霊媒に選ばれた女鬼
静かな森の獣道に鈴の音が響き渡る。
淡い青色の着物に身を包んだ水無月はゆっくりと祠へ進んだ。
鬼族の者は、結婚してその家に入る時、祠で特別な儀式を行う。
それは鬼族独特のものだった。
ーーーーーーーー運がいいか悪いかわからんが、少なくとも響力の2つ持ちは
今後の戦いで有利になると思うぞーーーーーーーー
壱次からもそう告げられた。
鬼族が儀式を行う前、生まれてから婚約の儀式までは、『鬼』の響力しか持たない。
婚約の儀式を行うことで、本来のそれぞれの響力が讓渡されるのであった。
祠を守る神社の神主は水無月に向かって響力を讓渡したのち、
こう伝えた。
「お前さんの響力は、『霊媒』じゃ。」
そう神主に言われて思わず目を見開く。
「好かれておるの、柊に。
柊もかつては、『霊媒』を持っていたからの。」
『霊媒』。それは一族の中で代々伝わる響力。
先代と面識があり、先代の命の灯火が消える寸前、あの人なら託せると思った人物にしか、宿らない響力だ。
水無月は悩んだ。
確かに夫は一族を率いる才能があったし、それにカリスマ性も持っていた。
その後継者が私でいいのだろうか?そう悩んだのだ。
すると、脳内に聞き覚えのある声が響いた。
[そんなことないよ、水無月。水無月はとても強い。
だからこそ託せるんだ。]
それは今も愛する夫、柊の声だった。
霊媒の響力を持ったことによって故人とのやり取りもが可能になったのだった。