復元
「くっそ……ルオンの手下かよ……こんなタイミングで」
愛姫を抱えながら攻撃を交わしていく。
[響力『業火』 火球弾]
木人形目掛けて見覚えのある技が空中を駆けた。
「業火の技……楓の……一体どうして……!」
「純さん!先を急いで!!」
純の時間稼ぎをしようと、木人形の前に立ったのは鬼化した湊。
彼曰く、王宮の外に凄腕の医者がいる、とのこと。
暫く見なかった妹の愛弟子は支えがいらないほど大きくなっていて、
志半ばで倒れた妹の響力を想いを継いでいたかのように。
純は、湊に全てを託し、王宮から外へ出る。
そこに居たのは。
「お久しぶりです。義兄さん。」
「久しぶりだな、アドガメントの方にいたと聞いたが、大丈夫なのか。」
「大丈夫です。その子を治療すればいいんですよね?
楓も僕が治せたらよかったのに。」
涙を浮かべる白衣の男……彼は白津 怜史。
山口楓のパートナーだ。
「その件に関しては、湊が敵を打ってくれたらしいんだ。
業火を使って、な。」
「業火を!?まさか楓の響力を受け継いで……。」
治癒をしながら義兄弟の2人は淡々と話を進めた。
「怜史、エンデルアのイリヤバーデンに怪我人がいる。お前、行けるか。」
「わかってますよ、それが自分のやるべき事だってことくらい。
僕の響力は《復元》。元あったように戻すこと。
それが人の傷であろうと、記憶であろうと、物があるならなんでも治せる。
それが僕の役目じゃないっすか。」
死んだ人は戻らない。足掻いても過去は過去。
失ってから大きな損失が気づくことは、怜史が1番知っているだろう。
失われた魂はもう、戻らない。愛する人に触れやしない。
もうそんな犠牲なんて出したくない。それが彼の願いだ。
「僕の前に龍希くんを差し出してくれないかな?」
イリヤバーデンに着いてすぐ、彼は復元にとりかかる。
記憶の復元は何度かやったことがある。復元を応用して記憶をつくりかえた事だってある。負い目を感じていた。彼に。
竜頭龍希は、僕の甥だ。
龍に選ばれ、才に選ばれなかった彼。
殺伐とした生活を彼は送っていた。
母の事故死、父の暗殺、姉の自殺……
彼の手は赤かった。深紅に染っていた。
孤独に見えた。助けたいと思った。
だから記憶をつくりかえた。
彼が二度と手を紅く染めないよう。
染めるくらいなら俺が染めるから。
愛する人さえ救えなかった無能な自分に、助けられる人は彼しかいないから。
もう、苦しんでいるまま死に行く姿を見るのは嫌だから。
何分もたった。効果は現れているはずなのに、彼は目を覚まそうとしない。
心音は聞こえている。生きている。なのになんで……!