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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
1章 どうにもこうにも、勇者は悪役をするしかない
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第10話 もう、悪役でいいんじゃない?



「……やっちまったー……やっちまったよー……」



 我ながらいかにも情けない声で言いながら俺は、部屋の座卓の上に、べたーっと身体を投げ出す。


 向かいに座る妹の亜里奈(ありな)は、今日はオレンジジュースをストローでちゅーちゅー吸いながら……そんな俺を冷めた目で見下ろしていた。



 ……ちなみに亜里奈は、リンゴジュースはともかく、オレンジジュースに関しては果汁30パーセントまで、という妙なこだわりをもっている。


 それ以上はオレンジジュースとして認めがたいらしい。


 ……どうでもいいことだが。



 そう……そんなどうでもいいことを考えてしまうぐらい、今の俺は打ちのめされていたのだ。



 いや、だって……なあ?


 夕方のアレ……俺がシルキーベルに対して取っちまった、あの態度……!



 あんなことになっちまったら、もう言い訳のしようもないよ……。


 これ、弁解すればするほど泥沼になるヤツだよ、悪役確定だよチクショー……。



「……と、まあ、こう、ややこしいことになっちゃったワケなんですよ、アリナ」


「ふーん……」



 打ちひしがれる俺に代わって、放課後の出来事を事細かに説明してくれていたアガシーに、亜里奈はついと視線を向ける。



「……で、その魔法少女の写真か動画は? 頼んでたよね?」


「…………」



 ……え? 真っ先に気にするのがそこ?


 俺とアガシーは顔を見合わせ……その後、そろって首を横に振った。



「現代のUMA(ユーマ)の俺に、そんなスキルがないことぐらい知ってるだろ?」


「あ、わたしもその、聖剣の方に同化しちゃってましたんで!

 ザンネンながら――って、ひぃ――っ!?」



 ……ぶくぶくぶくぶく……。



 無言で、亜里奈は果汁30パーセントのオレンジジュースを泡立たせていた。


 煮えたぎるハラワタを投げ込んだ、と言わんばかりに――!



「もも、申し訳ありません!

 自分の職務怠慢、監督不行き届きでありました、シャー!」


「お、おい、俺も悪いみたいに言うんじゃねーよ!」



「サー、ね。そしてそれを言うなら、あたし女だからマム。イエス、マム。

 ……ハイ、復唱!」


「い、イエシュ、マムっ!」



 ……それでもやっぱり噛むのか……。



「……ま、ね。

 実は、どうせそうなるだろーなー、って思ってたんだけど」



 やれやれ、とばかりにそう言って、亜里奈はちょっと泡立ったままのオレンジジュースをちゅーと吸い上げた。



「お、怒ってらっしゃらないのですか、マム?」


「なんで? お兄たちの相談を受ける上で、一応あたしも確認しておきたいって、ただそれだけだから。うん、それだけなんだから。

 ……だから、怒る理由なんてないでしょ? ないよね? それだけなんだもん、ねえ?」



「――い、イエシュ、マム!」



 ……やっぱり見たかったんだな、実物の魔法少女……。


 素直にそう言やいいのに、意地っ張りだからなあ、コイツ。



「それにしても……。

 〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉に、〈セカイジュ〉、ねー……」



「とりあえず、そこの代表を名乗ってたサカンってオッサンは、極悪人とか外道ってほどの感じはしなかったな……さすがに本性までは分からんけど」



「救国とか名乗ってるぐらいだもん。悪いことしてても自覚ないんじゃない?」



 さらりと、辛辣(しんらつ)な一言を述べる亜里奈。


 まあ、その可能性もなくはないが……。



「……そう言えばアガシー、〈セカイジュ〉ってどういう意味の言葉だったか、聖霊のお前なら分かったんだろう? なんだった?」



「――え、そうなの?」


 へえ、と感心のこもった視線を、アガシーに向ける亜里奈。



 そんな亜里奈の(アガシーにとっては)レアな姿に、そりゃあもう自尊心をくすぐられたのだろう。


 フフン――と、いかにもなドヤ顔で鼻を鳴らすアガシー。



「ええまあ、一応、そこはそれ! 上位のsay! ray!ですからね。

 会話と言ってもただ言葉を交わすだけでなく、そこに宿る思念を聖霊的超感覚で瞬時に理解し、そして――」


「うん、そういうのいいから。結論だけ」



「……あい、まむ……」



 ……あ、途端にしおしおになった。


 コロコロと変化の目まぐるしいヤツだな、まったく。



「えーと、ですね……。

 こちらの言葉で書き出すなら、こんな意味合いですかね」



 アガシーは俺の机からペンとメモ用紙を取ってくると……。


 デカい筆で書き初めでもするみたいに、意外なほどの達筆で三つの漢字を書き出した。




 ――〈 世 壊 呪 〉。




「……うわー、なにそのいかにもよろしくない字ヅラ。もう俺、そのテのものには飽き飽きしてるんだけど……」


 その単語を見た俺は、思わず天井を仰いでしまう。



 ……まったく、やれやれだ……。



 このテのものに良く遭遇するから勇者なのか、勇者だからこそこのテのものが引き寄せられてくるのか――。


 どっかのエラい先生が研究とかしてないのかね、この問題。



「この言葉だけだと、何のことかはよく分からないね……良いものじゃないだろうけど」



「この街、広隅(ひろすみ)に現れる……って話でしたね、あのオジサンの言うことを信じるなら」


 ちょこんと、アガシーは座卓の端に正座する。



 ……あいかわらず、甲冑で正座とか、メカニズムがよう分からんが……。

 その辺を聞くと長くなりそうなので放置しよう。



「で――お兄は、その〈世壊呪〉を狙う悪いヤツの一人だと思われてるわけだね。

 救国さんと、たぶん、シルキーベルって魔法少女にまで」


「あ〜……そ〜なんだよなあ〜……」



 亜里奈の一言に、俺はまたバッタリと突っ伏してしまった。

 救国さんとかいう、ムダに可愛らしい、絶妙なツッコミどころの呼び名さえスルーしてしまう。



 致命的に広がってしまったシルキーベルの誤解を思うと、脱力せずにはいられないからな……。



「きっとこの先、ヘタに弁解したところで信用されず……。

 魔獣から助けたところで、何か裏があるんじゃないかと疑われて……。

 ――そうして、悪役街道まっしぐら!……に、なっちゃうんでしょうねえ」


 うんうん、と憐れみを浮かべた表情でしきりにうなずくアガシー。



 ……おい、いかにも他人事みたいなこと言ってるが、お前だって無関係じゃないって分かってるんだろうなコイツ……!



 俺はギロリと恨みがましくアガシーをニラみつけてやるが……そのとき。


 オレンジジュースをちゅーっと吸い上げた亜里奈が一言、事も無げに言い放った。



「じゃあ、もういいんじゃない? 悪役で」


「「 へっ? 」」



 その言葉には、俺ばかりか、さすがのアガシーも目が点になっていた。


 ついでに、思わずもらした情けない声すら、ダダ被りになってしまっていたのだった――こっ恥ずかしいぐらいに。






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― 新着の感想 ―
[一言] ここはもう第三勢力的なポジションを突っ走るしかないっしょー( ̄▽ ̄;)
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