秒針に仕組まれた劇
白夜がその誘いを受けた瞬間、硝子が次々に割られる音がする。
「契約違反により、その御霊を引き取りに来た。観念して差し出せ、白狐、千鶴。
偉大なる我が王の為に。」
「残念だが、嶽≪がく≫。お前に差し出す魂はない。」
そして召介達より一歩前に野狐が出る。
「嶽と言ったか、我が同胞の魂が欲しいならば、私達を倒してからだ。」
この状況で戦えるのは野狐しかいない、じゃあなぜ私達と言ったのか疑問に思っていると、破裂音がした。
「だから遅いんだって。」
「来たからいいだろ。間に合ってんだしよ。
白狐、千鶴。早く行け。俺らが相手する。」
破裂音と共に講堂へ入ってきたのは、大剣を担いだ成哉だった。
[響力『拡声』 八人将の雄叫び]
嶽の周りに8つの魔法陣が浮かび上がる。
光り輝く魔法陣からは種族の違った兵士が召喚され、嶽の首を狙った。
「うわ、出てきた。中二病響力。」
「中二病じゃねぇから!」
鵺、猫又、狼男、牛鬼、人魚、天使、悪魔、蛇神。
八人将の多くはもう絶滅した恐れのある種族だった。
『拡声』の明かされない能力は、怨恨を元とした今は亡き種族に声を届け、召喚時のターゲットが死する時まで追いかけ続けるという契約を秘密裏に行うというものだった。
何処までも届く彼の声は、時を操る彼との相性も良かった。
成哉は八人将の攻撃の最中に自身も野狐と共に攻撃を仕掛けた。
カチカチカチカチ・・・・・・・・カチカチカチカチ。
脳裏に過ったのは彼との懐かしい日々。
しまった、と思ってももう遅かった。知っていたはずだ。嶽が幻を得意とする、野狐と同系統の響力を持っていたことを。八人将の動きが止まれば、攻撃手段は野狐だけだ。
この幻は掛けた者が死ぬまで続くタイプのものだと掛かってわかった。
幻による眠気に襲われつつも彼は、高校時代からの相棒に声を届けた。
[さぁ、霧に紛れた演劇は終幕だ__________。]と。
「所詮口だけの輩だったな、次は嬢ちゃんだ。」
嶽の言葉に術が加わっていることにも気づきつつ、自我を保つ。
講堂に響き渡るのは秒針の音。八人将の動きも止まり、両者が睨みあう。ただそれだけの時が流れる。
「お前も終わりだ。消えろ。」
その言葉を嶽が言い、野狐の首をつかんだ時、彼の体を吹き飛ばすほど強烈な蹴りをかまされた。女とは思えないその蹴りの威力にハッとする。
「いつから入れ替わってたんだよォ・・・ああ゛ん?」
「なにも気づかず、野狐だと思って、油断したお前が悪い。」
嶽が野狐だと思っていた人物は、女性ではない低い声を発していた。
そう、この戦いは最初から仕組まれていたのだ。
野狐とその二人のパートナーによって。