鴉天狗族の長
「仁は、もう生きていないはず……これは一体どういうことなんだ!」
荒々しい壱次の声からかなりの動揺を察することが出来た。
それもそうだろう、かつて結託し、共に戦った親友でもある人物が生き返っていて、自らに刃を向けているのだから。
「こんなの、どうすれば……どうすれば助けられる……!?」
焦りは禁物……そう常に心がけていたはずなのに、
自らの命を狙うとなれば、それが上手くいかない。
昔はもっと戦いに慣れていたはずなのに。
壱次が仁の隙を見抜き、剣で一振。
バラバラと音を立てて崩れたのは仁ではなく
古びた木人形だった。
「これは一体………何者の響力なんだ……!
死者を生き返らして木人形を魂の器とする響力なんて聞いたことがないぞ!」
「つまり、各地にこのような木人形が襲っていると……
数々の一族がやられてきたのはこの手で……。」
「聞いた話だと死体は見つかってないようだからなぁ。
それを合わせてみても、このように利用されたと考えるのが妥当か。
それと、水無月。少し時間がかかる話があるんだがいいか?」
「ええ、勿論。」
「あそこへ行くんだ。」
そう壱次が指さした場所は、鬼族でも神聖な祠がある場所だった。
「水無月が、柊と結婚して、紅葉が生まれて、正式に水無月をうちの一族と認める儀式をやっておらんからなぁ。」
そうしみじみと壱次は呟いたのだった。