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──正直に年齢を告げたあと、たっぷりと時間をかけてから三人は口を開く。
「……そうか12歳か、まあ想定の範囲内だ」
「レイク、気を確かに。認めたくないのは分かるけど18って言ってたと思うよ」
重々しく頷くレックナートにコンラートがボケまみれのツッコミを入れる。
「違いますね。この言動行動常識の欠如、発言の中にあった数字、それから導き出される答えは8歳で間違いないです。納得です」
おいこら、シュテハウル。
「なんだ8歳か」
「じゃあしょうがないですね」
「これから常識を教えて行けばいいんです」
そーだなーしょうがないよなーあはははははー。という空気で笑い合う三人。
私はいつも手元に置いてある押し花ノートに大きく『28』と書いた。
それを見てピシリと凍ったままの三人。
まあ凍らせて放置しとけばよかったよね。
溶けてから「どうしたらそんな人格が形成されるのか」とか「もはや修正の余地もないということか」とか「サイロニカの結婚適齢期は15から20までです」とか「うわ、やば」とか「ひえっ怖」とか「どんな外見詐欺師か」とか、とか……とか……止まらないシズクちゃんディス。
まあ、つい拳で黙らせたよね。
三人とも異口同音で「そういうところだ!」って言うけれど、硝子のシズクハートにヒビが入ったのだ。ふてくされながら拳を手のひらにパァン当てて威嚇した。
どちらにも微妙な空気が流れて沈黙が落ちる、ふとコンラートが立ち上がりお茶を入れ始める。
「どうぞシズク、レイクもシュテルも飲んで」
お手製というハーブティーは、なんかラベンダーっぽいやつだった。
「鎮静効果があるからさ。シズクはお代わりもしてね」
おい、こら。私はとってもクールですが?
そうは思いつつも空気を読んで大人しくお茶を飲む。
しばらくするとレックナートが口を開いた。
「シズク、その、28というのは本当に本当に本当のことか?年齢の数え方が異世界では違うとか、そういう救済はないのか」
救済ときたか。
「一年に1歳、年をとります」
「ぉぉ……そうか……」
レックナートは頭を抱えて唸りだした。
「見た目は確実に少女の姿なんだけど……どういうことなの……?不老不死とかそうゆうやつ?」
コンラートの疑問も分からなくはない、今の私はどうみても成人してない。
そもそもこの姿は本来の私じゃないし。
幼少のみぎりに『大人になったらこんな風になりたいな〜』と思い、夢と希望をこれでもかと詰め込んだ理想像……落書き帳に量産しまくったそれをこの世界の神が採用した、つまり願望の化身。
子供は容赦がない、夜を思わせる黒髪は痛み知らずの艶々、小さな顔は整い過ぎの目鼻立ちでいきなりな碧眼、シミひとつどころか毛穴レスな肌は超美白、通常時は桜色の唇と頬はちょっと動いて血行が良くなると薔薇色なる(ここらへん全部笑うところです)。
体も手抜きなく妄想詰め込んでいる。8頭身の細くも締まったパーフェクトボディ、なのに隠れ美乳で意外とボリューミー、爪の先まで繊細で……って我ながら本当に詰め込み過ぎで胸焼けしそうだ。いや今している。
「多分違うと思うけど、聞いてみないことにはなんとも」
さすがに不老不死は無いとは思うけど。
「聞くって、誰に何をですか」
それまでこの世の終わり顔していたシュテハウルが問うてきた、ので素直に答える。
「神さま」──
「三人まとめての何言ってんだこいつ顔は流石に応えたよね、もう慣れたけど」
慣れないでやってほしい、側仕え達はシズク様責任者御三方の心労は如何程かと涙を拭った。