山口楓
響力は覚醒する。
1つは、神聖な儀式で授かる力。
1つは、遺伝的な継承される力。
1つは、愛する者を守りたいと思う力。
湊は、鬼族だ。讓渡の儀式を行っていない鬼だ。
鬼族には言い伝えがある。
真の力は、愛するものの為に覚醒する。
そこに、讓渡の儀式など要らぬ。自身で解放するものだと。
その力がもし自分にあるならば、今こそ愛する者《夜乃》を守るために、
俺に力を。
「あんた、私たちを舐めてもらっちゃ困るよ。」
蘇芳は気づく。背後を取られていると。
炎々と燃え盛る紅き炎を纏い、突きつける。
湊は、戸隠の姓を捨てたのは12の時だ。
鈴に学問を教えられていたものの、やはり現役学生に比べれば劣る。
しかし彼は別で優っていた。
戦術という面で。
湊には師がいた。彼に戦術を叩き込んだ人物だ。
その人物は、自身が倒れるまで彼を信頼していた。
彼女の名前は山口楓。湊に佐藤姓を名乗らせていたのは、彼女だ。
彼女は重い病気にかかっていた。当時12だった湊の1つ上、13の齢でありながら。
彼女には兄と将来を約束した言わば婚約者、パートナーと呼ぶべき人物がいた。
そのパートナーの佐藤姓を湊は名乗っていたのだ。
その先には死しか待っていない、そんな難病に侵されながらも彼女は教えることを辞めなかった。
“湊はね、いつか偉大な人物になれるよ。私、なんかわかる気がする。
こんなに適当なことを言ってたら、お兄ちゃんに怒られちゃうかな?
でもね、これだけは覚えていてね。私は湊の味方だよ。”
そうだ。味方だ。
湊は拳を握りしめた。懐かしい感覚に自然と口角が上がる。
口角が上がったのは湊だけではなかった。
勝利を確信した、美心と連もだ。
「死神、俺はお前を許さない。」
美心と連は戦況から離れ、美妃の後を追うことにした。
蘇芳の相手は間違いなく湊が適任だから。
師の力『業火』を受け継いだ、湊の方が有利だ。