呪に引き寄せられる――なんて言われてるってことは、闇の力との親和性が高いわけだ。

 そして……そのチカラは世界を壊すほどのもの、となれば――」



「………………」



 お兄の話を聞いたアガシーは、珍しく真剣な表情で押し黙る。


 ……二人だけで納得されても、あたしには何のことだかサッパリなんだけど……。



 あたしが説明を求めて目を向けると、お兄は黙ったまま立ち上がって……勉強机に引っ掛けてあったらしい、銀色のペンダントを手に戻ってきた。




 ……ん? あれ? あのペンダント……何か見たことある、ような……?




 ううん、でも、あんなのがあったなんて、今初めて知ったし……何かとカン違いしてる?


 んん? んんん……?



「なんだ亜里奈、どうかしたか? 不思議そうに何度も首を傾げて」



「――え? あ、ああ、ううん、お兄にアクセって組み合わせが意外過ぎて」


 あたしは変にしつこい既視感を追いやって、何とか場を繕った。



「わーるかったな。どーせ俺はオシャレとは無縁だよ。

 ……というか、まあ、察しはついてるだろうが、これはただのアクセサリーってわけじゃない。〈封印具〉ってシロモノでな」



 お兄はペンダントを掲げてみせる。



 〈封印具〉なんて名前ってことは、これに何かが封じられてるわけで……。


 さっきのお兄たちの会話からすると、それは世界を壊すぐらいの闇のチカラで――って、もしかして……!



 あたしが弾かれたように勢い込んで視線を移すと、それでお兄はあたしの考えを察したんだろう――静かにうなずいた。



「……そうだ。こいつに封印されてるのは――」



 銀色のペンダントが、電灯の明かりでキラリと――何だか魅惑的に輝く。




「異世界アルタメアを脅かした、俺の最強の敵……〈魔王〉そのものだ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ちょ、魔王触って亜里奈ちゃん大丈夫ですか!? メッチャ不穏なキング・クリムぞ……じゃなくて時間のスキップがあったけど!?(゜Д゜;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ