第5話 理事長は義姉。でも家事はしない
「あれ、レンくんどうしたの?まだお昼じゃないけど」
「まあ、ちょっと疲れてな。これなら寝ていた方が良かった」
「あれ、なんか香水の匂いがする。リカさんのじゃないし桃子さんのでもない……?」
「何だよ芽依、なにか匂うか?」
「うん。女の匂い」
「女の匂いって。ああ、もしかしてあの女か。そいつ人にいきなり魔法撃ち込んで、間接技決めてきたからな。そんときにでもついたんだろ」
「どんな状況なの……なんかしたんじゃないの?」
「いや、俺は何にも…もう授業が始まるぞ」
「んもう、お昼の時に聞くからね」
「はいはい。なあ、それはそれとして何かクラス中の俺を見る視線がなんか違うような気が…」
「あ、うん。それも後で教えてあげる」
◇
その夜。
「ただいまー。ご飯とお風呂ー」
「お帰り、リカ姉。今日は早かったんだな。洗い物したいから先に飯な」
もう、すでに理事長モードから、ぐうたら姉モードへチェンジしている用だ。ここはちゃっちゃと飯食わせて風呂入って、寝てもらおう。
「この匂いは…お、コロッケね。」
「自分で言ったんでしょうが」
「そうだった。ん?なんか午前中よりさらに疲れてるわね。何かあったの?」
「あ、ああ。ちょっと芽依にな…」
あの後、お昼時間に芽依から尋問――もとい質問を受け大分疲れていた。
「ふうん。まあ元気にやってるなら良いけど」
レンの方もこれからだったのでリカーナの分も用意して食卓へ着く。
「そういえばさ。あのエリ、なんだっけ」
「エリアーナさんね。え、まさか惚れちゃった?」
「何言ってんだ。…じゃなくて何しに来てたんだ?特級魔技師って言ってたな。何かの依頼?」
「まあね。この間見つかった箱を調べてもらおうと思ってね。なにか危ないものだったら嫌だし」
「ふうん。まあ俺としては練習の邪魔になんなきゃ良いけど。今日みたいに絡まれるの嫌だし」
「ふふっ。魔法撃ち込まれたんだって?桃子から聞いたわ」
「弟が変な魔法使いに、魔法撃たれてんだよ?笑う所じゃないよ、全く」
「貴方が怪我をしたとかなら怒るけど、でも無傷でしょう?」
「体はな。でも服はちょっと焦げたよ。いきなり過ぎて防御が間に合わんかった」
「訓練不足ね。まともな魔法が使えないならせめて自分を守る術くらいは完璧にしときなさい」
「まともな魔法ね…はいはい。精進しますよ」
「よろしい。後、彼女だけど明日から貴方のクラスへ編入するから」
「……今なんて」
「エリアーナさん、貴方のクラスへ編入。オーケー?」
「依頼だろ?何で編入なんて」
「さあ?貴方に興味があったとかだったりして」
「うげ」
「…なんか、本当に苦手みたいね。冗談はさておいても、例の箱の解析に時間が掛かりそうなのよ」
「だからって編入する必要があるのか?」
「まあ、その辺は彼女の考えだから。こっちとしては依頼料の大半を編入の費用で補えるわけだし」
「あれ?俺の変な魔法って協会が興味持つと不味いとかなんとか言ってなかったけ?だったら別のクラスの方が…」
「本当はそうしたいんだけど、貴方のクラスって一人少ないじゃない?本来はそうしたクラスへバランス良く割り振るものなの。そこを変えちゃうと逆に怪しまれそうだし」
「ふうん。じゃあ練習せずに教室にいなきゃ駄目か?」
「いいわよ使っても。逆に彼女が教室にいるなら練習場使っても見られないだろうし、練習するなら都合良いわ。お付きのベルクさんは日中は保管庫にいるそうだから、そこは気を付けてね」
ベルクってあの後ろにいたおっさんか。あの人もただ者じゃない感じはしてたな。良くわからんけど。
「気を付けて使うことにするよ。それで教科書通りに出来るとは限らんけどな」
俺の事情をわかってるリカ姉は悩ましいといった表情で言う。
「個人的には規則を変えてあげたいけど、家族となった今じゃ、何しても身内贔屓してるように映るだろうし、せめてもう一人、貴方みたいな人が入ってくれれば良いんだけど」
「いいよ、リカ姉。自分で何とかする。まあ、頑張るさ」
「さすが、私の義弟ね。応援してるから」
「そりゃどーも。食ったら風呂入って寝なよ?寝れる時に寝ないと体壊すからな」
「ふふっ。じゃあ、一緒にお風呂入ってみる。それとも一緒に寝る?」
「何言ってんだ、バカ姉」
いつもの光景、いつもの日常。半年前からこの日常が俺の普通になった。それより前は一人だったし、飯も食わない日もあった。今思い返せば、かなり荒んでたのかと思う。それに比べて今は楽しいし、毎日忙しいけれど、それで良い。
正直、これ以上はうるさいのは要らんのだけど。出来たら関わらないでほしいなぁと、エリアーナの顔を思い浮かべながら思う。だが予感もするのだ。この先まだ自分の人生には、まだまだ波乱が待っているのだと。
――そんなこんなで彼の騒がしい一日は過ぎていく。