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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
2章 ただのデートで済めば勇者はいらない
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第17話 本領発揮の魔法少女と勇者の本気



 ――会議室前から離れることなく俺は、腰を少し落として構えを取った。



「いつものあの剣……使わないんですか?」



 俺が素手であることを、低い声で聞いてくるシルキーベル。


 ナメられている――とでも思ったのだろうか。



 それに対して、「使えないんだよ!」――と、真っ正直に返事する代わりに、俺は伸ばした左手をくいっと動かして挑発する。


 いわゆる、『かかってこい』のアレだ。



「あとから、負けた言い訳にはしないで下さいね……!」



 不満げにそう答えたシルキーベルも、改めて腰だめに杖を構える。



 ……しかし、前々から思ってたが、魔法少女ってわりには物理攻撃にこだわってるなこの子。



 ――そう言えば、『物理に特化した前衛系の魔法少女もいる』とか、前に亜里奈(ありな)がアツくレクチャーしてくれたことがあったっけ。


 つまり、このシルキーベルがまさにそういうタイプだってことか……。



 しかし――だ。


 聖剣を使わない俺を『ナメてる』と思うんなら……。



 シルキーベル、そんなお前は俺の拳を『ナメてる』んだぞ?



「いくよ、カネヒラ――!」


「ウウ、拙者ゴトキ無能、虫けらホドノ役ニモ立チマセンデショウガ――姫ノ仰セトアラバ、致シ方無ク……」



 シルキーベルの呼びかけに、使い魔らしい武者っぽいロボが答えるが……。


 な、なんだかえらくダウナーだなコイツ……これで役に立つのか……?



「せいっ!」



 一瞬気が抜けた俺に向かって、呼気一閃、シルキーベルが杖を矢継ぎ早に突き出してくる。



 ……相変わらず、速いことは速いが……動きが素直で見切りやすい。


 俺はその場から動くことなく、拳だけでそれを打ち払っていく。



 下がったり回り込んだりすれば、もっと簡単にかわせるんだが……ヘタにここを離れると、スキを突いて会議室に乱入されかねないからな。それだけは避けたい。



「……打ち鳴らすは聖音、打ち祓うは呪怨……」


「――!?」



 やる気をみなぎらせていたわりに、あまり積極的に攻めてこないと思ったら――杖での連突を牽制にして、何かを詠唱している……?



 いや、それだけじゃない――。


 気付けばシルキーベルの頭上に――恐らくは魔力の塊だろう、いくつもの白く輝く鐘が生み出されていた。



 まさか――魔法? やっぱり本分はそっちだったのか……?


 くそ……アガシーがいれば魔力の動きも分かっただろうに……!



「……祈りは祈りと手を取り、声となり――!」



 熱を帯びてきているが、詠唱はまだ終わってないようだ。


 なら――まだ何とかなる……!



 見知らぬ魔法じゃ、さすがに被害の程度が分からないからな……悪いけど、ここはこっちも魔法を使って妨害させてもらおう……!



 俺がそう考えた、その瞬間――。



「ォオ覚悟ォーーーッ!」


「!!!!」



 俺の視界と意識、その両方の外側から、あのダウナーな武者ロボ使い魔が高速で斬りかかってきやがった!


 完全に不意を突かれた俺は、それでもとっさに身をひねってかわすが――。



「――打てよ〈織舌(シゼツ)〉!」



 その一瞬のスキに、シルキーベルは魔法を完成させた――のかと思ったら、先端に真っ白な光を宿した杖を、一直線に突き出してきていた!



 なんだやっぱり打撃か――魔法と思ったら必殺技の演出かよ!


 だけど、それなら問題ない!



「――甘いっ!」



 俺は向かってくる杖に渾身のアッパーを合わせて――思い切り跳ね上げてやった。


 狙い通り、杖はシルキーベルの手を離れ……。



「響けよ聖紋っ!」


「――!?」



 くるくると宙を舞った杖は、その勢いで浮いていた魔力の鐘を打ち――。


 生まれ出た澄んだ音色が、さらに他の鐘をどんどんと連鎖して鳴らしていくことで……一気に、爆発的に大きくなる……!


 そうして、魔力を帯びたその鐘の音は……音波どころじゃない、強烈な圧力と化して俺を抑えつけ――!



「〈千織の(レゾナント)――」



 身動きが取れなくなった俺に、鐘の音と共鳴して増幅した凄まじい魔力を、光としてまとった――シルキーベルの拳が迫り来る。


 ……その口もとには、微かな笑みが浮かんでいた。



 くっそ、やられた……!

 コイツ、ハナから全部計算してやがったな!



「――聖鐘(カリヨン)〉ッ!!!」



 だが、このクローリヒト装備、呪われちゃいるが単純な物理防御力だけは最強クラスだ。


 気合い入れて踏ん張れば、魔力が宿っていようとも物理攻撃、そこまでのダメージにはならないハズ……!



 俺は、胸を真っ直ぐに射貫くシルキーベルの正拳突きに対して歯を食いしばる――が。



「――ぐぅっ、あぁッ!!??」



 インパクトの瞬間――目の前が真っ白になった。



 一瞬、完全に意識が飛んで――。


 あまりの衝撃に息は詰まり、悲鳴さえまともに出ない……!



「お……ご……ぐ……!」



 トラックの衝突なんていう生易しいレベルじゃない――。


 俺の身体を貫いていったのは、巨人族の棍棒フルスイングを防具ナシで受けたような、とんっでもない衝撃だった……!



 この俺ですら即死級の、正真正銘クリティカルな大ダメージだ……!



 勇者としての意地ってやつで、なんとか吹っ飛ばずにこらえはしたものの……その後、力無く崩れ落ちる俺の片膝は、ブザマに地面を突いていた。



 そう……まったくホントに、なんてブザマなんだ……!


 ナメるな、なんて調子に乗って……油断してたらコレだよ、くそったれ……!



「思い知りましたか? 剣を使わなかったから――なんて言い訳はナシですよ?

 先に言いましたよね?」



 何とも得意げなシルキーベルの声。


 ヘルメットの内側では、さぞ晴れやかなドヤ顔が俺を見下ろしていることだろう。



 そう……初めから考慮しておくべきだったわけだ。



 大いなる呪い〈世壊呪(セカイジュ)〉――それを破壊しようってシルキーベルの魔力が、いわゆる聖・光・祓といった属性を備えていて……魔・闇・呪に属する存在に対して、圧倒的優位を誇るってことを。


 つまり……呪いの装備を身に付けている俺にとっては、一発もらえばそれだけでこんな風に致命傷になりかねない、相性最悪の相手だってことを!



 ああー……くそ、すっげーアッタマに来る……!



 誰に、だって――?


 当然、自分にだ!

 負けるはずがないなんて、高ぁくくってたバカな自分にだよ!



 やるべきことのために、大切な人のために――って、必死に頑張るヤツが、デカい実力差をひっくり返すのなんて……。


 それこそ、勇者やってた俺が、誰よりも骨身にしみて分かってるハズなのになぁ、コンチクショウ……!



「……まったく、シルキーベル……大したヤツだよ、お前は。

 俺は完全にお前を見誤ってたらしい」


「! ま、まだやるんですか!?」



 ゆらりと立ち上がる俺。


 警戒するように、シルキーベルは少し距離を取る。



「アワワ、ヒ、姫ェ……マズイデゴザル、ヤバイデゴザルゥ……!

 モウ駄目、拙者ノチッポケナ命運モ尽キマシタ、モハヤコレマデ、カクナルウエハァ……!」


「こ、こらカネヒラ、相手が立ったくらいで悲観して自爆しようとしないで!

 見限るライン低い、低すぎるから! まだこっちが圧倒的優位に――」



「残念ながら、正しいのはその使い魔だ」



「――え……」



 瀕死状態にまで体力(HP)を持っていかれた俺に、もう、なり振り構っている余裕はなかった。


 床を割るほどの本気の踏み込みで、一瞬のうちに肉薄すると――



「――っ!?」



 本能的に危険を感じたのだろう、慌てて防御態勢を取ろうとするシルキーベル目がけ――掌底打を放つ。



 ……それは、たったの一撃。


 しかも、せめてもの慈悲として直撃はさせない、寸止めの一撃だ。



 しかし――。



 その一撃は、爆発めいた轟音とともに、シルキーベルを一瞬で廊下の端まで吹き飛ばした。


 あげく、その小さな身体は壁に激突して跳ね返り、痛々しく廊下を転がる――悲鳴を上げるヒマすらなく。



「ヒ、ヒ、姫ェェェーーッ!?」



 使い魔の武者ロボが、大慌てで倒れた主人のもとへと飛んでいく。


 そのシルキーベルは、うめきながら身じろぎしているあたり……ハデに吹っ飛んだわりには気絶したわけでもなく、それほど大したダメージでもなさそうだ。


 あのプロテクターというか魔法少女の衣装、やっぱり見た目で想像するよりずっと防御力が高いらしい。



 まあ……今の一撃を寸止めじゃなく直撃させていたら、それでも無事ではすまなかっただろうが。


 なにせ――。



「今のは、俺が受けたダメージをそのまま威力に上乗せする奥義でな」



 俺は、数メートル離れたところで、何とか立ち上がろうと必死に四肢に力込めているシルキーベルに、そう説明してやった。



「俺にこの技を使わせた時点で、シルキーベル……今日のところはお前の勝ちだ。見事だったよ」



 そう――見事だった、本当に。


 なにせこれまで、俺にこの技を使わせるほど追い詰めたのは、魔王クラスの、ほんの一握りの相手だけなんだからな。



「クロー……リヒト……!」



 俺の言葉が聞こえているのかいないのか、頭だけを起こして悔しげに俺を呼ぶシルキーベル。



「……じゃあな」




 応えて別れを残した俺は、念願の会議室へ帰還し――。



 言うなれば体力1ケタというギリギリのところで、ようやく、クローリヒト装備から解き放たれたのだった……。






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― 新着の感想 ―
[一言] >物理に特化した前衛系の魔法少女もいる リリカルな魔砲少女も、クロスレンジでは杖術で戦ったりする時代ですからねぇ( ̄▽ ̄;) って、属性の対消滅や中和どころか、クリティカルヒットですとぉ!…
[一言] >『物理に特化した前衛系の魔法少女もいる』 プ〇キュアはシリーズ変わってもまじで肉弾戦しまくってますよねー。
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