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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
2章 ただのデートで済めば勇者はいらない
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第16話 やっぱりもしかして〈世壊呪〉って



「………………」



 ――互いに向かい合ったまま動かない、俺とシルキーベル。



 女の子と差し向かい――なんて言えば聞こえはいいが、向けられているのは好意じゃなく敵意なので、正直居心地は最悪だ。というか気分悪い……。


 なんせ、呪いで絶賛体力(HP)減少中だからなー。



 そう言えば、今回シルキーベルの雰囲気がちょっと違うと思ったら……肩口のあたりに何かが浮いている。



 刀を持った武者を二頭身にデフォルメして、天使の翼を付けて――そしてそれをロボットにしたような……なんかメカメカした、マスコットっぽいやつだ。


 俺にとってのアガシーみたいなもん……なんだろうか。



 そう言えば亜里奈(ありな)が、『魔法少女には使い魔がつきもの』みたいに言ってた気が……もしかして、アレがそうなのか?



 いや――というか、亜里奈で思い出したぞ!


 そう、シルキーベルの写真か動画! アイツ固執してたよな……。



 ここで遭遇したのも何かの縁だ、亜里奈には今日の服をコーディネートしてもらった恩もあるし……。


 頼みの綱のアガシーはいないからな、スマホの操作は正直不安だらけだが……ここはアニキとして、妹のためにやるしかあるまい……!



 ……って……いやしかし、ちょっと待てよ?



 やっぱり、勝手に撮ったらマズいよな?


 盗撮――にはならないと思うけど、肖像権の侵害とか……あったりするんじゃ?



 うん……そうだよな。

 そもそも相手は女の子なんだし、ちゃんと許可を取らないと……。



「……なあ、シルキーベル」


「なんですか?」


「お前の動画、撮ってもいいか?」


「…………は?」


「あ、いや、写真でもいいんだが――」



「なんなんですかいきなり!

 どっちもお断りです! 決まってるでしょう!」



「あ、いや、俺が欲しいんじゃないぞ?

 魔法少女が好きなコがいてな、その子のために――」


「どんなウソのつき方ですか! ふざけないで下さい!」



 ……れ、烈火のごとく怒られた。



 うーん……。


 これで勝手に撮ろうものなら、この子、怒りのあまり頭の血管切れるかも知れんな――って、それは冗談にしても、さすがにちょっと恐いし……。


 やっぱり、勝手に――ってのは、いくら何でも悪い。



 しかたない……やっぱりあきらめてくれ、亜里奈。



 代わりに今度、我らがメタル甘味処、〈世夢庵(せむあん)〉の黒みつまめ(通称ブラックダイアモンド)おごってやるから。



「……そうか――ムリを言って悪かった。じゃあな」



 撮影がムリなら、時間制限の問題もあるし、さっさと退散しよう……。



 そう思って監禁室(実際には会議室だが)のドアノブに手をかけた俺に、鋭い声で待ったがかかる。


 当然――シルキーベルからだ。



「どこへ行く気ですか。

 その部屋……人質の人たちが集められているんですよね?」


「…………」



 ――さて、困った。



 ここで無視して強引に部屋に戻ったとして、シルキーベルはすぐに後を追ってくるだろう。


 すると最悪、俺が変身を解く――もとい、装備を解除する瞬間を見られる可能性がある。それはマズい。


 そしてもちろん、俺の正体がその人質の一人だから――なんて、バカ正直に答えるわけにもいかないし……。



「少し、中の人間に用があってな。1分だけ時間をくれないか。

 ……安心しろ、誰にも危害は加えないし、用が済めば俺はそのまま姿を消す」



 ちょーっと苦しいが、これぐらいで納得してくれないかなー……とか思ったら。



「……その目的のために、強盗を無力化した――というわけですか」



 シルキーベルの気配が――敵意が、重みを増した。



 ああ〜……やっぱりムリかあ……。



「そこまでするということは……。

 人質になっている人の中に、〈世壊呪(セカイジュ)〉へと繋がる何かがある――そうなんですね?」



 え? いや……いやいや、いやいやいや!

 ちょっと待て、なんでそうなる!?


 そもそも〈世壊呪〉ってのが何なのかすら、こっちはまだ知らないってのに!



「……何のことだ。俺は〈世壊呪〉なんて知らん」




「とぼけないで下さい。

 この世界を破壊するほどの大いなる呪――〈世壊呪〉。

 それは、同じ〈呪〉の力に引き寄せられて姿を現すといいます。


 つまり、あなたは〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉が魔獣を喚び出しているように……その身にまとった強力な呪いで〈世壊呪〉を引き寄せ、そのチカラを手に入れようとしているのでしょう!?


 そして、わたしを助けたり、殺さずにいるのも……魔導団を出し抜くためには、〈世壊呪〉を破壊しようと敵対する、わたしという存在がいた方が都合が良いから――じゃないんですか?」




 ああ……なるほど、なるほどね……。そういうことだったか。



 一方的にいろいろとしゃべってくれたシルキーベルのおかげで、俺はいくつかの疑問が腑に落ちた。



 そう――。


 だから、俺はシルキーベルに最初から敵視されたし――救国魔導団のサカンってオッサンに、『目的が同じ』みたいに友好的に扱われたわけだ。



 しかし、同時にこれは……俺がこの姿(クローリヒト)でいる限り、よっぽどのことがないと、敵じゃないと主張しても信じてもらえない――そういうことだよな?



 参ったなー……こりゃ、亜里奈に背中押されたように、本格的にダークヒーロー道を突き進む覚悟しなきゃダメってことか……。



 ……正直俺もこれまで、「つい首を突っ込んで、巻き込まれただけだし」――って、さっさとこの揉め事から身を引くこと、考えないでもなかったんだ。


 だけどなあ……〈世壊呪〉ってのが、字ヅラから想像していた通りのヤバいモノのことだったって――こうして知っちまうと、やっぱり放っておくわけにもいかないんだよなあ……。



 なにせ、それが亜里奈が言った通りの、俺――赤宮(あかみや)裕真(ゆうま)だからな。



 ――それに、だ。


 はっきり言って俺は、今の話で、〈世壊呪〉の正体について、確信に近いレベルで思い当たってしまったことがある。


 もちろん、違う可能性もあるんだが……もし、想像した通りだとすれば、だ。



 〈世壊呪〉の出現について俺は――巻き込まれたどころか、実は一番責任が大きい、中心にいたことになり……。


 やっぱり、放っておくわけにはいかない――という結論に落ち着くんだ。



 だから……うん、しょうがない。


 誠実に行動してれば、誤解が解けるときもあるだろ――ってことで。



 やっぱり今しばらく俺は、〈クローリヒト〉でいるしかないってわけだ。



 まあ、それはともかくとして……だ。


 今はさっさとこの場を切り抜けるのが先なんだよな。

 毎度のことながら、体力が保たねーよ……。



「……話はそれだけか?

 お前の相手なら時間があるときにしてやる、今は――」


「行かせませんっ!」



 シルキーベルが、ずいっと身を迫り出すとともに、あの杖とも棍ともとれる武器を突きつけてくる。



「その部屋の中には、わたしの大切な人が――!」



 勢いよくそこまで言って、ハッと何かに気付いたように口籠もるシルキーベル。


 だがそれも一瞬、すぐに……



「そ、そう――!

 わたしの大切な、守るべき人たちがいるんですから! 行かせない!」


 そう言い直した。



 ……ちょっと待て?


 今の、言い直す前のセリフ……これまでの人生で、さんざんニブいだのなんだの言われてきた俺でも、何となく分かるぞ?



 つまり――。


 人質の中に、シルキーベルと個人的に親しい人物か、家族がいる……ってことだよな?



 むむ……。


 いやだからって、そこから個人情報を調べて特定していこうとか、そんなこと考えやしないけど……。



 しかし、そうなると――。


 俺はあらためてシルキーベルの様子を確かめる。



 ……やっぱりか。



 なにがなんでも行かせない――そんな決意が、空気の緊張となってヒシヒシと伝わってきた。


 少なくとも、「撮らせてくれ」って言ったことへの怒りが燃え上がっただけじゃないだろう――ちょっとした可燃性物質追加にはなってしまったハズだが。



 こりゃ、今まで以上に本気だぞ……。

 なんとか言いくるめて穏便に――なんて考えは捨てた方が良さそうだ。



 しかたない――。



「……悪く思うなよ」



 ここは――っていうか、今回もか。



 どうやら、実力行使で強行突破するしかないらしい……ホント、困ったことに。






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― 新着の感想 ―
[一言] くっ!! 撮影できないなら……心のシャッターで撮って、それを絵にするんだ勇者よ!!(ぇ そして世壊呪……異世界由来であったか(゜Д゜;)
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