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 ──重厚な扉を八つ当たりで粉々にし、会議室に飛び込み大暴れした、そのあと。


 明らかに怯えられていたがそれはひとまず置いといて、国王に魔王討伐を宣言した。

「時間が経つほどサイロニカの経済は傾くんでしょ? 今すぐ魔王倒しに行くから」

 決して神さまレターの鬱憤を晴らしたくて堪らないわけではない、いやでも喚んだら壊れたとかすごい怖いことサラッと書いててびびったが……でもまあ今後生活の面倒を見てもらう国の財布が軽くなっては困るからだ。


 さあ即出発しよう。そうしよう。

 適当に道案内と足をよこせと王に言えば半泣きで「準備に一日ください!」と言われた。人喚んどいてなんだそれ、準備くらいしとけよ。



 とまあ、その一日後である。


「同行者を紹介する……」

 一晩で見る影もなくやつれた神殿長と王のイケ渋ペアが紹介してきたのはファンタジー的お約束の人選だった。


 お供その一、王子レックナート。昨日姫抱っこで移送してくれた美的ベクトルが非常識なイケメン騎士である。何故か全く目を合わせてくれないのだが……あ。そういえば昨日勢いで君にも従属契約押し付けたね、ごめん。ごめん。


 その二、初対面のインテリイケメン眼鏡、コンラート。圧倒的白魔法使い感、真っ白い神官服にローブばっさばさ。勝手なイメージで回復役は女の子かと思ってた。ちなみに神殿長のお孫さんで優秀な神官だそうです。


 その三、こちらも初対面な硬派っぽいイケメン騎士はシュテハウル。

 精悍ナイスミドルな騎士団長の息子さんで、正直一番タイプだ。


 ……こんな上層部のご子息ーずと一緒に出かけていいんだろうか? もしなんかあった時に責任問われない?

「ちゃんと旅の途中でなんかあって亡くなっても責任問いませんって念書書いてくれる?」

 そう聞いたら全員が引きつった顔をした。だが書かせた。


 面子について説明しろオーラを出していると慌てて神殿長が説明を始めた。

「召喚の儀式に伴う決まりごとなのです。喚び出された英雄様が男性なら女性を、女性なら男性を、その時の身分の高い者から順に英雄様に近い年齢の者が同行者に選ばれるのです」

『なにその田舎のお見合いみたいなの』と思っていたらポケットに異物感、もしやと確認すれば昨日と同じ手紙が入っていた。

 嫌な予感がしつつ開く。


『シズクちゃんへ。

 神さまからのボーナスタイム。。。

 せっかくだから旅の途中で恋。しちゃお。。。』

(注:原文まま)──


「いらん世話じゃぁぁぁぁぁぁ……!!」

 ついに手に持っていたクッションが引き千切られた。

 濛々と舞う羽毛にくすぐられ、ブヘ──ックション!というくしゃみ付き。

 目も当てられぬ姿に側仕え達は顔を覆った。

 そして粛々と片付けを行い、また新たな八つ当たり用クッションを渡す。今回は綿入りだ。



 ──知りたくなかった。

 そんな強制お見合いシステムを先に知ってしまえば、人は要らんこと構えてしまうのだ。

 しかもこんな成人男性な見た目してレックナート17歳、コンラート15歳、シュテハウル14歳だった。外人の見た目年齢ってすごい。

「そ、そうなんだ思ってたより若いんだね……」

『私シズクちゃん、28歳なの!』

 脳内で叫んだものの口に出す勇気はなかった。


 ……犯罪。


 元の世界の常識が脳裏に浮かび木霊する。

 この世界の神様の倫理観はどうなっているのか、もし5年経ったとしてもシズク33歳、レックナート22歳、コンラート20歳、シュテハウル19歳。

 どう考えても無い。

 さっきチラッとシュテハウルが一番タイプだと思ったのをスライディング土下座したい。


『どうしてもって請われたらレックナートなら少し考えてあげても良いけど……』

 そんな事を上からで考えているうちに保護者の会話はうちの子自慢に発展していってた。

「いや……シズク様の英雄としての実力には及びませんが、レックナートの剣技は旅の力になるでしょう。王族でなければ出来ないこともありますから」

「そうですとも、レックナート様には及びませんが我が孫も優秀な魔術師。回復役なくては困難な場面も多いはず、孫は必ずやお役にたつでしょう」

 王と神殿長のうちの子自慢炸裂。

 その後も回りくどい表現ながら「レックナートも回復使えるもん」「コンラートの魔法は回復量が違うもん」という応酬を続ける。

「……シュテハウルはまだまだ若年ですが伸び代は私以上です、基礎はしっかり叩き込んで並みの騎士以上の働きはできます。どうぞシズク様も年の近い友人として気安く接してください」

 騎士団長の言葉に凍った。


『いまなんて?』という疑問が脳を支配し情報の咀嚼に時間を要す。

「シズク様!貴女と共に旅立てる僥倖に感謝します、必ずやお役に立ちます!」

 シュテハウルがきらきらした純粋な眼差しを向けて来る。

「いっ一番年も近いですしっ、仲良くなれれば嬉しいと思っていますっ!」

『おい。いま更になんつったよ?』焦りとともに凝視すればシュテハウルは緊張と羞恥で耳まで真っ赤にした。

「シュテハウル? きみずるいなぁ、シズク様と仲良くなりたいと思う年の近い男はここにも居るんだよ?だいたいシュテハウルとボクはひとつしか変わらないじゃないか」

 うわ。このインテリイケメン眼鏡ってば喋るとチャラいんだ……一人称ボクなのもポイントってわけか、ふんふんなるほどコンラートはギャップ要員ね、などと現実逃避する。

「というわけでボクのこともよろしくね」

 比喩でもなんでもなくコンラートのウインクで星が散った。ファンタジーすごい。

 だがな、何をヨロシクされたのか倫理的に考えたくない。


「……この中では一番の年長となるわけだが、私は既にシズク様に忠誠を誓った身。国の為、人民の為、どうぞこの命如何様にでもお使いください」

 きゃっきゃしているコンラートとシュテハウルとは対極に。

 地を這うテンションのレックナートが臣下の礼を取る。

「え〜!レックナート殿下ずっるーい!」

「さすが殿下……! 決めるなぁ格好いいなぁ……」

 レックナートのその行動に遊び気分の抜けてないキッズだけでなく、周囲からも黄色い声が上がる。

 この広間には騎士や神殿関係者、役職にある貴族しかいない。なので黄色い声のほとんどは男性の重低音だ。

 しかしコンラートとシュテハウルはよく見た方がいい、レックナートの目は死んでいる。

 王子として人生やってきたのにいきなり従属契約させられた経験が結構堪えているご様子だ。

 ちなみに一番最初に会って契約かました所に居た面子はレックナートのテンションの意味が分かっているようで、とても気の毒そうな顔をしていた。


 初対面でパンチのある行動取りすぎたな……と少し反省する。解き方とかよく分かんないし君達は私の老後の保険なのでしないけど、無理は言わないから安心しなよ。

 ところでさ。

 そんな事より重要な事があるんだけどさ。


 ねえ、私何歳だと思われてんの?


「そういえば聞いてはいなかったが……失礼を承知で言わせて貰えば12歳くらいかと思っていた」

 この国では女性の年齢を推測するのは大変失礼な事らしい、王が本当に申し訳なさそうに言った。良い風習ですね。

「シズク様は少々お転婆であられますので、まだ社交界にデビュー前と思っておりました」

 あの暴力と圧政をお転婆で済ませてくれた神殿長は大丈夫だろうか……頭とか打ってないかな……流石に心配になっていたが、社交適齢期が10歳から13歳くらいからと聞いて『あっこれ完全に頭打ってるわ』と思った。

 申し訳無いことをした。

「年齢はともかく……たとえ神の御加護がある英雄とはいえ、シズク様がこの中で一番幼く守られるべき立場であることは間違いない。同行者はあなたを守る騎士と考え何事も相談し頼りにしていただきたい」

 騎士団長の言葉におおむね全員が頷いたが、最初に暴力と圧政を受けた者たちは小首を傾げたり変な顔で笑っていた。

 そして私も変な顔で笑った。


 だって笑うしかない、28歳なのに12歳前後と思われてるとか。

 訂正は、した。大人びたい少女の冗談かって顔をされただけだった。

 ショックが大きすぎていつのまにか王都を出発したことにも気付かなかった。──



「そして一番の年長さんなのに、年下にソフトに保護者面される旅は始まりました」

 右手に持ったクッションを高く放り上げ。

「そして直ぐに、ハードに保護者面されるようになりました」

 頭で受けて左手でキャッチ。

「シズクちゃんの大人の矜持は張り裂けそうでした」

 そんな姿を見守るしか出来ない側仕えの矜持は、もうだいぶ前に張り裂けている。


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