独白
アドガメントに侵入した際、野狐は読んでいた。少なからず、成哉が言う通りに召介の響力で、元の体に戻そうとする工程のどこかで、イザ―レン陣営は幹部クラスの木人形を送ってくる。そのために、硝子が割れた瞬間、響力を使い、野狐はそれまで霧で消していた純と入れ替わったのだ。そして彼女は霧に紛れた。
そこに嶽が来たのだ。
入れ替わったなど見ていないため、当然勘違いをする。
そして成哉が幻にかかったふり≪・・≫をしたとき、本当に幻にかかっていたのは嶽自身。
確かに、嶽の幻は使い慣れていない野狐に比べ、正確性も威力も段違いだ。
霧に紛れた野狐は密かに麻痺性のある幻を、嶽だけに掛けた。
純が時を止めた。三秒間、秒針は動かなかった。
時を止めている間に動けたのは当事者の純と純が意図的に時間停止を外した野狐だ。
野狐が動ければ、響力も回る。時間停止という名の無抵抗な時間の間にその麻痺性の幻はいとも簡単に彼を蝕んだ。
麻痺性の幻は彼の照準を鈍らせた。成哉に掛けたと思っていた幻を自分に掛けていたのだ。
その時、嶽は気づく。なら、彼は何処にいる。
ダウンしたように見せられていたのならば、照準が鈍って彼に幻がかかっていないとしたら。急いで立ち上がる。あたりを見渡す。いない。いない。
ブスリ、と刺された。背後からあの担いでいた大剣で貫かれた。
木人形だ、俺は国王に選ばれた木人形だ。血など出ない。人ではない。
元々人形師を目指していた我が帝王に作り出された人形だ。
痛みなど感じぬ。恐れるものは用済みと捨てられることのみ。
役に立たない、厭、そんな訳がない。
ずっと従い続けてきた。ここで負けるわけにはいかない。
どうせ死ぬのなら道連れを・・・・
嶽の体は光を発した。自爆までのカウントダウンだ。
手の打ちようもない、ここから逃げる選択もあったが、ここが木端微塵になるのは不回避。
凛とした一人の女性の声が響く。
[響力『呪縛』 式の封]
どこからか発生した和紙に包まれた嶽はそのまま爆破することも、反抗することもなく、地面に崩れ落ちた。
声のする方を振り返れば、召介に支えられる白夜と千鶴。
「よかった・・・間に合って・・・。」
久々の本来での体にまだ慣れていないのか、息が上がっていた。
「野狐、召介くん、兄様、純さん、ありがとうございました。敵対していた俺たちを救ってくれて。野狐、俺は借りは出来るだけ早く返したい性分なんだ。イザ―レン撃退作戦、お前が嫌だって言っても、俺は参加させてもらおうか。」
「そうこなきゃね、さて一回エンデルアに戻らないと。ちゃんと事情を説明しなきゃ。」