出席簿;五葉召介
妖科に召介が馴染むのにはそう時間はかからなかった。
スパイだとは言え、一時的に敵対していたのにもかかわらず、妖科の生徒は快く受け入れてくれた。
召介は、あれ以来野狐に会えていない。
広い学園の中だ、遭遇する可能性は低い。
そんなことを考えていると始業のチャイムがなった。
この音は妖科の棟にしか聞こえない特別時程対応チャイムだ。
様々な学科が存在するこの学園は学科によって当然ながらカリキュラムも違う。
だから音によって区別がつくようになっているのだ。
「なぁ、召介。水無月先生遅くねぇか?」
隣の席の亮に言われて気づいた。
いつも時間に正確な水無月は、チャイム前には来ているはずなのに。
唯でさえ、騒がしい教室が途端に騒がしくなる。
「おい、お前ら~。今日は水無月先生が急遽休むことになったから。
なんかあったら隣のクラスまで行くように。」
通りがかりの普通クラスの担任の先生が召介たちに伝えた。
一方、水無月はというと旦那の生家を一人娘の紅葉を連れて訪れていた。
「・・・・母さん?」
「なんでもないよ、紅葉。」
今は亡き夫の生家を彼女が最後に訪れたのは、夫が事故で亡くなった時だ。
そのとき紅葉はまだ、三歳だった。
「義父様、何の御用で。」
居間で既に待ってた義父は水無月に告げた。
「彼奴が亡くなって、この家の跡取りも怪しくなってきてな。
お前さんには申し訳ないが、教師を辞めてこちらに来てもらいたいんだ。」