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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
10章 それならもう、魔王と呼ぶしかない

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第119話 その銭湯には聖霊がいる……ときもある



 ――放課後、美汐(みしお)と、まずは図書館で――次いでファミレスでと、どっぷりテスト勉強したわたしは……。



 美汐と別れた後、一人で……そう言えば近いな、とか思って、ふらっと〈(あま)()〉に足を伸ばしていた。



 先週来たばっかりだって言うのに、しつこいって思われないかなー……って考えと。


 せっかくここまで来たんだし……って考えのせめぎ合いで、少しの間、暖簾のれんの前をうろちょろした後――。



 ――ええい、毎日ってわけでもないし、いっちゃえ!



 そう心を決めて、暖簾をくぐった。




 そんなわたしを出迎えたのは……。




「へ〜い、いらっしゃいませ〜!」




 ――番台にちょこんと座る、ポニーテールの金髪と笑顔がまぶしい美少女。



 体育祭のとき、赤宮(あかみや)センパイのクラスの応援団長みたいなことやってた子だ。


 確か、センパイの再従妹(はとこ)の……アガシーちゃん、だっけ。



 あのときも目立ってたけど、改めてこうして近くで見ると……何て言うか、ホントに人間離れしてるっていうか……人形みたいな感じがするなあ……。


 うーん、なんだろ……美少女過ぎるから?



 でも、こんな子が番台やってるお風呂屋さんとか、いずれテレビの取材とか来そう……。




 ――って言うか、そういえばついこの間2年に転校してきた、メチャクチャ美形とウワサの『魔王センパイ』って、この子のお兄さんなんだっけ……?




 ……いや、それにしても、なんで『魔王』?


 センパイが『勇者』だから?



 うーん……今度美汐に聞いてみよう……。




「……じー……」



 ……あ。しまった、ついぼーっと眺めちゃってた。



 アガシーちゃんが、わざわざ口でじーって言いながらこっち見てる――って、やっぱり変わった子だなー。



 ――とか思ってたら、アガシーちゃんはポンと手を叩いてわたしを指差す。



「――おお……! 思い出しましたよ!

 そうだ、相手のスキを突いて、借り物をスリ取るのが上手い人!」



「え、ちょ、体育祭のわたしの印象ってソレ!?

 ――ってか、その字ヅラだけだとわたし通報されるから!

 せめて、騎馬戦で落馬した人、って言ってほしい!」



 周りのお客さんの視線を一身に集めてしまったわたしが、両手を振って弁解すると……。


 アガシーちゃんは、からからと楽しそうに笑った。



「はっはっは、サーセン、つい茶目っ気を出――づぃっ!?」



 ――スコーン、と。


 横合いから高速で飛んできた石けん(多分)が、アガシーちゃんの側頭部を撃ち抜いた。



 出所を目で追うと……脇の待合スペースで、モデルみたいな30代ぐらいの女の人と話してる女の子に行き着く。



 ……センパイの妹の亜里奈(ありな)ちゃんだ……。



「そこの軍曹! お客さんをからかって遊ぶな! シメるぞ!」



 氷点下の眼差しでアガシーちゃんを一喝してから、あらためて、亜里奈ちゃんはわたしに「ごめんなさい」と礼儀正しく頭を下げる。



 そして、またモデルみたいな女の人と……なんか友達みたいに、楽しそうに、かつ白熱した様子で話を始めた。



 うーん……やっぱりって言うか、スゴい子だなあ……亜里奈ちゃんも。


 でも、なんていうか……そんなところが、妙にかわいい。



 いっそ、2人揃ってうちでバイトとかしてくれたら、華やかで良さそう――だけど、さすがに小学生じゃバイトはムリかー。



「え、えーと……すんませんっした、お客サマっ!

 確か、兄サマの後輩さんの……そう、シルキーさん!」


「それだと、家事手伝い妖精になっちゃうんだけど……ま、いっか。

 よろしくね」


「イエシュ、マム! 入浴料は450円となっております!

 ビタ一文まかりません!」



 番台でビシッと敬礼するアガシーちゃん。



「……え、そうなの?

 先週来たとき、おばあちゃんは中人料金でいいって言ってくれたけど?」



 マジメな顔で、しれっとそんなウソをついてみる。


 すると……



「げげ、マジっすか!?

 うーむむむぅ、あのおばーちゃまが許可したとあれば……」



 真剣な顔でうなり出すアガシーちゃんに、わたしは思わず吹き出した。



「あははっ、ごめんごめん、冗談だよ!

 ――ハイこれ、500円」



 ポケットから出した500円玉を、番台に置く。



「……今のは、さっきの茶目っ気のお返しってやつね」


「ほほぅ……? やりますな、シルキーさん……!」



 アガシーちゃんはニヤリと笑いながら、500円と引き換えに、すっと50円玉を差し出してきた。


 ……何の取引だ、コレ。



 そうこうしていると、女湯の暖簾をくぐって、一人のおばあちゃんが出てくる。



「……いやー、アガシーちゃん、今日も良いお湯だったわあ〜」



「お、肉屋のばーちゃん! いやもうばーちゃんじゃねーな!

 お肌がツルツルのテカテカで、50歳は若返ってますよ! もはやお嬢!」



「アンタはいちいち、調子いいわ大ゲサだわで……おかしいねえ、まったく!

 ……ほれ、アメちゃんでもあげるよ!」



「いぇーい、ありがとーございまーす!」



 楽しそうに笑うおばあちゃんが帰り際に置いていったアメを、ひょいっと口に放り込み、ご満悦に手を振るアガシーちゃん。



 その間に、今度は男湯の方から……小学生ぐらいの2人連れの男の子が出てくる。



「……な、凛太郎(りんたろう)、風呂屋って結構いいだろっ?」


「――ん」



 元気な男の子に同意を求められたメガネの子が、コクコクとうなずく。



 あー……わたしと美汐のときみたいに、メガネの子はお風呂屋さんが初めてだったのかなー、とか思って見てたら……。



「おいコラ、アーサー! お前ちょっとこっち来い!」



 いきなり、アガシーちゃんが元気な男の子の方を呼びつける。



 ああ……同じ年頃だと思ってたら、やっぱり知り合いだったんだ。

 クラスメイトとかかな?



「……うえっ?

 な、なんだよ軍曹、イタズラなんてしてねーし、ちゃんとカネだって払って――」


「上官にはイエシュだ! いーから、さっさと来る!」



「い、イエシュ、マム……」



 しぶしぶ、といった感じで番台に近付く男の子。



 するとアガシーちゃんは、番台の奥に並べてしまってあったバスタオルの一つを取って、男の子の頭にぼふりと被せる。


 そして、わしゃわしゃと乱暴に頭を拭き始めた。



「――ななな、なんなんだよ軍曹っ!?」



「頭拭くのテキトー過ぎるんだ、キサマは! 水気残ってるだろーに! 犬か!

 ……ったく、暑くなってきたからって、こんな頭でいたらカゼ引くぞ、ド阿呆!

 あと、床が濡れたら他のお客さんにメーワクだ!」



「お、おう……悪ィ……」



 大人しく、されるがままに頭を拭かれる男の子。



「まーったく……マリーンもなんか言ってやれ」


「ン……良かったね」



「「 何がっ!? 」」



 メガネの子の一言に、アガシーちゃんと頭拭かれてる子のツッコミがキレイに重なった。


 うーん、仲良いなあ……。



 ……っていうか、とにかく元気すぎて暴走気味って感じだったけど……。


 アガシーちゃんって、それだけじゃないんだね……。

 結構世話焼きっていうか、面倒見が良いっていうか……ちょっと意外。



 そのあと、お風呂上がりお約束のフルーツ牛乳を手に、男の子たちが番台から離れるのを何とはなしに見送ってから……。



 わたしは、改めてアガシーちゃんに声をかける。



「……ほい、なんでしょシルキーさん……ああ、入浴グッズっすか?」


「え、ああ、うん、それもあるけど……。

 今日は、赤宮センパイって――」




「……赤みゃんなら、今日はヤローどもで集まって鍋パーティーだよ」




 予想外に、後ろから返ってきた答えに反射的に振り返ると……。



 そこには、うちの高校の制服を着た、小学生の女の子が――。


 ……じゃなかった、絹漉(きぬごし)センパイが、いつもの妙に自信ありげな態度で立っていた。



「絹漉センパイ……」


「なんてーか、間が悪かったね、後輩ちゃん」



 驚くわたしの側を通り過ぎて、慣れた調子で番台にお金を置く絹漉センパイ。



「まあでも、こうして会えたのも何かの縁。

 ……ちょうどいいや、ひとっ風呂付き合いなよ?」



 なんだかオトコ前な笑顔とともに、ビッと親指を暖簾の方に向ける。


 そこへ……。



「えーっと……お頭?」


「おう、懐かしい。体育祭以来だねぇ、そう呼ばれるの。

 ――で、どしたアガシーちゃんよ?」





「……170円しかないんスけど」





「………………」


「………………」




「え、だって、中人は170円だろ?」


「中人は小学生までっス」


「じゃ、いーじゃん。この幼児体型が高校生に見えるか? ん?」


「見えねっス。が、サバ読んじゃダメっス」




「………………」


「………………」




「……いーいじゃんかよぉ〜!

 リアル小学生にもわりといろいろ負けてるぐらいなんだぞ〜!?

 こーゆーときぐらいイイ目見たってさ〜!」



 うわお……ダダこね始めたよこのセンパイ……。



 いや、まあ……なんか似合ってるけど。


 そして、そのことはゼッタイ口には出さないけど。



「……ダメっス。これが社会の非情なルールっス」



「ぬぐううう……! なんと不公平な社会だ……ッ!

 弱者は搾取されるしかないのか……ッ!」



 ぷるぷると震える手で、絹漉センパイは差額の280円をじゃらじゃらと番台に落とす。



 ……っていうか、ちゃんと用意してあるあたり、狙ってたなこの人……。


 あわよくば、ってヤツかー……。



 ともあれ――。




「くっそー……ほら行くぞ、後輩ちゃん!


 こうなったら、元を取るべく、フニャフニャにふやけるまで風呂に入り倒すのだ!」




 こうして、何の因果か、わたしは……。



 絹漉センパイと、お風呂をご一緒することになったのだった。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] シルキーのとこでええんかこれ、って思いました( ´∀` ) [一言] おキヌさん……さすがに年齢詐称は(;゜Д゜) でもってアーサー君はもはや犬系男子かな( ´∀` )
[良い点] >やりますなシルキーさん ドキッとしました! 以前、裕真が気にしてましたけど、アガシーと白城さんが表情を変えずに「シルキーさん」で普通に話しているのが、マジで何かの取引みたいですw [一…
[一言] いつもはっちゃけているおキヌさんだけど、女の勘は鋭そうなので次回はどうなるのか気になっちゃいますね! 『ひとっ風呂つきあいなよ』が 『ツラ貸せや』 に見えました(笑)
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