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真眼の魔技師と太古の魔導書  作者: 直岩
第一章 真眼の覚醒
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第3話 最初の出会い

 「やっべ。そういや今、授業中だっけ」

 

 ここは第4練習場。この場にいるのは遠野レン一人。目の前には並大抵の魔法では傷一つ付かない筈の案山子が木っ端微塵になっている。

 

 「しかし解らん…なんで俺の魔法は暴発するんだ?」

 

 レンが片手にもっているのは「まずは最初の初級魔法」という本。高校に入学するとまずこれが配布される。

 

 この国の法律では中学卒業までは、魔法の行使は禁じられていて、正式に使えるようになるには高校からというのがある。理由は幼い心のまま超常的な力を行使するのを禁止し、魔力暴走を発症させるのを防ぐとか何とからしい。

 

 

 本屋に売っているのは、応用や派生系など専門分野を扱った本のみなので、実質この本が魔法を使うための最初の本というわけだ。

 

 「最初の本らしいが、全然理解できんし。なんでこの魔法使うのにこんな魔法式を使うんだ?」

 

 レンはその場に座り込んで、教科書をパラパラめくって見る。そこに書かれている魔法式。レンにとっては何故この魔法式で発動できるのか理解できないものだった。

 

 「あー、本無しならいけるんだがなぁ。でも規則じゃ本なしだと、制御出来ない可能性があるから禁止だし」

 

 本は教科書の他に、魔法を補助する魔法書の役割を担っている。これは我流でやったとか魔法式を間違えた場合に起こる魔力の暴発を防ぐためにある。本が無ければ進級試験さえ受けさせてもらえない。高校卒業さえできれば、自己責任で我流でもなんでも使っていいらしいけれど。

 

 「あ、片付けねえと。誰もいねえよな?……よし」

 

 本を読みしながら座り込んでいたが、目の前の惨状を思い出す。回りに誰もいないか確認し、レンは教科書に無い方の魔法を使うことにした。

 

 レンが練習場を元に戻すイメージで気合いを入れると、手の平と散らかっている案山子の回りに複雑な魔方陣が現れた。

 

 一瞬、魔方陣が光を大きくすると、練習場は元の状態に戻っていた。

 

 「…まあ、固有魔法の方はいいんだよ。問題は教科書(こっち)だ」

 

 使う以上、この魔法を構成している複雑な魔法式は、細部まで認識しているし、どんな効力をもたらしているか理解している。だが教科書にはこんな魔法は載ってない。

 

 以前、この魔法を理事長に見られた事がある。理事長からすごい剣幕で色々聞かれ、人前で固有魔法(オリジナル)の行使は禁じられた。さらに教科書の魔法を教科書通りに使えないと進級させないと言ってきた。

 

 あまりに理不尽な処分ではあったが、そこに至るまでに色々あり、今では仕方の無い事だと割りきっている。

 

 「さーて、まだ時間はあるし次は」

 

 「ねえ。そこの貴方」

 

 突然声がかけられるが、レンは教科書に集中しているせいか気付かない。

 

 「んーやっぱり初級の火球か、もしくは氷針を」

 

 「……聞こえなかったのかしら。ちょっと手を止めて話を」

 

 「でもやっぱこの魔法式って変だよなぁ。たかだか火の球作るのにこんな寄り道して書き換えるなんて」

 

 「手を止めて話を聞きなさいと言ってるの!」

 

 「まあ、教科書通りと言われてるし、この魔法式で、ぶべらっ」

 

 しびれを切らし、気が付いたらレンに向けて『フレイム・バースト』を放っていた。

 

 「お、お嬢さま、話しかけるのに中級魔法を使うのはやりすぎです。死んでしまいますよ!?」


 「しまった、思わず魔法を!?……大丈夫、ですか!?ちゃんと回復魔法で治し――え?」

 

 ――ああ、やり過ぎてしまった。いくら無視されたからと言って、人に向けて魔法を撃ったらダメだ。それは常識だ。

 

 そもそも彼は生徒だ。なぜ一人でここにいるかは疑問だが、きっと防御も間に合わず大怪我をしているだろう。落ち着いてみると、かなりマズイ事をしてしまったと思う。無事でいてくれと願いながら練習場の方へ走っていく。

 

 

 「けほっ。けほっ。おい林田先生、あんたが使って良いって言うから使ったんでしょうが。この仕打ちはあまりにも理不尽―――って、誰?」

 

 ちょっと服から煙が出ているが、無傷の姿だった。彼は文句を言いながら私を見てたている。そして、予想の人物と違ったのか疑問を浮かべていた。

 

 「い、今のは直撃したはず。流石に無傷で居られるはずが……あの、もう一回いいですか?」

 

 「よし。誰だか知らんが敵だな、かかってきやがれ相手してやる!」

 

 「ちょっと、二人とも落ち着ちついて下さい!何をしているのですか!」

 

 理事長の秘書である桃子が走って練習場までやって来た。ベルクもその後に続く。

 

 「あれ、桃子さん。あの、この人と知り合いですか?この人、初対面の俺にいきなり中級魔法撃ってきましたけど、絶対ヤバい人ですよ」

 

 「誰がヤバイのよ!?」

 

 「今の流れからしてアンタしかいないけど。人に向けて魔法使うのが常識の人だったりするのか?やっぱりヤバい人――あ、痛い、痛い!」

 

 「だ、れ、が、ヤバい人なのよ!?本当にもう一発食らわせるわよ!?」

 

 「お嬢様、彼の腕に間接技を決めるのはお止めください、腕が折れてしまいます。あと素が出てます」

 

 ベルクに言われ、頭に上っていた血がだんだん下がり始めると正常な思考が戻る。

 

 「はっ。いけない、私ったら。ついカッとなってしまいました。本当に申しわけ御座いませんでした」

 

 頭を深く下げ、謝罪をする。よく考えれば彼は何一つ悪くないのだ。

 

 「え、それで許されるとでも?なあ、お嬢様だか何だか知らんが、常識無いのか?つーか誰?」

 

「……ふう、落ち着け。落ち着くのよ私。こんなことで普段のおしとやかなイメージを崩すなんてしてはいけない事ですわ。おほんっ。私はエリアーナ・レスト。魔技師協会の『特級魔技師』で」

 

 「ぷぷっ。おしとやかwですわww」

 

 「ベルク、こいつ埋めるわ」

 

 「お、お嬢様」

 

 「もう、いい加減にしなさい二人とも!どうしたのですか、エリアーナ様。いきなり一般人に魔法を使うなんて。レン君もあんまり挑発しないの」

 

 「別に挑発してるつもりは無いですけど、あんな魔法を撃たれて黙ってろというのは……ねえ?」

 

 「本当に申し訳御座いませんでした。主に代わり、従者たるこのベルク・ローガスが謝罪致します」

 

 執事の様な格好をしたベルク・ローガスと名乗る男が謝罪をすると、エリアーナもそれにならって謝罪する。

 

 「……私からも改めて謝罪します。本当に申し訳御座いませんでした」


 素直に謝られてしまった。仕方ないので水に流すことにする。

 

 「まあ、いいですけど。それで俺に何か用だったんですか?それは魔法を撃つくらいの用事なんですかね?」

 

 「そ、そうでした。貴方、変な魔法を使いませんでしたか?」

 

 「変?」

 

 「ええ。なんていうか魔法を熟知している私でも、言葉にするのが難しいんですが」

 

 『レン君、ちょっと』

 

 突然、『念話』を使って来たのは桃子さん。

 

 『なんですか?』

 

 『例のあれ、使ったでしょう?』

 

 『ええ。暴発して辺りが散らかったんで、ちょいちょいっと。でも見られてない筈ですが』

 

 『彼女、いきなり走りだしたので驚きました。たぶん君の魔法の変な感じに気付いたのでしょう。なんとか誤魔化して下さい』

 

 変な感じねえ。理事長も俺の魔法を見た時、似たような事言ってたっけ。

 

 「あの、名前お伺いしても?」

 

 「遠野レンといいます。学年は一年ですが、ダブり中の落ちこぼれ学生でして。今は、許可を貰って魔法の練習中でした」

 

 自虐たっぷりに言うと彼女は酷く驚いたようで。

 

 「二年生に進級出来なかったのですか?この学校に限らず、卒業試験以外はエスカレーターの様なものと聞いていますが」

 

 「まあ、世の中には色んな奴がいると言うことで。天才もいれば落ちこぼれもいる。あなたが感じた変という感覚は多分、失敗した魔法のような何かだったのでしょう。いろいろ試してたので、もう一度やれと言われても難しいですが」

 

 「それは、失礼な事を聞きました。そう、ですか。失敗した魔法……では今度、お詫びもかねて魔法を教えましょうか?最低限進級できるレベルまで」

 

 割りと魅力的な提案であった。素がちょっと暴力的な性格だが、見た目はいいので心揺らいでると。

 

 『レンくん。断りなさい。面倒な事になるに決まっています。あと変な事考えてませんか?』

 

 『いえいえ』

 

 考える間もなく桃子から入ってきた念話。仕方なく断念する。

 

 「あ、いやそこまでは。まだ先はありますし、後、半年くらいしても使えなかったらお願いしますよ」

 

 「……そうですか。残念ですが仕方ありません。代わりにと言ってはなんですが、焦がしてしまった制服を弁償しておきます」

 

 「それは、ありがたく貰っておきます。何せ二年目なので、所々傷んで来てますし」

 

 「では、私達は用事がありますのでこれで」

 

 「ええ。じゃあ、キレてもなるべく人に魔法を――いえ、なんでもないです」

 

 すごく睨まれた。


 その後、彼女達は練習場を去っていった。

 一人になった練習場でレンは呟く。

 

 「なんだったんだアレ。人に魔法を撃ち込んだり、間接技決めるとか」

 

 間接技はなんていうか柔らかかったが。しかも最後に桃子さんからこんな念話が届いた。

 

 『レンくん。授業が終わったら理事長室に行ってください。次の授業は受けなくてもいいから』

 

 『え、めんどい―』

 

 『いいから行ってね』

 

 はあ、仕方ない。一応は桃子さんにも、世話になってるからなぁ。行きたくないけど。だって絶対さっきの暴発の件だろうし。

 

 時間を見ればまもなく終業のチャイムがなる。ぱっぱと片付けて、さっさと済ませよう。

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