表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/11

2

 ──異世界召喚。

 アホほど使い古され昨今のオタ要素のある少年少女に青年中高年まで知らないものがいないほどメジャーな現実逃避妄想。


 それがまさか我が身に降りかかるとは。私、山田志寿久(やまだしずく)はテンション爆上がりでした。

『ちょちょ、まじで?まじでござるか?ウケる! チートスキルはなに? どういう系のファンタジーワールド? おっちょっ見た目変わってない? 肩まで茶髪パーマネントだったのだが黒髪ストレートとか典型的すぎてウケる。あ! 腕細? 足細? 腰ほっそ? うぉおおおおお痩せてる!』

 口に出さない常識は辛うじてありました。

 それに召喚先のいかにもな神官や王族が「これは……聖女か」「なんと清らかな……」などと言うのでつい良い気分になって聖女ぶりっ子をしてしまったのである。──


「ワタシ、シズクチャン、聖女ナノ」

 カクカクとあやつり人形の真似をする少女。

 正直怖い、夢に見そう。



 ──ぶりっ子のおかげか丁寧に対応され、直ぐに召喚サークルから豪華極まりない部屋へ案内される。

 しかも異常に顔のいい騎士に姫抱っこで。


 それまで女でありながら176cm、ほぼ筋肉なため落とすことができない体重73kgで生きてきた私はつい「重たいですから!」と慌てる。ところが異常に顔のいい騎士はハチャメチャええ声で「重さなど(ここでフッと笑う)、羽のようですよ」とか言うので思わずサブイボが全身に立ち言葉を失ってしまった。

 今までの人生との相違で気持ち悪くなっていると、お偉いさんたちからの説明が行われていく。


 予想通り魔族からの侵略を退けるための英雄召喚だったと聞いて、ナルホドナーと頷いていると一番偉そうな渋オジが「しかしこの召喚は失敗かもしれない……」などと言う。後から分かったが国王だった。

 私が『なんでやねん』と思っていたのが顔に出ていたのか、渋オジは優しく微笑みこう言った。

「不安にさせてすまないね。大丈夫、貴方のような可憐な少女を戦場に送り出すような非道なことはしない。ただ……君に何か力があれば我々を導いて欲しい」


 いいこと言ってる風に1ミリでも聞こえた方は詐欺に引っかかりやすいので気をつけて欲しい。

 勝手に喚んどいて失敗とか言うたくせに力貸せとかヤクザでもよう言わんわーと呆れていると、状況に戸惑っていると好意的に解釈されたようで国の説明や取り巻く状況を説明してくれた。


 それによると魔族といっても別に変なもんが現れたんじゃなくて、要は南の方にある魔の要素が強い土地に適応した種族らしい。溢れる魔力が結晶化した角などが出来るため、見た目のくくりとしての魔族呼びだった。ちなみにサイロニカの民は目尻側の睫毛が蝶の尾状突起みたいに長いという微妙な特徴があった。なんだか耽美。

 そして今回の侵略は隣国の国内紛争がきっかけで起こったそうだ。魔王を自称する痛い隣国の王弟が「我、独立するもん!」と言い、サイロニカの南の土地込みで国を作ろうと暴れた結果だった。


『ちっさ……』

 あまりのスケールの小ささに目眩がする。

 こんなので異世界召喚するとか他力本願が過ぎると思う。

 こっちの冷めた目に気づいたのか神殿長なるイケ爺が必死にフォローしてきた。

「隣国の王弟は類稀なる魔術の使い手でして……異界の魔獣召喚や身体強化で誰も敵わないのです。魔族の王も抵抗を続けているのですが防護結界術には長けているものの攻撃力は皆無らしく……」

 結果、結界で守られた隣国には手が出ないから手っ取り早くサイロニカを削って独立しようとしたらしい。


「……私、帰れるんですか」

 バカバカしいから早くトンズラしたい。そう思って口に出した言葉にその場の全員が明後日の方を向き目を逸らした。──



「その瞬間。着込んでいた猫の皮を放り投げ、シズクちゃんは怒声と暴力でその場を支配してしまいました。そして図らずも己が英雄になりうるパワーがあることを証明してしまったのです」

 にゃぁぁぁごぉぉぉ。

 脱ぎ去った猫皮を惜しむように鳴き真似をする少女こと、救国の英雄シズク様である。

 側仕え達は半泣きで鳴き声を聞くまいと耳を押さえた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ