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真眼の魔技師と太古の魔導書  作者: 直岩
第一章 真眼の覚醒
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第7話 私は驚愕するのでした

 ―――今の世界は。

 

 かつて科学技術が栄えた世界は滅びた。いや、滅びたというには大袈裟な表現かもしれない。

 何故なら人が大勢死んだわけでも、その時まで使っていた科学技術が突然使えなくなったわけでもない。

 

 その時、世界に起こった変化とは。

 それは簡単に言えば、『魔法や魔物といった空想でしか無かった事が、現実になった』というだけである。

 

 ある時から魔力という力が世界に充満し、その影響から自然環境が変わることで植物や微生物の生体が変化。

 それを食べる人間や動物にも影響を与えていく。

 

 人が魔法を使えるようになる事で、今まで科学で証明できていた事が出来なくなったり、道具を使わなければならないことだったのが、その身一つで行えた。

 

 そうなると、影響を受けるのは企業や工場である。

 例えば『転送(テレポート)』が使われるようになると、長距離を移動するための飛行機や車、電車等は使う機会が少なくなり、だんだんとその分野は衰退していく。

 そうやって科学から、便利な魔法へ。あるいは、その二つを合わせて新しいモノを産み出していく。

 

 こうして二千年の時は流れ、既存の科学技術から、魔法を主体とした魔法技術と呼ばれるモノに変わっていった。それが今の世界である。

 

 


 

 そして―――今の世界の根幹を支えるのは魔技師と言われている。では魔技師とはなんなのだろうか?

 

 それは、今から約千年前。魔法技術という言葉がなかった時代。

 魔法は個人差によるところが大きい、と思われていた。

 使い方を教えても出来ない人は出来ないし、理解できる人はどんどん新しい魔法を生み出していく。

 だから空を飛べるやつもいれば、手から火を出すくらいしか出来ない者もいた。

 当時の人々は魔法はそういうモノだと認識していた。

 

 そんな中、一人の魔導師と名乗る者が現れる。その者は魔法を誰よりも理解し、誰もが漠然と使っていた魔法を、『魔法式』という概念に落とし込み、誰でも使えるようにした。

 

 決められた式を構築し、魔力を消費する事であらゆる事象を生み出す。それは魔力の少ない人でも、魔法触媒と呼ばれる魔力を代替わりしてくれる物を使えば、それこそ誰でもである。

 現在では法律で、魔法触媒は販売・製造が制限され、基本的には高校から学ぶように決められているが。

 

 この技術的革新をもたらした人物は、今の『魔法技師協会』の基礎を作った。

 魔技師とは、その魔導師の意思を受け継ぎ、様々な魔法を魔法式で再現し、その再現できた技術を後世に残していく使命を持った魔法使い達である。

 

 

 協会では、『魔導技術者』『魔法技師』『革新者』と呼ばれ崇められている太古の魔導師。

 

 

 その者の名は―――イルファウスト・ラグネイトと言う。 

 

 

 

 ◇

 

 

 「――あの、林田先生」

 

 「何だ、一ノ瀬、何か分からない所でもあったか?」

 

 「そこの部分って、昨日やりませんでしたか?」

 

 昼を食べて教室へ戻ったら、林田先生の歴史授業だったらしい。昼の鬼ごっこで疲れたので、昼寝の時間にさせてもらおうかと思ったのだが。

 

 「あ、昨日……?んん、あれぇ、そうだよな。確か最初の所で遠野が練習場へ行ったような」

 

 なんか林田先生の様子がおかしい。他の生徒も「あれ、昨日ここやったよね?」とひそひそ話している。

 

 いや、まさかと思うが……念のために聞いとこうか。

 

 「……え、まさか記憶ないとか言いませんよね。昨日の事覚えてます?ほら理事長室へ呼び出されたでしょう?」

 

 「なんだ遠野。珍しく起きてるじゃないか」

 

 「いいから昨日の事、覚えてるかって聞いてるんですが」

 

 「ああ、記憶?ふむ。…待ってろ今思い出す……あれ…昨日、俺は授業の後、おお、そうだ。確か理事長室へ行って……あれ、何かとんでもないことをされたような………あ、頭が痛いっ」

 

 「…………うわぁ」

 

 あんまり想像したくないのだが、これはあれか。あの後、林田に姉としての姿を見られたから、昨日一日分の記憶を消したな。

 

 「ねえ、レンくん」

 

 「何」

 

 「今日も平和だね」

 

 「はは……うん、そうだなぁ」 

 

 「あれは記憶改変……ということは独自に魔法式を組んだ『固有魔法(オリジナル)』……ふふっ、流石は『翡翠の魔女』ね」

 

 一人のよく分からんところで感心しているが、誉められることじゃないから。

 むしろ協会の人なんだからせめて注意するべきなのでは、と思うが余計なことを言えば自分に跳ね返って来そうなので黙っとくことにした。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 ――放課後。

 

 レンや芽依と別れ、彼女が向かったのは保管庫。

 

 預かった鍵を使い、扉を開ける。中にはすでに人がいた。

 

 「ベルク。作業は進んでるかしら?」

 

 「お嬢様。学校はもうよいので?」

 

 「ええ。今日の授業は全て終わりらしいわ。それでどうかしら?」


 ベルク・ローガス。魔技師協会の『一級魔技師』であり、レクス家に代々から使える有能な執事でもある。

 

 「そうですね。まだ二割といった所でしょうか。ほぼ魔法を跳ね返すので解析の魔法では役に立ちません」 

 

 「ふうん。少し進んでるのね。それはどうやって?」

 

 エリアーナとしては、一日やそこらでは解析など、全く進まないと踏んでいたのだが、どうやらベルクは自分が思っている以上に優秀な魔技師のようだ。

 

 「はい。原因は不明ですが、これを包んでいる魔力防壁が緩む時がありました。そこを突いて、解錠を試みましたが、それでも二割でした」

 

 目を細めて防壁を見てみるが、今は閉じられた貝のように、隙間なく固められているのが見て取れる。

 

 「上出来ね。もしかしたら、何か星の位置や時間帯が関係してるかも。引き続き解析をお願い」

 

 だが、もう空は暗くなり始めているし、正直お腹も空いてきている。

 

 「でも、今日はここまで。泊まるところは昨日のホテルで良いのかしら?」

 

 エリアーナは正式な手続きで転入したとはいえ、昨日今日で学生寮が準備できる分けでもないので、この学校から徒歩30分の所にあるホテルを寝床に使っていた。今日もそこなのだろうと思ったのだが。

 

 「あ、お嬢様。すみませんが私はここに寝泊まりします。許可は頂いていますし、お風呂等は合宿用の施設があるそうなので、そこを使わせて頂きます」

 

 「そうなの。でも、そんなに根を詰めなくとも時間はあるのに」

 

 「いえ。私としても、個人的に開けたいという欲求がありまして。なんというか魔技師としての血が騒ぐのです」

 

 「ふうん。それじゃあ、私はホテルで休んでくるわね」

 

 「あ、お嬢様その事なんですが―――」

 

 ホテルへ行こうとするエリアーナを引き留めた、ベルクの言葉は。

 

 

 

 「――っえええええ!?」

 

 

 私に、ここ最近で一番多きな驚きを与えるものだった。

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