第9話 魔法少女、問答不能で問答無用
――いかにもアヤしげな、〈救国魔導団〉とやらの代表らしいサカン将軍なるオッサンは、ゴホンと一つ咳払いを挟んだ。
……もしかしたら認可申請とやらについては、勢い余っての失言だったのかも知れない。
しっかり聞いてしまったので、もう引っ込みはつかないが……ちょいと哀れなことに。
「あー……ともかく、だ。クローリヒト君。
キミのそのチカラ――そして、身にまとう大いなる〈呪い〉。
キミも、我々と同じく、この広隅の地に現れるという〈世壊呪〉を探しているのだろう?」
……セカイジュ……?
――といったら、アレか? 神話に出てくるでっかい樹のことか?
しかしそれにしては、何かビミョーに言葉の雰囲気が違った気がするけど……。
《……ふーむ……》
「そこでだ。スカウト――とまではいかなくとも、今後、キミとは協力関係を築けるのではないかと思ってね。ひとまず挨拶にうかがった、というわけだ」
「――あ! 来たよ、アイツ!」
瞬間、また映像の向こうからかすかに聞こえる、女の子の声。
それに対してサカンはうなずいて応えると、俺には、大ゲサに一礼してみせる。
「では――邪魔が入ったようなので、今日はこれで失礼する。
また会おう……出来れば次は、良き友人として――」
その申し出はキッパリとお断りしそうになったが、それより早く、サカンの映像は掻き消えた。
そして……入れ替わりに、結界内に何者かが飛び込んでくる。
いや、何者か――とは言ったが、正体は明白だ。
「あなたは――クローリヒト!」
――ゆっくり、背後を振り返る。
予想通り、そこにいたのは――かの機械式魔法少女、シルキーベルだった。
……まあ、ちょうどいいと言えばちょうどいい。
昨日の夜の誤解をさっさと解いてしまおう……こういうのは早いに越したことはないもんな。
よし、じゃあそういうことで――!
――待て、シルキーベル!
確かにこんな呪われた装備を身に付けてはいるが、俺は別に何か悪事を働こうとしているわけじゃないし、キミの敵でもない。だから――。
努めて真剣に、真面目に、誠意を持って語りかける俺だったが……。
……あれ? まったくゼンゼン伝わってない……?
《そりゃそうですよ勇者様……『沈黙』させられてるのお忘れですか? 間の悪いコトに》
(げげ……なに、まだ治ってないのかよっ?)
《そりゃもう、心底まことに残念ながら。
しかも、呪いばかりか毒も食らっているため、このまま待ったところで、沈黙が自然治癒するより、勇者様の体力が尽きてあえなく野垂れ死にする方が早いと思われます……。
――まあ、骨は拾ってやるぜ新兵》
(いや、俺が死んだら契約で繋がってるお前もヤバいだろ――って、それどころじゃないぞオイ!)
気付けば、シルキーベルが、今にも飛びかかってきそうに敵意をムキ出しにしている!
――見た目も声も結構可愛らしいのに、案外ケンカっ早いなこのコ……!
「さっきチラリと見えた、あの映像の男――〈救国魔導団〉ですよね。ということは、あなたはやはり……!」
……な――!
さっきのシーン、絶妙にちょっとだけ見られてたのか!
……ってことは――!
《……まあ、悪役同士の密談……ですよねえ。
画的に。アレは。どう見たって》
――お、おいおい、違うんだって、ちょっと待て! 待てって!
俺は、必死に首を振ってその疑いを晴らそうとするが……。
「……なるほど。
お前に話すことなどない、と言うことですか……!」
ヘルメットで分からないが、シルキーベルのこめかみに青筋が浮かんだ気がする……。
いかん、誤解が深まってる! そーゆー意味じゃないってのに!
……違う、違うって!
むしろ話したいことはいっぱいあるんだよ、問答は無用じゃないよ、有用だよ!
「分かりました、なら――!
あなたたちがどんな悪だくみをしているのか……力ずくでも聞き出します!」
――ダメだー! 問答不能で問答無用だー!
《そろそろ作戦時間も限界だ、マジにズラからねえとヤバいぞ新兵!》
……くっそ、このエセアーミーにツッコむ余裕すらない……!
(――ああもう!
しょうがない、全力で離脱するぞアガシー!)
俺は後ずさろうとするが――。
「――いきますっ!」
逃がしてたまるか、とばかりに、長い杖めいた武器を、いきなりスゴい速さで突き出してくるシルキーベル。
そう、スゴい速さだ――速さだけなら。
しかし、決定的な経験の差とでも言えばいいのか……俺にとってはヌルい一撃だ。
意識の向け方、身体の軸の置き方、筋肉の動き、流れ――何もかもが素直すぎる。
こういう攻撃しますよ、と予告した上で、なおかつそれをキレイになぞってくれてるようなモンだ。
言い方をゲーム的に変えれば――俺の回避能力に対して、命中修正が低すぎる。
何らかの武術をしっかりと修めているようだけど、そんなものは結局、実戦で磨かなきゃお遊戯の域を出ないってコトだ。
(ちょっとヘコむだろうけど……悪く思わないでくれよ! これ以上!)
……セオリーから言えば、一撃目はかわして二撃目を狙う方が確実だろう。
だが俺はあえて、この初撃に反撃を合わせた――そう、実力差を思い知らせるために。
「――ッ!?」
――結界内に、鋭い金属音が響き渡る。
遅れて鋭く斬り上げた俺の聖剣は、シルキーベルの手から――。
彼女が渾身の力で握り締めていたはずのその手から、杖を弾き飛ばし――はるか上空まで跳ね上げていた。
「え――そ、そんな……っ!?」
自らの両手を見下ろして立ち尽くすシルキーベル。
俺は、その姿に後ろ髪を引かれる思いをしながら――。
《勇者様! そろそろマジで!》
(……分かってる)
消滅し始めている結界の外へと、大急ぎで飛び出した。