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──旅はよくあるファンタジーな流れなので以下ダイジェスト。
国が荒れてきたせいか野盗などが出てきたり少しづつ強くなる魔物と戦ったりした。
野盗の時は出会って一秒、話も聞かずボコっていたら最年少のシュテハウルから叱られた。
「シズク様、流石にそれはいけません」
悲しい目で首を振るシュテハウル。
「いや、でも、見るからに不審者だし」
青竜刀にアイパッチしたおっさん複数人って、こんな怪しい農民いないと思う。
「いつも通り顎が砕けて白目を剥いてるな……」
レックナートが死んだ目で方々にぶっ飛ばされた盗賊を集め並べていく。
「でも、死んでないし回復魔法で治るし」
死ななきゃ安いって聞いたことあるし。
「ボクの魔法……こんな風に使うことになるなんて予想もしてなかったなぁ……」
最近なぜがチャラさがなりを潜め気味なコンラートが並べた盗賊に回復を施していく。
「そうだね魔法って凄いよね。死なない程度に手加減すればいいもんね」
「…………」
「…………」
「…………」
魔法の素晴らしさを讃えたというのに全員が責める目で私を見た。
それからいちいち野盗の名乗りや相手の要求を聞いて、許可を得てから殴るようにした。
でも許可を得る前にレックナートやシュテハウルが切りかかったり、コンラートが魔法で攻撃するので許可を得にくい。
そのうち流石に鈍い私も気が付いたのだ。
彼らも戦って役に立ったという実績がないと王都に帰ってからの立場がないのだと。
『そっか。いくらちっさい侵略案件とはいえ救国の英雄様パーティーの一員だもんね、それなりに役に立ったり強く成長したりしてないとマズイよね。国民からの口コミで評判落ちる可能性もあるし』
納得いってからは基本戦闘はお任せすることにした。
結果、暇を持て余すので、最近は押し花作りをして過ごしている。
途中の街でノートを買ってもらい貼り付けて異世界植物コレクションを作成、コンラートが植物に詳しいので名前や薬効を書いてみたり。今後は押し花アートとかやってみたい。
しかし押し花作りって簡単楽しいな。
花を手で挟んで「ふんっ!」って押さえるといい感じで押し花になる、ファンタジー世界の不思議。
「平面への圧縮、瞬間乾燥、色素の固定、紙への接着……何の呪文も予備動作もなしでやってしまうのか……」
「殿下……俺は魔法のことはあまり分からないのですが、やはりおかしいですよね……」
「ボクの常識が音を立てて崩れていく……」
最近キッズ達は仲良くなったのか、よく額を寄せ合いお喋りしてる。
仲良きことは素晴らしきかな。
魔物は別にいいかなーと思って発見ゼロ秒でボコったら、全員が悲しい目をして首を振った。
分かった、分かった。引き続き押し花作ってるからそんな目すんなよ。
結局魔王()と会うまで押し花作りしかしなかった。
ノートをバラして製本し直し完成した、救国の英雄シズク様作サイロニカ植物図鑑は圧巻の背幅8cmである。
何かに役立てねば悲しいかなって思ったんでその本の角で魔王()を殴り倒した。
ついでに魔王()を引きずって隣国の国境に行き、強力な防御結界とやらも本の角で殴って壊した。
みんなが必死の形相で止めてたような気もするけど、また何ヶ月もかかって隣国行くのめんどくさいし魔王()の後片付けも大変だし。
ササっと事後処理お願いしたいのだ。
「おじゃましまーす。お隣からきたシズクちゃんでーす。王様の弟さん連れてきたので引き取って迷惑料くださーい」
そんな感じのこと言いながらお城の奥まで進んだ。
ちなみに何故か邪魔する魔族さん達は本でバシバシ薙ぎ払った。峰打ちだから安心してほしい。
レックナートとコンラートとシュテハウルは最初なんか言ってたけど、私のスピードについてくるのが精一杯なのか城に入ってから無言だった。
左手に持った魔王()は最初から最後まで震えて何も喋らなかった。
拾った子猫かよ。
そんなこんなで隣国の王と謁見。──
「もっと揉めるかと思ったけど迷惑料込みの慰謝料と荒らされた大領地の復興も手伝ってくれたし物分かりは良かったよね」
よく似た顔の隣国の王と、王弟こと魔王()を思い出す。
「……? 泣き顔しか思い出せないな……なんでだろう」
泣かせたからですよ、側仕えは口には出さず新しいお茶を淹れた。