助けて
急いで実家に戻って、葬式に出て足早に帰ろうとした。
ここにいる資格なんてない。そんなの自分が一番わかってる。
本田先生が作ってくれた貴重な時間だ。無駄な時を過ごす訳には行かないんだ。
「お久しぶりですね、兄様。」
この声は知っている。
二度と会うことの無いと思っていた人物の、声だ。
「白狐……。」
「今までどこに居たんです??
まさか、重圧から逃げたのではないでしょうね?」
「何が言いたい、はっきりしろ。」
生家の門の前で、誰にも見られていないところで話した。
「兄様がその道を進むというのなら俺は止めません。
ですが、敵対する勢力に属す以上、近い未来どうなるかはわかってますよね。
相手を殺す羽目になるかもしれない……それは分かってるはずです!!
じゃあ、どうして兄様はその道を進もうとするのですか……。
俺には到底わかりません。どうして!どうして!!」
白狐は目に涙を浮かべた。普段の冷静な印象とはかけ離れた、弱さを人に見せる彼の姿はたとえ半分しか同じ血が流れいなくても、兄弟である限り、成哉が彼の兄である限り信頼出来る証拠にもなっていた。
「俺は好きな人がいる。まだ子供らしいところもあるけど、それが好きなんだよ。俺は彼女と生涯を共にしたいんだ。俺と、純と、彼女で。
お前も千鶴がいるなら、分かるだろう?
愛する人を守りたいと思うその心が。」
「兄様、俺はもう……駄目かも知れません。
兄様は知ってますよね。千鶴と囚われたあの事件を。
あれから感情が湧かないのです。俺はもう死ぬしかない……
兄様、次会った時は俺を殺してください。千鶴と一緒に……。」
「馬鹿言え!そんなの出来るわけないだろう!!
お前は優秀だ、一族の将来も背負える。なんで諦める!?」
そう怒鳴りつけ、成哉は白狐の腕をつかみ気付く。
人の肉の感触じゃない。まるで木のように硬い物質のような……
脳裏に過ぎるは敵国の情報と水無月先生の証言。
木人形に魂を移された人間は1度死んでいる……
「ほらね?俺にはもう未来なんて、ない。
千鶴もおんなじだ。これでわかったでしょ?
ねぇ……お願いだよ兄様……」
白狐の眼から溢れる涙は留まることを知らなかった
「兄様は……いつも……困った時に助けてくれるんでしょ……
兄様……お願いだよ……これが最後のお願いだ。
助けて。俺と千鶴を……。
俺はもっと生きたいよ……俺はもっと……もっと!」
泣きじゃくる白狐の頭に掌を乗せ、
いつの日かのように呟いた。
「絶対……兄ちゃんが何とかしてやるから。
お前はそれまで生きろ。兄ちゃんが戻ってくる迄な。」
あけましておめでとうございます!!
今年もよろしくお願いします!!