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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
1章 どうにもこうにも、勇者は悪役をするしかない
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第12話 魔法少女は魔法少女をしたくない



 ――総合格闘ジム〈ドクトル・ラボ〉……。



 『体育会系(ジム)文化系(ラボ)かどっちやねん!』


 ……て、ツッコまずにはおれへん、そのちぐはぐな名前をしたジムの地下にある会長室で……。



「うむ……やはりアレだな、使い魔の存在だな、敗因は! 早々に完成させなければ!」



 デスクにふんぞり返って、パソコンと長いことにらめっこしてたおばあちゃんが、フンスと、鼻息荒く言い放った第一声がそれ。


 正反対に、ソファに座るウチの口からは、どんよりしたタメ息が漏れ出した。



「今日の戦いの動画、穴空くくらい見直して、なんで出てくる結論がソレなんよぉ、もぉ〜……」



「いや……重要なことだよ、千紗(ちさ)

 魔法少女には、相棒となる使い魔が必要不可欠だからな!

 ――使い魔さえいれば、このクローリヒトとかいう若造に、こんな風にあっさりあしらわれるようなこともなくなるだろう! 間違いない!」



「……使い魔おったら、チカラがすごい強くなるとか、そういう効果あるん?」


「いや、基本的には様式美」


「ほんならおっても一緒やん!」



 ザンネンすぎるおばあちゃんの一言に、ウチはまたガックリうなだれる。



 ――若い頃、外国の大学を飛び級で卒業した、博士号も持つ天才科学者で……。

 そのくせ、若い頃選んだ職業は女子プロレスラーやった、っていう……。


 そんな、思いッきり振り切った文武両道を大股で突き進む――実年齢60前のハズやのに、どう見たって30前後にしか見えへん、モデルみたいなこの美魔女が、ウチのおばあちゃん。



 ――そう。


 このおばあちゃんが、ウチを、〈シルキーベル〉なんかに変身させるアイテムを作った張本人。


 それもウチの意見とかまったく聞かんと、完全に自分の趣味丸出しで。



 …………。

 ホンっマに、なんであんなんにするかなあ〜……!



 だいたい、魔法少女って、小学生ぐらいの女の子やから可愛らしくてええんちゃうの?


 そらな、ウチ、しょっちゅう中学生に間違えられるぐらいやけど……でも17やで? 高校2年生やで?


 魔法少女とか、さすがにちょっとムリあるって、もお〜……。



 鈴守(すずもり)家の『家業』のためにはしょうがないことやねんけど、さすがに……ちょっとシンドい。


 そもそもウチ、自分で言うのもなんやけど、恥ずかしがりやのに……。



「ん? どうした千紗。

 ああ、変身ポーズと決めゼリフを改良して欲しいのか?」


「いらへんし、やらへんっ!」


「そうだな、もっと力強くというなら、やはり……。

 今最もアツい魔法少女アニメ〈聖鬼神姫(エンジェルオグリス)ラクシャ〉をパクって――」


「えーえーかーら!」


「うむ、そうだな。パクりはいかんな。やはりオリジナルで勝負しなければ……。

 ――ま、すでにシルキーベルの衣装、ちょーっとデザインコンセプトとか拝借しちゃってるんだけどな、はっはっは!」



 適度に引き締まった腕を組んで、なんやオトコ前な笑い声を上げるおばあちゃん。



 ……そう。


 ウチのおばあちゃんは、魔法少女ってものが大好きなんである。



 ……あ、うん、それはええんよ?


 そもそも個人の好みやし、ウチかて、小っちゃい頃大好きやったし……別に今でもキライとかちゃうし。



 でも――。



 やからって、17にもなった孫娘つかまえて、ホンマもんの魔法少女に仕立て上げんでもええと思うんよ……。


 見るとやるとでは大違いやのに……。



 いくら、ウチが『家業』のために戦わなあかんくて……。

 やのに、ウチにはそのためのチカラが足りひんとしても……。


 そのために、補助になる道具が必要やって言うても……!



「……ないって……魔法少女は。

 それだけはないって……ありえへんて……」



 しかも、こんだけ恥ずかしい思いしてんのに、今日の夕方、公園で、ウチはあのクローリヒトっていう剣士に、子供みたいにあしらわれた。


 どんだけ実力差があるんか……まるで歯が立たへんかった。




 ――世の平穏を守るために、代々人知れず〈呪〉の危険なチカラを浄化してきた、ウチら鈴守家――。


 その鈴守家の当代〈巫女〉になったウチが、〈呪〉の力に負けるとか、冗談にもならへんのに……。



 ずずーん……て、音がしそうなぐらいウチの頭が沈み込む。



 今日なんかは、〈呪〉の反応を追っかけるために、せっかくの友達との約束まで、ちょっとの時間で切り上げたのに。


 それに――。



「結局……赤宮(あかみや)くんとも会われへんかったのに……」



 思わずウチが、口を尖らせてそんな文句をもらすと……。


 それを聞いてたみたいに、カバンの中のスマホがウチを呼んだ。



 まさか、と思って引っ張り出したら――ホンマに、赤宮くんからの電話やった。



「あ……!」



 それだけで自然と、気分が上向くのが分かる。


 ウチもけっこう、単純なんやなあ……。



『……もしもし、鈴守? 今、電話大丈夫?』


「あ、うん、大丈夫。――どうしたん?」



 スマホとかパソコンとかが大のニガテっていう、今どき珍しい赤宮くん。


 やから、クラスの他の子たちみたいに、SNSとかメールとかで頻繁に連絡取ったり出来ひんけど……ウチは、それが逆にいいと思ってる。



 ウチかて、そんなしょっちゅうメッセージとかやり取りする方ちゃうし……。

 しかもこうやって、ちょうどいいタイミングで連絡来たりすると――なんか、すごい得した気がして、いつも以上に嬉しくなれるし……!



『いやさ、俺、用事で今日の約束、すっぽかしたろ? 悪かったなーって思って。

 あ〜……ほら、鈴守も、一応は楽しみにしててくれたみたいだし……さ』


「ううん、気にせんといて。

 実はウチも、その、急用入って……すぐに帰ってもうたから……」



 〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉とクローリヒトのせいで――っていう恨み言だけは飲み込むウチ。



『……そうなの?

 あ〜、こりゃ明日、イタダキのヤツがうるさいだろーなー……』


「おキヌちゃんがうまいことフォローしてくれるんちゃう?」



 赤宮くんにからむイタダキくんを想像してちょっと笑うと、電話の向こうで、赤宮くんも笑ってた。



『まあね。おキヌさんなら何とかしてくれるか。

 えーと……その……それでさ。

 あ〜……それはそれとして、一つ、提案があるんだけど……』


「ん? うん、なに?」


『だからさ、あの、来週の頭――って、耳元で下品な単語連呼すんなエセ軍曹! 営倉にブチ込むぞ!』


「……はい?」



 なんか、赤宮くんが珍しく電話の向こうの方で怒鳴ってた……。

 かと思うと、すぐに声がこっちに戻ってくる。



『ごご、ゴメン! いやその、ちょーっとデカい虫が部屋に入ってきて、顔の周りでウダウダうるさかったもんで……ホントごめん! もう黙らせたから!』


「あ、うん、ウチは大丈夫やから。ちょっと驚いたけど。

 それで……来週の頭がどうかしたん? 創立記念日のこと?」



『! そ、そう、創立記念日! 休みの日! なんで、そのー……今日、うちの常連さんに映画の券もらってさ、だからその、良かったら一緒に行けないかなー……って――。


 ……いや! こんな言い方じゃダメだよな、うん!


 予定がなかったら一緒に行って下さいお願いします!』



 人があわててるところを見ると、かえって自分は落ち着いてまうってホンマなんやなあ……。



 いつもは何があってもビックリするぐらい冷静な赤宮くんが、電話の向こうであたふたしてるんが分かると、なんか、いつもすぐにあわててまうウチの方が、今回は余裕をもって話を理解してた。


 テンパってる赤宮くんて、なんやカワイイなあ、とか思うぐらいには。



 ……ともあれ赤宮くんは、ウチをデートに誘ってくれてるみたい。


 対して、ウチは――



「……うんっ、ええよ、もちろん!」



 ……二つ返事でOKしてた。自分でも驚くぐらいすんなりと。


 これまで男の子にデートなんか誘われたことなかったから、もうちょっと戸惑ったりすると思ったんやけど……。



 うん……多分、誘ってくれたんが赤宮くんやから、なんやろなあ。


 さっきまでのユーウツな気分もどこへやら、すごい嬉しくて楽しい気持ちでいっぱいになってる。



『ほ、ホントに? うおー、ありがとう鈴守ぃ……!

 ああ……!

 またかよーってやさぐれないで、マジメに世界を救って帰ってきて、ホント良かった……!』



 すごい大ゲサに喜んでくれる赤宮くん。


 ……でもなんやろ今の、直前までムズかしいゲームでもやってたんかな? それのクリアに願かけしてたとか?



 とにかく――嬉しいのはウチもいっしょ。



 それから、大まかに待ち合わせ場所とか時間とか決めて、あとはまた学校で話そうってことになって……。


 ウチは、上機嫌に電話を切る。



 そうして視線を上げたら、おばあちゃんが、こっちをじーっと見つめてた。



「……今のが、ちょっと前に告白されて、付き合うことにしたって言ってた男子か?

 ずーっと前から、アンタがよく話題に出してた、あの?」



「う、うん、そう。その、赤宮裕真(ゆうま)くん」



 ずっと前から気になってたんは確かやけど、改めて言われると恥ずかしいなあ……。



「ふむ……。千紗、アンタの魅力を見抜いたその眼力といい、同じく人を見る目のあるアンタをそれほどまで惹きつける人格といい……どうやら、思った以上の傑物(けつぶつ)のようじゃあないか。

 ――よし、今度一回うちに連れてきな。

 根性はどれぐらいか、いっちょもんでやらないとね……!」



 ゴキン、と手の骨を鳴らすおばあちゃん。


 かつてクマすらブン投げたっていう伝説の女レスラー、〈ドクトル・カリヨン〉としての闘気がにじみ出てた。……すっごい迷惑。



 世界トップレベルの頭脳持ってるくせに、その使い方は脳筋なんがホンマ困る。


 文武両道ってそういう意味ちゃうやろうに……もう。



「やーめーて。赤宮くん、そんなごっついカラダした体育会系とかちゃうねんから」



 そんなことを言いながらも、ウチは、自分の表情がユルんでるのは分かってた。




 だって……赤宮くんとデート。


 ウチにとっては――人生初めてのデートやねんから……!




 もちろん、ちょっと緊張もするけど――。


 それ以上に、やっぱり楽しみやもん……!






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― 新着の感想 ―
[一言] 千紗ちゃんがシルキーベル!? 確かに魔法少女系は小学校高学年には卒業、やよなぁ普通は(゜Д゜;) 遅くても中学生には卒業やね。 というか、彼女の正体がなんにせよ……京言葉系の関西弁な彼女は…
[良い点] 鈴守さんが、シルキーベル!?な驚きと共に、おばあさまの強キャラ感にどびっくりです! めっちゃ強そう(確信)
[一言] 〈ドクトル・カリヨン〉がなんとも心を惹きます。 若い2人の間に絶妙に割り込んできて引っ掻き回していってくれないかなぁ笑
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